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第72話 Aランク昇級試験 その6

◆ ミストビレッジ前 ◆


「はいはーい、捜索終わりましたぁ」

「ご苦労っしょ、キキィ。死者、行方不明者含めて46人、と」


【キキィ Lv:74 クラス:スナイパー Aランク9位】


 大きな翼を持った鳥に乗って森上空から捜索したのはキキィというAランクの女の子だ。大きなメガネをかけていて、エメラルド色の髪を二つに分けて結んでいて、ブルーの瞳が凛と輝いている。

 あの霧なのにどうやって上空から探したんだろうとかそんなのより、死んだ人が結構いるのがショックだった。ボクも地上から一緒に探したけど、生きている人はあまりいなかった。霧に惑わされかけていた人は稀で、ほとんどが瀕死だ。霧の追跡者にパーティを半壊させられた人達が最も多かった。


「あの程度のフロアモンスターすらどうにも出来ない奴はAランクにはいらないっしょ」


 捜索して助かった人もいるのに、この言い草だ。殴ってやりたいところだけど、それをやって失格になったら困る。怪我人は全員馬車に収容したけど、もう二度と戦えない体になった人は後悔していないだろうか。試験なのに命をかけるまでやらせたり、さすがに文句の一つでも言ってやりたい。


「厳しい言い方になるが、Aランクに与えられる任務はこんなものじゃない。

それに耐えうるかどうかを試すという事はつまり、こういう事だ」


 ムゲンが頭を光らせてそう答えた。理屈はわかるけど、もっと他に方法はないんだろうか。そんな事を考えながらボク達はまた巨大馬車に乗り込んだ。


合格者108人 死者(行方不明者含む)46人 辞退者31人 不合格者127人


◆ 再びアバンガルド草原 ◆


「第二次試験合格おめでとう。次の試験の説明をさせてもらうよ。あ、私は第三次試験官のローレルだ」


 ローレル、確かこの人も五高の一人だ。中性的な顔をしていて、女と言われても納得してしまう。ユユ以上に細い体だけどあの竪琴の音色は以前聴いた通り、聴く人を穏やかにさせる。ボクはあまり音楽に興味はないけど、あの人の音楽は好きだ。


「日も暮れてきたね。それじゃ、真っ暗になる前に第三次試験を始めよう。

その試験というのは君達のスキルプレイを見せてほしいんだ。

そう……敵を打ち倒す、味方を救う、補助する。これまでの戦いの中で様々なスキルを駆使して今日まで生き残ってきたと思う。それを私に向けてほしい。

この試験の合格条件は私を倒す事じゃない。そのスキルプレイがどれだけ力強く、美しいか。それが見たい。私が点数をつけて高い順に上位から20人が合格だ」

「じょ、上位20人?! それじゃ、自動的に残りは不合格って事じゃねえか!」

「そうだよ、ボーブスさん。何か問題でも?」

「いや……何でもない」


 この人に不満を言ったらやっぱり不合格にされちゃうんだろうか。ユユも大人しそうな顔をしてアレだし、このローレルも油断ならない。それより、さっきの試験と比べて随分と優しい。あの人にスキルを放てばいいのか。あ、でもボクのスキルってソニックリッパーとソニックスピアの二つしかない。大丈夫だろうか。


「パーティを組むか、単独で挑むかは自由だよ。

チャンスは一回のみ。さぁ最初は誰がやるのかな?」


 最初に会った時と比べてなんだか軽い。ユユみたいに敬語で話していた気がするけど、こんな人だったっけ。


「よう、ジョッシュ。オレと組んで挑むか?」

「うん、そのほうがいいや。俺一人じゃちょっと自信ないし」

「おう、決まったな。ローレルさん! オレ達二人がやるぜ!」

「ああ、わかった。それじゃ、始めようか」


 ボーブスが指を鳴らし、ジョッシュがナイフを両手に持って構えた。ボクが見た限り、ローレルはそこまで肉弾戦は得意じゃない。とはいっても、Bランクの冒険者程度ならそれでも歯が立たないはず。そして、あの人の本質はそこじゃない気がする。そこに気づかないと多分、この試験に受かるのは厳しい。


