表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/352

第95話 魅惑なる花々は田園に咲く その2

◆ ノルミッツ王国 田園地帯 ◆


「いやぁ、今日も絶好の仕事日和だなぁ! 諸君!」

「はい、陛下! 今日もいい汗を流しましょう!」


 最初はおじさん一人だったのにあれから数日、畑には人が驚くほど戻ってきている。作物のおいしさを思い出してくれた人、そんな人達の働く姿を見て思い直した人、少しずつだけど増えた。

 今ではこの広い畑にはまばらだけど、人の姿が見える。それでも足りないとおじさん、いや王様の不安はまだ消えていないみたい。そう、ボク達がただのおじさんだと思っていた人は王様だった。普通の人と同じ格好をして仕事をしているものだから、まったくわからないのもしょうがない。

 仕事をするのに身分も何もない、と真面目な事を言う王様をボクは気に入った。アバンガルドやウィザードキングダムの王様はあまり好きになれなかったけど、この人なら一緒にいても疲れない。


「陛下! 我々も手伝います! 今まで申し訳ありませんでした!」

「うむ、こい!」


 今まで飲んだくれて遊び呆けていた人達が戻ってきても王様は特に叱らなかった。それどころか、気前よく迎えている。今では少しずつだけど、荒れた畑も元通りになりつつあるし、このペースでいけばこの国はきっと持ち直すと思う。

 でもなかなか目を覚まさない人もいて、ボクもロエルも苦労している。特に花の三姉妹だかを応援していた人達は普段から遊んでばかりいた人達だから、目を覚ますも何もないと王様は厳しく批判した。うん、それならあの気持ち悪さも納得できる。


「陛下、私達も……」

「いや、お前達はあそこの小屋にあるキノコをすべて焼き払え。町にある出店もすべて潰すのだ。

すべてはあれが元凶……そしてそれを持ち込んだ奴らをこの国から追い出すのだ」

「ハッ! 了解しました!」


 この国にもお城はあるし、兵士もいる。丘の奥に小さく見える灰色の宮殿がそうだ。でもアバンガルド城よりも遥かに小さい。そんなものに金をかけている余裕があるなら、他に使いどころはたくさんあると王様は豪快に笑う。

 この国は代々こんな感じだそうで、アバンガルド王国も少し見習ったほうがいいとボクは素直に思った。


「冒険者の少女……いや、リュアよ。

お前達には助けられた。何か褒美をやろうかと思ったが、今はこんな有様でな。

もう少しだけ待ってもらえないか」

「いや、それより王様。まだ喜ぶのは早いと思う。あのキノコを完全になくして、中毒になっている人達も元に戻さないと……」

「大丈夫だ、我が国は二度とあんなものに屈したりはせん。時間はかかるが、少しずつ撲滅していくさ」


 胸を拳で打って笑う王様だけど、そんな簡単に解決するのかな。あのキノコ、なんか中毒性があるとかで、ずっと食べ続けると大変な事になるみたい。

 食べるとすごくおいしくて気持ちがよくなる、そしてまた食べる。その繰り返しで体が蝕まれていって、最後にはまともな栄養すらとれなくなって死んでしまう。難しい話はわからないけど、ロエルがそう言うんだからそうなんだと思う。

 魔法でも症状は完全に治せないから、そうなると頼れるのは一人しかいない。


◆ ノルミッツ王国 宿屋2階 ◆


「む、うぅ……。う……こ、ここは……」


 キノコ中毒から解放する為に部屋に閉じ込める。暴れようが何しようが、キノコから遠ざける。そしてアルコールも同時に抜いてもらう。

 薬の中毒に陥った人をそんな方法で治していたと、ロエルは前に何かの本で読んだらしい。世の中にはそういうのも完治させる魔法もあるみたい。でも、そこまでのレベルになると賢者ハスト様クラスでないと不可能じゃないかなとロエルは言う。


