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第32話 ボクの誇り

道幅が何人並んでも歩けるほど広い。

それに加えて人の行き交いでまともに歩けない。

向かいから来る人にぶつかって舌打ちされた。

4、5階はありそうな高い建物、派手でゴテゴテな何の店なのか

想像もつかない大きな店。

綺麗な町並み、そうとしかいいようがない。

そしてはぐれたら二度と宿まで戻ってこれなさそう。

これがアバンガルド王都に抱いたボクの感想だ。


「それじゃ、ここでお別れだな。

 いい旅しろよ」


「はい、いろいろありがとうございました」


右手をひらひらさせながらセイゲルは歩いていった。

最後の最後までなんかキザな奴だった。

でもロエルはなんだか彼に憧れてそう。

ボクだって負けてないのに。


「じゃあ、祭りで会いましょ!

 多分この辺で露店出してると思うから」


そういってシンシアも人ごみの中に消えていった。


「それじゃ、ギルドにいって清算しようか」


「そうだね、Bランクになれるかな」


そうだ、早くBランクにならないと。

そしてAランクじゃないとイカナ村には入れない。

セイゲルさんからもらった地図を頼りにボク達は冒険者ギルドを

目指した。

でも冒険者ギルドがしばらく見つからなかった。

いや、正確にはそこが冒険者ギルドだと気づかなかった。

クイーミルのギルドみたいに木のドアじゃなく、ガラスで出来た

扉が3メートルほど広がっている。

外から見れば5階はありそうな、ホテルのような見た目。

中に入れば奥に大きいカウンターが横一面に広がって

何人ものギルドの人が忙しそうに働いている。

クイーミルだとカウンターにいるのはリンテイさん一人だったのに

ここでは一体何人いるんだろう。

ねぇ、ロエル。あれ、なんか魂が抜けたみたいになってる。

あぁ、そうか。ロエルも驚いているだけか。

いや、まだロイヤルゼリーを見ていた。

ちゃんと前みて歩かないと……


「はい、クイーミルでのこちらの護衛依頼だね。

 完了という事でこれ報酬」


約束通りの報酬を受け取ったはいいけど肝心の事がわからない。


「あとどのくらいでBランクになれるの?」


「あー?」


なんかめんどくさそうに紙の束をめくり始めた。

リンテイさんは丁寧だったのになんかこの人はぶっきらぼうだ。


「ついこの前、Cになったばかりじゃないか。

 Bになるにはもっともっともっと実績残さないと」


「実績って?」


「はいはい、後ろの人が待ってるからあっちいった」


手でシッシッと追い払われた。

なんだあいつ、ボク達が何をしたっていうんだ。


「人多いからね、邪魔になってたみたい」


ボク達の後ろにはずらりと冒険者が並んでいた。

左右のカウンターにも同じくらいの列が出来ている。


「Bランク、確認っと。ミスリル鉱山への入山は問題ないね」


「よし、Bランクに上がった甲斐があったぞ」


3人の男の人と女の人のパーティが和気藹々としている。

あの人達がBランクなのにボク達はCランク。

あの人達はどんな実績を?


