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第33話 アバンガルド闘技大会 その1

宿の外に出ると町が変わっていた。

華やか、派手、賑やか。

なんだろう、そんな感じ。

道沿いに立ち並ぶ店、店、店。

テントを構えてお客相手に占いみたいな事をしている店や

おいしそうな匂いがするお店、どれもこれも魅力的だった。


「ツイバミ鳥の串焼き! 一本2G! どうだい?!」


「ポポルシロップカキ氷! どうよ?!」


「パラランド地方名物、テンタクルスのイカ墨焼きそばが

 食べられるのはうちだけ!」


一度にいろんな店が宣伝してるからわけがわからない。

歩いていると必死に声をかけられて、寄って上げないと

悪い気がする。

そしてロエルは現在、両手が塞がっていて食べられない状態だ。


「リュアちゃん、こっちもって」


イカ墨焼きそばをボクが持ってる間にカキ氷と串焼き10本を食べる。

そしてすべて終わったかと思えば、すでに次のターゲットを

決め込んでいる。

人が多くて歩くのも大変だけど、こういうのはどこか新鮮だ。

村にいた頃は一歩も外に出た事がなかったからこんな世界が

あるなんて驚くばかり。


ふと、気になる店を発見した。

玩具の弓で遠くにある商品を落とせばそれがもらえるらしい。

たったそれだけで?

よし、やってやる!


「こんなの簡単……ていっ!」


矢は商品からおおきく逸れた。

もう一度!


「あのアイスブランドっていう剣、ほしい!

 ロエル、ボクやるよ!」


的が大きいから当てられるかなと思ったけど今度は

弓を引きちぎってしまった。


「あ、あ、あ……あの、これごめんなさい」


「いや、予備があるから気にしないで。

 ていうかお嬢ちゃん、すごい肩してるね……

 かれこれ5年以上、ここで店出してるけどこんな事

 初めてだよ」


「リュアちゃん、怪力だもんねー」


ゴールドアップルアメを両手にかじりながらのほほんと

言い放つロエル。

結局、5回チャレンジしたけど一つも当てられなかった。

あまりに悔しくて泣きそうになっていたボクに同情したのか

店のおじさんが一つ、回復薬をサービスしてくれた。


「弓ってあんなに難しかったんだ……

 動いてる魔物に当てられたマイってすごかったんだね」


「リュアちゃん、剣以外はダメダメだね……」


またぐさりと刺してきた。

ちなみにロエルは2回チャレンジして、氷魔法効果のある

アイテムとロイヤルゼリーを当ててご満悦だ。

そのロイヤルゼリーはもうロエルの胃袋に収められている。

もしかしたらロエルには弓の才能があるかもしれない。

真面目に練習したら、戦いの幅が広がるんじゃないかと

ほんのり思う。


「はーい、そこのかわいらしいお二人さん!