「いつでも、どうぞ」

「よっしゃあ! いくぜ! 爆裂パァンチ!」

「"不和の衰弱奏"」


【ローレルは不気味な音色を奏でた!】

【ボーブスの攻撃力が大幅に下がった!】

【ジョッシュの攻撃力が大幅に下がった!】


 霧の追跡者にダメージを与えたボーブスの爆裂パンチ、でもそれがローレルに届く事はなかった。放ったボーブスの足腰が急に崩れ始め、バランスを崩して倒れてしまった。

 とてもローレルが奏でている音色とは思えない。それぞれの音がちぐはぐで聴いていて不安になるほどで、それはボク達だけじゃなくて観戦している受験者にも影響が出ていた。耐えかねて耳を塞ぐ人まで続出するほどだ。


「リュアちゃん、なんかこの音色気持ち悪いね……」

「うん、でもこれがあのローレルのスキルなんだと思う」


「あ、脚に力が……ロ、ローレルさん、話が違う……これじゃ、スキルが……」

「私は手を出さないとはいってないよ」


 かろうじてジョッシュが立ち上がり、素早い足取りでローレルに接近した。思ったよりも速かったのか、一瞬だけ少しローレルが身を引く。


【ジョッシュはローレルの武器を盗もうとした! しかし失敗した!】


 ジョッシュの手が竪琴に触れる寸前で拳一つ分、ローレルが下がった。すると力が抜けたのか、ジョッシュは成す術なくまた倒れる。草を握り締めて立ち上がろうとするも、もう動ける様子はない。


「おっと、シーフはこれだから油断ならないね。でも、この程度じゃ合格には届かないだろう……"不和の狂想"」


【ローレルは騒音のような音色を奏でた!】

【ボーブスは混乱した!】

【ジョッシュは混乱した!】


 よろけながらも立ち上がったボーブスがジョッシュに殴りかかった。ジョッシュはナイフで応戦し、このままだとどちらかが怪我をする。こうなったらもう試験どころじゃない。ボクでも合否の結果はわかる。


【ユユはオールリカバーを唱えた! ジョッシュとボーブスの混乱が解けた!】


「ローレル、これは当然……」

「ありがとうございます、ユユ。ボーブスにジョッシュ、気がついたかい?」

「オ、オレは一体……」

「判定しよう。ボーブス、ジョッシュペア。10点。

私の不和の衰弱奏を聴いても尚、竪琴を奪おうとした気力と発想は評価しよう。

けど、二人もいるなら連携はとらないとダメだよ。それじゃ何の為のパーティなのかわからない」

「う……」


 二人は反論できずに押し黙った。不合格とは決まってないけど、10点じゃ不合格みたいなものだ。二人は肩を落として座り込んでしまった。

 それにしても、音楽だけであそこまで戦力を削ぎ落とせるなんて思わなかった。ボクが闘技大会予選で戦ったバステも似たようなタイプだったけど、こっちはレベルが違う。あの竪琴一つで戦局を変えてしまいかねない。色白で細い体つきをしているけど生半可な実力じゃ、例えこれが勝負だったとしても傷一つ負わせる事も出来ないと思う。

 ボクは平気だけどロエルはどうだろう。と、隣を見ると必死に耳を塞いでいた。なるほど、でもそんな方法でいけるものなんだろうか。


「リュアちゃん、私達はこれでいこうね!」

「それじゃどうやって攻撃するのさ……」

「あ、あ……」


 根本的な欠点を指摘してあげた時のロエルといったら、落ち込みようが激しかった。もしかして、よっぽど自信があったんだろうか。考えるのが苦手なボクでさえ気づいたのに、ロエルが気づかないはずはないんだけど。たまにこの子はどこか抜けている時がある。一瞬だけ脚蹴りでいけるかな、なんて考えたけどすぐに取り消した。


