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第34話 アバンガルド闘技大会 その2

「試合は始まってる?!」


ロエルは大慌てで迷いながらもなんとか戻ってくれた。

観客席への入り口が何通りもあるので、きちんと覚えて

おかないと何周するかわからないほどコロシアム内は広い。


「これからだよ、早かったねロエルちん」


「だってリュアちゃんの試合だし……」


「お、始まるぞ」


セイゲルの言葉通り、予選Bブロックニ開戦

第一試合が始まろうとしていた。


///


「バステさーーん! こっち向いてーーーー!」


「おまえに賭けてるんだからなーーー!」


ほとんどの歓声が対戦相手のバステへのものだ。

バステは丸いメガネを何度も拭いている。


「それでは始めッ!」


先手でボクはバステのみぞおちを狙った。

嫌らしい魔法を使わせる前に倒せばいい。

一瞬の呻きと共にバステは倒れるはずだった。


「グッ……ゲホッ……て、手加減したな……」


ベンケーの時と同じ強さで当てたのに、バステはかろうじて

立っている。

と思ったら、なんだか力が入らなくなってきた。


「"マイトダウン"が直前で決まったようだな……

 君のような脳筋タイプは必ず速攻を仕掛けてくると思った。

 硬質化魔法も間に合ったようだ……」


お腹を押さえながらも解説するバステ。

そういうことだったのか。

さすがに力を抜きすぎたか……触れる程度じゃないと

殺してしまいそうだったから、手を抜いたのに。


「み、見せてやろう。これが勝ちパターンだッ!

 ガードフォース! ガードフォース! ガードフォース!」


バステの体がどんどん硬質化していくのがわかる。

ほうっておいたらどこまで硬くなるんだろう。


「仕上げだ! シールッ! ブラインドッ!

 これで君の視界とスキルは封じられた!」


そういいながらもバステはまだお腹を押さえていた。

よっぽど堪えたみたいだ。

もういいや、終わらせよう。


「更にベノムフィー……うげぁッッ!」


さっきよりも強めにボディーブローしてやった。

今度のバステはお腹を押さえる余裕もなく崩れ去った。

ピクピク痙攣してるところをみると少しやりすぎたみたいだ。


「……はっ! しょ、勝者リュア!」


我に返ったように兵士の人がボクの腕を掴んで掲げてくれた。


「あ、ありえないでしょ?! あの子、さっきから一撃で……」


「冒険者なのか? だがマニアのオレなら有名どころは

 すべておさえている、知らないはずがない」


今度こそボクの勝利を信じてくれたのか、さっきとは違った

歓声が上がった。


「いや、まさかあそこまでとは……

 ポイズンサラマンダーどころじゃねえぞ、ありゃ……」


「リュアちゃん、相手が死なないように手加減してるのかな」


「そりゃ本気でやっちまったらドテっ腹ぶっ飛んで

 上半身と下半身がお別れするからな」


「そんな化け物みたいに……」


なんか好き勝手言われた気がするけど、とにかくボクは勝った。

また戻るのも面倒だからここにいよう……と思ったら

ボク以外にもすでに何人か待機してる。

その皆が皆、ボクを注目していて急に恥ずかしくなってきた。


///


Fブロックではすでに代表を決する試合が行われようとしていた。

対戦相手の女性の侮辱ともとれる態度に、アーギルは怒り心頭だった。

その女性は武器と鎧を一切身につけずに棒立ちしている。


「死神アーギルをここまでナメたのはおまえが初めてだ……

 そうだな、そこまで自信があるのならここは一つ賭けをしないか?

 オレが勝ったらおまえがSランクの座を降りるというのはどうだ。

 マスターナイトのティフェリア?」


「え? 嫌ですけど」


白い髪を風になびかせながらティフェリアは相手の顔も見ずに答えた。

ティフェリアにとって、そんな事よりも夕飯の支度が面倒な事の方が

重要だった。


「外食のほうがいいかしら……はぁ」


「なんだと?」


「でも、それだとお肌がねぇ……」


「こいつ……!」


死神と呼ばれた彼を相手にしてきたものは確実に命を落とした。

あまりの行いに自分が所属するパーティすら壊滅する事から

ついた通り名が死神。

最初は不快だったが今では立派な誇りだ。

そんな自分を侮蔑に等しい態度で嘲ったマスターナイトを生かす

算段はアーギリにはなかった。


「それではFブロック最終試合を始める!

