仲間がやってきた!
ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!
「速い、これは速い! あの時、15才の夜! 自転車から原付に乗り換えて爆走したあの時の感動だ! どけどけぇ! パラリラパラリラー!」
「ひやあああああ!? 勇者だ!! 勇者がこっちに向かってきたぞおおおお!!」
「逃げろ逃げろ! 殺されるぞ!」
「逃げるってどこへ!? あぁ、待ってくれ! 待ってくれえええ!」
何振り構わず一目散に逃げていた援軍のおっさんたちが俺を見つけると、俺から離れるように蜘蛛の子を散らすようにして逃げ出す。
そのおかげで特に俺の邪魔になることなくーー……
「勇者っ!? ああああああああ!」
ブン!
俺の通り道にいた魔法使いっぽいおっさんが、何を血迷ったのか俺に向け詠唱のようなモーションを始める。
おっさんの前に赤く燃える球体が出現した。
おいおい、何を血迷ったんだ?
俺は味方だぞ?
「ファイヤーボールウウウウ!!」
「はっ」
わざわざ必殺技みたいに叫んで攻撃するタイミングを教えてくれたおかげで簡単に避ける事ができた。
そのまま距離を縮めてフレンドリーファイヤーをしてきた魔法使いのおっさんを気絶しない程度に顔パンして、そのまま最前線へ走る。
「いた! あれが黒奈だ! 思ったより撤退できてるじゃねーか!」
S級ナンパ師の俺は女の子の後ろ姿を見ただけでその女の子の顔を想像できる。
あれは間違いなく黒奈だ!
あの可愛い後ろ姿は間違いなく黒奈だ!
「へい、そこの可愛い彼女! 今から良かったら俺とお茶でもーー……」
「ゆ、勇者様!? な、なんで!? 」
「お、おっさん!? な、なんで!?」
ただの長髪のおっさんだった。
「勇者とお茶飲むくらいなら殺してやるううううう! 死ねえええええ!」
「俺こそお断りだボケエエエエエエ!!」
ぶんっ!
長髪のおっさんは俺に向かってヤケクソ気味に剣を振り下ろす。
すかっ!
その攻撃を回避し、無言で腹パン2発打ち込んだ後に回し蹴りのコンボを決めて速やかに排除した。
「黒奈リーダーはあそこで戦ってます!! 助けてあげたください!!」
声がした方を向くとさっき援軍のリーダーの隣にいたひ弱そうな奴が俺に向かって叫ぶ。
多分、援軍の指揮官的ポジションにいるやつだろうが、ベレー帽にのび太君のようなメガネに大きなマスクをしてるせいで性別すら分からない。
分かることと言えば俺より若いってくらいだ。
こんな怪しい奴の言葉を信じるわけがない。
俺が邪魔だからどこか適当に遠い所に誘導してるだけだろう。
無視だ無視。
そのまま目も合わせずに通り過ぎようとすると、
「あなたが異世界の勇者じゃないのは初めから知ってます! 黒奈リーダーを助ける為に芝居うったのですよね!?」
「あぁ!?」
「ぼ……僕は勇者オタクなので……あなたが勇者じゃないのは……」
「だったら俺がお前らを騙そうとしてる時に、俺が勇者じゃないってバラしとけばよかったじゃねーか」
「ぼ…………僕も……黒奈リーダーを……た、助けたかったので……」
うーむ、こいつを信じて良いのか分からない。
とは言え、現状どこに行けば良いか分からないのも事実。
「……信じていいんだな? 俺を騙したら必ずお礼参りしに行くからその時は震えて眠れ」
「は、はい! 信じてください! このルートを辿ってください! 今から示しますので!」
そいつがブツブツと唱えると道に緑色のラインみたいなのが引かれる。
「まるでゲームのチュートリアルだな」
◇◇◇◇◇
緑色に光るラインに沿って走るといよいよ最前線まで到達し、黒奈っぽい姿を発見する。
黒奈と3人のおっさんは撤退しながらも大量のゴブリンと戦っていた。
ははっ……美少女のピンチに颯爽と駆けつけた主人公とかまさに王道だが、それが良い。
黒奈の近くにいるゴブリンに膝蹴りかまして、『大丈夫か?』と喋りかけたら黒奈は目をハートにして俺に『へへっ……今のはカッコよすぎて濡れました、抱いて♡』となるのは間違いない。
「へいへいへーい! テンション上がってーー……うおっ!?」
シュン――
「うおっ!? 体が急に――……!?」
スピードアップのバフが急に消える。
体がそれに反応することが出来ずに足がもつれる。
ズササッー!
