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第43話 団結 その2

鳥に乗った全身タイツに向かってボクは跳躍した。

さすがにぎょっとしてたけど、そいつを乗せている怪鳥は

悠々と旋回してボクをかわした。


「驚いたなキミィ……どんな身体能力だい。

 けど後はもう着地するしかないだろ?」


「おまえの仲間は一人倒した! 次はおまえだぁぁ……」


ボクの声は恐らく、落下に伴って小さくなっていった事だと思う。

バルツの言う通り、着地するしかなかった。

そしてその先には半身が竜の魔物に踏みつけられている

セイゲルがいた。

鎧を砕かれて、地面に流れ出ている血の量が

かなり多い。このまま放っておくと死んでしまう。


「あなた、今なんていったのぉ?

 そういえばヴィトちゃんの姿が見えないけど……」


「そいつはボクが倒した! それよりその足をどけろッ!」


「倒した……? ウソ……」


空にいるバルツと半身竜は強張った表情で周りを見渡した。

そしてヴィトの姿を確認できないとなると、怒りと悲しみを

ボクにぶつけてくる。


「ウソよ! あのヴィトちゃんがあんたなんかにぃ!」


「マジでやりやがったのか……

 あのヴィトが? いや、油断したに違いない!

 そうに決まってる!」


半身竜と地上に降り立ってきたバルツがボクを囲むようにして

逃げ道を塞いだ。逃げるつもりなんかないけど。

半身竜は鱗に覆われた手で顔を覆い、涙を流し始めた。


「ごめんね、ヴィトちゃん……

 チルチルが至らないばっかりに……待っててね。

 今すぐにこの糞ガキをぶち殺すからぁ!」


半身どころか全身が鱗に覆われていよいよ本性を表した。

竜の翼が生え、体が二倍、三倍と巨大になっていく。

コロシアムの三分の一を占めそうなサイズにまでなり

周りで戦っていた兵士やAランクの人達がその爪足を

慌てて回避した。


「な、なんだあれは!

 あんな竜が一体どこから……」


事情を知らない兵士の一人が叫んだ。

この乱戦の中で生き残ってるのは本当にすごい。

あのカークトンという隊長の指示がいいのだろうか。

すでに王様はどこかへ隠れたみたいで、カークトンは自由に

部隊を指揮している。


「おい、チルチル! その姿で暴れるんじゃない!

 こっちまで巻き添えになるだろうが!」


「もう無理よぉ、だってブチ切れちゃったもん。

 それに、あなたの機動力だったら逃げられるでしょ」


竜の姿になっても気持ち悪い喋り方は変わらない。

黒い鱗が光るチルチル、いやチルチルドラゴンはその尻尾を

振れば辺りにいる人間を蹴散らせそうなほど大きい。

さっきのヴィトよりはすごく強そうだ、でもボクはそれ以上の

感想を抱かなかった。


「ウフフ、十二将魔でも三指に入るといわれたこのチルチルが

 本気を出しちゃったわぁん。というわけでぇ。

 この国、今から消すわねぇん」


「おい、リュア……こいつを使え」


瀕死のセイゲルが自分の剣をボクに渡そうとしてる。

早く治療しないと死んでしまう。

でもボクが回復魔法を使えない、誰かに頼むしかないけど

それにはまず、この竜をどうにかしないと。

ボクはセイゲルに近づいてその剣を受け取った。


「ドラゴンに特効の上質な剣だ……

 オレじゃあのオカマ野郎にかすり傷を負わせるのが

 関の山だったけどな……けど、武器は扱う者次第で化ける。

 おまえならやれるさ……」


セイゲルからもらった、この大剣であいつを倒す。

そいつは長い首をこっちに向けて、笑った。


「あらぁ、なぁにそれ?

 もしかしてセイゲルちゃんの武器?

 ダメダメ! そんなナマクラじゃぜんっぜんダメ!」


【闇鋼の黒竜チルチル が現れた! HP 28200】


「おまえ達は仲間が死んだら悲しむのに平気で人は殺すんだね」


「あら、誰だってそうでしょ?