「リュア君にロエル君、君達もこの国に来ていたのか……。

キノコ? あぁ、あれは見るからに危ないからね。口にはしなかったよ……

それにしても、飲みすぎたようだ……まったく記憶がないぞ」


 ボク達がバームとジルベルトを助けたわけじゃない。違う、この2人は元々キノコなんて食べていない。つまりあれはお酒のせいだっていうのかな。信じられない、あのバームとジルベルトがお酒一つであんな悲惨な事になるなんて。

 今だって裸だけど、まだ2人は気づいていない。


「はて、私はどうしたものか。確か宿屋で一息つこうとしてそれで……女性だ、驚くほど綺麗な女性がお酒を進めてきたのだが……断って……ううむ、思い出せん」

「う、バームさん……。ダメです、我々は国王からの依頼を……」


 まだ寝ぼけていそうなジルベルトは目をこすりながら、少しずつ状況がわかってきたみたいだ。そして自分が裸な事に気づいた時の慌てっぷりがすごかった。シーツにくるまったかと思うと、震えながらロイヤルナイツとして、騎士として、人として失格だとか呟いてボク達と目も合わせない。


「わ、私とした事が……。よりによってこんな少女達を……。夢だ、これは悪夢だ。

早く覚めてくれ……」

「よくわからないけど、夢じゃないし落ち着いてよ」

「うわぁぁぁぁ! す、すまないっ!」


「ロエル、やっぱりジルベルトさんもキノコを食べたんじゃ?」

「ちょっと話を聞けそうもないし、バームさんに聞いてみようよ」


 頭を抱えてまた何かブツブツ言っているジルベルトは放っておこう。それよりバームにやってほしい事があるんだ。出来るかわからないけど、アルケミストの知識ならもしかしたら。


「すまない、情けない姿を見せてしまったようで詫びの言葉が見当たらない。

あまりに美しい女性達にああも酒を勧められては……」

「バームさん、あのキノコの中毒から解放する方法はないですか?」

「そのキノコの成分を分析すれば或いは……実物はあるかね?」

「はい、これです」


 こんな事もあろうかと、ロエルが一本だけ持っていたキノコをバームに渡した。バームはそれを人差し指と親指で挟みながら、角度を変えて観察している。


「見たこともない種だな。とにかく、やってみよう」


 かなり難しい顔をしているけど、期待して待ってみる事にした。それにしても、なんで急にあんなヘンテコなキノコが発見されたんだろう。あのラフーレが何か怪しい感じだけど、あれ以来姿を見ない。


◆ ノルミッツ王国 田園地帯 ◆


 更に数日後、畑には多くの人が戻ってきていた。まだ前よりは少し寂しいけど、ほぼ持ち直しつつあると満足そうな王様を見て、ボク達も一安心だ。でもキノコの解析はまだ終わってないみたいだし、まだ多くの人達がキノコ中毒から抜け出せていない。

 それに中にはこっそりキノコを隠し持っている人もいたらしく、国内にすっかり出回ってしまったキノコをどう取り締まるか。そこが課題でロエルも心配しているけど、当の王様はどう思っているんだろう。


「でも、危ないとわかっていれば二度とそんなキノコなんか食べないんじゃない?」

「人はそう完全ではない。人というのはどうしても楽なほうへと流れたがるものだ。

わかっていても快楽には勝てない、そうやって再び流されるのも自然な事。

体に悪いとわかっていても、おいしいものは食べたいものだろう?」

「そうですよね、ギュウドンも絶対体に悪いけど5杯は食べちゃいますもん」

「そ、そうか……」


 そうだ。ロエルだって食べ過ぎる度に体重が増えるなんて心配しているけど、また同じ事を繰り返す。そう考えるといくらこの国の人達が働き者で真面目だとしても、あのキノコの呪縛から逃れるのは難しいような気がする。

 ボクもロエルほど食べないけど、おいしいものは食べたい。体に悪いとわかっていても、食べる。一度も体を壊した事がないので、その辺りの感覚はよくわからない。


「あんなキノコなんぞなくても、酒があって美人がいれば人間いくらでも溺れますよ。

それを今回、身を持って思い知りました」


 近くで仕事をしていた若い男の人が、心底自分が情けないと言わんばかりに肩を落とす。実際キノコなんか食べてなくても、あの美人達に囲まれて鼻の下を伸ばしている人達は大勢いた。