「そうだリュアちゃん。久しぶりにレベル計ろうか。

 もしかしたらここならリュアちゃんのレベルがわかるかもよ」


「あ、そうだね。ええと、どっちへ行けばいいのかな」


どこへ通じているのかわからない通路がいくつもあった。

でもロエルは迷う事なく歩き出す。

ここに来るのは初めてのはずなのに。


「あの天井からぶらさがっている看板を見れば大丈夫」


そうか、あそこに書いてあるのか。

ボクの読めない字ばかりでわからなかった。

最近は平仮名はなんとか読めるようになったけどそれ以外が

さっぱりわからない。

勉強というものがどうにも苦手で、眠気がすぐに襲ってくる。


着いた先にはこれもクイーミルとは比べ物にならない数の

レベルチェッカーが並んでいた。

今まで鉄の箱だと思っていたけど、どうやら名前があったらしい。


「レベル34きたこれ! 強さならAランクなのになぁ……」


しょんぼりしてレベルチェッカーから出てくる冒険者。

あの人もBランクなのかな。


「今年のAランク昇格試験で勝負だぜ。

 去年の雪辱を糧にこれまでがんばってきただろ?」


仲間の人が言ってるAランク昇格試験って前にも聞いたな。

でも試験って聞いただけでなんか寒気がするのは気のせいか。


「そうだな。でもなぁ、あんな試験で何が計れるんだか。

 要は強けりゃ問題ないだろうに。

 今のAランクはそこまでご立派なのかねー」


「それだからおまえらは万年Bランクなんだ」


そういって近くのレベルチェッカーから出てきた男は

冷たい目をしていた。

グルンドムほどじゃないけど、大柄で筋肉もりもりだ。

目は細く、喋っても口はへの字のまま動かない。

そのくらい硬い顔をしている。


「ゲッ! "クラッシャー"ヘカトン……」


「そんなにAランクに上がりたければ明日の闘技大会で

 優勝でもしてみるんだな。それでなくても準決勝まで

 残れば望みはある」


ヘカトンの後ろにはすごい大きさのハンマーがある。

ガンテツさんの斧よりもインパクトがある。


「ま、おまえらじゃ無理か」


冒険者の二人は何も言い返さない。

あんな事言われて悔しくないのかな。


「どれどれ、レベルは……54か。

 やれやれ、また一つ上がってしまったようだ」


嫌みったらしい。ヘカトンだかドカポンだか知らないけど

Aランクだからって威張りすぎだ。

いや、万年Bだと馬鹿にしていたからあいつは多分Aなんだ。


「口だけじゃないなら、出ろよ闘技大会。

 受付は夜遅くまでやってるから、へっぴり腰Bランクでも

 その時までには覚悟がつくだろう。ハッハッハッハッハッ!」


そういってヘカトンはノシノシと歩いていった。


「あぁビックリしたぁ。まさかクラッシャーヘカトンさんまで

 ここにいたなんてねぇ」


「ロエルはあいつを知ってるの?」


「Aランク上位でセイゲルさんほどじゃないけど有名だよ。

 あの大金槌はオリハルコンどころか魔法結界すら破るほどで

 ついた通り名が"クラッシャー"

 でも、あんまりいい噂は聞かないな……」


「だからあんなに偉そうなんだ」


いや、それよりも受け付けがどうとかいってたっけ。

闘技大会に出るならその受け付けをしないとダメなら……


「ロエル、闘技大会に出るなら受けつけにいかないと

 ダメなんだよね」


「あ、そうだね。ええと、確かお城のほうで……」


もらったパンフレットで城の位置を確認する。

ここに書かれている地図だけでも眩暈をおこしそうなほど

王都は広い。A地区、B地区など分かれているけど

このA地区だけでもクイーミルより広い。

えーと、ここがギルドだからここからこう曲がってそこから……


「あーもう! わかんない!」


「ちょっと、パンフレットほうりなげないでよぉ……」


気がついたらクスクスと笑われていた。

さっきの冒険者二人も。


「老婆心ながら忠告してやるけどさ、やめておきなよ。

 毎年恒例のアバンガルド闘技大会、Aランクの上位も出場してくるし

 下位ランクの入る隙なんかない。

 それにルール上で殺しは禁止だけど、ひどい怪我をおって

 二度と歩けなくなったり、腕が使い物にならなくなる奴が毎年いるんだ。

 観戦して勉強したほうがいいんじゃないか?」


冒険者のおじさんが優しく忠告してくれた。

でも引き下がる気なんてない。


「君はレベルいくつなんだい?

 ヘカトンも恐らく出場する気だ。

 他に目玉がいなければあいつが優勝候補の一人だよ」


「あ、レベル……」


レベルと聞いて思い出した。

さっさとボクも計ろう。


光の輪がボクの体を通過する速度がクイーミルのレベルチェッカー

よりも速い気がする。

そろそろ、レベルが表示されるはず……


え?


「どうだった、リュアちゃん?」


「ううんとね、999……」


「きゅ、きゅうひゃくきゅうじゅうきゅう?」


「うん、これって高いほうだよね。

 ヘカトンが54だし……」


ボク達の周りにたくさん人が集まってきた。

そしてあまりに静かだ。


「なぁ、このレベルチェッカーの最大値が999だよな?」


「そう、でも一応は3桁最大まで計れるってだけだ。

 レベル100超えなんてSランクくらいだし

 本当は二桁でも十分すぎるくらいだよ」


「故障かもしれないぞ。誰か呼んできたほうがいいか?」


また故障?

ボクが使うときだけ?

でもクイーミルの時はオーバーフロー。

今度はちゃんと書かれていたのに?


「リュアちゃん、私信じるから……」


ボクの気持ちを察してくれたのか、ロエルがボクの手を

ぎゅっと握ってくれた。

あの時みたいにギルドの人がレベルチェッカーを点検してる。


ボクは奈落の洞窟で十年間戦い続けた。

それは今でもボクの誇りだ。

だから、単なる故障で片付けてほしくない。


「どこにも異常は見当たらないな。

 後で精密検査してみますわ」


ギルドの人が忙しそうにまた戻っていった。

ボクの冒険者カードには999ときちんと書かれている。

それを眺めていると隣にいたおじさん冒険者が

信じられないといいたそうな顔をしている。


「間違って書かれちゃったねぇ。

 後でギルドの人がなんとかしてくれるよ」


「うるさい」


そんなに信じられないなら信じなくていい。

その場にいるのも辛くてボクは足早でギルドを出た。

ロエルが慌てて追いかけてくる。


そんな事より闘技大会だ。

大会に出てボクのレベルがインチキじゃないって

ハッキリさせてやる。

城の方角はっと……


「こっちだよ、リュアちゃん」


ロエルが先行してくれた。

遠くに城が見えるのに、一向につかない。

路上ではちらほら、お店らしきものが並ぼうとしている。

もしかしてお祭りの準備かな。


城の入り口から高い石の塀が続いてる。

普通の家のものの何十倍も高い、思わず見とれてしまった。

そして入り口の前には橋がかかっていて下に川のようなものがある。

その向こうに兵士が二人立っていた。


「なんだろうね、この川」


「跳ね橋っていってね、このロープがあっちのほうにぐいーっと

 引き上げられれば橋も上がっちゃうの。

 外敵対策になるんだよ」


「へぇ、ぐいーっと上がるんだ」


雑なようでわかりやすい説明だ。

橋を渡りながらボクはそのロープのようなものを眺める。

兵士二人の前を通り過ぎて勝手に入ろうとするボクを止めて

ロエルが兵士の人に闘技大会の事を聞いた。


「大会参加者か?

