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機械仕掛けの神(21)

 狂気の形相で千歳が鴉に襲い掛かろうとする。しかし、脚が動かない。

 脚が枯れていく、身体が枯れていく。千歳の脚は灰色になって砕け散り、その灰色は身体全体を侵食しようとしている。

「嫌よ、まだ飲み足りないわ!」

 すでに動けなくなった千歳を見ようともせず鴉は歩き出した。もう、鴉が何もしなくても千歳は消滅する。

 歩き去る鴉の背中を見ながら千歳の怨念は増幅していく。

「わたしは生き続けるのよ」

 下半身の蜘蛛の部分はすでに灰と化し、上半身についている両腕も灰と化した。

 この場には千歳以外誰もいない。千歳がいくら助けを求めようと、彼女の消滅は決まっている、はずだった――。

「わたしは、わたしは支配者になる存在なのよ!」

 地面で苦しみもがく千歳の前に、天から白い翼を持つ者が舞い降りた。

 天から舞い降りた者の顔はとても冷たく美しかった。それはツェーン――ルシエルであった。

「余を裏切ったなリリスよ」

 冷たく声に千歳は震えた。恐怖で口元が震える。

 何も言えない千歳の身体を持ち上げたルシエルは、微かに笑った。しかし、その笑みは悪魔の笑みだった。

「なぜ〈アルファ〉を起動させた? そんなにも貴女は辛抱のない女であったのか。いや、余の前で猫を被っていた貴女ならば待てたはずだ。貴様が余を裏切ろうとしていたことなど、百も承知であった」

「…………」

 自分がルシエルに逆らえなかった理由を改めて千歳は思い知らされた。千歳はルシエルの掌の上で踊らされていたに過ぎなかったのだ。

 ルシエルは自分の腕を千歳の前に差し出した。

「核は一度傷つくと元には戻らん。しかし、余の血ならば貴女を救えるが、余に救いを求めるか? 憎むべき余に救いを求めてみるか?」

 ルシエルの問いに千歳は消え入りそうな声で答えた。

「わたしは……堕天者ラエルよ……どこまでも堕ちて……身も心も……あなたの奴隷にでも……なってあげるわ」

 それは屈辱であった。しかし、千歳はルシエルの腕に被りついた。

 ルシエルの血は千歳の喉を潤す。何と甘美な味がするのだろうか。

 千歳は身も心の地に堕ち、ルシエルに屈服した。そして、いつの日か復讐することを胸の奥で誓った。

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