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第336話 皆の未来を背負って

◆ アバンガルド王都 ◆


「いやぁ、まいったね。なんでこっちの攻撃が当たらないんだろうね、リッタ」

「五高の方々も攻めあぐねているし、国を代表する強者が手も足も出ないなんて……」


 ニッカお兄ちゃんだけじゃない。ムゲンさんやシンブさんを初めとした五高、だけどそこにいる敵にはかすりもしない。あばら骨が見えるほどやせこけた灰色の翼人、聖天使ゼイエルと名乗った敵は当然と言わんばかりに浮いたまま私達を見下ろしていた。


「人族。抵抗は空しい」

「天界の人だか知りませんけど、勝手に人の国を荒らさないでほしいです。私はこの国の兵士なので当然、あなたのような人は討伐の対象とします」

「王亡き今、この灰天使ゼイエルが統治するものとする」


「言葉は通じるけど話は通じないっしょ」


 シンブさんの言う通りだ。このゼイエルは何か根本的におかしい。生きてきた世界が違うとこんなにも意思疎通すらままならないなんて。そしてこの異質すぎる力、王都中の人達を不信に陥らせた原因だけはわかっている。なんとか口を滑らしてもらえたから。


「人族よ、信じるな。崇めるはただ一つ、このゼイエルのみ」

「さっさと出ていかないと……!」


【リッタの蒼天突き! 灰天使ゼイエルには当たらなかった!】


 のらりと体を逸らしただけで半月を描いた槍先をかわしてしまった。明らかに大した動きをしていない。それどころか武術の心得なんかもまるで感じられないし、ハッキリ言って素人もいいところだ。


「ぬぅ……もう少し数が集まれば違ったかもしれんのう。ユユよ、強化魔法は行き届いているはずよな?」

「もちろんです事わよ。でもムゲンさん、そもそも戦意のある人間が私達だけというのが異常ではないかしら?」

「あのゼイエルはもちろん、このローレルの竪琴の音色もまるで人々に届いていない」

「……不信っしょ。あいつが使っている”不信”の力が原因っしょ」


 このゼイエルに対して戦意を見せたのがここにいる人達だけ。後は不信とかいう力で軒並み、戦意どころか生きる力すら失いかけている。町の人も冒険者も同僚も、それでいてあのゼイエルだけは信じているんだ。後ろにも何人か、拝んでいる人達がいる。


「不信……つまり私達は……」

「自分の技さえ信じられなくなっているっしょ。無意識のうちに、あの意味不明なガリ男に屈しているっしょ」

「そうとわかれば、自分の技を信じてもう一撃……!」


「いや、その必要はないようだ」


 否定するムゲンさんを睨もうとした時、その言葉の意味がわかった。あぁ、よかった。不信の力で自分の技さえも信じられないというのに、心の底からそう思える力強さがあの2人にはある。すらりとした金色の竜がよく似合う女の子。私と同い年なのに憧れすらした女の子。あんな風になりたいと思わなかった日はなかった。こんな時にも信じさせてくれてありがとう。


◆ アバンガルド王都 ◆


「灰天使ゼイエル。天界”守護天人”の一人で、聖天使の位を持つ。その昔、一度だけ人間界に降りた時にあまりに信仰を集めすぎたため、いくつもの宗派にわかれた宗教戦争を引き起こした。って、メリアさんは言ってたっけ?」

「ボクに聞かれても……」

「メタリカ国が出来るずっと前の話だもんねぇ。そんな時代からいるんだよ、あのゼイエルは。この遥か昔に起こった大規模な宗教戦争のおかげで、後に各国の信仰に対する規制への礎にもなったんだって」

「その辺は聞いていて眠くなったからなぁ」


 リッタやニッカ、それにムゲンさん達が見えて安心した。完全にゼイエルに屈したわけじゃなくて、少なくとも抵抗している人達がいたから。だけどあの五高とはアバンガルド城へ突入する時に戦った時以来だから、会うのはなんとなく気まずい。


「良いところへ来た」

「遅いっしょ」

「私達には手の余る相手ですことよ。お二人とも、ぜひお願いいたしますね」

「ユユさん、相変わらず変な喋り方だね……」


 意外にも暖かく迎えてくれてちょっと驚く。思えば、あのシンブさんなんて最初に会った時に攻撃を仕掛けてきたっけ。今思えばムチャクチャだったな。ムゲンさん、シンブさん、ローレルさん、ユユさん。ここにいない五高はイークスさんだけか。