 ちょっとだけでも見ていってくださいませ!」


昨日の宣言通り、シンシアがお店を出していた。

よく見る回復薬やロイヤルゼリー、何に使うのかわからないものまで

ずらりと並んでいる。


「シンシアさん、ここは何の店ですか?」


「大人のお店」


「はぁ、大人ですか」


「クッ、顔を赤らめるとかそういう展開すら期待できないほどに

 ピュアか貴様っ」


「大人のお店ってなに?」


たまにシンシアが何をいってるのかわからない時がある。

質問に対してはぐらかされたし、食べ物もあまりないみたいなので

ロエルの興味はあまりなさそうだった。

ロイヤルゼリーただ一つ以外には。


「ロイヤルゼリー、格安で一つ200Gだよ!」


「高い……あっちいこ、リュアちゃん」


「あ、あれぇ?」


買ってくれると期待したロエルがそっぽをむいてボクの

手をとる。食欲よりも財政事情のほうが大事らしい。

でもここにくるまでにどれだけの食べ物が彼女に

吸収された事だろう。そっちはいいのかな。


「あ、そうだ。闘技大会!」


「わーー! そうだ、ま、間に合う?!」


「あと20分後だね……」


「歩いてたら間に合わない……そうだ!」


ボクはロエルをおんぶした。


「な、な、なにリュアちゃんちゃん!」


ボクにしがみつくロエル、そして跳躍して民家の屋根に乗る。

屋根から屋根へと飛び乗って城を目指した。


「な、なんだあれ?! 祭りの見世物か?!」


「すげーーーー!」


「抱いて!」


下を歩く人々が何か歓声をあげたみたいだけどそんなのに

構ってる余裕はない。抱いての意味がまったくわからない。

ロエルはぎゅっとボクにくっついたまま、静かだった。


「リュアちゃん、はずかしいよぉ」


「もうすぐだから……」


5分程度で城に着いた。

目の前に着地したボクに驚いた門番の二人は一瞬武器を

構えた。


「お、おまえ達は?」


「闘技大会に出る」


「そ、そうか。参加者用の入り口は左手にある」


兵士の人の言う通り、参加者用、観客用の通路に別れていた。

柵で仕切られていて、道なりに長蛇の列が出来ている。


「あの、おさないでくださーい! おさないで むぎゅ!」


女の子の兵士が人ごみに飲まれながらも必死に誘導してる。

小柄なあの体じゃ、ちょっと押されただけで大変そうだ。


「あ、参加者の方ですか?! あちらの入り口にぎゅぁっ!」


ボク達を案内してくれようとした矢先にまた飲まれた。

淡い赤髪の先からぴょんと出た一本の毛だけが見える。

見かねた他の兵士が引きずり出して何かお説教をしていた。

しおらしく頭を下げる女の子。


「ボク達と同じくらいの子かな?

 それなのにここの兵士なんだ」


「怒られてるね……大変そう」


がんばってるなぁと思いつつ、ボクはロエルと別れて

参加者用のルートを歩く。控え室にはすでに大勢の

参加者で溢れかえっている。


「そういえば予選やるとかいってたっけ」


「よう、やっぱり来たか!」


金棒なんとかがいた。昨日壊した武器が直ってる。

いや、新しく買っただけか。


「あの時はちょっと腹が痛くて調子がでなくてな!

