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第350話 後日談 今、一番望むもの

◆ カシラム国 ハンターネスト ◆


「いいか、2人とも。お前らは結婚したんだよな? だったらそれを知るのも一つの試練だ。これから長いこと付き合い続けると、ケンカだってするだろう……問題は山積みだ。それなのに、その程度の事すら調べられずにどうするんだ?」

「えぇー……じゃあセイゲルさんはもちろん知ってるんだよね?」

「当たり前だ。女の子の部屋で大体、おっと。ナイショ」


「女の子の部屋で……にゃん?」


 ボク達は必死に飛び回っている。まずお父さんとお母さんに聞いても、それは幸せが運んでくるとかよくわからない事を言われた。その為に愛を育めとか、今でも十分やっている。村の誰に聞いても知らないだの、忙しいからとか言って逃げられる。

 だから次に詳しそうなセイゲルさんに聞いたのに、この反応だ。確かに結婚というのはメリアさんも言うように、一生の問題にして愛の究極形だと思う。でも肝心な事がわからないんじゃ、一生そのものが台無しになっちゃう。


「オレも教えてやりたいのは山々だが、それじゃお前らの為にならない。教えるのは簡単さ。だけど自分の力で身に着けたものってのは、血肉にさえなる。お前だってそれはわかるだろ?」

「うん……戦いの経験も積み重ねだし……」

「そう、お前は戦いは得意かもしれない。だが、これからはそれだけじゃダメだ。戦い以外でもとにかく考えろ、足を動かせ。そうすればもっと人として成長できるはずだ」

「なるほど……セイゲルさんの言う通りだよ。ボク達、甘かった」

「わかってくれたか。それじゃオレ達はこれから、ドラゴンズバレーに行く。じゃあな」


 足早にいなくなったのがちょっと変だけど、かなり納得できた。ああみえてセイゲルさんはボク達よりも大人だし、考えだってしっかりしている。こうして戦い以外でも学べる事が多いのはとても幸せだと思う。


「どうしよう、リュアちゃん。見当もつかないよ……」

「挫けちゃダメだ。セイゲルさんが言うように、とにかく足を動かそう」

「といっても飛ぶのは私なんだけどねぇ……」


 ここからだとカシラム王都が近い。ハンスさんやバルバス、ニース。王様辺りなら知ってるかな。でも人に聞いたら意味ないんだっけ。それじゃ本当にどうしようもない。


「あれってリュアにクリンカじゃないか……? まさかドラゴン狩りに来たのか?」

「冗談じゃないぞ。あんなのに来られたら、ドラゴンが絶滅危惧種になっちまう」


「行こう、クリンカ。絶滅させたくなる前に」


 どこへ行っても指をさされてすぐに騒ぎになっちゃう。前までは自分の実力が認められなくて面白くなかったけど、これはこれで面倒だ。新しい状況になると考えもしなかった悩みが出てくるし、これもセイゲルさんの言う試練なのかもしれない。


◆ カシラム王都 ハンスの家 ◆


 でも情報を人に聞いて集めるのは基本だ。こうなったら片っ端から当たってみよう。まずはハンスさんだ。


「んだぁ! ここは鍛冶屋だっつってんだろ! 下らねぇ質問に答えてやるサービスなんざねぇ!」

「じゃあ、仕事終わったらでいい?」

「夜も朝も立て込んでるんだよ!」


 確かにものすごい勢いで仕事に打ち込んでいる。汗もたっぷりと流しているし、邪魔をしちゃいけない。何でも瞬撃少女の武器を打ったという評判が広まって、ますます忙しくなったとか。かなりイライラしてるみたいだけどタターカの話では最近、かなり丸くなったみたい。やっぱり鍛冶師はその腕を認められると嬉しいんだ。


「ハッハッハッ、リュアよ! ハンスさんは大変お忙しい! よければこのグリイマンが質問に答えてやってもいいが?」

「なんでいやがるんだよ! てめぇの武器は昼過ぎだっつってんだろうがぁ!」

「いや、すでに昼過ぎなんだが……」

「まだこっちはメシ食ってねえんだよ! てめぇ基準で来やがってぇ! 正座しろやぁぁぁ!」

「もはやどうしろというのだ!」


 丸くなったのかな。そのままグリイマンさんを追いかけてどこかいっちゃったし、仕事溜まっちゃうよ。グリイマンさんもこんなところで調子に乗るからこうなる。でも出来れば教えてほしかった。


