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第36話 アバンガルド闘技大会 その4

闘技大会二日目、決勝トーナメント。

予選の時とは比べものにならない賑わいだった。

城門、城からコロシアムへの通路、どこもかしこも人で溢れかえっていてまともに歩けない。

押されてもみくちゃにされながら、ようやくボクは選手用の控え室に辿り着いた。

ロエルは無事に観客席にいけただろうか。

控え室にはすでに決勝トーナメントに残った人達がいた。

ニッカもいるしヘカトンもいる。

でもティフェリアさんはまだいない。

もしかして寝坊だろうか……

入ってくるなりボクに話しかけてくたのは鎧を着た裸同然の女の人だった。


「あんたがリュアかい?」

「そ、そうだけど」

「その歳で決勝トーナメントに残るなんざ、やるじゃないか。

 あたいはアマネ、Aランク冒険者にしてギルド"女豹団"の

 マスターさ」


冒険者ギルドが冒険者全体の組合というようにパーティを組織として立ち上げている集団がいるらしい。普通のパーティと同じだけど、戦利品なんかは組織のものとして管理されて旅の資金になるとかなんとか。キゼル渓谷の時にセイゲルが暇つぶしに話してくれた。聞いた限りではめんどくさそう。


「あたいは強い女は大好きさ。もしよかったら、女豹団にくるかい?

 いつでも歓迎するよ」

「あ、ありがと、でもボク……」

「いいさ、気が向いたら、でね」


Aランクの人達がヘカトンみたいな嫌な雰囲気の人ばかりじゃないとわかって少し安心した。こういう人もいるんだ。


「ケッ、男に使い捨てられた奴らの集まりがよ……」

「あぁ?! なんかいったかい!」


その先には長い前髪が片目にかかった暗い雰囲気の男の人がいた。鞘に納まった剣を大事そうに撫でている。


「知ってるぜ。

 パーティ内や旅の途中でヤられた、もしくは過去にそういったなんらかのトラウマがある女ばかりなんだろ? 要するに負け犬の集まりってことだ」

「あんた、大会前に重傷負うかい?」


さっきまで優しい顔だったアマネが今は怒りで別人みたいな顔に

なってる。血管が浮き出て、そのたくましい体が膨れ上がって

女の人とは思えないほどだ。やられた、トラウマ……どういうことだろう。

パーティを組んでいた仲間に裏切られたってこと?

「あんた、クイードっていったね。

 女だからってAランクをナメてると痛い目にあうよ」

「そういや、オレも昔やったなぁ。

 世間知らずの馬鹿女がひょこひょことパーティを組んでくれっていってきたから、思わずやっちまったよ。あいつあの後どうなったっけか……ゲラゲラゲラ」


クイードの挑発にアマネが今にも襲い掛かろうとした時ニッカが二人の間に入って遮った。


「ここで揉め事を起こしたら両方失格になるよ? 決着をつけたいなら大会で、ね」


ウインクして二人をなだめるニッカ。

興奮が収まらないアマネはまだクイードを睨みつけている。

馬鹿にしたように笑い、クイードのほうから先に席へと戻っていった。そしてまた剣の鞘を撫で始める。

アマネも興奮気味でどっしりとその場に腰を下ろした。

クイードは負け犬なんていったけど、負けても立ち上がって挑み続けるなら負け犬じゃない。

ボクだって何度、負けた事か。

一度負けただけで馬鹿にするなら、ボクがおまえを負かしてやる。


「ウフフフ、まぁだ、まだだ。もうすぐ血が吸えるからねぇ」


撫で続けながら何かブツブツいってて気持ち悪かったので

それ以上クイードを見るのをやめた。


「やぁやぁ、遅れてすみません。

 ちょっとセットに1時間くらいかかっちゃって……」


王冠みたいなものを被って豪華なローブを羽織った人が

爽やかに登場した。髪の先がくるんと巻かれていて思わずそこにエンピツか何かを差し込みたくなる、変な髪形だ。


「スカイクラウンか……。星魔法のスペシャリストと聞くが一対一の決闘では恐らく役に立たんな」


ヘカトンがいきなり嫌味を言い放つ。

何か言い返すかと思えばスカイクラウンの人は大声で

笑ってごまかしただけだった。


「そうかもしれないね!

 でも努力は人を輝かせるんだよ! そう、あの星のように!」


天井があるだけで星なんて見えない。

そんなところを指さしてスカイクラウンの人は一人で爽やかに何かを満足している。


「フン、カスが……」


ヘカトンが大きな体を揺すって立ち上がり、試合会場へと

向かおうとした時、兵士の人が入ってきた。


「これより開会式が始まる!

 各自、私についてきてくれ!」


開会式?

