異世界転移!巻き込まれた俺は!
「ふふーん! 移転完了~! 今日からナスクゲームセンターの新規開店だ!」
ナスクと名乗ったこの少女はとても嬉しそうにしながらぴょんぴょんと小さく飛び跳ねている。
何がそんなに嬉しいのか知らないが、いきなり発光物を使われてこっちは良い迷惑だ。
まぁ、懐が広い俺なら笑ってこいつのスク水みたいな衣装を剥ぎ取るくらいで許してやる。
俺はそのくらいで許してやるが、周りにわらわらいる不良どもはガチギレだろうな。
「……」
だが予想とは裏腹に、あの眩しい光に驚いてクレームがとんでくるかと思っていたが、誰一人としてやってこない。
もしかしてヤバイと思って全員店から出て行ったのか? 流石は闇に生きる屑ども。どうやら光属性には弱いらしい。
「はは~ん、まだここが異世界だって信じてないない顔してるよ? じゃあ、外を見てみようか! ここが異世界だってきっと信じるよ!」
「は、はぁ?」
少女はドヤ顔しながらぐいぐいと無理矢理俺の腕を引っ張る。
引き剥がそうと思ったが、どうやら外まで俺を引っ張るらしい。
ならば好都合。外に出た所でケツでも蹴り飛ばして出て行ってもらおうか。
そのまま外に連れ出されると少女はニコニコと笑顔で外に向けて手をフリフリしながら大きな声を出した。
「いらっしゃいませ! 今日から開店したナスクゲームセンターです~! よろしくお願いします~!」
「……これは、どう言う事だ?」
全く考えもしていなかった事が起こり驚いてしまう。
現代では到底着るような事のない、中世ファンタジーのような格好をした老若男女、数十人くらい集まってざわざわしていた。
その光景に俺自身驚いていたが、集まっている人々も( ゜д゜)みたいな顔をしている。
そしておかしいの集まっているモブキャラ共だけではない。
辺りの風景も14時間前に出勤した時見た風景とまるで違っている。
確か道路を挟んだ店の向かい側には雑居ビルがあったがそんなものはなく、目の前には空き地になっている。
てか道路も舗装された普通の道路だったはずなのに砂利道になっている。
ここは完全に俺の見たことない場所だ。
「さぁさぁ、どうぞご遠慮せずご来店ください! ナスクゲームセンターは安心安全のお店です!」
笑顔で客引きをしているが、店に入ってこようとする人は誰もいない。
そればかりか集まっていた人は怪訝な顔をしながらどんどん立ち去ってやがて誰もいなくなった。
「ぐすっ……つかみはまぁまぁだね」
「……」
こいつは既に誰もいなくなった砂利道に向かって涙目になりながら笑顔で手をふりふりしていた。
◇◇◇◇◇
「そういうことで君はこれからこの剣と魔法の異世界でゲームセンターの店長としてみんなをニコニコ笑顔にしてもらうよ☆ あっ、オーナーはこのナスク様!」
「……まぁここが異世界だろうがどこだろうが今はいい。お前がこのゲームセンターを買収してオーナーになったんだよな?」
「そうだよ! これからは共にがんばって苦労と喜びを分かち合おう! あっ、忘れてた! そう言えば人間はお店を始める前にちょーれいって言う儀式をする必要があったんだよね? 早速ちょーれいって奴を……」
正直ここが異世界だとか目の前にいるのが女神様だとかは信じられないが、そんな事はどうでも良い。
今、大切なのは……
「買収したって言うなら金よこせよ。こっちは金さえ貰えればどうだっていいんだ」
「おっ!? お金!?」
ナスクは体をぷるぷる震わせて目を泳がせる。
そしてまるで金を探すように羽織ってる服のポケットに手を入れてぽんぽんしたり、自販機の下を覗き込んだりしている。
その姿を見て確信した。
ワンチャンどっかの金持ちのお嬢様かと願ったりしたが、全く金なんて持ってなさそう。
「お金は……このゲームセンターの移転費用とかもろもろに使って今手持ちはほとんどないのだ! だから買収のお金はどうか出世払いで……」
「はあああ!? 勝手に異世界に拉致ってきておいてこの店を買収する金はないだとぉ!? なら体で払えや! 一発3万くらいで設定して1000発くらい発射させてこいや! なんならこの店を『ソープ 女神プレイセンター』に変えて経営してやろうか!?」
「て……店長がそんなこわーい顔したらダメだよ……? ほら、笑顔、笑顔。笑って……?」
「あーひゃっひゃっひゃっひゃっ!!」
「いひぁい、いふぁい! 女神様をそんなにあふかいにしたらいけないんだふぉー」
糞女神のほっぺをつねったりぐいぐいする。
俺の人生どうなるんだ!?マジでこれからどうなるんだ!?