 あ、そうかぁ。あなたは何も知らないものねぇ……」


教えてくれる気はないのか、チルチルは大きく息を吸い込んだ。

多分ブレスだ、周りの人達が危ない。

こういう相手にはボクは必ずこうしてきた。

バルツに向かっていった時と同じようにボクはジャンプして

チルチルの頭を踏みつけた。

予想通りブレスが吐き出される事はなく、竜の口の中で

盛大に爆発した。


【闇鋼の黒竜チルチルに 412 のダメージを与えた!

 HP 27788/28200】


「ん、んふぅぅぅぅ!」


鼻からもわずかに火を出して情けなく悶える竜。

でもこいつは自分のブレスでダメージを受けただけだから

そこまでの致命傷にはなってないはずだ。

そう、致命傷を与えるにはこれしかない。


「ごのぉぉぉジャリガキがぁぁぁぁぁぁ!」


竜の頭を踏みつけて更に上空にいるボクに狙いをつけて

ブレスを吐き出した。竜の口から放射状になって

吐き出される灼熱の炎。

これがコロシアムで吐き出されていたら、もっと多くの人が

犠牲になっていたと思う。

それどころか、この熱さだとコロシアムだけじゃなく

外にある家々も溶かしかねない。

まともにそれを受けたボクを見て、止めを刺したと思って

安心したのか、チルチル竜はくいっと頭を地上にいる

人間に向けた。


「ボクはまだここにいるよ?」


「なに……。な、なぜぇ?!」


ボクの声に反応してまた首を上げた時にはすでに遅かった。

上空から落ちると共に竜を一刀両断してまもなく決着がついた。


【闇鋼の黒竜チルチル に 347332 のダメージを与えた!

 闇鋼の黒竜チルチル を倒した! HP 0/28200】


「そん…ナ……」


真っ二つになりながらも、かろうじて何かを言おうとした竜。

でもボクはそこで重大な事に気づいた。

このままだと二つになった竜の体が倒れて被害が出る。

これじゃダメだ、ボクは慌てて竜の巨体を細切れにしてから

炎魔法で焼き尽くした。

魔法はあまり得意じゃないけど、すでに死んだ竜の体くらいなら

灰に出来る。


「ヘヘ……リュア、よくやった……」


瀕死ながらもセイゲルがボクを称えてくれる。

そして近くで呆気にとられていたバルツがわなわなと震えていた。


「ありえん……チルチルは十ニ将魔の中でも上位に入るんだぞ…

 あ、あ、あの子供……あんなのがいるなんて聞いてない…

 "ネクロマンサー"の奴は一体何を下調べしていたんだ!

 大会で遊んでいたのか?!」


「虫も竜も倒したよ。後はおまえだけだ」


後ろにいるボクが声をかけるとバルツが慌てて振り向く。

バルツは怪鳥に乗るとまた上空へ飛び立った。


「クソッ! 他はどうなっている!」


空から周りを見渡すバルツ。

コロシアム内の魔物は大分減っていた。

ボクがボスの二人を倒したからかわからないけど、竜や虫達は

最初の時ほどの凶暴さは消えて、Aランクの人達に次々と

倒されている。

それでも兵士の人達から死者は出ていた。

目立たないところで治療を受けている人もいたけど手遅れなのか

布を被せられている人もいる。

再びボクの中で湧き上がる感情。

あの鳥男は空に逃げて安心したのか、また高笑いをして鳥達に

地上を襲わせ始めた。


「ここまでのようだ!

 こうなったら出来る限り、王国の戦力を削いでやる!

 後は頼んだぞ、ハァッハッハッハッ!」


手下の鳥達を置いてそこから逃げ去ろうとしていた。


――誰が逃がすか。


コロシアムの観客席、そして壁の一番上からボクは思いっきり

飛んだ。逃げ切れると思っていたバルツの乗る怪鳥の上に

着地したボク。驚きを隠せずに、呻くような声を漏らしたバルツ。


「ば、化け物か、ガキ……」


「化け物はおまえ達のほうだ」


「そ、そうだ。いい事を思いついたぞ。

 新生魔王軍に入らないか?