 バームやジルベルトもそうだし、あれだってあの人達の一面だとボクは思う。真面目でいい人そうでも、中身はわからない。

 それをボクは今回の一件で思い知った。


「国内に出回ったあのキノコ……マッタンゴは今後、所持を禁止する。告知はしたものの、我が国は昔から罰則も緩い。牢獄の拡張も検討しなきゃいかんのかなぁ」

「陛下、とにかく今は出来るだけマッタンゴの撲滅を図りましょうぞ。城下町へは兵隊達が向かっております。厳しいようですが、家宅捜索も視野に入れておりますので今は結果を待つしかありませぬ」


 大臣と王様が深刻そうな顔をして、畑仕事の手を止めている。これじゃ、いくら働き者でも心配事が消えない限りは集中できない。かといってボクには何もいい方法が思いつかない。

 本当にボクって、戦い以外はまるっきりダメだな。


「ロエル、何かいい方法ないかな?」

「私にもさすがにこればかりは……。それにここから先は国の問題だから、私達が口出しするところでもなさそうだよ」


 とは言っているけど、ロエルだって心配なんだ。その証拠に片手に下げているランチボックスに入っているサンドイッチがあまり減っていない。いつもなら、気がつけばボクの分までなくなっている事もあるのに。


「お疲れ様、差し入れを持ってきたよ」

「お、すまないな、おーい! 皆の者、昼にしよう!」


 おばさん達が持ってきたランチボックスに群がるように仕事をしていた人達が集まってきた。ボクもお腹が空いたな。サンドイッチを食べよう。

 と思ったら、すでになくなっていた。やられた。


「あ、ごめん……。また食べちゃった……」

「あっちの差し入れとかいうのを少しもらってくる……」


 さすがのボクもお腹が空いては戦いは出来ない。出来るけどしたくない。王様や皆がランチボックスに次々と手を伸ばしている隙にボクも。


「お、おいしい……」


 足腰の力が抜けるほどだった。思わず、その場に腰を落としてしまう。サンドイッチに挟まれていた何かを噛み締める度にあふれ出す甘み、そして程よく香ばしいような後味。

 一口じゃ満足できずにもう一口、また一口。食べれば食べるほどお腹が空いていく、全然足りない。ロエルがあれだけ食べる理由がわかった気がする。もっと食べたい、これがやめられない理由か。


「うまい! いやぁ、こんなにうまいサンドイッチは初めてだ!」

「このペースト状にしたものが気になるな。これは何が挟まっているんだ?」


「それはぁ、マッタンゴサンドですぅ」


 その間延びした口調、一度しか会ってないはずなのにすぐにわかった。高速で着替えるように服がねじれたと思ったら派手なドレスへと変わり、おばさん達だった女の人達は次々にあの美人へと姿を変えていく。

 それはボク達が宿屋で出会ったラフーレ、そしてマッタンゴ汁を勧めていた女の人達。あの花の三姉妹の姿もそこにあった。


「き、君達は……」

「うふふ、王様。マッタンゴを排除しようなんて、ひどい人ですぅ。

こんなにもおいしいのに、皆から愛されているのに」


 すでにランチボックス内のサンドイッチ争奪戦が始まっていた。ワシのものだ、いや俺が。おじいさんから若い人まで、入り乱れてサンドイッチを取り合っている。

 さっきまで働き者だった人達が今は農具を放り捨てて、そんな事に夢中になっていた。


「若いモンは年寄りを労われい!」

「老い先短いジジイこそ未来ある若者を尊重しろや!」


 ひどすぎる。あんなに真面目そうだった人達がこんなにも口汚く罵り合っているなんて。

 先にあのラフーレ達をどうにかするべきだったんだ。今まで姿を隠していたのは、ボク達を油断させる為だったのかな。


「皆さん、まだまだサンドイッチはありますからねぇ。ケンカはダメですぅ」


「「「うおぉぉぉー!」」」


「皆の者! しっかりしないか! さっきまでの志はどこへいったのだ! あんなものには二度と手を出しちゃいかんぞ!」

「王様ぁ、人間ってぇ、ずっと真面目マジメでいるとやっぱり疲れるものなんですよぉ。

一日中、一年中、一生働きづめで背筋を伸ばしているように見えても心が蝕むんですぅ。

あぁ、自分もたまには遊びたいなぁって! それが積もりに積もった結果がこれですよぉ?

