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第334話 神というもの

◆ イカナ村 リュアとクリンカの家 ◆


「シンちゃん。どうしてウソをつくどころか、プラティウちゃんに罪をなすりつけようとしたの?」

「ま、まさかこのガキがアリバイ作りと監視カメラまで用意してるとは思わずー……」

「プラティウちゃんのほうが何枚も上手だった事と、罪をなすった件は別でしょ?」


 クリンカのふわふわカスタードをシンが食べたせいで、拷問みたいな時間が続いている。さっきから2時間以上は経つし、シンも早く謝っちゃえばいいのに。というよりはクリンカが次々と質問するせいで、その隙すらないわけだ。謝られたらそこで許さなきゃいけないから、クリンカの怒りが収まらない。だからこそ波状攻撃を緩めない。

 これがクリンカを怒らせた結果だ。この世界で一番やっちゃいけないのは、クリンカのおやつを勝手に食べる事。シンはてっきりちぎられては再生させられるの繰り返しを想像していたみたいだけど、そのほうがマシだと思う。ネチネチと言われ続けている中で、いつ止めを刺されるかわからない緊張感を与えて疲れさせる。時々、杖でテーブルを叩くのもポイントだ。


「プラティウも、勝手に人の家にカメラとかつけないでね」

「リュアに気づかれないかどうかのテストもしてる」

「それで成功して何になるのかわからないけどやめてね」


「そうだよ、プラティウちゃん。同じ事をやられたら嫌でしょ?」


 さすがはクリンカだ。きちんと最もな理屈を立ててプラティウを納得させている。ふくれっ面をしながらも、渋々テーブルに上がって天井の隙間につけられていた小型カメラを外した。こういう悪質なのはきっちりと怒ってやめさせないと。物心つくかどうかの時にまともな親から教育を受けてなくて、そういう善悪の区別がつかないところがあるってジーニアさんが言ってたし。


「それで茶番は終わりか?」

「ごめんごめん、話続けていいよ。ダイガミ様」


 尻尾をゆらゆらさせて明らかに不機嫌だ。そんな事言ってもまさか帰ってきたらこんなトラブルになるとは思わないし、強引に引き返させたのはダイガミ様だ。とりあえず頭を撫でてあげたら、目を細めてくれて喜んでるっぽい。


「天界、ね……。つまりダイガミ様はそことボク達が全面戦争をするハメになりかねないから手を出すなと言いたいの?」

「あの方々は天界の住人でもあり、マディアス様の眷属でもある。即ち、あの方々に牙を剥くという事はマディアス様に……」

「ダイガミ様よりもマディアスのほうが上の神様だから心配してるんだよね。でもさ、このままじゃボク達はその天界にいいようにされるんだよ」

「……覚悟はあるのか?」


 テーブルの上に登って寝そべったまま、ダイガミ様はボク達を見定めている。それは単に戦う覚悟だとか、そういうのを聞いているだけじゃないのはなんとなくわかった。


「天界の兵力をもってすれば、この人間界を制圧するのにそれほど長い時間は要さないだろう。戦う力のない者も含めて、大勢が犠牲になる。リュアにクリンカ、お前達にすべての人間を守る事ができるのか?」

「……やりたい事をやろうとするってやっぱり難しいね」

「天界が何故……彼方の昔から人間界に手を出さなかったのか。言わずともわかるだろう。中でもあの灰天使ゼイエル様は聖天使の位を持ち……」


「守護天人は天界でも指折りの実力者達。人間界で言うならばSランク……いえ、五神のポジションでしょうか」


 ジーニアさんが壁にもたれて、得意げに人差し指を立てていた。勝手に入ってきてるのはもう何も言わないけど、何の用だろう。


「灰天使ゼイエルも、わずかながら記録に残っていますねぇ」

「ジーニアさん。ノックくらいして下さい」

「すみません。プラティウが招き入れてくれたもので」

「こらっ!」


 勝手に人の家でそういう事をしないでと教えたばかりなのに。この際、それはどうでもいいや。プラティウにとってジーニアさんは親みたいなものだし、あまり怒るのもちょっとかわいそう。


「ゼイエルについて何か知ってるんですか?」

「いいえ、さっぱり。ただ伝承の存在として語り継がれている程度の認識しかありません。何せ天界についてはメタリカ国でもほとんど把握できていないものでして。ですが今日は面白い物をお見せしようかと思いましてね」