 見ろ! ちょうど予選のBブロックで当たる事になってる!」


「Bブロック? なにそれ?」


「あ、あぁ?」


ガクッとずっこけそうになる金棒なんとか。


「あ、ボクの名前が書かれてる。

 ここへいけばいいのか」


「お、おう」


「このあみだくじみたいなのは?」


「いいか? ここにおまえの名前が書かれてるだろ。

 その隣にはこのベンケーってのが書かれてる。

 つまりおまえの最初の相手はこいつってわけだ。

 こいつに勝てば、こっちの試合で勝った奴とおまえが

 戦うんだ」


「へぇーーー」


「いや、そんな事も知らないで参加したんかい」


「子供の頃から村から出た事なかったから

 こういうの全然わからないんだ。

 お父さんとお母さんも死んじゃったし……」


「そ、そうか……すまんな」


急に優しくなる金棒なんとか。最初に出会った頃の粗暴さは

どこへいったのか。


「そんな心配をする必要はない。

 リュアとかいったな、おまえの相手は不幸にも

 このベンケーだからな」


後ろに立っていたのは背中に何本もの武器を背負って

マフラーのようなものを羽織った若い男の人だった。

ぶかぶかとした鎧を着て、暑苦しそうだ。


「ゲッ! Aランクの"千器"ベンケー!」


「両方ともCランクか? 悪いがこの大会はアマチュア

 お断りなんでな。単なる腕試しなら今すぐ消えろ」


「そんなに武器あっても強くならないよ」


「な、なんだと……! 貴様、この千の武器を操ると

 言われるベンケーを知らんのか!」


「おまえこそ、去年の大会で大敗したのをもう忘れたか」


ベンケーの手に肩を乗せたのはヘカトンだった。


「ヘ、ヘカトン……」


「ヘカトンさん、だろ? Aランクの下位風情が」


「う……」


ヘカトンがボク達の会話にしゃしゃり出てきた事によって

なぜか周りまで静かになってこっちを見ている。


「リュアというのはおまえか?」


「う、うん」


ヘカトンは急にボクに矛先を向けてきた。

大きい体だなぁ、でも大きさならグルンドムのほうが。


「……セイゲルはこんなガキに負けたのか。

 Aランクの名折れだな」


「ちょ、今なんて……」


「予選を始めます。各ブロック第一試合に出場される方は

 こちらへ!」


兵士の人が大声でアナウンスする。第一試合は……あ、ボクか。


「さぁて、消化試合といきますか」


ベンケーはボクを見て馬鹿にするように笑った。

消化試合の意味はわからないけど、馬鹿にしているのはわかる。

よし、見てろ……


///


試合会場は特設らしく、城から離れたところにコロシアムという

形で設立されていた。円形で囲むように観客が座っていて

ボク達の戦いをそこから観戦できるようだ。

AからHブロックまで小分けされていて、そこでそれぞれの

予選が始まる。


「Bブロック第一試合を行う。

 相手が参ったといった時点で終了、殺しても失格だ」


「リュアちゃーん! がんばってー!」


「リュアちんファイツ!」


シンシアの声まで聴こえる。お店はどうしたんだろうか。


「セイゲルさん、サインして下さい!」


「握手! 握手!」


「まぁまぁ、オレは君達を分け隔てるような事はしない。

 ただしこの手は二つだ、こちらの手で握手してこちらの手で 

 サインしよう」


セイゲルが観客席で女の子達にチヤホヤされている。

気が散るからどこかいってほしい。

というかセイゲルは参加していないのか。


「余所見とはずいぶん余裕だな」


ベンケーが片手に剣、片手に槍を持って構えていた。

背中にある大量の武器はそうやって使うのか。

でも一度に二つしか持てないんじゃあまり意味ないような。


「一つ教えてやる、冒険者は力だ。

 力なきものは命を失う、これは試合だがちょうどいい。

 おまえにそれを教えてやる」


「では試合開始ッ!」


「かわいそうだがこれも経験だと思え!」


合図と共にベンケーは槍でボクを間合いに近寄らせないよう

振り回し、時には突きを放つ。

でもあまりに雑すぎてかする気もしない。

のらりくらりとかわすボクにベンケーは多少イラついていた。


「何とか逃げ回っているようだな?!

 おまえは今こう考えている! どうやってあの間合いに入るか!

 だが残念だ!」


見せ付けるように右手の剣をちらつかせる。

なんとか間合いにもぐりこんだところをあの剣で仕留める戦法らしい。


「そして更にッ!」


右手の剣を空中に放ったと思ったら、背中から円形の武器を取り出して

ボクに投げつけてきた。

鋭い円形の刃は回転しながらカーブを描いてボクを狙う。


「円月輪を更に追加だッ! くらえっ!」


一気に三つの円月輪がボクを襲う。

加えて正面からは槍の猛攻。


これだけこなせるようになる為にかなりの努力を

してきたに違いない。

器用だ、それがボクがあの人に抱いた感想だった。

曲芸に近いあの人の動き。

見るものを楽しませるのか、周囲の観客達もワッと沸いた。

円月輪を放った直後に空中から落ちてきた剣をキャッチしたベンケー。

逃げ場はない、とでも思ってそう。

槍と円月輪が同時に当たる直前、槍の側面からベンケーの側面へ。

この人がまったく認識できない速度で迫った。

空を斬って円月輪が石の上に落ちる。

ベンケーは正面にいる相手がすぐ横にいるとワンテンポ遅れて気づいた。

気づくまでボクが待ってあげたんだけど。


「そうか、これだけの武器には意味があったんだ」


「なっ、な、いつの間に?!」


ボクのほうを向き直ろうとしてバランスを崩した。


「でも、ボクだって負けないくらい戦ってきた。

 いやボクのほうが強い」


背後に回りこんでボクはベンケーの首筋を軽く叩く。

ぐらりと揺れてベンケーは声も出さずにその場に倒れた。

それまで沸いていたBブロック周囲が静まる。


「リュアちゃん! おめでとう!」


「ま、このくらいはね」


「見たまえ、あれがオレの見込んだ少女さ。

 美しさとしては熟れる前、青もいいところの果実だが

 着実に育っている」


最後うるさい。

ロエルとシンシアの声援だけが一定のテンションを保っていた。


「え、えーと……Bブロック第一試合……

 勝者、リュア!」


同時に再び会場が沸く。


「ゲー! なんだよアレ! 完全に番狂わせじゃないか!

