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第79話 依頼という名の任務?

◆ アバンガルド城 王の間 ◆


 王様が座る玉座まで長い赤い絨毯がしかれている、広々とした空間。天井の高さは普通の建物の2階分くらいはあると思う。そんな広い場所に呼び出されたのはボクとロエル、そしてバームとジルベルトだ。

 そこまではわかるんだけど、なんでカークトンまでいるのかわからない。

 王様は厳しい顔つきで表情をまったく崩さない。その横に立つ宰相のベルムンドもトカゲみたいな目つきでボク達を眺めている。

 試験に合格してから早速Aランク向けの依頼をギルドで漁ったら、そこそこあった。でもこの辺りだとミストビレッジを超えるダンジョンはないから、ほとんどBランク向けといってもいいレベルの依頼ばかりだ。

 ミストビレッジ以外のダンジョンもあるけど、わざわざそんなところにいってもしょうがない。高額で売れる素材を獲りに稼ぎにいくAランクの人達もいるみたいだけど、今のところお金には困っていない。20万ゴールドもほとんど余している。ロエルの事だから、大食いしてどんどん使っちゃうんじゃないかと心配したけど、やっぱりお金の管理はしっかりしていた。おかげでお小遣いの無駄使いが一切できなくて、泣きつこうが何しようが絶対に追加でくれたりはしない。この点だけは本当に残念だ。

 そんなボク達だけど、今回の依頼の報酬はどのくらいなんだろうか。何せ王様からの依頼だから、さぞかし多いんじゃないか。


「Aランクに昇級したばかりのそなた達に早速頼みたい事がある。なに、そう堅くならんでもいい。試験の次は私から直々に試させてもらおうと思ってな。今から頼む依頼はDランクの冒険者で言うところの、薬草摘み程度のものだ」


 堅くならなくてもいいと言う割には王様の表情が硬い。ウィザードキングダムの王様よりは遥かに年上だけど、この人もぴくりとも笑わないタイプかもしれない。


「まずはバームとジルベルト。ノルミッツ王国は知っているだろう?」

「はい、農業国として名高い国ですね。アバンガルド王国における野菜や果物の輸入率が最も高い国で、有名なものとしてよく挙げられるのがヒドラフルーツにポフポフの実、エメラルドレタスです。しかし実はあのモモルの実もノルミッツ産であるものが多いです。これは国内でも栽培されていますがノルミッツ王国においては独自の」

「う、うむ。もういい、ジルベルト。そのノルミッツ王国は古くから我が国の友好国であり、発展において欠かせない存在であるのだ」

「はい、ノルミッツ王国は農業が発達している反面、武力面は非常に弱いのです。そこで冒険者育成に心血を注いでいるアバンガルド王国が」

「わかったわかった。とにかく話を聞いてほしい。それでそのノルミッツ王国からの輸入が突如、途絶えてしまったのだ。実は二ヶ月程前にも伝令も送ったのだが未だに帰ってこない。ノルミッツ王国への道のりはそう遠くはないし、道中にキゼル渓谷のような危険地帯はない。魔物に殺された可能性も考えたのだが我が国の兵士とて、ばらつきはあるが平均して冒険者ランクでいえばBランク程度の実力はかね揃えておる。よってあの辺りの魔物に殺されたとは考えにくい」

「それは不可解ですな……。ギガースホースの馬車はお使いになられなかったのですか?」

「いや、あいにく別の理由ですべて出払ってしまってな」

「ふむ……」

「そこでそなた達にノルミッツ王国へと出向いてほしいのだ。何かあればすぐに戻って報告してほしい。ここで重要なのがくれぐれも深入りはするなという事だ。もし万が一の事があった場合、そなた達の手に負えるものではないはず。いいな」

