表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見習い女神ナスクの異世界ゲームセンター繁盛計画  作者: エエナ・セヤロカ・ナンデヤ
第一章 ナスクゲームセンター開店準備計画
15/19

仕事(撤退戦)が残ってるって? でも、俺新人なんで帰りますね?

 「プロジェクトの放棄ってことはここから撤退ですか?撤退戦は攻めるよりも難しいって、まとめサイト……いや、(ネット)軍師様が言ってた記憶があるのですが……大丈夫なのですか?」


 「ゴブリンは塹壕の奪取が出来ればそれ以上の追撃はしてこないと思います。……ですがそれでも少なからず犠牲は出てしまいます。戦い続けるよりはるかにマシなはずですが……」


 指揮官のおっさんが弱々しい声で、


 「あ……あの、黒奈リーダー……」


 「では、引き続き指揮をお願いします。みんなが撤退するまで私はしんがりを」


 指揮官のおっさんが辛そうな顔をしながら、


 「黒奈リーダは先に撤退してください……と言っても聞く耳は持ちませんよね……?」


 「えへへっーもちろんです♡」


 「なら、絶対に生きて帰ってきてください。黒奈リーダは皆の生きがいなのですから……」


 少しの間、指揮官のおっさんと黒奈が見つめ合い、お互い無言になる。

 しばらくすると黒奈がはにかんだ笑顔で、


 「……分かりました。後、お願いがあるのですが、私の代わりに杉山さんを安全な所まで」


 「……はい」


 「杉山さん、何も教えることができなくて申し訳ありませんでした。ですが杉山さんなら、きっとどこの現場でも大丈夫です。これは応援の意味を込めて私からプレゼントです」


 黒奈が左手首に、つけていた黒いリストバンドのような物を外して俺の左腕につける。


 「これを装備してると非力な人でも重い盾を簡単に装備することができるようになります。しょぼいように見えますが私が持ってる中で一番のレアアイテムです……。試しにこの盾を持ってみてください」


 言われるがまま、黒奈が装備しているクソ重そうな盾を持ち上げてみる。


 ふわっ


 するとほとんど重量感を感じることなく簡単に持ち上げることができた。

 なるほど、だから黒奈はこんな重そうな盾を軽々と使えたのか。

 試しにリストバンドを外して盾を持ち上げようとすると、ビクともしなかった。


 ゲーム脳の俺には分かる。

 これ、超激レアアイテムだ。


 「いやいやいや! 受け取れませんよこんな高そうな物! それに黒奈さんが盾を装備できなくなるじゃないですか!」


 「……へへっ、私はこの現場で色々学ばせていただいたおかげでもう必要ないのです」


 「……えぇー?」


 黒奈はさっきの戦闘と同じように盾を軽そうに扱っていた。

 この黒奈しゅごいよぉ! さすがハーフサキュバスのお姉さん!!


 「そ、それでもこれってすっごい高価なアイテムですよね!? そんな物をいきなり俺なんかが……」


 「高価なアイテムだからこそ有意義に使って欲しいのです♡ それをお店に売れば1年は食べていくことができるはずです。必要なければ売っちゃってください。………それでは黒奈、行ってまいります! お元気で!」


 黒奈は俺たちにビシッと可愛く敬礼する。

 そして最前線の方を振り向き、一呼吸置いた後、盾を持ち、すごい速さで最前線の方へと走って行った。

 俺はそれを黙って見送った後、指揮官のおっさんに話しかけた。


 「あれ? てっきり俺も連れて行かれるとか思ってたのですが、撤退していいのですか? なーんだ、良かった良かった。では、お先に失礼しますー」


 おちゃらけて言ってみたが、指揮官のおっさんはまるで聞いていない。

 それどころがヒザをついて涙を流しながら呆けていた。


 「……あのー。俺、黒奈さんの許可もらってるんで、もう上がっていいっすよね? これからマジで外せない予定があるんっすよ〜。残業とかホント無理っすから」


 「…………」


 返事がない。

 完全に気力をなくしてしまっている。

 その姿を見て確信した。


 だからこれをくれたのか。

 もらったリストバンドをもう一度見る。


 MMOで引退する時にフレンドに装備やらアイテムやら譲っちゃう儀式とかあるよねーあるある。

 ……もっとも今は引退と言うよりキャラデリみたいなもんか。


 …………


 「ねぇ、聞いてますぅー? 聞いてないせいで残業タイムに突入しちゃったじゃないっすか〜。この1分、ちゃんと残業代として払ってくださいよ?全く勘弁してくださいよー」


 グイッ!!


 「ごちゃごちゃうるせーぞ、ド新人!! 少しは空気読めや!!!!」


 指揮官のおっさんが俺の胸ぐらを強く掴み、大声で怒鳴る。


 「こっちはなぁ、毎日、毎日、毎日、命がけで戦ってきたんだ!! 頭のおかしな奴らしかいないけど俺たちはもう家族みたいなもんなんだ!! 黒奈はみんなの娘みたいなもんなんだ!! お前なんかには分からないだろうけどよ!!」


 その表情には憎悪に満ちていた。


 「ちょっ、ちょっ、ちょっ! タイム、タイムー。いきなりそーゆーシリアスな感じ、まじドン引きなんですけどー?ゆとり世代の俺にはマジ厳しいんですけどー?後、これパワハラだよ?」


 「てめぇ!!」


 指揮官のおっさんが我慢の限界を超えて俺の顔めがけて拳を打ち込もうとしてきた。


 バシッ!!


