19.聖女と河童の合わせ技
傷つけただけで強力な毒をまき散らす黒竜を弱体化させるため浄化装置へ向かっていた私は、その途中で黒竜に気づかれてしまい、猛毒のブレスを放ち攻撃してきた。
シャルロットとチマキがガードしてくれたが、猛毒のブレスの衝撃で私は川に落とされてしまった。
「スフレが川に落ちましたわ!」
「ちくしょうっ! おいらたちのガードが足りなかったのか!」
ガガガボボボべべべべべべッ!!
きゃあああああっ! 溺れるううううっ! なぁんてねっ!
何を隠そうっ! 私の特技は水泳なのだ! 貴族令嬢が水泳なんてはしたないから止めろってよく言われたけど、なぜか昔から泳ぐの大好きだし、得意なのよね。
せっかく川に飛ばされたことだし、このまま泳いで浄化装置まで行っちゃおうかな。黒竜は私が溺れたと思ってるだろうし、その方が外を走って行くより安全だよね。
みんなには心配かけるけど、敵を騙すにはまず味方からって言うし許してほしい。川に落ちた時私の名前を叫んでくれたブールドネージュ様には後で謝ろう。
そうと決まれば、上に浮上して泳ぐのは姿を見せちゃうから危険よね。だったら水の中を潜水で浄化装置まで行ってやるわ! みんな、それまで黒竜を抑えててね!
潜水で浄化装置まで行くことを決めた私は全速力で向かう。
まだ息は持つ、黒竜からの追撃はない。おそらくみんなが黒竜を足止めしてくれているのだろう。
後もう少し……到着っ!
「何っ! 貴様生きていたのか!」
「スフレ……!? まったく……無茶をする子だ」
黒竜の悪態と、ブールドネージュ様の驚く声が聞こえる。
失礼しちゃうわ。聖女の私があの程度で死ぬわけないでしょ。まぁ、黒竜は私が聖女だって知らないだろうから無理もないか。
そしてブールドネージュ様、騙すようなことをしてごめんなさい。
勢いよく川から飛び出した私は浄化装置に触れると聖属性の魔力を流し込む。
私の魔力と古代の浄化装置の力で黒竜を弱体化させるのよ! 動けぇぇぇええええっ!
私の魔力を流し込んだ浄化装置は眩い光を放ち、大きな音を立てて動き出す。
すると、淀んだ色をした川の水がみるみるうちに澄んだ色へと変わっていった。
やった! 上手く作動したわ!
後は任せたわよチマキ。策とやらを見せてちょうだい。
「よくやってくれたぜ聖女さん! ここからはおいらのターンだ! 古代魔族、河伯の力を見せてやるぜ!」
浄化装置の作動を確認したチマキは手を前に翳して魔力を練り上げる。すると、浄化された川の水が持ち上がり、長い首を持った竜の頭、身体は甲羅を背負った亀を模った。
あれは亀? それとも竜なのかな? ずんぐりむっくりしててちょっと可愛いかも、亀竜と名付けよう。
「この真っ黒トカゲ野郎! これでもくらいやがれぇぇえええ!」
チマキが掛け声と共に黒竜に向けて腕を振るう。すると、それに追従するように自らの生み出した亀竜が猛スピードで動き出し、黒竜に体当たりした。
凄い……あの質量の水を操るなんて、これがチマキの持つ河伯の力なのね。まさに、聖女と河童の合わせ技だわ。
「ぐぉぉおおぁぁあああ! ただの水が我にこれほどのダメージを与えるだと……!? だが、攻撃などしてよかったのか? 我の傷口から毒液が……バッ、バカな! 毒液が出ない!? それにどういうことだ。身体が……我の身体がぁぁあああ……!!」
「はっはっはっ! 聖女さんが浄化の力を付与した水をぶつけたんだ。あんたの身体を流れる毒液も浄化されるってぇ寸法よ! そして浄化された毒液は霧散して、身体は萎むってぇことだ!」
浄化された水をぶつけられた黒竜は毒液をまき散らすどころか、その身体はみるみるうちに皺くちゃになり、苦しそうに呻いている。
チマキの作戦が上手くいったようね。さすがは河童族の主だわ。
「やったな聖女さん! 凄え浄化力だ! あんたのおかげで策がなったぜ」
「ふふふっ、さすがスフレね。私が認めた女だもの、やってくれると思っていたましたわ」
「二人とも……ありがとう! 貴方たちがガードしてくれたおかげだわ」
聖水の亀竜をぶつけて黒竜に大ダメージを与えたチマキと、見守っていたシャルロットが私のもとにやってくる。
円になって三人でハイタッチを交わした。
「聖女だと……!? そうか、あの女が今代の聖女だったのか……!?」
「どうやらここに聖女がいることは知らなかったようだな。その身体ではもう毒液も出せまい。死ぬ前に聞きたいことがある」
聖女である私がいることを悔しがる黒竜にブールドネージュ様が話しかけた。