 エントリー受け付けならば中で行っている」


入ると大広間の真ん中に人だかりがあった。

あそこでやってるのかな?


「私は参加しないからリュアちゃん並んでね」


「あ、そうだね」


兵士の人が3人で受け付けをやっていた。

周りには冒険者みたいな人から、この前の山賊みたいな

顔をした人まで様々だった。

中には女の人もいる。裸の上に鎧を着たみたいな

恥ずかしい格好をしてる。


「これに必要事項を書いてくれ」


外の世界に来て初めて泣いた時を思い出す。

字が書けなかったあの日のボクとは違う。

ボクは成長したんだ! 今こそその成果を見せる時だ!


「はい、なになに……りゅ、りゅあ、と読むのか?

 ぼうかんしゃ? もしかしてぼうけんしゃか?

 もう少し読めるように書いてほしいものだな……」


誰かがプッと噴出した。

ウソだ、ちゃんと書いたはず。

あ、ぼう「け」んしゃだった……


「まるで子供みたいだな、いや子供だったか」


覗き見してきた隣の冒険者が笑いをこらえている。

悔しい。あんなにがんばって勉強したのに。


「リュアちゃん、どんまい」


ボクの肩に手を乗せて優しく慰めてくれたロエル。

その優しさだけでボクは救われた。

ありがとう、ロエル。君はあまりに優しすぎる。


「なんとかエントリーは終わったね。

 明日は午前から予選が始まるみたいだから急がなくちゃ」


「ヨセンって何をやるんだろう?」


「うーんとね、本戦は8人で勝ち抜きトーナメントを

 やるんだけどその8人を決めるのが予選みたい」


「なんだ、普通に戦えばいいのか。

 ボク一瞬だけ焦ったよ」


何か特別な事をやるわけでもなさそうだ。

優勝できるかはわからないけど、そんなところではさすがに

躓きたくない。


「ほう、今年は今のところ397人か。

 去年よりも増えたな」


「あ、隊長! お勤めお疲れ様です!」


兵士三人が立ち上がってビシッと挨拶した。

隊長と呼ばれた人も同じポーズをとっている。


あ、あの隊長って……

クイーミルであの夜、変な怪物の死体を持っていった人だ!

そうか、ここの兵士だったのか。

ん、でも隊長っていったっけ。


「どれどれ、今年はティフェリアの奴は参加しないのか。

 まぁあいつの事だから面倒臭がってギリギリまで

 エントリーはしないだろう」


「ティフェリア殿に出場されたら優勝が確定しちゃいますよ……」


「おや……」


隊長がボクに気づいたらしい。

でもすぐに視線をそらす。

ボクはあの夜の事が気になったから思い切って隊長に話しかけた。


「ねぇ、あの夜会ったよね?」


「ん? よくわからないが人違いだろう」


「ウソだ、あの時……」


そこまで言って思い出した。

あの時握らされたお金。

忘れてくれというセリフ。

あれは黙ってるかわりに渡されたものだったのか。


「リュアちゃん、まさか知り合い……?」


「いや、知らない。宿に帰ろ」


なんだか気まずい。

ボクは逃げるように城から出た。

これでいいのだろうか。

あの怪物の事、何か隠さなきゃいけないような事なんだろうか。

でもこれ以上聞くのは、あの顔の長い隊長の人に悪い気がした。


【リュア Lv:999 クラス:ソードファイター ランク:C】

【ロエル Lv:16 クラス:ヒーラー ランク:C】


///


「今の子も出場するのか?」


城から出て行った二人の冒険者を見送るカークトン。


「え? えぇ、エントリーは済ませてますね」


「そうか……」


そういうとカークトンは踵を返して歩いていった。

安堵とも驚愕ともとれる、複雑な表情だった。


「珍しいな、カークトン隊長があんな事いうなんて」


「あぁ、なんか変だったよな」


自分達の隊長が単なる冒険者の子供を気にかける。

兵士達にとっては異例の事だった。

ここにいれば当然、エントリー希望者である事は明白なはず。

当たり前の質問を隊長は何故してきたのか。

兵士二人にはわからなかった。


「あの怪物を倒した子供が出場するのか……」


もう一人の兵士を除いて。

しかしその呟きはエントリー会場の喧騒と共にかき消され

同僚二人の耳に入る事はなかった。

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