「タターカは知ってる? ……はどうすればいいのかわからないんだ」

「えっ……そ、それは。えぇと……」

「どうしたの? 顔、赤いよ?」

「すみません、少し疲れたみたいで。今日中にこれを終わらせないとお父さんに怒られちゃう……」

「そう、邪魔しちゃってごめんね」


 作業を始めたタターカの手がどこかぎこちない。まるで何かを忘れるかのようにハンマーで武器を叩いている。仕事熱心な子だなぁ。


◆ カシラム王宮 中庭 ◆


 今日もここでは激しい訓練が行われている。行われているはずなんだけど、皆してあぐらをかいて座り込んで目を閉じて黙ったままだ。バルバスやニース、獣人達も同じだった。あの王様も微動だにしない。


「……ハァッ!」

「うーん、まだ集中力が足りてない。あとイメージも固まってないな、これじゃファイアボールというより人魂だよ。すぐに消えちゃったし」

「む……これは難儀だな。まだまだ闘志が足りんという事か」

「それは一度忘れてって何度も言ったよな?」


 これはラーシュが王様に魔法を教えているのかな。他の人達もきっとそうだ。ファイアボールは基礎の基礎とはいうけど、この様子だとあまりいい結果は出ていなさそう。ボクも簡単な魔法なら少し使えるけど、ラーシュが言うような難しい事をした覚えがない。


「バルバス様、魔法というものがこれほどまでに難解なものとは思いませんでした」

「己の体一つで切り開いてきた獣人にとってはまさに未知よ……。あのエルメラがますます化け物に思えてならん」

「ま、難しいわよね。この私でさえ苦労したもの。初歩とはいっても、習得までにはまだまだ時間がかかると思うわよ」

「ルトナ、お前も調子に乗ってないで参加しろよ」


「出来たウホ!」


 ゴリラの獣人、ゴリタが結構立派なファイアボールを放って木の板に命中させていた。ウホウホと踊りながら喜ぶゴリタをバルバス達は何度も瞬きしながら見ている。


「ウホウッホ! バルバス様! 見てたウホ!」

「じょ、上出来だ。その調子で精進しろ」


「ゴリラァ……」


 教えているラーシュが一番驚いているのが面白い。ゴリタはボクよりも頭がよかったっけ。あれ、思い出しちゃいけない気がしてきた。


「リュアちゃん、あれからきちんと勉強して……ないよね」

「ごめん、本当に無理……」

「いいよ。あの時は私もついムキになっちゃったし。さすがにゴリラよりもバカなリュアちゃんは見たくなくて……」

「バカでごめん……」

「いいの、バカなところも含めてリュアちゃんなんだもの」

「クリンカ……!」


「あのさ、いちゃつくなら出ていってくれ……」


 ラーシュに見つかってしまった。もっともな言い分だし、反省しよう。だから、そんな目で見ないで。


「よく来た、2人とも。謁見などと堅苦しい物言いはせずに、堂々と入ってくればよい」

「そ、それはさすがに……」

「そうだぜ。オレなんて最初はみっちり敬語を覚えてきたのに、この王様はそんなの気にしないってさ」

「礼儀作法で己を塗り固めようが、私の評価は変わらん。そんなものよりも闘志だ」


「リュア……何か用があったんじゃ……」


 兵士達に優しく教えていたトルッポが見かねて、口を挟んでくれた。こんなにたくさんいる事だし、誰か一人くらいは教えてくれそう。


「……それはだな。2人とも」


 気のせいかな、場の空気が変わった。バルバスもニースも兵士達も、何か信じられないようなものでも見る目だ。トルッポに至っては俯いて、耳まで赤くなっている。タターカもそうだったし、ずっと教えていて疲れたのかな。