『プルプルプル! 女神ナスク様は超可愛いー! 女神ナスク様は超可愛いー!』
「ほにゅ!? ちょ、ちょっと電話が鳴ってるからとるね!」
それ着信音かよ。
「あっ、先輩ですか!? お世話になっております!! この度はご協力頂きとても恐縮で――」
ナスクはポッケからスマホを取り出して着信を取り出すと、さっきまでの自分が人気アイドルだと勘違いした可哀想な少女から一変、相手に見えもしないのにぺこぺこと何度も頭を下げながら丁寧に感謝の言葉を伝えていた。
その姿は営業マンさながらだ。キャラがぶれっぶれじゃねーか。
てか女神のくせに普通にスマホ使ってるし。
もっとこう魔法的な通信するんじゃねーのかよ?
「はい……はいっ! ええっ。分かりました! ではすぐにそちらの方へ向かいます! それでは失礼いたします!……ふぅ」
「終わったか? なら話を戻すが――……」
「ナスク様はこれから先輩の所に行ってくるからしばらくお店はよろしくね! えへっ☆」
「はぁ?」
「ああ、そうだそうだ。 先輩に君の今のステータスを見せる必要があるからちょっと撮るね~。 はいっ、ナースク!」
カシャ!
ナスクはスマホのカメラを向けて断りもなく俺を撮影する。
イケメンの俺はどこから撮られてもイケメンに写るのは確定的に明らかだが、瞬間的に斜め45度の角度から写るように顔と体を上手く調整してしまった。
ああ、やっぱり俺ってモデルとか芸能人とかに向いてるんだろうか。
イケメンすぎて辛い……。
そしてナスクは画面を見ながら満足そうに言う。
「うーむ、あの一瞬でこんなに面白い顔が出来るなんて流石プロだね。営業の求人とかに使われてそうな写真だよ。『俺はこの仕事で年収1000万超えました!』みたいな感じの!」
画面を覗き込んで見るとアイシュタインがあっかんべーしているのを、さらに憎たらしくしたような顔が写っていた。
ふむ、最近のアプリはこんな変顔に加工するお茶目な機能があるのか。
「分析完了! それじゃあ早速おーぷんすてーたすだ!」
名前 : 杉山浩太
職業 : フリーター(雇用形態不明の為の暫定措置)
称号 : ダメ人間
レベル: 60
HP : 8
MP : 0
攻撃力: 3
防御力: 4
素早さ: 5
運 : 5
スキル: 運転免許 危険物乙4 簿記3級 宅地建物取引士試験合格
ナスクは目キラキラとさせながら画面をまじまじと見る。
「れ、レベル60!? これはすごい! いきなり中級者レベルだよ! 流石このナスク様が見込んだ人間! さてさて、気になる能力値は~……あれ?……ゴミだ」
「おいおい、ゴミって何だよ!? 確かになんか能力値がほんのちょっぴりレベルと合ってないような気もするけどレベル60なんだろ? なら凄ぇじゃん俺!」
基準が分からないからレベル60がどんなに凄いのかは知らないが中級者レベルって言ってんだからそこそこなんだろう。
だけども、ナスクはさっきのハイテンションとは打って変わってローテンションになっていた。
「これ、人よりも多くの経験値を獲得しながら結局成長しなかったダメ人間って事じゃ……? あー、だから称号がダメ人間なのかー。しかもスキルって魔法耐性とかクリティカル20%UPとかステータスが普通書かれるのに危険物乙4って……。生々しくてちょっと引きますわー……」
「お前、今日からUFOキャッチャーの景品な。獲得されたお客様の所で幸せに暮らせよ?」
「なっ、名前は浩太だっけ!? 浩太はきっと数字には表れないけど実は凄い人間なんだよ!! そうに違いないね!! このナスク様が保証するよ!!」
「具体的にどの辺りが凄いんだ?」
「……ほら、宅建ってちょっと勉強しないととれないよね……? 浩太は必死に勉強できる凄い人間なんだよ! 伝わったよ、ナスク様には君のがんばりが伝わった! じゃあ、ナスク様はこれにて!」
「っておい! ちょ、待てよぉ!?」
逃げるようにして店から出ていきやがった。
ポツンと残されたゲームセンターと俺。
これからどうしたらいいんだ!? まさか本当に異世界だったらどうするんだ!?