「何それ。円盤?」

「ブランバム将軍が残したディスクです。サタナキアの中枢から発見されました。この中に彼のメッセージが入っているんですよ」

「へぇ……あのブランバムが……」


 子供を失った事で怒り狂い、メタリカ国を滅亡に追いやったブランバムが何を残したんだろう。ジーニアさんが何やらそそくさと機械を用意してディスクとかいうのを入れる。

 どこに書かれているのかと思ったら、空中にあのホログラフとかいうのが出た。それはボクも知っているあのブランバムの姿だ。だけど、あの完全人間(メタリカン)と同じ人とは思えないくらい普通のおじさんという印象だった。


「これが起動されたという事は私の暴走を止めてくれたのだな。礼を言う、瞬撃少女リュアよ」


「…ウソでしょ! ブランバムが生きてるの?!」

「……いいえ。恐らくあなたがそうすると見越して予めメッセージを込めたのでしょう。記録された時期はあなた達がメタリカ国を訪れた日と合致していますね」


 あんな時から、自分が暴走してボクに負ける事を予想していたなんて信じられない。それなら尚更、あんな事にならずに済んだんじゃないの。全然理解できない。ブランバム、もしかしたら本当はあの人も救えたんじゃないか。今になってそんな考えが浮かぶ。


「伝えたい事はマディアスについてだ。マディアスは調停神の名の通り、世界の調律を行っている。もしこの辺りの概要を把握していないのであれば一度ディスクを停止して、ジーニア局長辺りにでも聞いてほしい。


……把握したものとして続けるぞ。私は国内における機械化計画を推進していると共に、コリン所長と連携してマディアスについて調べ上げた。過去において、奴は幾度もメタリカ国を滅ぼさんとあの手この手を尽くしてきている。


 そのスパンは100年以上の開きがあれば、数十年と短い場合もある。手段はいずれも津波や落雷、大地震による大災害や魔物の襲来……それらをメタリカは技術の粋を尽くして打ち破ってきた。そこで我々はマディアスの力について研究を重ね、おおよそであるが特定したつもりだ。


 あらゆるデータや事象を洗い出して導き出したその力の正体は、”すべてを引き起こせる”という結論だった。笑い飛ばしてもらっても構わないが、ウーゼイ教の崇める神と合致しているのもすでに突き止めている。ウーゼイ教が崇める神はマディアス。名前こそ教典に書かれていないが内容と照らし合わせた結果、そこにある”奇跡”というものがマディアスの力で間違いないだろう。


 通常の災害などは我が国においては発生する前にその時期を特定して予め対処し、被害を極最小限に止める。ところが過去からの観測データ上では、それらが特定できていない未曽有の大災害に見舞われた時期もあった。

 出現した魔物についても、いずれもそれまで世界のどこにも存在していない未知のものであった。その未確認の生物が一斉にメタリカに襲いかかったのだ。その昔はこれらがまさか神などという者にもたらされたものとは考えなかった。現代の技術の賜物だな。それまでは原因不明の事象とされていたのだから。

 それで、年代を遡って掘り下げて調べ上げるうちに一つの種族に辿り着いた。


 それは天界人だ。おおよそ2000年以上前に我々人間と接触した記録を、かろうじて拾い上げた事で明らかになった。そこで明らかになったのがそいつらと”神”などという偶像との関係性だ。こことは違う天界という世界がある事。そこにはこの世界を監視する者がいるという事。


 残念ながら彼ら天界人については、これ以上詳しく調べる事が出来なかった。詳細は省くが現代において、我々はようやく神という存在を知った事になる。これまでの不可思議な災害はすべて神によるものだった事、その力の解明が成された事……。そして、調停神マディアスとはそもそも何者なのか。


 マディアスの目的は世界の維持だ。魔物で溢れかえればそれらを滅し、人で溢れかえれば滅する。世界の均衡を保つ為の存在であり、そこに人がいるかどうかは関係ない。だからこそ我々人間が強い文明を持てば、それは世界を害すると判断される。つまり、メタリカが狙われるのは必然だったのだ。奴は”奇跡”で滅ぼそうとした。だがここで疑問が残る。我々が知る奇跡ならば、それこそすべてを可能にするはず。つまり、もっと簡単に捻る事もできたはずだ。