 俺はその拳を楽々と手で受け止める。

 まさかこんなゆとりド新人に受け止められるとは思いもよらなかったであろう指揮官のおっさんは動揺していた。


 そして冷ややかな笑みを浮かべながら指揮官のおっさんに言う。


 「……空気を読んでないのは貴様の方だ。貴様は指揮官の立場にいながらこのまま何もせずに見殺しにするのか? 何故この拳をゴブリンどもに向けようとしない?」


 「な、何も分かってないくせに……! 無理なもんは無理だ! どんなに良い作戦を練って犠牲を少なくしてもあの子は最後まで一番危ない所で皆を守り続ける! 助けられないんだ!」


 「このくらいで無理とか笑わせる。それに、そんなに早く黒奈がくたばらない事は貴様がよく分かってるだろう? だったら可能性を0から1にする為に今すぐ1匹でも多くゴブリンを殺せ。それでもやる気がないなら今すぐここから一人で逃げ出せば良い」


 「そ、そそそんな事、出来るわけないだろう!」


 「むしろ逃げてくれた方が、ここで呆けて邪魔してるよりよっぽどマシかもな、指揮官様?」


 「…………」


 少しの間、沈黙が流れる。

 その沈黙を俺の方から破る。


 「……あー……いやーなんて言うか色々すいません! ほら、あれですよ。新人が生意気な事言ってるなぁと生暖かい気持ちで許してください!若いやつはビジネスマナーがなってないのですよ!」


 「……は?」


 「初めての戦場でビビってしまってみたいな? 後でしっかり反省、いや、猛省しますんで、とりあえずやれるだけの事はをやってみませんか?」


 「え?……なんか急にキャラが……」


 「はーいはいはい。その話やめやめ!今は俺の事なんかよりどう動くかです。俺なんかでもひょっとしたら何か良い案が思いつくかも知れませんから、今後のあなたの作戦を教えて下さい」


 「……作戦なんかない。援軍の1000名に後方支援を依頼して、少しづつ戦線を下げるだけだ」


 「それで、ぶっちゃけどのくらいの被害で抑えられます?」


 「後方支援の援軍には大した被害が出ないだろう。……我々のチー厶は100人中、半分の50人が生還できれば御の字だ」


 「そして、その生還者リストに黒奈はいないと」


 「……」


 「えーと、他にもいくつか質問とか確認したい事があるんですが良いすか?」


 「援軍のリーダの元へ後方支援をしてもらうよう依頼しに行きたい。歩きながらでいいか?」


 「……え? この状況でまだ後方支援を始めてないのですか?」


 「……そりゃそうだ。私達が全滅しようが向こうにとってはーー……」


 「俺は嫌な思いしてないから、ですか」


 振り返ると援軍の1000人は未だ塹壕から動こうとしていない。

 援軍のおっさんとこっちのチームのおっさんとは仲間意識がまるでないらしい。


 「ならば好都合ですね。逆に言うと援軍が何百人死のうが俺たちのチームは嫌な思いをしないので済むのですから」


 「……そんな事をしたら黒奈はが悲しむ」


 「まぁ、例え話ですよ例え話。でも……それでも、黒奈を助ける事ができるんだったら?」


 「……」


 身内を助けたいが為に大勢の人間が死んでも構わないとは指揮官の立場上、答えられないだろう。

 だが、おっさんの目から心に秘める本音を読み取ることができた。

 次の質問にいこう。


 「仮にあの援軍を超効率的に運用できたとしたら、生還できる人間が増えますか?」


 「それどころか、逆転することだってできるだろう。だけど現実問題それは厳しい。そもそも私の指揮に全く聞く耳を持たない。私は頭下げて後方支援をしてもらうようにお願いしに行くだけだ」


 「なるほどなるほど」


 てっきりあの援軍は指示待ち人間たちが寄せ集まった無能集団だと思っていたが、実際はもっと酷そうだ。


 「ところであなたがさっき塹壕で指揮をしていた時、塹壕全体に響き渡るほど声が通ってましたが、あれは何かの魔法ですか?」


 「ああ、このマジックアイテムを強く握りながら叫ぶと声量が上がる」


 「それを俺に貸してもらっても?」


 「これも貴重なアイテムだ。大切に使ってくれ」


 指揮官のおっさんは迷いもなくネックレスをはずして俺に手渡す。


 「それと、今の俺のステータスを簡単に確認する方法とかあります?出来れば見てみたいのですが」


 「それは私にもできる」


 指揮官のおっさんがブツブツと何か唱えると、空間にホログラムが表示される。

 俺は自分のステータスがどうなっているか確認した。


 「そのステータスを見る魔法、あっちの援軍の奴らの中に使える奴はいそうですか?」


 「そんなに難しくない魔法だから恐らく何人かはいる。あっちの指揮官は間違いなくできるだろう。それにしてもこのステータスはなんかおかしくないか?レベルが60なのに戦闘力が不釣り合いに低かったり、見たこともないスキルが書いてある」


 「やっぱ違和感ありますよね。何でこんなステータスなのかは分からないですが……」


 ありがたい事にどうやら俺のステータスは違和感を感じるステータスのようだ。


 「後、最後の確認なんですが……」


 少し溜めをいれる。

 聞かなくても返ってくる答えは間違いなくYESだろう。

 だが、俺はその決意を言葉にして聞きたい。


 「黒奈と他のおっさんの為に、あなたは命をかけることができますか?」


 「もちろんだ」


 指揮官のおっさんは何も迷いもなく即答した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