第97話 魅惑なる花々は田園に咲く 終了
◆ ノルミッツ王国 城下町 北部 ◆
【ラフーレフラワー×8が現れた! HP 1230】
【大怪花の触手×10が現れた! HP 860】
地面から突き出た根から、横並びに次々と生えてくる花々。あの時、ボクが倒した人の形をしたラフーレがたくさん生えている。多分、こんなのを倒してもすぐに再生される。やるなら、あそこで堂々と咲いている大きい花だ。
「うわぁぁぁぁぁ! 魔物、魔物がぁぁ!」
【ジルベルトは 町の人達をかばった!】
「建物の中に避難するんだ! ここは私が食い止める!」
下では鎧を着て、大きな盾を持って構えているジルベルトがいた。あの触手の猛攻を何とか凌いでいるジルベルトはかなり強いと思う。でも、問題は状態異常だ。
あれにやられたら終わりなので、ジルベルトを襲っている花と触手を薙ぎ払いつつ、ボクはあの怪物の花を目指した。
【リュアの攻撃! ラフーレフラワーに5102852のダメージを与えた! HP 0/1230
大怪花の触手に5298215のダメージを与えた! HP 0/860
ラフーレフラワーと大怪花の触手を倒した!】
「リュアさん、すまない……」
「ジルベルトさん、あっちの畑に皆を避難させているからうまく他の人も連れていって。
あと倒す事よりも、さっきみたいに皆を守りながらのほうがいいよ。
見たところ、ジルベルトさんは攻撃よりも守りのほうがうまいから」
「わかった、何とかやってみる!」
早口だし伝わったかどうか不安だったけど、ジルベルトの行動は早かった。あの花が沸かないうちにジルベルトは住民を安心させつつ、畑へと誘導している。
それでも圧倒的に戦える人が少ない。こんなの長引かせたらますます被害は出る一方だ。ボクがカバーしきれない間に殺されている人だっているかもしれない。
「ラフーレェェェェェェ!」
【リュアはソニックリッパーを放った!】
斬撃は巨大花の太すぎる茎に直撃して、切断した。切断されたあの大きな花が町に落ちる前にもう一発。
【妖艶なる大怪花ラフーレに494181のダメージを与えた! HP 1/33000】
「……ダメだ」
【妖艶なる大怪花ラフーレは再生した! HP 23210/33000】
切断された幹から高速で触手が何百、何千と生えてそれが折り重なって元の大きな花に戻る。悔しいけど、植物のたくましさは認めるしかない。
でもラフーレ、ボクだってあの奈落の洞窟で10年も戦い続けたんだ。それにあのナノカ達だって、アズマの山奥に置き去りにされても村を作って生き続けた。ボクのイカナ村だってそうだ。厳しい環境に負けず、そこに根付いて生活する。
人間だって植物だって同じだ。あんな速度で再生できなくても、ボク達だって立ち直る事は出来る。ウィザードキングダムではあれだけゴーレム達にメチャクチャにされても、復興しようと前向きにがんばっている。
この国だって同じだ、ボク達は絶対にお前に負けたりはしない。
「あはっ、噂通り馬鹿みたいな強さ。でも、これじゃアタシの勝ち。
例えばアンタにこんなマネが出来る?」
ラフーレの触手は町の人達を何人も捕らえていた。あ、と思った時にはすでに遅い。触手と人がみるみると茎と一体化して、取り込まれようとしている。
「た……す……け゛テ」
【妖艶なる大怪花ラフーレは回復した! HP 24990/33000】
【更に妖艶なる大怪花ラフーレの最大HPが上昇する! HP 33000→34100】
「貪欲に食べて大きくなる。太古の昔から、どの生き物もやってきた最もシンプルかつ原始的な方法。
このまま食べ続ければ、魔王様も超えちゃうかも?