 何故、力の降りかかりにスパンがあるのか。何故、何度も防がれている大災害や魔物の襲撃一辺倒なのか。考えられるのは我々のその力に対する認識が浅いか、もしくは……マディアス自身が万能ではないからだろう。


 そう、マディアスの力には何らかの制限があるか。それかマディアス自身が力を使いこなせず、早い話が未熟であるからだろう。いずれにしても世界を調停するという立場にある割にはやり口が荒すぎる。


 どちらかというと、マディアスは我々の言葉でいうと”システム”に近いものがある。与えられた命令を忠実に実行する。世界の維持という名目で人間、魔物、他種族のどれかに害を成す。そこには融通というものがない。古臭いシステムなのだ。


 だとすれば、もうマディアスは壊れている。もたらしている事象があまりにお粗末極まりない。だがすべてがメタリカのように屈強ではないのだ。このままではいずれ人類はマディアスによって滅ぼされる……そうなる前に完全にならねばならない。人が完全になればよいのだ。


 息子を失ったこの怒り、時と共に風化すればどんなに楽だったか。今ですら増幅してはれ上がりつつある。リュア、お前に無限の可能性を感じた今をもってもな……」


「はい、ここまでのようですね」


 ホログラフが消えた。ジーニアさんがディスクを取り出している間にも、ボクはブランバムが言った言葉をすべて受け止めるのに精いっぱいだ。ブランバム、そこまで調べておいてどうしてあんな事に。ボクなんかよりずっと頭がいいのに。


「こんなの残しておきながら、どうして隠しておいたんだろ……」

「それは知る由もありませんが、彼自身も葛藤していたのかもしれません。自らの感情を抑えられない中で、わずかな良心がこのメッセージを残したのでしょう」


 プラティウをひどい目に遭わせたり、許せない奴だったけどそれでも人間であろうとしたのかも。改めて大切なものを失う事の大きさを思い知る。ずっとマディアスの事を壊れているだなんて言ってたけど、ブランバムだってすでに壊れていたんだ。マディアスも壊れている、ボクはその言葉をじっくりと受け止めた。


「……マディアスって結局何なのさ」

「いやぁ、しかしまさかブランバムさんがコリンさんと結託して水面下でここまで調べていたとはねぇ。私をのけ者にして……やはりあの2人ができているという噂は本当でしたか」

「ねぇ、そんなのどうでもいいからさ。マディアスって何だろう?」

「神でしょう?」

「だから神って何なの? 人間じゃないんだよね? いや……それも違うか」


「神と呼ばれた何か、じゃないかな」


 ボクが引っかかっていた何かをクリンカが引き出してくれる。確かに神様というのがどうにも納得いかなかった。ボク達人間や動物、魔物。エルフや魔族、ドワーフ、巨人。それぞれ種族は違うけどきちんとした生き物だ。神様は神様という種族なのかな。いや、どうもそれは納得いかない。


「マディアスの正体は天界人、と考えるのが妥当でしょうね」

「その天界人は我々よりも遥かに高位の存在だ。故に彼らに牙を剥くという事は……」


「ダイガミ様だって今は神様だけど、元は動物だったんでしょ?」


 ピクリと耳がこちらに向く。怒らせてしまったかもしれないけど、ブランバムのメッセージで一つの答えを出せそうだったから構わない。


「神様ってさ……すごい力を持っている生き物なんじゃないの? あの天界人だって、きっと種族が違うだけで同じ生き物だよ。偉そうにボク達の事を人族とか言ってるけどさ」

「そうです。世界の始まりより存在している高次元の何か、という解釈よりは建設的かと。少なくともブランバムさんはそう考えていたようですね」

「コリンも一緒に調べていたんだよね。どう考えているんだろう? って、ボクのせいでおかしくなっちゃったんだっけ……」

「今はだいぶ快方に向かっていますよ。ですがあなたの事は相当恨んでいるので会うのはお勧めしません」


 嫌われちゃった。だけど元々はあっちから仕掛けたきたんだ。ボクからは絶対謝ってやらないぞ。クリンカだってうんうんって頷いている。え、ボク喋ってないのにわかるの。こわい。