 キミは恐らく何も知らないだろう。

 知れば絶対にキミの気は変わる」


「殺された人達は帰ってこない!」


「どうしても入る気はないのか……」


「ない!」


ボクにその気がないと判断した次の瞬間、バルツのタイツが破けて

そこから羽毛がはみ出た。タイツについていた偽の羽じゃなくて

今度は本物の羽が生える。

そして本物の鳥人間になったバルツは乗っていた怪鳥から離れて

自分の羽で空を飛んだ。


「考えてみりゃ、空も飛べない奴に空中戦で負けるわきゃねぇぇ!」


【制空を握りし鳥王バルツ が現れた! HP 17900】

【デモンガルーダ が現れた! HP 5700】


「デモンガルーダ! まずはそいつを振り落とせ!」


ボクを背に乗せたデモンガルーダが暴れ出した。

振り落とそうと回転したり、左や右に旋回されてボクは

落とされないようにするのがやっとだった。

背中の毛を掴んで意地でも離さないボクを見てバルツは

優越感たっぷりに笑う。


「キミがどんだけ強かろうとここは空だ!

 キミは飛べない! 落ちりゃおまえは死ぬ!

 空を飛べるっていいだろぉ? 子供の頃、憧れたもんさ!

 山で迷った時なんか、鳥を眺めては空を飛べればすぐに

 帰れるのに、なんて思ったりな!」


確かにこのままじゃあいつに近づけないどころかいつか

振り落とされる。奈落の洞窟では味わえなかったスリルが

ボクを飲み込んだ。

馬鹿笑いしてるあいつはもう勝ったと思ってる。

さっきまで情けない声を出していた奴とは思えない。


「あわわわ! お、落ちる落ちる! わぁっ!」


「制空権はこのバルツにある!

 バードマンと呼んでいいぞ! 呼べ! ハハハハッ!」


まともに戦えばなんてことのない奴のはず。

さっきの虫の奴と大差ない。

そう、ボクは負けを認めたつもりはない。


「さて、手加減をするつもりはない!

 くらえっ!」


【制空を握りし鳥王バルツ は メガソニックウェーブ を放った!】


デモンガルーダにしがみつくしかないボクにそれをかわす手段は

なかった。いや、ない事もないけどなんか腹立ってきたので

ここはあえて当たってやる。


【リュア に 86 のダメージを与えた! HP 40936/41022】


「いったぁ……危うくロエルのお下がりが切られるところだった…」


本当に危なかった。傷口からうっすらと血が流れている。

あとでロエルに回復してもらおう。

傷と服の心配ばかりをしているボクを見て震えるバルツ。

手加減しないといったのは本当だったのか。


「ま、まともに直撃すればAランクですら全身が細切れに

 切断されるはず……メ、メガソニックウェーブが……

 こんなはずじゃない……本当は今日でアバンガルド王国は

 終わるはずだったんだ……

 せっかくマスターナイトを封じたってのにこれじゃ……」


「まだ諦めないなら、今度はボクの番だよ」


「ほざけッ! その状況で何ができる!」


振り回されながらボクは集中した。

そしてそこだと思うタイミングで片手の剣を振る。


【リュア は ソニックリッパー を放った!

 制空を握りし鳥王バルツ に 359913 のダメージを与えた!

 制空を握りし鳥王バルツ を倒した! HP 0/17900】


かろうじて直撃は避けたみたいだけど、致命傷というには

十分だった。羽ばたいていた翼もすぐに動きを止めて鳥男は

地上に落ちていく。


「我ら……悲願……が……」


落ちた先はコロシアムだろうか。もし下に誰かがいたら大変だ。

ボクも下に……


奇声を上げた怪鳥の動きが不意にまた激しくなった。

主人がいなくなってもボクを振り落とせという命令に従っていた。

落ちたバルツに気をとられていたボクはあっさり振り落とされて

しまった。


「わぁぁぁぁぁぁぁ! どどどどどうしよう!