アハハ、びびったぁ? ちびったぁ? まだ子供だもんね、仕方ないし!」
「その人を返してもらったよ」
「……あん?」
お喋りに夢中になっているラフーレは真下にボクが迫っていた事にまったく気づいていなかった。茎にめり込んだ人を茎ごと引き剥がして、救出する。ネバネバの気持ち悪い液体まみれだけど、生きているみたいで安心した。
でも、かなりやせ細って骨と皮だけになっている。あと数秒遅かったら、完全に死んでいた。
「……わっかんない奴。アンタみたいな化け物娘がなんでそんな人間一匹の命すら惜しむわけ?」
「お前みたいな化け物には言ってもわからないよ」
実際、これ以上このお化け花とお話する気はなかった。なんかすごい勝ち誇っているけど、こいつらは自分達の弱点を理解しているのかな。どれだけ傷つけられても、無限に再生できるなんてそんな化け物なんかいるはずがない。
奈落の洞窟にいた魔物でさえ、弱点はあった。問題は魔物自身がそれをわかっていて、補おうとしているかどうか。そこが強敵かどうかの分かれ道にもなる。そして、こいつはどうかというと。
「アハハハハハハッ! 右も左もわからなくなって死んじゃえっ!
アンタがいくら強くても、すべての状態異常は防げない!」
【妖艶なる大怪花ラフーレは終幕の花粉を放った!
リュアはすべての状態異常を無効化する!】
これは危ない。こんなものを広範囲にばら撒かれたら、どんなパーティだって壊滅する。それどころか、国一つが本格的に終わる。混乱して自分が誰かもわからなくなって毒で体が蝕まれ、そして深い眠りについたまま動かなくなる。もしくは麻痺したまま毒が体中に巡るのを体感するハメになるかもしれない。
チルチルやドリドン、ジーチみたいな大きくて大破壊するような相手はたくさんいたけど、こいつはどちらかというと精神を破壊してくる。陰湿、それがラフーレの戦い方なんだ。
「……マジ?」
マジだよ。状態異常がまるで効いていないボクにそう問いかけるラフーレだけど、心の中で返してあげた。
そして地面から突然生える何十本もの触手、それがボクの手足や体に巻きついてくる。締め上げる力だけなら、相当なものだと思う。普通の人ならこの時点で体が千切れ飛んでいきかねない。
【大怪花の触手×30が現れた! HP 860】
「それなら、直接体内に注入してやるってのはどう?」
「ひゅぁっ! き、気持ち悪い!」
【大怪花の触手×30を倒した! HP 0/860】
気持ち悪い動きでボクの体を這い始めたので、逆に引きちぎってやった。雑草でも引っこ抜くかのように触手を飛び散らせたボクに更にまた触手が襲う。
こんなのに構ってられない、いい加減にその再生を止めてあげよう。
「こっちだよ、ラフーレ」
「なっ……!」
ボクの渾身の大ジャンプ。初めて本気で跳んだけど、まさかこの大陸中を見渡せそうなほど眺めのいい位置にまでいけるとは思わなかった。
気持ちいい。世界はこんなにも広かったんだ。ウィザードキングダムはあの海の向こうにあるのかな。アズマはあっちかな。一瞬だけど、そんなのんびりと浸ってしまった。
「再生なんかさせないよ、ラフーレ。たとえ魔王軍だって本当は殺したくない。
でも、お前達はどれだけ暴れれば気が済むのさ」
ボクは落下しながら、あの花の中心を狙って剣先を向けた。地中深くまで根を伸ばすラフーレを完全に倒すにはこれしかない。かといってソニックリッパーだと、辺りへの被害が大きい。
そうなると一点集中できるソニックスピアだ。
「これで終わりだよ!」
「こんのクソガキャァァァァァァ!」
【リュアはソニックスピアを放った!】