 それでも手に余る相手なのはしょうがない。何せ相手はここ、人間界でも実在したかどうか未だ明らかになってないような存在だもの。


「リッタもよくがんばったね。被害を食い止めてくれて助かったよ」

「そ、そんな。私なんか憧れの大好きなリュアさんに比べたら何も出来ていませんし……」

「そんな事ないよ。あのゼイエルの注意をひきつけてくれただけでも結構違うと思うよ」

「優しいですね……やっぱりかっこいいです……」


 両手で頬を抑えてはにかむリッタ。そんなに喜ぶような事は言ってないと思うけど、やたらと嬉しそうだ。そしてこういう時、絶対クリンカが面白くなさそうな顔をするのもいつもの事だった。くいくいとボクの腕を引っ張って、なんとかゼイエルに注意を向けさせる。戦いの最中だって言いたいんだろうな。


「リュアさん、あのゼイエルは不信とかいう力を使っているみたいです。詳しい事はわかりませんが、そのせいで私達は自分の技すらも信じられなくなって、当てられないんです。修業不足ですね……」

「そんな事ないからあまり自分を責めないでよ。あんなの本来はここにいないはずなんだからね。静かでわかりにくいけど、ヴァンダルシアなんかより遥かに危険な奴だから」

「”不信”の天性を持つ人を灰にしているんだよね、リュアちゃん。死んだ人をそんな風に扱うなんて、あのジュオみたいで気持ち悪い……」


「否、不信なる人族はこのゼイエルにその半生を捧げた」


 自分の話題になると急に口を挟んできた。心なしか、ちょっと怒ってるようにも見える。ザンエルみたいに感情とかそういうのがなさそうだけど、実は違うかもしれない。


「何かしらにも信を失い、世を捨てて彷徨った挙句の事よ。聖天使の神々しき威厳に当てられ、手足となった」

「もう変な喋り方! 要するに”不信”は誰からも信用されなくなる天性だけど、何故かあのゼイエルだけは信用しちゃったんだね。いい事ばかりが天性じゃない……うーん」

「まるであの世界最強の男に似ているね。あいつはいい天性に恵まれたけど、そのせいで不幸になっちゃったとしか思えないもん。それにしてもクリンカがいなかったら、わけわからなかったよ……」


「人族よ。ゼイエルに信を置け。聖天使に仕えしひとときこそが至福。人族の生涯という、一時ですら苦痛に塗れるのならばこれほど嘆かわしい事態もない。その身を委ねよ」


 つまりボク達の短い一生で苦しむくらいなら、自分の為に灰になれって言ってるんだ。クリンカのおかげで大体こいつの言ってる事がわかってきた。そうときたら聞きたい事だけ聞いちゃおう。


「ねぇ、ゼイエルさんはマディアスの命令で人間界にいるの?」

「……ッ! 論外ッ!」


【灰天使ゼイエルが現れた! HP ??????】


 無表情が、いきなり歯茎をむき出しにするほど変わった。怒りの表情になってボク達を攻撃してきたザンエルと同じだ。ボクの質問が悪かったのかな。天界人というなら種族が違うだけだろうし、出来れば倒したくない。だけどそうも言ってられないみたいだ。


「論外! 論外! 論外! アァァァァァ! イアァァァァァァァァァァァァァァッ!」


「な、何なのさ! いきなりどうしちゃったの!」


 両手で頭を抑えたり、体をくねらせてもがいている。まるで何かを振り払っているか、恐ろしいものにとりつかれたみたいだ。血走った目をギロギロと動かし、それがボク達に向けて止まる。


【灰天使ゼイエルの攻撃! リュアはひらりと身をかわした!】


「おっと……!」


 あの細腕を器用に伸ばしてひっかいてくる。風圧だけで石畳みが吹き飛び、爪状に裂かれているのを見ると身体能力も見た目以上に高い。


「これ、やっぱり倒すしかないのかなぁ」


【灰天使ゼイエルは赤色の灰を散布した!】


 どこに灰をしまってあるんだろうと思ったら、なんか口から吐き出した。頭を上に向けて噴水みたいに吐き出したそれは黒に近い赤色で、なんだか嫌な予感しかしない。吸い込まないようにとっさに手を当てるけど、別にばらまいた段階ですでに攻撃は終わってるんじゃないかと思った。