「神という概念に捉われすぎていたようですね。恐らく神とは卓越した力を持った何かへの敬称でもあるかと」

「だとしたら、どうだ? マディアス様が人智を凌駕した存在である事には変わりない。天界の方々とて同じだ。人間界の人間よりも優れた力を持っている事実には変わらぬ。それに……調停神の名の通り、あのお方のおかげで成り立っているものもあるのだ」

「世界の維持ですよね?」

「そうだ。もしマディアス様がいなくなれば、それこそ未曽有の災厄が降り注ぐ。マディアス様によって抑えられている、未だ見ぬ災厄が世界の至る所に眠っている。ヴァンダルシアやルルドなぞ、比較にもならん災厄もあるだろう。今一度問うぞ……」


 ダイガミ様がテーブルの上でお座りしながら、ボク達を順番に見定める。ボク達、人間が正しい選択をするように導こうとしているんだ。ダイガミ様はアズマの守り神だけど、人間が好きだからそうなっている。ここにいる人達も例外じゃない。だからこそ強く言うんだ。


「お前達に世界の行く末を選択できるのか?」

「出来る。この世界に住んでいるボク達が決めて何が悪いのさ」

「……即答か」


 ダイガミ様がテーブルから降りて、床で丸くなる。急にやる気がなくなったみたいに、長い尻尾を体に巻き込んでいた。


「人が神の手から離れようとしている……か。嬉しいようでもあり寂しくもある」


 それはアズマの守り神としての言葉だった。人間が好きだからこそ、ここまで真剣になってくれている。だからこそ心配でたまらないんだ。ボク達がマディアスに滅ぼされたら嫌だから必死に止めてくれていた。


「天界との戦争になんかさせないよ。ボクの力を全部使ってでも止めるから」


「ジーニア局長! 大変です!」

「おや、ハープさん」


 緊迫した空気を壊したのはハープという白衣の女の人だった。確か飛空艇にいるプラティウに会いに

行こうとした時に対応してくれた人だ。そのハープさんが小さな画面のついた機械を持っている。


「小型モニタなんか持ち込んで、どうしたのです?」

「すぐにチャンネルを繋ぎますね!」


「これは……」


 モニタという画面に映し出されたのは空一面を覆う船団だった。空飛ぶ飛翔船、これは確かトルカリア連邦とかいう人達のものだ。その真ん中を泳ぐのは天空砲を思い出すほど大きい船。周りの空飛ぶ船達のボスと言わんばかりに、その存在をアピールしていた。


「場所はアバンガルドより北の海。かろうじて生きていたメタリカの衛星がキャッチしました」

「トルカリア連邦の主力船隊……そしてあれはギーガアトラス級強襲空船”キュクロプス”。穏やかじゃないですね。我々に協力していただいているカーチス少将とは連絡を取ったのですか?」

「はい……あの方も、この件についてはかなり混乱されていたようで。あの船隊とコンタクトを取ろうにも、今の我々の設備では叶いません」

「ねぇ、ボク達が行こうか? もし侵略しようとしていたら大変だもの」

「いえ、それは……話がこじれたらまずいのでご遠慮下さい。まだ侵略と決まったわけではありませんし、私の予想では恐らく……」


 静かにこっちを目指している空飛ぶ大船団を、ボクは指をくわえて見ているしかなかった。同じトルカリア連邦のカーチスさんといえば、サタナキアで会った事がある。あの人はいい人そうだったけど、画面に映っている大船団に対しては胸騒ぎがした。余計な事をしてくれそうだと、直観が言っている。


◆ シンレポート ◆


くそう まさか あのがきに いっぱい くわされるとは

かめらなんか つくりやがってからに だいたい ざいりょうとか

どこから ちょうたつした

くやしい くやしい くやしいいいいい ぐぎぎぎぎ


せかいのききだというのに きつねが このごにおよんで なにを

いいよって からに ぐぎぎ

めたりかんの めっせーじなんぞ なんの こうりゃくに なるのか

のうりょくの すぱんとか ぐぎぎぎ

あげく とるかりあ れんぽう?

かってに やらせとけです

むかつきすぎて れぽが はかどらない

こんかいは もういい

つまみぐいは もうしないけど あのぷらてぃうにだけは りべんじしてやる

このままでは まぞくとしての ぷらいどが おさまらない

おぼえて やがれ

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