「その奏でる音色一つで戦場をコントロールする事からついた異名は戦場詩人……。

あれを攻略するなら、ウルファングの巣にでも単独で突入したほうがまだ楽かもな」


 気がつけば隣にいたバームが溜息まじりにそう呟いていた。


◆ アバンガルド草原 夜 ◆


「判定しよう。ニーセン、ブイエ、エクスッピ。25点。

攻守の取れたいいパーティだけど、テンプレートすぎて面白みがないし簡単に読めてしまう。

連携はある程度とれていたんだけどね」


 続々と受験者達の心が折られているような気がした。今の25点の人達の表情は完全に疲れきっている。あれから半分以上の受験者達が挑んだけど、ほとんどがローレルを満足させられずに終わっている。 別に高い点数をとらなくても、合格の可能性はあるのに低い点数をつけられた人達はほぼ全員、沈黙している。さっきの女の子の冒険者は手も足もでなかった上にかなり辛辣な事を言われて今も泣いている。

 優しそうな人だと思ったのに、かなり厳しい。それどころかあの冷笑がひどく苛立つ。相手を心の底から見下して楽しんでさえいる気がする。ボク達も挑もうと思ったけど、先に他の人の戦いを見てローレルの出方を伺おうと提案したのがロエルだ。意外と冷静というか、したたかさがあるというか。


「見てらんねえな、雑魚どもが。金も地位も名誉も力もない。

度胸も頭もないないだらけ。持たない奴ってのは不憫だねぇ、生きてて空しくならないもんかね。

ローレル、次はオレ達だ」

「……じゃあ、かかってきなさい」


 ローレルの眉間に皺がよる。Bランクに呼び捨てにされた事を明らかに怒っている。その相手はロエルにちょっかいをかけたパーティだ。オールバックと茶髪と裸っぽい女の人。ちらりとロエルを見たけど、もうあいつらに対する怯えはなさそうだ。今はしっかりとあいつらを見据えている。


「さぁて、ちゃちゃっと合格して今夜は燃え上がろうかね」

「やぁねぇ……」

「よし、ブリクナにタターカ。ぼちぼちやるぞ」

「おっけー、フォーマス」


 茶髪のほうがブリクナだろうか、オールバックの男、フォーマスの背中を軽く叩く。夜に燃え上がるって炎魔法でも撃つんだろうか、そんなどうでもいい疑問はすぐに打ち消された。開戦するとタターカが蝶のように踊る。竪琴の音色に力を奪われるどころか、二人に力がみなぎっていた。混乱の音色を奏でれば対抗するように別の踊りで舞い、それだけで絵になりそうなくらい綺麗だった。観戦している受験者達も、何も言わずに見とれている。

 今度は逃げないようにブリクナが炎の障壁でローレルを閉じこめた。円形の障壁が燃え盛っていて、夜の闇を赤く照らしている。ローレルもこのまま黙っているはずがなくて、聴いた事がない音色を奏でると今度は炎が地面に吸い取られるように収縮していく。

 ローレルが微笑して勝ち誇ったのも束の間、フォーマスが剣を両手に握り締めて走り出した。あの距離であのスピードじゃ、絶対に捉えられない。途中まではいい線いっていたのにここで台無しか。


「遅い、これではせいぜい40点がいいところ……」

「こいつを受けてみるんだな!」


 走っている途中でフォーマスが剣を放り投げた。そして懐から手の平サイズの鉄の筒を取り出す。そして放たれたのは小さな鉄の塊。それが高速でローレルの胸に直撃した。


「ぐあぁっ!」

「へい! 一撃終了っと! どうだい、ローレルさん。びっくりしたかい?」

「そ、それはまさかメタリカ国の……」

「そう、銃って奴だ。オヤジに頼んで取り寄せてもらったのさ。オレのオヤジはマテール商社の社長だからな」

「マテール商社、世界でも有数の武器の貿易と販売実績を持つという……」

「オレの本命は剣じゃなくてこっちさ」


【フォーマス Lv:25 クラス:ガンナー Bランク】


 どよめきが起こるほどのすごい会社なのか。ボクはそういうのはまったくわからないからピンとこない。でも、この場にいるほぼ全員が驚いているって事は有名な会社なんだとは思う。ロエルは一緒にパーティを組んでいたから、すでに知っていたみたいでまったく無反応だった。