「クリンカ、皆に何かあったらお願い……」

「リュアちゃん……そういえば、昨日もお皿洗いやらなかったねぇ?」

「は? 今はそんなの」

「洗濯物も全部私に押し付けるし……少しは家事に興味持ってよ」

「え、えぇ……えー……今、それ言う?」


「クリンカさん! リュアさんを困らせないで下さい! リュアさんだって大変なんですよ!」


 クリンカの目がなんか据わってるし、リッタもいきなり怒り出して詰め寄ってきた。あの赤色の灰、別に吸い込まなくてもばらまくだけで効果が出るんだ。どんな効果かなんて予想は出来るけど、まさかクリンカに不満をぶつけられて少なからずショックだ。

 確かにクリンカには今まで負担をかけていたかもしれない。たまにお手伝いをしても調味料を間違えちゃうし、申し訳なくて外に出て一人寂しく特訓しちゃう。流れる川を走るスキルを身に着けようとがんばっている時に、クリンカが洗濯物を持ってきてジットリと睨んできた事もあった。場所を間違えたと反省して今度は森の中で彗狼旅団がよくやっていた闇への隠遁(シャドウエントリ)の訓練なんか始めちゃったりして。ボクはバカだった。あれ、どうやってるんだろう。


「ク、クリンカに迷惑かけるといけないし……それにあまりにうまくいかなくて落ち込んでくるんだよ……」

「戦いの訓練だってうまくいかなくてもがんばるでしょ!」

「あーぁ……ぅん」

「リュアさんはですね! 闇への隠遁(シャドウエントリ)を習得しようと懸命に努力されているんです!」

「なんで知ってるの怖い!」


 今は深く考えるのはやめよう。この状況、あいつの灰のせいだとは思うけど効果は何だろう。怒りっぽくなる、で合ってるかな。クリンカに関してはあまりにだらけていると、今みたいに怒るけど。


「どうもうまく連携がとれなかった原因はお主のせいだッ!」

「は? 人のせいにする前におっさんの自己中心スタイルを見直せっしょ」

「頭磨いて考え直してほしいね」


 あっちでもムゲンさん達がケンカを始めるし仕方ない。覚悟を決めてゼイエルの手前に飛び込み、一気にディスバレッドを振り切った。


【リュアの攻撃! 灰天使ゼイエルに1654055のダメージを与えた! 灰天使ゼイエルを倒した! HP 0/370600】


「……ッ! きっつ……」


 一撃がすごく重かった。剣で斬り裂けはしたけど、あの細い体なのになんでこんなに硬いんだろう。あのザンエルに全力で一撃を入れた時と同じかもしれない。単純にボクが今まで戦ってきた相手と違って硬いんだ。破壊の力を使えば無視できるけど、これは反省しなきゃいけない。どんな相手でも一定の威力を保てないようじゃ、いつか泣くはめになる。奈落の洞窟生活のおかげか、こんな時でさえ反省点を思いついてしまう。


「ゼイエルを崇めよ、ゼイエルを称え……ゼ、イ……」


 斬られて真っ二つになったのに、まだしゃべり続けていた。それも静かになってようやく倒したんだと安心する。斬った時の手ごたえといい、ゼイエル自身も自分が倒されたという自覚を持っていなかったように思えた。

 話し方といいダイガミ様に対する態度といい、今まで偉そうな奴はたくさんいたけどゼイエルはなんか違う。なんていうかこう違う位置から話しかけられているような、見ているような。天界という違う世界に住んでいるとこんなにもボク達と違うのか。


「……やってしまったな」

「ダイガミ様」


 どこからともなく、すらりと現れたダイガミ様がゼイエルの死体をまじまじと見る。あれだけ反対していたダイガミ様の前だし、かなり居心地が悪い。

 ダイガミ様は何も言わずに鼻先で空を指した。どことなく曇り空というか、薄暗い。さっきまで晴れていたのに、今度は雲が渦みたいにゆっくりと回る。これから何が起こるのか、説明されなくてもわかっていた。だけど一つだけ納得がいかない。