「ねーねー、そういえば私も気になってたのよ」

「闘志だッ!」

「はっ……?!」

「愛せ! 愛して愛して愛しぬけ! 出来ぬということはまだまだ足らんのだ! そんな事で躓いているようでは2人とも、まだまだだな!」

「た、足りないの?! クリンカ、まだ全然ダメだってさ……」

「ウッソー……昨日もちゃんと2人一緒に寝たのに……」


 顔が引きつっている兵士もいるし、ニースに至っては何かを悟ったみたいに目を閉じている。バルバスは空を見上げて、どこか遠くを見ていた。なに、何なの。


「そういえば考えた事なかったな。ルトナ、お前も知らないのか?」

「あぁ、でもね。パパとママも言ってたわ。2人が愛し合わないと無理だって」

「へー、面倒だな」

「何よ、面倒って!」

「な、なんで怒るんだよ?!」


「ゴリタ、知ってるウホ! それはウゴホォッ……!」


 ニースの肘が綺麗にゴリタのお腹に入る。あの巨体が崩れ落ちるようにして倒れた。どうしたんだろう。


「残念ながらここに明確な答えを出せる者はいません。どうです、ここは一度頭を冷やしてお二人でどこかお出かけになられては?」

「いや、もう出かけているんだけど……」

「そう、そうでしたね。では思い出を語らうとか……」

「うーん、ニースの言う通りかも。ちょっと頭を冷やそうかな」

「そう、それがよいのです」


 もう少し聞き込みしたら、考えてみようかな。でも、どうもさっきから皆の様子がおかしい。なんだか示し合わせてボク達にわざと教えないようにしているとしか思えなかった。クリンカもさすがに怪しんでいて、ニースの顔をわざと下から覗き込んでいる。ちょっとヒゲに触れているし、やめてあげてほしい。


◆ ノイブランツ王都 ◆


「てめぇら、よくもノコノコと俺様の前にこられたもんだな?」


 ボクだってフォーマスなんか顔も見たくないけど、なりふり構ってられない。ほしいものを手に入れる時は、恥なんか捨てる。そもそもこんなのに会うつもりもなかったんだけど、ついでだ。アボロ、どこにいるんだろう。


「あいにくだがな、こっちゃ忙しいんだ。ひょっこり顔を見せて煽りに来たんだろうが当てが外れたな。今やってる商売がヒットすれば、ここも俺様の天下よ」

「すごいね。ところでアボロはどこにいるか知ってる?」

「ほれ」

「なに、その手」

「人様から情報をもらおうってのに手ぶらか? てめぇ、それでも冒険者か? 何がSSSランクだよ、その程度ならいっそ返上しちまえや」

「じゃあ、いいや。さようなら」

「は? いや、まけてやってもいいが?」


 なんか必死に追いかけてくるけど、構ってられない。着ている服も擦り切れているし、多分貧乏なんだろうな。最後に見たのが裸の状態だったし、あれからどうなってこうなったのかはちょっと気になる。


◆ 神聖ウーゼイ国 バーランの道場 ◆


「すまぬが修業中の身ゆえ、答える事は出来ぬ。特に色恋に関してはご法度なのだ」

「そうなんだ……」


 バーランさんもダメだった。


◆ アバンガルド王都 中央通り カフェ”ガールズラブ” ◆


「ごめんね、リッタ。仕事中なんだっけ」

「いえ、今は休憩中なので平気ですよ」

「なんたって中隊長だもんね。忙しそう」


 変な名前のカフェで会ったリッタはどこか、大人っぽく見えた。今までの功績を称えられて、リッタの歳で中隊長にまで任命されて忙しいらしい。イリンとシュリも無事、リッタ直属の部下のままだったみたいで何より。でもボク達の成果はガッカリだった。


「……そうか。リッタでも知らないんだね」

「す、すみません。何せ恋愛とかそういうのは全然なので……私にも好きな人が出来たら、わかると思うのですが……」


「いやー! 疲れた疲れた! おっちゃん、いつものやつな!」


 大声をあげて入ってきたオードが、どっかりと席に腰を落とす。アニキと違ってコウとブンは遠慮がちで静かだ。偉い。


「お! リッタちゃん、奇遇だな! おっちゃん! いつものやつ、もう一つ追加で!」

「……いつも、いらしてないですよね?」

「へ? そうだっけ?」

「アニキ、この店に最後に来たのっていつッスか?」

「あー……いつだっけ」


「すみません、当分恋愛には縁がないと思います」


 なんだかオードのせいで変な空気になった。しかもオードのせいでより恋愛に興味を持たなくなったようにも思える。そんな当のオードは胸をボリボリかいていた。確かにあんなの見たら、興味なんてもてなくなるかも。