 ……そうだっ」


地上が見えてきた時にボクは下に向けてありったけの魔法を

放った。地上ではなく、その場に打てば下に被害が及ばない。


「ライトニングボルトッ!」


狙い通り、地上に激突する前に反動でボクの体はふわりと

浮いた。一度殺された落下速度はこれで緩やかになるはず。


「っと……」


うまく着地できた。と、安心している暇はなかった。

向こうで真っ二つになったはずのバルツがまだ動いている。

ボクが近づくと、弱々しい声で語りかけてきた。


「助け……てくれ……見逃して……」


その姿はまさに鳥人間だった、体の半分は人間に戻ってる。

直撃ではないけどほぼ当たっていたはず。

なんで生きていられるんだろう、すごい生命力だ。


「助けて……く……れ」


止めを刺したほうがいいのだろうか。

でも頭ではわかっていても、手が動かない。

黙って見下ろしているだけで時間が過ぎていく。


「もう……手……出さない……やくそ…く……」


虫のいい事をいっているのはわかる。

でも、ダメだ。どうしてもこいつを殺せない。


――人間に戻っているから?


――ボクが甘いから?


答えは出ている。

でも、それでも何も出来ない。

そうしているうちに手が震えてきた。


「頼む……」


今にも消えそうな声を聞いているうちにボクは無意識に

回復薬をそいつに飲ませていた。

握っていた剣を落としてまで。


「あ、ありが……とう……」


「もうこんな事しないって約束するよね?」


「キミは……優しくて……強くて……。

 そして甘い……」


翼を羽ばたかせようとするが思うように起き上がれない。

さっきまでボクを殺そうとしてきた奴とは思えないほど

今のバルツからは何も感じられない。


「キミならきっと……」


バルツの喉が斬られ、鮮血の噴水が出来た。

叫び声もあげられないまま、バルツは絶命した。

透明から少しずつピンクが浮き出て、人を形作る。

出てきたのはシンブだった。


「これで敵の司令塔はほぼ壊滅っしょ。

 お手柄、お手柄」


ボクを逆手で指して、もう片方の手をヒラヒラとさせる。

何かいると気づいた時には遅かった。

というより、ボクのほうにバルツを助ける気がなかっただけ

なのかもしれない。

グルンドムの時みたいに助けられなかった。

いや、助けなかった。

やっぱりそれが正解か。

命を救ったものの、ボクの中でバルツを許してなかった。

それだけの話だ、でも何かやりきれない。

理由はやっぱりこいつが嫌いだからだ。


「ん、どうしたっしょ、ぼーっとして。

 おや? こいつ、回復薬を口にしているっしょ。

 こんなものを律儀に持っているような連中には

 見えないが……はて?」


わざとらしくボクをチラチラと見ながらわからない振りを

している。


「なんだよ……」


「ま、不問にしてやるっしょ。

 それより、もういい加減に終わらせるから少し離れてろっしょ」


「終わらせるって? おまえが?」


今度はボクが馬鹿にしたように笑ってみせた。

でもシンブは無視して、周りを見渡している。


「ほとんどがAランクのお手柄……王国の兵士はダメっしょ。

 半分以上が善戦できずに死ぬか負傷。

 これでよく国を守るなんていえたものっしょ」


両手を逆手にして周囲を指してから、今度はその手を合わせた。

シンブの体からもう一つのシンブが出てきた。

更にそのシンブからもう一つのシンブが


「百分身」


百人になったシンブがコロシアム内に残っている魔物に

一斉に襲いかかった。同じ人間が百人もいる光景は不気味としか

いいようがなくて、ましてや嫌いなシンブだからこそ

余計に見たくなくなる。


でもその活躍は決して馬鹿には出来ないものだった。

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