「後はお前達次第だ」

「……ダイガミ様も協力してほしい」

「天界に背けと?」

「無理にとは言わないよ」


 揺れ動く雲を見ながら、ボクはもう一つだけ気になっていた事を思い出す。


「クリンカ、もう大丈夫だよね? 怒ってない?」

「……うん、落ち着いた」

「どうせ怒りっぽくなる天性の人の灰でそうなっていたんだと思うよ。ここら辺に舞っていた灰も全部破壊したから」

「でも家事手伝いに関しては本音だからね」

「うん、戦いが終わった後でがんばる」


 そうじゃなくて。それはそれで一大事だし、出来れば逃げたいけどもう一つだけ目を逸らしちゃいけない奴がいる。それはルルドだ。


「お2人とも、お疲れ様です。さて、あまり時間がありませんね。短い時間でしたがジーニアさんは準備を進めてくれたのでしょうか」

「メリアさん……」


 メリアさんは遠くで待機していて、ボク達がゼイエルを倒すのを見守ってくれていた。いくらメリアさんでも、あのゼイエルを倒すのは無理だろうから避難といったほうが正しいかもしれない。


「メリアさん、ルルドのほうは……」

「奇跡の力を分け与えられているなら、大元を絶たないと無意味だと思いますよ。言ってしまえば彼がその力に心酔している今がチャンスです。ここで力の源をバツンと断てば、後はどうとでもなります」

「やっぱりそうなんだ……」

「奇跡ですから。リュアさんの破壊の力が及ぶかさえわかりません。大元のマディアスとなると尚更……リュアさん、クリンカさん。覚悟は決めましたか?」


「うん。天界へ行く」


 天界へ行く方法は予め聞いている。ボク達は手を繋いで、後はメリアさんに任せた。なんでゼイエルを倒してからじゃないとダメなのか。それは向こうから入口を開いてくれたほうがやりやすいらしいから。

 メリアさんの創造魔法は詳しい原理なんか本人以外誰にも理解できない。他の世界に行くような魔法だし、ボクからも突っ込めないけど想像以上に難しいのはわかる。でもなんでそんな魔法を創造したのか、ちょっと気になるところ。


「気になるのは……少々、タイミングが早すぎますね。まるでゼイエルが倒される前から、すでに天界の方々がやる気満々のような……」


 一つだけ思い当たるとしたらアボロだ。神聖ウーゼイ国に乗り込んだアボロがもしザンエルを倒していたら。それなら納得いく。


「いいでしょう。では始めます……」

「うん……メリアさん、今のうちにお礼を言っておくよ。ありがとう」

「私とエルメラを引き合わせてくれたのはお2人です。こう見えても感謝しているんですよ? ですから、このくらいは当然です」

「マディアスを倒したらさ……どうなるかわかんないけど。人間もエルフも……誰もが分かり合える世界になったらいいな」

「それは無理でしょう」

「えぇー……」


 まさか否定されるとは思わなかった。淡々とその時が近づいている中、メリアさんは少しだけ笑った後で真面目な顔つきになる。


「今ある世界の調律を壊すくらいには難しいでしょう」


「なんだ。そんなに難しくもないや」


 バカにするわけでもなく、メリアさんは黙って頷いて答えてくれる。ここまできたら何だってやれる、やってやる。もう意味もなくたくさんの人達が死ぬのは見たくない。神様とかいう奴にはそろそろいなくなってもらう。


「……ここだけの話。私、実は一度だけ天界に行った事があるんですよ」

「ホ、ホント?! だからいろいろと知っていたんだね……」

「といっても、それほど奥地には進めませんでしたけど。何せ徘徊している魔物のほぼすべてが、この世界で災厄をもたらしてもおかしくないほどですから」

「ま、魔物いるんだ……」

「何とか生き残って紆余曲折を経て、人間界に戻してもらいました。率直な感想を言えば、もう二度と行きたくありません」

「メリアさんですら、そこまで追い詰められるほどの場所……」


 その時の事を思い出したのか、メリアさんは少しだけ唇を噛んだ。かすかに震えているし、本当はこうしてボク達を送り出すのすら辛いのかもしれない。それなのに無理を言ってしまって、何度でも謝りたいくらいだ。