マッタンゴのせいですかぁ? 確かにマッタンゴには中毒性はあるし体にもよくないけど、体がおかしくなるまで食べ続けたのはあの人達ですよぉ?」

「クッ……。しかしだな……」


 王様が言い負かされているのを見て、ロエルがラフーレにこれでもかというほど近づいた。それでもラフーレは微笑んで、ロエルさえも取り込まんとしているかのようだ。


「あなた達はどういう人達なんですか。どうしてそんなものをこの国に持ち込んだんですか」

「私達はただ、この国の人達が疲れきっているように見えたからぁ。癒してあげようと思っただけですよぉ? ココロもカラダも……フフフ」


 舌なめずりをしたラフーレに抱いた嫌悪感はロエルも感じている。どういう人達も何も、さっきの様子からして普通の人間じゃないのは明らかだ。


「違う、あなた達は堕落させたいだけだよ。この国の伝統も壊して、メチャクチャにしたいだけ。

そのキノコを持って出ていって下さい」

「あららぁ、そんな事をいってぇ。あの人達にとって、邪魔なのはむしろあなたのほうじゃない?

ほら、あんなにうれしそうにサンドイッチをほおばっているわぁ」


 口の周りを汚しながら、子供みたいにサンドイッチにかじりつく大人達。ラフーレの言葉を裏付けるかのような光景を見てボクは何かをしようとしたけど、何も出来なかった。サンドイッチを取り上げればいいのかな。そんな事をしたら、こっちが怒られそうだ。


「皆の者、目を覚ますのだ! お願いだ……お願いだ……」


 農具を手放さない王様の声も次第に弱くなっていった。そしてその目にはうっすらと涙さえ浮かべている。悔し涙、ボクでさえわかるほど王様の思いが伝わってくる。


「やはり終わりなのか……。先代の頃から耕してきたこの畑も国も……もう、ここまでなのか……」

「人間なんてこんなものですよぉ、いくら誠実でも裏返せば汚い本性が現れる。

どんな人間でも楽を覚えれば、どんどん落ちていく。

愛を誓い合った相手さえも放り出して、美人がいれば飛びつく。薄っぺらい生き物よねぇ?

これが馬鹿としか言いようがない、あんた達人間よ。

ていうかぁ、マジ馬鹿すぎ? みたいな」


 最初の可愛らしい笑顔が今は口調と共に小馬鹿にしている。甲高い声で笑うラフーレにボクはもう限界だった。


「いい加減にしてよ、これ以上メチャクチャにするなら許さないよ」

「はぁ? なにをどう許さないって? その剣で私達を斬り殺すっての?

いいわ、やってみせてよ。あんたが国中の人間から叩かれるのを楽しみにしているから!」

「こ、この……!」


 拳を握り締めたボクをラフーレに続いて他の女達もクスクスと笑いを漏らした。


「さぁ、皆さん! 今日は一日、パーッと盛大に」







「さぁて! 腹ごしらえも終わった事だし、午後もがんばるか!」


「え……?」


 今までサンドイッチをかじっていた人達が背伸びをして、また農具を手に取った。そして何事もなかったかのようにまた仕事に没頭している。ケンカをしていたおじいさんと若い人も、今は仲良く軽口を叩き合っていた。


「ジジイ、若くないんだから無理するなよ?」

「若造が、そういう口は一人前になってから叩けぃ」

「その頃にはじいさんは生きてないかもな」

「あと百年は生きてやるわ!」


 それじゃ化け物だよ、そう心の中で突っ込みはした。そんなものよりも、一体何が起こったんだろう。さっきまでだらしなくサンドイッチに夢中になっていた人達が、今は真剣な顔つきだ。