 オレ全額ベンケーに賭けてたんだぞ!」


「大穴きたぁぁぁぁ!」


よくわからない声も聴こえない事もなかったけどとにかく

皆驚いていた。


「あの子、剣すら抜いてないぞ……?」


「もしかしてベンケーの奴がわざと負けたのか?

 そういえば一瞬だけ止まってたよな」


「ハァ?! そりゃねーよ! オレの全額返せや!」


「では引き続き、第ニ試合を行います!」


控え室に戻ればいいのかな。

でもここで他の人の試合も見てみたい。

邪魔にならないよう、端っこで見てよう。


「よう、やっぱりリュアも出場していたのか」


「あ、ガンテツさん?!」


観客席のほうではガンテツが姿を見せていた。

よっこらしょっと、と言いながらロエルの横に腰掛ける。


「アバンガルド王都まできていたんだな。

 声をかけてくれりゃ、宿を格安で手配してやったのに」


「え、まじで?」


初対面のはずのシンシアが何かあやかろうとしている。

それとも知り合いなんだろうか。


「お、クイーミルの道具屋のお嬢ちゃんか。

 なに、Aランクともなれば容易い事よ」


「でもガンテツさんがどこにいるのかもわからないし……」


「おっと、そういえばそうだったな!

 ガッハッハッハッハッ!」


「ガンテツさんは出場しないんですか?」


「オレも若くないしな。それに優勝候補がああも

 ずらりと並んでちゃさすがにきつい」


今、ボクが戦っていたBブロックではすでに金棒なんとかが

突っ伏して倒れていた。いつの間に……


「Bブロック第ニ試合、勝者バステ!」


「フフ、脳筋ごとき私の弱体魔法をもってすれば

 容易に完封できる、戦いは頭脳だよ諸君」


丸いメガネをかけた魔術士風の人がローブを大袈裟に

開いて観客に向けて格好をつけている。


「"封術士"バステ。攻撃魔法に頼らずに場を制圧するテクニシャンだ。

 Aランク中位の実力者だな、リュアと次に当たる相手だ」


「ふぇぇ、確かに金棒さん何もできないで負けちゃったね」


「弱体魔法かぁ、リュアちんそういうのと戦った事あるのかな?」


「並みの戦士なら弱体魔法だけで完封されちまうからな。

 奴はそれのスペシャリストだ」


さっきの人とは打って変わって違うタイプだ。

自信に満ち溢れた表情でバステはボクの元へ歩いてきた。


「リュアくんだっけ? さっきの試合見ていたけど力押し一辺倒じゃ

 私は倒せないよ。せいぜい荷物でもまとめておくのだね」


一方的に喋ってバステはどこかへ行ってしまった。

次の相手はあの人か。

金棒なんとかにはさっき教えてもらった恩もあるし

ボクが仇を討ってあげよう。

お、次の試合が始まるみたい。


///


「うーん、ちょっと……」


「なにロエルちん、おトイレ?」


「いちいち確認しないで……」


ロエルは席を立って足早に歩いていった。


「ドリンク10杯も飲んでちゃねー」


「しかし、あれだけ飲んで食べてよく太らないよな。

 オレとしてはもう少しかわいこちゃんにはその辺を

 自重してもらいたいものだが……」


///


「ええっと、確かこっちだったっけ……きゃっ!」


曲がり角で互いにぶつかる。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


「……いや」


必要以上に罪悪感をもったロエルは頭を数回下げてから

再び目的地を目指す。

相手はロエルの後姿を静かにたたずんで見送った。

深く被った黒いローブからは白い肌とそれに刻まれた

黒い蛇のような模様をのぞかせている。


「いいな、あの子」


ぺろりと舌なめずりをした黒ローブはゆっくりと

ロエルの後を追った。

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