硬い地面に顔面からスライディングを決めてしまった。
急いで顔を上げると目の前にはゴブリン。
そして、
「うがああっ!!」
ブンッ!
ゴブリンが今この瞬間、俺に向けて剣を振り下ろそうとする。
……あ、これは避けられない。無理。
終わった感じがする。
パーンッ!!
黒奈が俺を刺そうとするゴブリンにダッシュからの膝蹴りをする。
「ぐえっ!?」
ゴブリンがヒキガエルみたいな声を出して地面を転がる。
「大丈夫ですか!?」
黒奈が心配した様子で俺に手を差出す。
「へへっ……今のはカッコよすぎて濡れました、抱いて♡」
勢い良くコケたせいで頭から血が流れ、服がボロボロの俺、マジ傷ついたヒロイン。
……ちょっと計画してたのとは違うが目標達成だ。
結果的に黒奈と抱き合うことができればOKなのだ。
「うがあああああ!!」
ゴブリンの雄たけびを聞いてすぐに立ち上がり戦闘態勢で構える。
「杉山さん! 足を止めてはダメです! 走って!」
「え? あ、ああ。 スマン!」
飛び掛かってきたゴブリンの顔面に蹴りを入れて地面に叩き落とす。
追撃はせずにそのまま来た道を急いで引き返す。
うがあああああああああああ!!!!
すぐ目の前には何百匹のゴブリンが雄たけびを上げながら迫ってきている。
黒奈はの言う通り、足を止めた瞬間ゴブリンに囲まれて袋叩きなのは簡単に想像できる。
このまま一緒に走って逃げても俺は足手まとい。
ならここで俺の考えていた作戦を実行してしまおう。
「黒奈たちはこのまま走って逃げてくれ! 俺が引き付ける!」
「何か良い手があるのですか!? で、でも自己犠牲になるような事はいけませんよ!」
俺の考えた最強の作戦。
それはロリの白ニーソでゾンビアタック作戦だ。
ロリの白ニーソは瀕死状態から即復活できる超回復アイテム。
これを使って単騎突撃して囮になる作戦だ。
ちゃんと発動するのかとか、どうやって使うのが正しいとか、後何回、この回復が使えるとか全く分からない。
だが今はこれに頼るしか助ける手段がない。
ごそごそ
「あぁ!? ない!? ロリの白ニーソがない!?」
しまった、そういや指揮官のおっさんから回収するのを忘れた!
俺、馬鹿すぎだろ!? いや、馬鹿なのは知ってるけど流石にこのミスはどうよ!?
就活で私服で来て下さいと言われて深夜のドンキホーテに行くような格好で面接会場に向かった半年前の俺くらい馬鹿!
つまり成長してない!
「うがああああ!!」
「うがぁ、じゃねぇーよ、糞が!!」
ドフッ!
「ゴブッ!?」
横か襲ってきたゴブリンを八つ当たりのヤクザ蹴りで吹き飛ばす。
後ろにいたゴブリンもまとめて吹き飛んで計2匹を迎撃した。
「すまん、黒奈。 さっきのなしで。 俺、何にも役に立たない役立たずの愚図なんだ……」
「そんな事ありませんよ。 私、惚れちゃいそうです♡」
「その言葉、風俗とキャバクラとセクキャバとJKリフレと全額奢った合コン以外で初めて言われたような気がするな! やる気出てきた!」
後方からの攻撃は黒奈が担当。
ゴブリンの射撃を盾で防いだり、走ってきたゴブリンを迎撃する。
俺と格闘家のおっさんが左右に分かれ、サイドから攻めてきたゴブリンを迎撃。
「はぁ……はぁ……これなら何とか逃げ切れるかもしれないのぉ」
中央では魔法使いのおっさんが息を切らしながら走る。
特に何もしてないように感じたが、必要な時に最小限のバリアや魔弾でカバーしてくれている。
「魔法使いのおっさん! 移動速度アップのバフを全員にかけることはできないか!?」
「……はぁ……はぁ、すまんがMPが足りないのぉ。ランチの時、ケチらずにサイドメニューも頼むべきだったのぉ。ほっほっほっ」
体力面では魔法使いのおっさんが一番心配だったが、この様子だと問題なさそうだ。
◇◇◇◇◇
「はぁ……はぁ……はぁ……すまない……すまない」
格闘家っぽいおっさんが、泣きながら俺たちに謝罪する。
おっさんの膝にはゴブリンから撃たれた鉛玉が食い込んで出血している。
「気にしないでください。元々は私の戦略ミスなのですから」
「そんなことはない! 俺がこんなヘマをしなければ!」