なんだろう、試合をするんじゃないのかな。

未だ現れないティフェリアさんを置いて開会式が始まった。


///


予選の時にあった複数の試合場はなくなっていて、代わりに真ん中に大きな試合場があった。丸い形をしていてそれを取り囲むように観客席がある。

ロエルもあの中にいるんだろうか。

予選でのFブロックは観客席のすぐ近くにあったけど今度は人の多さもあってまったくわからない。

そしてこの熱気、人の多さと太陽のせいで暑い。


「これより開会式を始める!

 まずは選手入場!」


入り口に待機させられていたボク達が並んでコロシアムに入る。

予選の時とは比べ物にならない数の観客が一斉に歓声を上げた。


「それでは僭越ながら私が本大会の司会をやらせていただきます!

 カシアといいます! では早速!

 Aブロックを制したのは、その槌で対戦相手の夢や希望も

 打ち砕いてきたクラッシャー! ヘカトン!」


歓声に応えるかのように片手を上げるヘカトン。


「人殺しがなんでまた出場してんだよ! 馬鹿かこの大会!」


「死ねー!」


と思ったら、罵倒が結構混じってた。

そういえば去年の大会で人を殺して失格になったってリッタがいってたっけ。殺したのはやっぱりわざとなんだろうか……


「えー、つ、続いてBブロックからはなんとCランクからの下克上! Aランクの強豪をものともせずその拳で沈めたワンパンガール! ぶっとびリュア!」


なんだろう、すごくむず痒い。

解説してる人がノリノリなのもある。

ワンパンって。確かに剣は使わなかったけど……


「アッハハハハハ! ワ、ワンパンガールだって!」

「わ、笑わないでよ! か、かっこいいでしょ」


どこからか、笑うシンシアとフォローするロエルの声が聴こえた気がした。

ボクはただひたすらうつむいて入場するしかなかった。

とても恥ずかしくて顔をあげられない。


「Cブロックから流れ落ちて瞬く間に強豪を蹴散らしたのはAランク流星、ニッカ!」

「期待してるぞー!」


そこそこの応援があった。当のニッカもなぜかヘコヘコしながら入場している。気の弱い人なんだと思った。


「続いては百の帝王の頂点に君臨するとまで言わしめた女傑!

 Dブロックの男達を恐怖のどん底に叩き落したのは

 Aランクの百帝女傑アマネェェェェェェ!」


「アマネさーーーーん! 男なんかに負けないで!」

「アマネちゃんのかわいさがわかってない奴は素人!」

「アマネちゃんに軽蔑された目で睨まれた上に唾を

 吐きかけられて、なさけないねっ!っていわれてぇぇぇ!」


男からも女からもすごい人気だ。

でも、なんかおかしい人達がいるのは気のせいだろうか。

そんな人達にもアマネさんは手を振ってる。心の広い人だ。


「Eブロックからは本大会もう一人のダークホース!

 その一閃の後には決着の文字しか残らない!

 Bランクのニヒル、クイード!」

「期待してるぞーー! オレ、ファンになってやるからなー!」

「なんかきもーい」


罵声が聴こえたけど、そこそこの反応だ。

さっきの態度からしてよっぽど自信があるんだろうか。

少し気になる。


「そして、遥々Fブロック星からやってきたのは王族の風格を漂わせる王冠が光る、数少ない星魔法の使い手スタークラウン、ルピーだぁぁぁぁぁぁ!」

「今日はたくさんの星が輝いているね。

 あそこにも、ここにも」

「キャーーーー! 王子様こっち向いてーーーーー!」


女の人にすごい人気だ。王子様って。

ルピーは万歳しながら回転しつつ、応援に応えてる。

と思ったら、その手からキラキラと光る星が観客席に届いた。


「これは今日の幸せ、私からのプレゼントさ。

 そして明日の幸せは君達の手で掴むんだ、その星を掴むかのごとく」

「アタシ、もうダメぇぇぇ……」


あまりのうれしさに気絶した人がいるみたい。ダメだ、全然ついていけない。ボクの勉強不足だろうか。


「そしてGブロックからは……えー、あれ?」


そういえばティフェリアさんがまだ来てない。

あれだけノリノリだった兵士の人も戸惑ってる。


「ごめんなさいねぇ、寝坊しちゃって……はぁ」


トテトテと小走りで会場に入ってくるティフェリアさん。

その口にはパンをくわえている。

よくわからないけど、本当にこんな事する人はティフェリアさんくらいだと思う。


「え、えー! Hブロックからはアバンガルド王国が誇る

 最強の騎士!

 その名の通り、すべてを極めたマスターナイト!