「完全に油断した私が悪い、認めよう。

フォーマス、ブリクナ、タターカ。80点。剣をフェイクにして相手の意表をつくのは見事だ。

だけど、同じ手は絶対に通用しない」


 ローレルが奏でると傷口がみるみる塞がっていく。鉄の塊は貫通していたみたいで、草むらのどこかに転がっていたのをローレルが拾い上げた。


「高速で鉄の弾を放つ武器か……こんなものが本格的に出回ったら、弓手なんて廃業だね」

「そんな馬鹿な事が! 確かに威力は凄まじいけど、殺傷力と攻撃範囲は弓のほうが上ですよぉ!」


 自分のクラスの地位が脅かされると思ったのか、キキィが両手を振り回して反発した。確かに矢の速度よりも格段に速かったし小型で持ち運びも楽そうだ。並みの相手なら、発射された瞬間すらもわからないはず。なるほど、それじゃボク達はアレでいこう。


「ロエル、作戦なんだけどさ……」


「次々行こう。もう半分以上は消化したはずだからね。

夜も遅いし、そろそろ解散して明日の最終試験に備えよう」

「ボク達がやる!」

「む、君は確か魔王軍襲撃の際に大活躍だった……うん、なるほど」


 さっき撃たれたばかりなのにローレルは何事もなかったかのように、ボク達の前に立った。竪琴を構えて、始まりと同時に奏でる準備も整っている。ボク達は打ち合わせ通り、あの手で行く事にした。


「さぁ、かかってきなさい!」


【ローレルは不気味な音色を奏でた!】

【ロエルはスピードフォースを唱えた! リュアの素早さが上がった!】


 呑気に竪琴をいじっている暇なんかないはずだ。ゆっくりとその指が動き始めた時には、ボクはすでに行動を開始していた。


【リュアはソニックスピアを放った!】

【リュアはソニックスピアを放った!】

【リュアはソニックスピアを放った!】

【リュアはソニックスピアを放った!】


 ボクが放った4本のソニックスピアは両手、両足首に命中した。極限まで細くしたソニックスピアはそれぞれの部位を貫通して消えていく。4箇所同時に射抜き、時間差で血が吹き出る。普通の人にはいきなり、ローレルの手足から血が吹き出たようにしか見えないはず。その証拠にギャラリーはもう終わった事にすら気づかないで、息を呑んで見ていた。

 これはロエルのスピードフォースのおかげで連発が可能になったからこそ出来た事だ。ソニックリッパーと違ってこっちはまだ連発が出来ない。一発の威力を重視した分、隙も大きいという欠点もあるからロエルのスピードフォースはこの上なくありがたかった。


「ぐッ!」

「あ、いけない。やりすぎたかも……」


 両足の支えを失ったローレルは膝を強く地面に打ちつけてうつ伏せになって倒れた。出血量が大変な事になっていたのですぐにロエルがヒールをかけに駆けつける。


「あの、大丈夫ですか? うちのリュアちゃんがやりすぎたみたいで……」

「うちのってなにさ、ボクは犬じゃないよ」

「う、うぅ…? な、なんだ、傷が……そうか。治してくれたのかな?」


 かなり混乱しているみたいだ。座り込んだまま、手足を何度も確認している。


「ローレルさん、ボク達の点数は?」

「点数? あ、あぁそうか。そうだったね……

正直いって私は自分が何をされたのかまったくわからなかった。ただ一つわかるのは、素早さ強化によって君が視認不可能な速度で私を攻撃した事。それだけだ」


 別に素早さ強化魔法がなくても、この人が視認できない速度で攻撃できる。なんて突っ込んでもしょうがないので黙って聞いておく。


「美しさよりも何よりも必要な強さ。100点満点だ」

「やったぁ! ロエル、ばっちりだね!」

「うん! 私達ばっちりぴったしだねっ!」


 手を繋いで回りたくなるほどうれしかった。満点なら間違いなく第三次試験通過だ。回ってる最中、歯軋りして悔しがるフォーマスが視界の端に写った。歯茎までむき出しにして、すごい形相だ。それをブリクナとタターカが肩を抱いたりなんかして、なだめようとしている。前に馬鹿にしたロエルに追い越されて、よっぽど腹が立ったんだろうか。