「はい、わかりました。ただちに」

「資金はすべてこちらから支給する。ベルムンドから受け取るがいい。それとは別に報酬として8万ゴールドを用意してある。励みにするがいい」


 そう、Aランクでは国からの支援を受けられる。今回みたいに必要なものはすべて用意してくれるので、Bランクまでとはここが大きく違う。

 ロエルが言うには出費を大幅に抑えられる上に報酬額がまさに桁違いなのもあって、これからはボクのお小遣いアップも検討しているみたい。


「さて、リュアにロエル。期待通り、Aランクまで登ってきたようでうれしいぞ。そこで早速なのだが、そなた達にはぜひやってもらいたい事がある」


 王様が突然、笑顔になった。ジルベルトとバームに向けていた厳格な顔つきとは大違いだ。まるでお面を取り替えたように、その切り替えは瞬時だった。そういえばこの人、前に会った時もボクに何か言いたそうにしていたっけ。


「ティフェリアの事は知っておるな?」

「はい」

「先日何とか持ち直してな。だが完全に脅威が去ったわけではない。まだまだ戦線に復帰するのは難しいところだ」


 当然だけどロエルは相手が王様だから、かなり緊張した様子で言葉を選んでいる。今も最低限の受け答えしかしていない。

 それはそうとよかった、ティフェリアさんほどの人が簡単に死ぬわけがない。でもそこまでティフェリアさんを苦しめたジュオの血って何なんだろう。


「ティフェリアの体を蝕んでいたものの正体はあまりはっきりとしない。もし流行り病の類であれば魔王軍と戦うどころではない。それが魔王軍によってもたらされたものであれば尚の事、早急に対策を練る必要がある。そこでそなた達にはアズマのダイガミ山へと出向いてもらう」

「アズマ……。西の海にある島国ですね」

「うむ、ダイガミ山の周辺にはいくつもの山々が連なり、現地の住人達でさえ滅多に寄り付かないほどの難所だ。しかしあの山の頂上にしか生えない千年草というものがあってな。そなた達にはそれを採って来てもらいたいのだ」

「センネンソウってなに?」

「だからリュアちゃん、敬語……」

「煎じて飲めば1000年は生きられるといわれる事からそう名づけられた。そんな大病をも退ける薬草があるようでな」

「本当にそんなものが?」

「灰死病の蔓延を鎮火させたと噂されるあの……?」


 突然、口を開いたバーム。ハイシビョウってなんだろう。


「灰死病。体の一部分から少しずつ肌が灰色に変色し、それに伴って体の機能が停止する。手や足も動かなくなり、生きながらにして腐っていくような原因不明の病気です。それがアズマの一部地域で蔓延し、多くの命を奪った」


 ベルムンドが淡々とした口調で語った。恐ろしい事を話しているはずなのに、その声に感情がこもっていなかった。


「アズマは本来、世界一の長寿国。薬草なんかの知識や加工技術も他国とは一線を画する。しかし千年草に関してはバームが言ったように、あくまで噂の域を出ないのだ。しかし私はその存在を確信している。何故かアズマが執拗にその事実を否定しているからだ。どうも引っかかるのだ」

「千年草はダイガミ山の頂上に生えている。かろうじて入手できた千年草に関する情報です」


 王様とベルムンドの話を聞いていると、あるかどうかもわからないものをボク達に採りにいかせようとしているのか。それはさすがにボクも不安になる。もしなかったら、完全に無駄足じゃないか。

 それにウィザードキングダムみたいに海を越えなくちゃいけないだろうし、何日かかるだろうか。


「……以上だ。二人にも旅の資金を渡しておく。アズマはここより遥か西に位置する島国。長旅になるだろうが、健闘を祈る」

「陛下、恐れながら申し上げます。この依頼……」

「その話はもう済んだ事ですぞ、カークトン隊長」

「しかし、あのダイガミ山には……!」

「下がりなさい。これ以上の問答は不要です」


 カークトンを遮るようにベルムンドがぎょろりと睨みつける。舌打ちでもしそうなほど不満で溢れた表情でカークトンはそれ以上、何も言わなくなった。


「成功した際の報酬額は25万ゴールドだ。吉報を期待する」


 さらりと提示された報酬額は本当に桁違いだった。今でさえ、20万ゴールドもあるのに成功したら45万ゴールド。そうなるとボクのお小遣いはどのくらい上がるんだろう。


◆ アバンガルド城 廊下 ◆


 信じられない量の金貨を受け取ったボク達は早速、アズマを目指す事にした。アバンガルド港から別の大陸の港を経由しないといけないみたいで、本当に長旅になりそうだ。いっそのこと泳いでしまえば、もっと早く着くのかなと思ったけど、それじゃロエルを置いてきぼりにしてしまう。