 その一振りで財政が傾くと言わしめるティフェリアちゃんだ!」

「きたぁぁぁぁぁぁぁ! あのパンくいてぇぇぇぇぇ!」

「私、女だけどティフェリアさんになら抱かれたい!」


今までとは段違いの声援だ。

空気と地面が同時に震えたような気さえする。

それほどまでに会場全体が彼女一人に声援が注がれていた。


「ケッ、うるせぇゴミどもが……」


面白くないのか、ヘカトンが悪態をついた。

というよりも早く戦いたくてうずうずしてる、そんな感じだ。


「最後にGブロックからは……えー……謎の男、イノロ!」


会場全体が一気に盛り下がった。

控え室にいたのかさえ気づかなかった、その人は顔全体に

黒い布のようなものを巻いている。

そして黒いローブ、全身が黒でなんだか異様だ。

誰一人、声援を送らなかった。


「あんなの予選にいたか?」


「いたけど、なんか普通だったな。魔法を使う事くらいしか特徴がない……」

「それでは国王陛下より、お言葉がある! 静粛に!」


王様がいよいよ出てくるのか。

あの観客席よりも高いところに兵士の人が二人立っている。

そして厳しい顔をした知らないおじいさんが一人。

その真ん中に豪華な椅子があるけど、まだ誰も座ってない。

少し経って椅子の奥から誰か出てきた。

茶色の髪を綺麗に整えて後ろにまとめている。

頭にはルピーが被っているのと同じ王冠、厚そうなローブを羽織っていて、そのおじさんはゆっくりと座った。

会場内が一気に静かになった。

よっぽど何か面白い事でも話すんだろうか。


「アバンガルド建国から四百年余り。

それから毎年開催された今大会。

目的は言わずもがな、前途ある戦士の切磋琢磨する機会及び国の担い手の選出である。我が国は他国ほどの技術もなく、作物に関してもほとんどが輸入に頼っているのが現状だ。

そこでただ一つ、秀でる為には"力"の育成が事欠かせない。

今や冒険者時代、彼らがもたらす益は馬鹿にならない。

冒険者の育成、即ち力の育成によってそれはより増進されるものとなろう。冒険者諸君、そうでない者もいるであろうが私はここに残った8人を誇りに思う。

そなた達こそが国益をもたらすものとして、おおいに期待しよう。

会場に集まった者達は彼らの奮闘をしかと焼きつけ……」


なんだか眠くなってきた。

朝早かったからなぁ……それにしてもいつまで続くんだろう。

早く始まらないかな。


――王様のお喋りが心地よくなってきた。


///


「外の世界ってどんなところだろう?」


ボクはいつも外の世界の事を考えていた。

そしてその話相手はいつもクリンカ。

クリンカは静かで大人しい。

ボクはクリンカが大好きだ。


「リュアちゃんが冒険者になったらわたしは何になろうかなぁ」


「何って?」


「冒険者はね、クラスっていってね。

 剣もって戦う人と魔法を使う人がいるんだって」


「へー、じゃあボクはどうしようかなぁ」


「リュアちゃんは魔法苦手そう」


クスクスと笑うクリンカ。

じゃあボクは剣で戦ったほうがいいのかなぁ。


――燃える家。

うずくまって頭を抱えるお父さんとお母さん。

すごく苦しそう。

ぼくに逃げてと叫ぶ二人。

駆け寄っても突き飛ばされちゃう。

逃げて、逃げて、それしか言わない。

どうして?


外に逃げると怪物が村を壊していた。

クリンカは、クリンカはどこだろう。

今日遊ぶ約束していたのに。

どこを探しても見つからない。


遠くに何か見える。

燃える炎がめらめらしている中、あいつが立っている。

黒い悪魔。

羽が片方しかない。


あいつがゆっくりとこちらを向いた。

あいつは、そうか……あいつは――


そこから逃げろ!


誰かが叫んだ。


逃げるボク。


振り向くと誰かが悪魔に貫かれていた。


深い森の中をひたすら走る。


襲いかかる魔物。


その爪がボクを引き裂こうとした時――


///


「……である。以来、我が国は」


「ぐーー……すー……」


誰かに揺さぶられてようやく起きた。

どうやら寝てしまったらしい。隣に座ってるアマネが気まずそうに顎でくいくいと王様をさしている。王様が上からボクを見ていた。


「ご、ごめんなさい」


ボーっとした頭ではそれを言うのが精一杯だった。

王様は小さく溜息をついた後、話を続けた。


「……以上! 諸君の健闘を祈る!

 今、ここで第402回アバンガルド闘技大会本戦開幕を宣言する!」


観客が一斉に沸いた。ようやく始まった。


一息ついてから立ち上がると、王様がまだボクを見ていた。

何をいうわけでもなく、ただ見つめられているだけなのでボクはアハハとごまかすのが関の山だった。フンだ、ボクは難しい話は苦手なんだ。

今日は戦いで王様を見返してやろう。

そう決心した。

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