◆ クイーミルより西 アバンガルド洞窟 ◆


【洞窟ウサギは逃げ出した!】


 ボク達が姿を見せるかどうかのところで、ウサギがお尻を見せて逃げていった。コウモリの魔物も羽をばたつかせて、必死にどこかへと消えていく。


「ボク達が初めて攻略した洞窟だね。なんとなく来てみたけど……」

「あはは……最初に来たときはあのウサギからリュアちゃんに守ってもらったっけ」

「今なんか、あっちから逃げていくよ」

「リュアちゃんがいるからだよ」

「いや、クリンカ……いいや。ボク達どっちが怖いとかじゃないか。ボク達が怖いんだ」


 そう、最初は絶対にクリンカ(ロエル)を守ってやると思ってた。そんなに昔の事でもないのに、あれからボク達もかなり変わったと思う。いつからか、クリンカは守るべきものと同時に一緒に並んで歩く存在になった。


「それまでも守ってもらってばっかりで……迷惑をかけていたからドキドキしていたんだ。嫌われたりしないかなって」

「今思うと不思議だよ。クリンカと出会ったのも、すんなりとパーティを組む事になったのも……全部、ボクが心の底でロエルじゃなくてクリンカだとわかっていたからなのかなって」

「私も、引っ込み思案で誰かが困っていてもなかなか前に出られないんだけど……リュアちゃんが字を書けなくて困っているのを見た時はなんでだろ。勝手に体が動いたというか……」


 何もしてこないボク達を、洞窟ウサギは影からこっそりと様子をうかがっている。何もしてこないなら、魔物だろうと攻撃しない。しゃがんで洞窟ウサギと目線を合わせつつ、洞窟の空気を吸い込んでより少し前の事を思い出す。


「クリンカのおかげで字も書けるようになったし読めるようにもなった。クリンカがいなかったら、それこそジュオみたいになっていたかもしれない」

「ジュオみたいって……あの人は私が好きだったみたいだけど……まさか」

「あ、いや。あんな変な感じじゃなくてさ……」

「ぷっ……わかってる。でもリュアちゃんは一人ぼっちになっても奈落の洞窟で戦ってきたもん。ジュオみたいにはならないよ」

「そうかなぁ」


 ジュオはもう一人のボクだと思った事がある。あいつがどういう境遇で生きてきたのかまではわからないけど、認めてくれる人がいなかったらあんな風になっていた。もしクリンカと出会わなかったら、もしいろんな人達と出会わなかったら。

 もしあいつがボクと同じくらい強かったら。ネクロマンサーになって冥王を呼び出さなくても、直接暴れていたはずだ。ちょっとの境遇や力が違うだけで、あいつはボクが辿っていたかもしれない道だった。だって村を滅ぼされて、憎くて悲しくてどうしようもなかったもの。それでもし、ボクが今くらい強くなれなかったら。


「……仮定の話はやめよ。今は今だよ、リュアちゃんはこうなるべくしてなったの」

「そ、そうだ。クリンカと背中を合わせて戦えるようになったのも、ボク達ががんばったからだ。”破壊”がインチキとか……そんなの関係ないや」

「誰がどう捉えようと、それで救えるものがあって役に立てた。それだけだよ」

「再生……どんなものでも治してしまうというところにヒントがあるのかなって思ったけどさ」

「うん……」


 洞窟ウサギは安心したのか、いつの間にか子供を何匹か連れて歩いている。洞窟ウサギみたいな魔物にも結婚なんてあるのかはわからないけど、ボク達はあれがほしいんだ。


「子供……どうやったら出来るんだろうね」


 結婚の次は子供と思っていたけど、かなり難しいみたい。洞窟ウサギ達の去っていくかわいい後ろ姿を見ながら、ボク達は深くため息をついた。


◆ アバンガルド王国 東の海 サタナキア ◆


「はい、それで一番知識のある私を訪ねたと」


 ジーニアさんでもわからければお手上げだ。というかこの人が知らないはずがない。お母さんもお父さんもセイゲルさんも、今思えば知っているように見えたから。なんで隠したのかはわからないけど。


「はぁ……あのですね。私は今、ガッカリしています」

「何が?」

「メタリカ国がこんな有様なのはご理解をいただけていると思います。カマハルカもまだまだ世界全体をカバーするには足りてませんし、資金や資材だって何もかもが足りてません。その上ですよ、未完成ながらもカマハルカはキャッチしてしまったんです。ここに戦争を仕掛けようと企んでいる国を」