 

「まだエルメラが小さかった頃の話です。人間による……正確にはヴァンダルシア軍による本格的な他種族狩りを懸念した私は、なんとか天界の力を借りられないかと考えたのですが……甘かったですね」

「……もういいよ。そういう下らない事を終わらせる為にボク達が行くんだから」


 メリアさんが長い時間をかけて他の世界へ行ける魔法を開発した理由。それは自分達の大切なものを守りたいからだった。どんなに強い攻撃魔法を作るよりも、メリアさんは他の世界に助けを求めたほうがいいと判断したから。メリアさんはずっと昔から戦っていたんだ。ボクが生まれるどころか、ずっとずっと大昔から理不尽と戦っていた。そんなメリアさんの助けになれるなら、こっちこそ本当に嬉しい。


「リュアさん!」


 リッタ達が集まって何事かと眺めている。と思いきや、何やら笑顔だ。


「あの、事情は聞きました。私、何も出来ませんし無責任な事しか言えませんけど……こっちは任せて下さい!」

「拙僧らが、へたれている連中のケツを叩いておく。こちらも戦の準備をせんとな」

「こんなとんでもないガキだと知ってたら、最初からちょっかいかけなかったっしょ」

「ついこの前、Aランク昇級試験に受かったと思っていたら遠くに行ったものです事のよ」

「私の音色がそちらまで届くかはわからないが、その心づもりで挑むよ。何がこようともね」


 それぞれの言葉に対して、何かがこみあげてくる。目頭が熱くなって涙が出そうになるのを必死に堪えた。これから恐ろしい連中が襲ってくるかもしれないのに、それでもこんな風に明るく送り出してもらえるなんて。

 五高の人達とは戦ったからこそ、結果的によかったのかもしれない。お互いの実力を知ったからこそ、かけられる言葉がある。リッタもムゲンさんもシンブさんもユユさんもローレルさんも、このアバンガルド国が誇る最高の戦士達だ。そんな人達に認めてもらった以上、失敗は許されない。


「おおっと! リュアさん、もうじき出発ですか」

「ジ、ジーニアさん」


 小型飛空艇からハシゴが垂れてきて、ジーニアさんがそそくさと降りてきた。この人にも無茶な事をお願いしたっけ。いつ戦いが始まるかわからないのに、考えてみたら準備なんか簡単に出来るはずがない。それなのに見送りに来てくれたんだろうか。


「この国の次はノルミッツ国に行かないといけないもので。あの城壁の上をご覧下さい」

「あ、あれって無心駆動隊(ハートレス)?!」


 いつの間にか、前に戦った機械兵達が城壁に並んでいる。見た目は殺戮駆動隊(ゾディアック)だけど中味は機械。あんなものまで用意してくれたんだ。


「数としては心元ないですが、当面の戦力補強としては十分でしょう。それと各地におられる猛者の方々にも連絡をとっていますので、更に心強いものとなりますよ。あなたがよく知る方々もいます」

「忙しいのにごめんね……」

「いえいえ、天界に行って神様と戦うよりはマシですよ。ですがここはせめて見送らせていただけたらなと……」


 その時は突然やってきた。皆の声は聴こえるけど視界が白くなり、何も見えない。ボク達2人だけが何かに隔離されたみたいだ。


「リュアさん! ファイト!」

「まぁそなたらならば、やってくれるだろう!」

「プラティウは置いてきました。ここに連れてきたらきっと駄々をこねると思うので」








 その声も段々と聴こえなくなり、完全に静かになった。正直なところ、一人だったらちょっと心細かったかもしれない。何せそこらのダンジョンとは違う。こことは違う世界なんだ。この手に握る暖かさ、これこそがボクの力の源といってもいい。

 ボクのクリンカはそれに応えるかのように、ぎゅっと握り返してきた。


「クリンカ」

「リュアちゃん」


 やっと互いの名前を呼び合ったところで、視界がハッキリとしてきた。


◆ シンレポート ◆


まさか


おい


このしんが てんかいに つれこまれたとかいう てんかい?

てんかいだけに?

だれ うま


あひっ


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