 両者とも心の準備はいいか?」


「早く始めろ……!」


「は、はいっ!」


今のアーギルは審判役の兵士ですら殺しかねない。

兵士は身の危険を感じたのか、開戦と共に試合場から逃げるように

降りていった。


「ご自慢のあの鎧どころか、武器すら持たずにオレの前に立つとはな!

 死神アーギル! Aランク7位とくりゃ、Sランクに近い存在だ!

 いつまでもあぐらかいていられると思うなッ!」


アーギルは無詠唱とも言える速度で風魔法を詠唱した。

試合場の真ん中に竜巻のような突風が発生し、そこにアーギルが取り出した

いくつかの鎌が回転するように踊る。

竜巻は大きさを増し、試合場を包み込んだ。

風は次第に不規則に変化し、それに応じて鎌も移動ルートを変える。

形容するならば鎌の嵐、突風の速度に乗って前後左右から襲ってくるそれは

これまで幾多もの魔物や自分のパーティさえも切り裂いてきた。


「うわあぁぁぁ……ち、近寄れない……」


かろうじて試合場から離れた審判役の兵士はこれでは判定すら

できないといった面持ちで荒れ狂う試合場を前にしている。


「この風ですら微動だにしないか……」


その鎌は確実にティフェリアを狙う。

並みの人間なら、瞬く間にスライスされているほどの空間が

形成されているにも関わらず、ティフェリアは気だるそうに

その場に立っている。


「はぁ……」


溜息と共に片腕で飛んでくる鎌を砕いた。強風にも関わらずティフェリアは

その場からまったく動かず、試合開始前と同じ棒立ちだった。


「そうだ、リッタちゃんとお料理すれば……

 むしろリッタちゃんに作ってもらお……」


その背後に風に乗ったアーギルが迫っていた。

ティフェリアの首に鎌の刃が寸前のところまで迫っている。

もちろん、大会ルールで殺しは即失格となる。

しかし死神にとっては大会など、元々どうでもよかった。

マスターナイトの首に比べれば、天秤にかけるまでもない。

その迷いのなさが


引き金だった。


鎌の刃はティフェリアの首筋に命中した。

しかし鋼鉄ですら切り裂く鎌はティフェリアの薄皮一枚

裂く事すらできず、アーギルを停止させた。


「ば、馬鹿な……一体何をした?!」


「え? あぁまだいたんですか……」


その一言と共に風は止んだ。

アーギルはティフェリアが何らかのスキルを使用したと思った。

しかし瞬時にそれを否定した。

暴風は戦意と共に消えた、すべてを理解した時にアーギルは

降参を宣言していた。


「おしまい」


放心するアーギルを置いてティフェリアは試合会場から去った。


――まだいたんですか


歴戦であればあるほどわかる。

相手にならないのではなく、相手にされていない。

初めから彼女は誰とも戦ってなかった。


「これがSランク……」


ティフェリアとアーギルの戦いを期待していた観客から見れば

まったく意味のわからない決着。


「なんだなんだ? もう終わり?

 ティフェリアちゃんのパンチラすらないとか、なにこれ」


「アーギルが勝手に攻撃を止めたように見えたぞ。

 おーい! やる気ないんならもう帰れー!」


当人でなければ味わえない恐怖は決して第三者に伝わる事はなかった。


///


遠くのほうで風が止んだ。

誰が戦っていたんだろう。

でも気になるのは風のほうじゃなくてその相手。

一瞬だけ感じた重いプレッシャー、あそこからでも感じるほどの存在感。

そっちに気をとられていたら、こっちのボクの相手が決まっていた。

あの人に勝てば予選通過らしい。


「勝者、グリイマン!」


「戦いを決するのは高性能な装備よ!