無数の触手、花粉、葉による守り。ラフーレは手の内をすべて出し尽くして自分を守った。花の部分に巨大化した葉が何枚も重なる。その周囲を何の効果があるかわからない花粉で覆い、多分数百、数千はあるんじゃないかと思える触手で落下するボクを迎え撃つ。
【大怪花の触手×1233を倒した! HP 0/830】
触手はすべてソニックスピアに触れた途端、消し飛んだ。その先からまた再生して襲う、また消える。これをわずか1秒も満たない時間の中で高速で繰り返されている。
何度再生したって同じだ、ボクは始めにそれをラフーレに突きつけた。そして花粉は役割を果たせずにソニックスピアの風圧で拡散、折り重なった葉に大穴を開けていよいよその中の花に直撃した。
【妖艶なる大怪花ラフーレに842019のダメージを与えた! HP 1/33000】
「何度やっデモ無駄ダし! まダ再生してやるわぁぁぁぁぁぁぁ!」
花に大穴が開いて、茎の筒みたいな状態になってもまだ喋る事は出来るとか。でもボクだってこれで倒せるとは思ってない。仕上げはここからだ。
地中まで届いたソニックスピアが開けた穴にボクはそのまま落下する。ソニックスピアがどこまで深く届いたのかはわからないけど、目的は別にある。それは根だ。
「あったあった」
「ま、まさか……」
そのまさかだ。地下に着地したボクは辺りで千切れそうになっている数々の根を見渡した。どこまでこれが伸びているのかはあまり考えたくないけど、やるしかない。
「ていやっ!」
土に埋まっている根を破壊すると同時に剣で掘り進む。剣で撫でるだけだ。それだけで土と根を消し飛ばせる。
「まだまだいくよ! とりゃ! とりゃっ!」
「や、やめろ……やめろメスガキがぁぁぁ!」
振って掘って振り進む。掘り進む。四方八方に伸びる根を一本ずつ消していく。根の尖端まで消しきったら、また次の根、まるでモグラになった気分だ。心配なのはこれのせいで地上が滅茶苦茶にならないか。
昔、イカナ村で大きな穴を掘って洞窟を作ろうとしたら、お父さんに地盤沈下するだろと冗談半分で怒られた事がある。今ではなんでそんな事をしたのか、ボクにもわからないけど子供の頃だったから遊びの一環だったかもしれない。
まさか本当に地盤沈下させてしまいかねない事をやるなんて、思ってもなかった。
「これが最後の一本……とりゃっ!」
さっきからとりゃっしか言ってないけど、他の掛け声が思いつかない。それにしても、まさか根からも触手が生えてくるとは思わなかった。触手、ラフーレの上半身みたいなのが根から生えて大量に襲ってきた時は、心底植物の底力を思い知った。
「こんな程度デアタシを……アタシ……ア……」
【妖艶なる大怪花ラフーレを倒した! HP 0/33000】
ラフーレの癪に障る声が完全に途絶えた。これでノルミッツ王国に平和が訪れる、そう喜ぶべきなのに何故か素直にそう思えない。
地盤沈下の心配かな、それもあるけどラフーレが言っていたあの言葉だ。魔王軍も植物のように耐えてきた、これが少しだけ引っかかっている。
「……どういう事なんだろう?」
暗い地中の中で一人で考えていても答えなんか出ない。それより本格的に崩れて生き埋めになったら、いくらボクでも脱出するのに苦労しそうだ。
「あ、魔王城について聞くの忘れてた……」
どうせ聞いたところで教えてくれないだろうし。なんて心の中で言い訳する事で、失敗をなんとかなかった事にした。
◆ ノルミッツ王国 広場 ◆
「ぬうぉぉぉぉぉぉぉぉ! うぉぉぉぉっ!」
【アイの大切斬! 茨の女王バアラに558のダメージを与えた! HP 1138/2570】
「この私がこんな小娘どもに……!」
【茨の女王バアラは猛毒の鞭を放った!】
【アイは83のダメージを受けた! HP 105/321】