「せ、戦争?! どこの国さ! ノイブランツは……違うよね」

「遠い海の向こうにある国ですよ。”宝石国家”と呼ばれるラキラ公国、”大砲国家”のベーヌール国、暗殺術発祥の地とも言われる……周辺国の要人のみを暗殺して統一したヨイヤミ。少し前ならともかく、今のメタリカが相手取るには厳しすぎます」

「はぁ……それは大変ですね」

「そんな大変な状況でどうしようかと頭を悩ませている時にですよ?! 私の知識を当てにして、訪ねてこられてみなさい! 普通は回れ右して帰れですよ! もう!」

「ご、ごめんなさい……」


 いつになく早口だし、確かに相当大変そうなのは伝わってきた。”閃き”の天性でも、どうにもならないのかな。しかも気のせいか、チラチラとこっちを見ながらまくしたてているような。


「あぁ! どこかに救世主はいないものですかね? 世界の危機の時にも、私は英雄の頼みを聞いてあげたのに……。あんな強国を相手にするには、神を倒して世界を平和に導いた女の子がいないと……あぁ、どこかにいないですかね」

「い、いないんじゃない?」

「薄情すぎて私は悲しいッ!」

「もう! 素直にお願いしてよ! 何とかしてあげたら教えてくれるんだよね?」

「え?」

「え、じゃなくて」

「……ハイ」


「だってさ、クリンカ。仕方ないけどやるしかないよ」


 ジーニアさんの都合も考えないボク達が悪かった。メタリカ国はジーニアさんを含めて、この前生き残った人達しかいない。最近ではアバンガルドのほうからも、人がどんどん来ているみたいだけど。


「本当に助かりますよ。いつもなら戦争になる前に当該国に特殊工作員を送り込んで内乱を誘って自滅していただくのですがね……何せ人材が足りません」

「怖いね、それ……」

「ヨイヤミに至っては返り討ちに遭う可能性が高いので、その手も通用しません。はぁ……」

「そのかわり、プラティウを連れていくよ。それと……マーティも」

「はい、全部そちらでお任せします。しかしなぜマディ……いや、マーティを?」

「破壊、再生、奇跡が揃うに越した事はないし。もしかしたら戦わないで解決するかもしれないもの」

「なるほど……」


「じゃあ、今日のうちに準備して明日から動くよ。暗殺術というとシンブを思い出す……何か知ってるかな?」


 遠回りになったけど仕方ない。これもセイゲルさんのいう試練だと思う。結婚して子供を作るというのは本当に大変だ。愛を育むだけじゃ足りない。


「クリンカ、これが終わったらいよいよ……だね」

「うん! 子供が出来るね! たくさん出来るかな?」


 夢の結婚生活実現まであと少し。それにボク達はどのみち、世界の為にやらなきゃいけない。調停神マディアスがいなくなった事で、世界に眠る災厄が止まらなくなるから。ボク達のせいで世界が危機に陥るなら、それは何とかしなきゃいけない。でも後悔はしてなくて、ボク達はむしろ生きがいを感じてやっている。


「ボク達が選んだ道……精一杯楽しもうね!」

「うん!」


 ダメージはカウンターストップしちゃうけど、ボク達は絶対に止まらない。かんすとっぷ!


◆ アバンガルド王国 東の海 サタナキア ◆


「リュアさんはいい仲間に巡り合えましたねぇ」

「なのです……」

「女同士では子供が出来ないだなんて残酷な事実を誰が告げられましょうか……」

「ここは観念して、ジーニアが教えるのです。お願いをして約束をしたのだから当然なのです」

「ま、ここはあの手で行きましょう……」

「あの手?」


 果たして、真実を知ったほうが残酷なのか。知らないままのほうが幸せなのか。シンにも、わからないのです。


◆ シンレポート ◆


おんなどうしでは こどもが できないのは しんにだって わかる

まったく がきすぎて なみだが でるのです

ここは ひとつ しんが おとなだと しょうめいするために

ころあいをみて おしえてやるのです

こどもというのは おとこと おんなが あいしあっていれば

しあわせの とりが はこんでくると

ふふり こんなことも しらないとは

これで しばらくは しんが つまみぐいしても なにもいえない

くっくっくっ


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