 それにしてもこれは本当に依頼なのかな。今の話を聞いていると、なんだか兵士になって王様に命令されている気分だ。依頼というなら、ボク達が嫌という事も出来るはずだ。でもそれはやらない。

 だってイカナ村に入る事が出来るのは一部の冒険者だけ。それならもっと依頼をこなさないと認めてもらえないからだ。

 それに片翼の悪魔の事だって忘れてない。他の大陸にいけば、もしかしたら誰か知っているかもしれない。だから、いろんなところに行くのは無駄じゃないはず。


「はぁ~、王様の前だと緊張するねぇ」

「そう? ボク、なんだかあの人の前にいると眠くなるよ」

「本当に寝るのだけはやめてね……」

「そういえばカークトンさん、最後に何を言おうとしていたんだろうね」


「おーい! 君達、少しいいかな」


 追いかけてきたのはカークトンだった。さっきの事だろうか。


「カークトンさん、そんなに慌ててどうしたんですか?」

「陛下は何も言わなかったが実はこれまでに何人も同じ依頼を受けてアズマへ向かったのだ。ところか誰一人として帰ってきていない。脅かすわけではないがくれぐれも注意してほしいのだ」

「ダ、ダイガミ山ってそんなに危険な場所なんですか?」

「……あの国は神の国と名高い。小さな島国でありながら、他国の侵略を数度に渡って退けている。それはあの国の人々によれば神によって守られているからだという。それだけ神に対する信仰心が非常に強い国なのだ。私も昔、一度だけ訪れた事があるが余所者にはどちらかというと排他的だ。特に彼らが信奉するダイガミへの侮辱は絶対にしないほうがいい。帰ってこない冒険者はそれによって消されたとも言われているし、ダイガミ山に赴いて神の怒りに触れただとか、いい噂がない」

「ダイガミ?」

「彼らが祭っている神の名だ。いいか? たとえ何も知らない余所者とはいえ、決して呼び捨てにせずダイガミ様と言うのだ。逆に言えば、それだけで勉強熱心な観光客として少しは歓迎されるはずだ」


 あまりにも熱心にまくしたてるカークトンに思わず圧倒されてしまった。神の国だのダイガミ様だの、ちょっと想像できなくてどう返していいかわからない。そもそも、神様なんて本当にいるんだろうか。そんなのがいるなら、なんでボクの村は滅ぼされちゃったんだろう。神の国なら神様が守ってくれたのかな。


「ダイガミ山はダイガミ様が住む山とまで言われている。もしかしたら一筋縄では近づけないかもしれない。こんな無茶な任務、私は最後まで反対したのだが……」


 依頼じゃなくて任務と言い換えたカークトンに少しだけガッカリした。悪気はないのかもしれないし、確かに間違ってないかもしれない。


「おっと、引き止めてしまったな。君達の実力は知っているつもりだが、何せ異質な場所だ。用心したほうがいい」

「いえ、わざわざありがとうございます」


 頭を下げた後、マントをなびかせて去っていくカークトン。その後姿を見送りながら、ボクはこれから向かうアズマがどんなところか想像した。ただ山に行って草を採ってくるだけ、もらった専用のボックスに詰めればいいだけ。それだけだ。


「えーと、まずはアバンガルド港からバラード大陸の港を経由して……」


 多分、ボク一人で知らない場所に行けと言われても無理だと思う。まずどの港からどこへ向かえるかってだけでも何通りもあるし、その時点で頭がいっぱいになる。そういうのはロエルに任せた。

 よし、目指すはアズマだ。待ってろ、千年草にダイガミ。いや、ダイガミ様。あ、神様は別に待ってなくていいや。

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