「アイ姉さん!」
ボクが広場についた時には膝をつきながらも弓を構えるマイと、猛獣のような声をあげて荒れ狂うアイの姿が目に入った。ミィはマイの傍らで震えながら、完全に座り込んでいる。
「マイ! すごい怪我だ……」
「リュアさん……。えへへ、格好悪いところ見せちゃったね……」
「そんな事ない、よく戦ってるよ。チュリップとラベンタが見当たらないところを見ると、倒したんだよね?」
「うん……でもミィの魔力も底をつきかけているし、私に至ってはここから動けない始末……。
アイ姉さんの体力も限界に近づいていて、やっぱり無謀だったかなぁ」
「ここからはボクに任せてくれる、よね」
「どーぞ。ていうか助けて下さいっ」
ふざけて舌を出してお願いするマイを見ているとそれほど危機じゃないのかなと思うけど、実際はボクがこなかったら五分五分だ。あそこで別人みたいに髪を振り乱しているアイが気になってしょうがないけど、まずはバアラを倒さないと。
「バアラ、こっちだよ!」
「お、お前、ラフーレ様に殺されたんじゃ……ハッ?! ラ、ラフーレ様……?」
塔みたいにそびえ立っていた巨大花がなくなってる事に気づいたバアラが固まった。地面からはみ出していた根も消滅していて、今はそれが通っていた穴だけが残っている。
「フフフ……なぁんだ、ラフーレ様ったら。完成化を解いてどこへ行ってしまったのかしら……」
「ラフーレはボクが倒したよ。これ以上戦っても意味ないし、出来れば降参してほしい」
「ラフーレ様、この小娘をぶち殺せばいいのですね。わかりました、ウフフフフ」
ダメだ、言葉が通じてもやっぱり薔薇のお化けだ。棘の触手をしならせて、完全にボクを狙い打とうとしている。でも一応、最後にやる事はやっておこうかな。
「バアラ、魔王城ってどこにあるの?」
「遥か北の大地、ガーニス大氷河の更に奥……あ」
「そこは隠しとおさなきゃダメでしょ、バアラ姉さん」
「あんた達、ハメたわね! キーーーーー!」
妙にノリのいいマイの突っ込みがよっぽど効いたのか、バアラは触手を地面に鞭のように叩きつけて癇癪を起こした。
普通に聞いただけだよ、なんて言っても目の前にまで迫っている触手は引っ込めてはくれない。額がチクッとした程度で、触手自体は痛くも痒くもない。
【バアラの攻撃! リュアはダメージを受けない!】
「……ていっ!」
【リュアの攻撃! 茨の女王バアラに530986のダメージを与えた!
茨の女王バアラを倒した! HP 0/2570】
「人間……なんかに……」
薔薇の花びらが一枚だけ宙を舞い、それもやがて消えていった。
「私達があんなに苦戦した相手を一撃で……」
ひきつった表情でボクの一撃を見守っていたマイの手元から弓が落ちた。自分達だって強くなったのに、そう言いたげに全身から力が抜けていってるのが何となくわかる。
気の毒だけど、それよりもう敵はいないのに斧を両手で持って猫背で徘徊するアイをどうにかしてあげたほうがいいと思う。言いたくないけど、あんなアイは見たくなかった。
【茨の女王バアラ HP 2570】
ラフーレの手下の中でも最も強い花の三姉妹の長女。
触手による打撃、毒、アブラビートルの伏兵と三姉妹の中でも攻撃手段が豊富。
高飛車で見下した発言が多いが、うっかり口を滑らせてしまう欠点がある。
【吸い尽くす花姫チュリップ HP 2240】
三姉妹の次女。派手な攻撃はないが、相手の体力や魔力を吸い取って他の二人に還元する能力を持つ。
【妙香の花乙女ラベンタ HP 2130】
三姉妹の末っ子。花びらから漂う甘い香りは相手に様々な効果をもたらす。
直接的な破壊力が一切ない分、状態異常に特化している。