「反省会は死んだ後です。今は最期まで戦うことを」
「あ……ああ」
何度見まわしても既に大量のゴブリンに四方を囲まれている。
もう逃げ道はない。
何故こう危機的な状況になってしまったのか。
その経緯を振り返るつもりはない。
今はゴブリンを一匹でも道連れにする方法と黒奈を助ける方法を考えるだけだ。
「うがああああ。ぎひひひっ」
ゴブリンたちは嘲笑うような笑みを浮かべ少しずつもったいつけながらジリジリと距離を詰めてくる。
これは奇跡でも起きないと逃げることは無理だな。
「なぁ、黒奈。このまま降伏したとしよう。俺たち野郎共はゴブリンにぶっ殺されるとして、黒奈はどうなんだ? ワンチャン、ゴブリンの慰み者として生き残る可能性は?」
「その選択肢を選ぶくらいなら最後の手段を使います」
黒奈の目が赤く光る。
俺を助けようとした時も同じように赤く目が光っていた。
「それのデメリットは?」
「魔力を制御できずに杉山さんごとまとめて殺してしまいます。ですが、こっちの選択肢の方がまだ杉山さんたちが生き残る可能性はあります」
「その最後の手段を使った場合、黒奈は生き残るのか?」
「……いつも"私だけ"生き残ってしまいます。力だけなら異世界の勇者と同じくらいありますので……」
「おいおい何だよ、そんな隠し玉があるならもっと早く言ってくれよ? おっさんたちもそれで良いだろう?」
「で、ですがそれではみんなが助かる確率が――……」
魔法使いのおっさんはその提案に喜んで同意する。
「このまま戦っても勝ち目はないしのぉ。それに黒奈ちゃんに殺されるなら何も問題はない」
さっきまで泣きじゃくっていた格闘家のおっさんも、ゴシゴシと顔を拭いて、
「俺は黒奈ちゃんのおおおお、お尻に顔を挟んでもらう前に死ねない! だから生き残って見せる!」
「お主お尻派だったのか!? 今まで同じおっぱい派だとばっかり思っていたのに!」
「じじいの癖におっぱい派とか子供かよ!? 大人は黙って尻だ!」
俺もその話に乗っかる。
「おいおい。女は○○○○だろ?」
「うわぁ……」
ドン引きされた。
さて、黒奈の話を聞く限り、俺たちが助かる可能性はとても低いのだろう。
だが、今にも泣きそうな黒奈とは対照的におっさんたちは下らない談笑をして場を和ませる。
「俺が前に出て道を切り開く、ちゃんと付いて来いよ?」
「はーん!? 配属して1日目のド新人のくせに生意気だなぁ! 後でマナー研修だ!」
「よっこらせっと。お主、格闘家なのにまた太りったのではないか? 」
魔法使いのおっさんが歩けない格闘家のおっさんを支える。
準備は良し。
黒奈に話しかける。
「黒奈、準備はいいか?」
「……は、はい……いつでもいいです……」
「黒奈」
「な、何でしょう?」
「この戦いが終わったら結婚しよーー……」
はああああああああああああ!!!!!
「えっ!?」
逃げる合図をしようとした正にその瞬間、上からおっさんの雄たけびが響き渡る。
「ハイパアアアアアアア、クラッアアアアアアアシュ!!!!」
ドゴーン!!!
一瞬でよく分からなかったが、上から謎のおっさん勢いよく地面に向けて拳を打ち込むのは見えた。
だが、打ち込んだと同時に眩しい光と砂埃で何も見えなくなった。
「すまない、待たせたな」
視界が元に戻ると、そこには丸坊主のガタイの良いおっさんが地面に拳を打ち付けていた。
何をしたのか分からないが、ゴブリンが数十体倒れている。
おっさんたちが丸坊主のおっさんに向かって大声で叫ぶ。
「ハゲノ本部長!? 助けに来てくれたのですか!?」
「ハギノだ」
この丸坊主のおっさんとは会ったことがある。
黒奈を俺の教育係として教育するよう命令したあのおっさんだ。
組織図がいまいち分からないから何とも言えないが本部長なんだから黒奈よりも偉いのだろう。
「本当にすまない……。"これ"が思ったよりも可愛くてな。飯を食わせに行ってつい時間を忘れてしまった」
ハゲノ本部長が抱えていた物を俺たちに見せてくる。
それは小さい女の子で、そいつはドヤ顔で俺たちに話しかけてきた。
「ナスク様だよ!」