 よーく覚えておくんだな!」


そんなセリフを、グリイマンは観客に向かって言い放っていた。

確かにグリイマンが着ている鎧は高そう。

銀色に輝いて、鏡みたいに周りのものが映るくらい綺麗な鎧と兜。

竜の羽みたいな飾りがついた長い剣。

首からは何個かの宝石が繋がっているよくわからないアクセサリ。

ゴテゴテしてなんか逆に格好悪くなってる。

グリイマンはそんなのお構いなしなのか。


「いいぞ、グリイマンーーー!

 やっぱり戦いは装備の差だよなー!」


「よーくわかってんじゃねえか! そうだ!

 小手先の技をシコシコ磨いてる奴らもそろそろ気づいたほうがいいぜ!

 大金つぎ込めばいいだけの話だってな!」


なにかこれは違う、よくわからないけど違う。

あの装備ってそんなにすごいんだろうか。

ボクなんか鎧なんて着たこともない。

奈落の洞窟で拾ったものを一時期、着ていたけど邪魔くさい上に

暑くてすぐ脱いじゃった覚えがある。


「グリイマン、最近Aランクに上がった一番勢いのある奴だな」


「ケッ、最近の若い奴ぁすぐ近道をしたがる。

 あんな装備を揃えたところで結局扱うのはそいつなんだっての」


「オレは否定もしないし肯定もしない。

 なぜならそれを証明するのはいつだって現実なんだからな」


「ごくごく、ふーん……ごくごく」


「ロエルちん、さっきから10杯目だよ?

 またおトイレいきたくなっちゃうよ?」


観客席は賑やかそうだ。


「それでは15分間の休憩の後、予選最終試合を行う」


休憩か、ロエルの飲みっぷりを見ていたらボクも喉が渇いた。

観客席でドリンクを売ってる人にいえば買えるのかな。

ジャンプして観客席に飛び乗ったボクに驚いた人達を尻目に

なけなしのお小遣いでモモルソーダを買った。


「リュア、行儀が悪いぜ。面倒なのはわかるがきちんとした

 ルートで上がってこい」


「はーい」


まさかセイゲルに注意されるとは思わなかった。

でもたくさんの女の子をまとわりつかせながら言っても

あんまり説得力がないような気がする。


「リュア、あの若造に一発ガツンと入れてやれ!」


「ガツンしたら死んじゃうんじゃないかな……ごくごく」


ガンテツさんはなんでそんなに怒ってるんだろう。

あとロエルは飲みすぎ。


「そう、これがリュアさんなんですね……」


ボクの腕をさすっているティフェリア。

いや、いつの間にここに……


「よう、ティフェリア。今回も出場していたんだな。

 どういった風の吹き回しだ?」


「ふぅん、さすりさすり……」


「シカトね、うんわかってた」


完全に相手にされていないセイゲル。

すりすりする手が全身に回ってきてくすぐったくなってきたので

思わずその手を払いのけてしまった。


「あ、ごめんなさいね……」


「い、いや……」


「リュ、リュアちゃんに変な事しないで!」


「あなた……冒険者?」


「うん」


「そう……」


そういって彼女はボクと同じように試合場に飛び降りた。

セイゲル、注意しないと。


「相変わらずフワついて捉えどころのない女だ。

 だがそこがいい」


注意しろ。

馬鹿らしくなったのでボクはドリンクを飲んでから

また同じように飛んで降りた。


「あ、こらっ!」


もうすぐ試合が始まる、相手はあのグリイマンだ。

そのグリイマンはというと他の冒険者相手に自分の

装備を見せびらかせている。


「いい冒険者はいい装備を身につける!

 しょぼい奴は装備もしょぼいもんさ」


「市場でも滅多に見ないのにどうやって……」


うらやましがる人達相手にグリイマンは満足そうだ。

ボクのミスリルソードが何本も買えるほど高いんだろうな。


「お、そろそろ試合が始まるぞ。

 オレ様の次の相手は……あ、あの子か!」


「うん、ボクだよ。よろしくね」


「おまえの今までの試合を見てきたが、確かに見所はある。

 けど宣言するぜ、おまえはオレには勝てない」


人差し指をこれでもかと押し付けるようにボクに向けるグリイマン。

いいよ、受けて立つ。

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