「なんで合格? 俺、何も見えなかったんだが……もしかしてローレルが大した事なかったんじゃないのか?」

「彼は前衛で戦うクラスじゃないしなぁ。それなのにこんな試験にした事自体がナンセンスだよ」

「あの血が噴出したのが怪しい……作り物じゃないのか」


 ローレルが弱かった、何が起こったんだ、そんな声ばかり聴こえてくる。この人達に褒めてほしくてやったわけじゃないけど、やっぱりこういうのは気分が悪い。


「残りもさっさとかかってこようか。何なら、全員来るかい?」


 投げやりになったかのようなローレルの挑発とも思える発言。でもローレルは実際に残りの数十人を同時に相手した。結果は見るも無惨でほぼ全員が20点以下だった。ローレルは竪琴に頼らない戦いも出来て、全員の武器や魔法をすべて最小限の動きでかわしていた。ユユと同じように高レベル者の威厳を見せ付けたみたいで、受験者の心を徹底的にへし折った。

 フォーマスのように奇襲じみた方法でも合格だ。力こそが冒険者、今回の試験そのものがローレルの無言のメッセージかもしれない。


合格者 20人 不合格者 88人


◆ アバンガルド城下町 ホテル メイゾン 廊下 ◆


 結局、最終試験の内容は一切説明されなかった。明日、冒険者ギルドに集合すればいいらしいけど、一体最後は何をやるんだろう。またミストビレッジみたいなダンジョンに行かされるんだろうか。


「クッタクタに疲れたねぇ、お部屋に戻ったらすぐ寝ちゃいそう。でもシャワーは浴びないとね!」

「えー、面倒だなぁ。ボクはそのまま寝るよ」

「ダメ! 女の子なんだから少しは身だしなみとかそういうの気にしなさい!」

「奈落の洞窟にいた頃なんか、水場がなかったらずっと入らなかったよ」

「お不潔!」


 なんて意味のないやり取りをしながら歩いていると、部屋の前の壁を背にして誰かがもたれかかっていた。黒いシャツ一枚というラフな格好で待ち構えていたのはフォーマスだった。


「よう、遅かったな」

「食事してたんだよ……というかなんでお前がここにいるのさ」

「ここの最上階のロイヤルスイーツに部屋をとっている。俺様のようなエリートたるもの、そのくらいの嗜みは当たり前さ。金には困ってないんでね」

「聞いてないよ、なんでボク達の部屋を知っているのさ」

「金貨を数枚握らせて手に入らない情報なんかほとんどない。覚えておくんだな」


 何故だか自信に満ち溢れた表情のフォーマス。ロエルはもうこいつを克服したのか、ボクと並んで立っている。

 もしかして誰かがこいつの金に目がくらんでボク達の部屋をばらしたのか。ひどい話だ。たったそれだけの為に金貨を数枚だなんて、お金持ち以前に普通じゃない。


「俺は生まれてこの方、物欲に困った事はない。親父に頼めば何でも手に入るし、女だってそうだ。今じゃ30人以上の女がいるが、誰一人として不自由させていない。ほしけりゃ何だって買ってやる、だから何でも言う事を聞く。俺に従っている限りは一生食う事にも困らない。俺も自分のものに対しては金の糸目をつけない。この着ているシャツは安物の20万ゴールドだがね」


 フォーマスは蛇のような視線をボク達に向けた。だからどうしたとしか言いようがないので、無視して通りすぎようとした。


「リュアとかいったな。お前、俺の女になれ」


 オマエ、オレノオンナニナレ。何だろう、別に疲れてるわけじゃないのによくわからない言葉が聴こえてきた。後でロエルに意味を聞いてみよう。

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