「皆の者……!」

「陛下、言ったはずです。もう二度とあんなものに屈したりはしませんって」

「おぉ……それでこそ、我が国の国民だ!」


「み、みなさーん? マッタンゴサンドはまだまだありますよぉ?」

「ん? あぁ、おいしかったよ。でも、それはこの国ではすでに所持は禁止にしておるんだ。

……取り上げろ」

「ハッ!」


 王様の指示で動き出した兵士らしき、今は農民がラフーレ達からランチボックスをひったくる様に取り上げた。

 さっきまで高笑いしていたラフーレが今は、口を半開きにしてされるがままになっている。


「散々、食べておいてナニそれ? さっきまで終わりだ!なんて言ってたくせに」

「いや、実際元通りになってしまったのかと冷や汗をかいたよ。そのマッタンゴサンドとやらも、取り合いになるほどうまいのは事実だろう」

「……あ?」

「わからんのか? 今のが、我々の答えだという事が」

「……はぁ?」

「もうそんなものに屈したりはせん、我々は学んだのだ。どんな快楽があろうと、それは充実した一日をおくっているからこその賜物なのだ。疲れを知っているから、癒しのありがたみがわかる。

サンドイッチ、ご馳走様。まぁまぁうまかったよ。それじゃ、仕事の邪魔だから出て行ってくれ。

今回は見逃してやるが、次からは牢獄行きだ」


 言いたい事だけを言って王様はラフーレを無視して、仕事を再開した。ふと見ると、ラフーレの形相が凄まじかった。おばあさんみたいに顔の中央に皺がより、白い歯をむき出しにして目は見開いている。

 小刻みに震えている体から、その屈辱と怒りがあふれ出しているかのようだった。


「ありえない……マッタンゴの中毒はそんなものじゃないし……。

クソ、なんなのホント……カス人間の分際で……このアタシを……このアタシをッ!」


「散々俺達を弄びやがって! 出ていけ!」

「二度とワシらの国に近づくな!」

「出ていけ! 出ていけ! 出ていけ!」


「リュアちゃん、これって……」

「うん、皆あのキノコに負けなかったんだ。ロエルのやった事は無駄じゃなかったんだよ」


「ラフーレ様、どうします……?」

「決まってる。もう遊びは終わり、ここからは……わかってるでしょ?」

「フフ……汚らしいのは好きではないけど、この国に鮮血の花を咲かせるのも悪くないわ。

ラフーレ様はここで見ていて下さいね。すぐ終わらせますので」


 女の体だったものは何本もの蔦が重なり合った人の形をしたものだった。人から蔦、蔦から花。次々に美人だった女達が同じ要領で変貌していく。

 茶色の斑点が浮き上がった毒々しい花びら、その中心にある緑の牙が何本も生えた口。どこからどう見ても魔物としか言いようがない姿がそこに並ぶ。


【ベノムフラワー×8が現れた! HP 620】

【死妖花×2が現れた! HP 1020】

【ジュヌード×6が現れた! HP 795】


「ま、魔物……」

「ひっ……」


 さすがの皆も魔物が相手じゃ、さっきみたいにはいかない。農具を落として腰を抜かすおじいさんや、それでも立ち向かう姿勢を崩さないおじさん。予想もしていない事態を飲み込めていない人達が大半な中、ボク達がやれる事は一つだ。


「ラフーレ、この国で暴れるな。ボクがまとめて相手をしてあげるよ」

「ラフーレ様、このメスガキを殺せばもうこの国に腕のある奴はいなくなるわ。

安心してみていて下さいませ……ホホホ」


 化け物になっても、その女みたいな口調は変わらなかった。そのギャップが余計に農民達を震え上がらせる。

 畑を耕すのはこの国の人達、後はボク達の仕事だ。そういえば畑の作物には害虫がついて、苦労するってお父さんが嘆いていたっけ。


「ロエル、皆を守ってあげて」

「うん!」


 ボクが出来るのはせいぜい害虫駆除だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