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第323話 憤怒に纏われし傀儡 後編

◆ アバンガルド王都前 ◆


 思った通り、イカナ村の人ってだけで入れてくれなかった。お父さんがこれぞ本当の門前払いだな、なんて笑う余裕を見せてくれる。ヴァンダルシアの件もあって警備がものすごく強化されているし、今の王都に侵入するとしたら、戦争を仕掛けるくらいの勢いと戦力がないと厳しい。

 それに加えてあの裸の王様だ。イカナ村の作物の取引停止どころか、王都への立ち入り禁止。無理に侵入しようものならどうなるか。というか門前の検問前の壁にイカナ村出身、及びそれに関わる人間の立ち入りは認めないって書かれてた。おかげで親しくしてくれているクイーミルのパブロさんや道具屋のシンシアまでとばっちりだ。


「ネントロはスキルを使って王都に入ったのかな?」

「違うと思う。あの裸の王様が黙ってるはずないし、そうなると考えられるのはネントロと裸の王様はグル……かな」

「クリンカちゃんの見立てでほぼ間違いないだろう。私達への妨害は個人的な恨みもあるだろうが、ネントロにしてはやり方が大人しい。奴ならイカナ村の人間全員を操るくらいはやるからな」

「もー、陰湿極まってるよねー。アタシみたいにもっとスカッとする戦い方とか出来ないものかねー?」


 ここにいるのはボクとクリンカ、それにお父さんとエルメラだ。エルメラの想像魔法もかなり陰湿だったし、人の事言えないでしょとは今回に限って言わない。

 メリアさんはまたネントロがイカナ村に何か仕掛けて来た時の為のお留守番だ。王都からスキルを届かせるくらい強くなっているし、要人に越したことはないと思ったから。


「で、粘土は見事裸の王様と組んで王都という安全圏にいるわけだけど? どうすんの?」

「まずは王都に入らなきゃ。そのためのエルメラでしょ」

「この人使いよ」


 警備が厳しいといっても所詮は王都の警備隊。特務隊もいるだろうけど、いくらレベルが上がったところでエルメラの想像魔法を出し抜けるとは思えない。今回に限った話じゃないけど、ボクだけじゃ苦労した場面が本当に多い。強くなっても出来る事に限界はある、奈落の洞窟にいた頃のボクに言っても理解できないだろうな。だからエルメラには心の奥底で感謝している。でもまだお礼を言うのは早い。調子に乗られて腹立つから。


◆ アバンガルド王都 東通り ◆


「うっわ! これ魔力で感知とかさせない気だわ! リュアちん! 諦めよ!」

「なんでさ。諦めるとかないから」

「粘土が操ってる奴から操ってる奴へ、放射状に糸を伸ばしてるからどれが本体かわからんのよ、これが! 帰ろ!」

「ダメだからね。今帰ったら粘土の勝ちだからね」

「ないわ!」


 どこへ行ってもこんなノリだから疲れる。つまりエルメラが言うには、操っている大元だけに糸が中心に集まっているだけじゃなくて、その大元がいくつもある状態だ。エルメラが感知した限り、かなりの数の大元がいる。こればっかりはボクやクリンカじゃどうしようもない。


「その大元を一つずつ当たって、リュアの破壊でスキルごと消せばいい。エルメラちゃんは絶えず、魔力を感知していてくれ。その過程で妙な動きを見せた奴がネントロだ」

「さすがおじさま! リュアちんの生みの親とは思えない聡明さ!」

「娘をバカにされていい気分はしないな」

「ごめんなちゃい」


 実直、真面目のお父さんとエルメラは今一相性が悪い。ボクとしてはいい傾向だ。いつもはふざけて聞かないんだろうけど、何故かお父さんの言う事だけは聞く。なんで。


「でもこれ、何千人って規模なんだけど」

「がんばろう。ネントロの魔力とて無限ではない。それにモタモタしていると王都から逃げられてしまうぞ」

「じゃあ、この透明化のスキルは解除する? 解除したら魔力も粘土に感知されちゃうけど」

「解除を頼む。私が目の前に現れたなら、確実に動揺する。些細な動作も見逃すつもりはない」

「あれ、でもお父様が粘土を見つければそれで充分でしょ?」

「変装や擬態している可能性もある、用心するに越した事はない。操られている端末にそこまでの仕草は要求できんだろうしな……ん、お父様?」


 エルメラのスキルのおかげでボク達の姿は誰にも見えていない。だから逃げられる前にここはスピード勝負、どれだけ早くネントロに操られている人を開放できるか。


◆ ??? ◆


 我が魔力が次々と潰えていく。最初は東通りの端末、これは所要時間にして約1分程度と言ったところか。1分もあれば近くの端末からまた連鎖する束縛糸(マリオネットチェイン)を繋いで復元可能だ。しかしこちらの復元をも上回る速度で我が端末が潰されている。あの小娘の破壊による仕業だ、そうでなければそこらの使い手に我がスキルを打ち破れるはずがない。破壊という概念の前ではどんな事象も消えてなくなってしまう。これは理屈ではない、概念がそうさせているのだ。破壊という結果だけがそこに残る。破壊という概念があるからだ。


「お客さん、飲みすぎじゃないですか……?」


「うるさい! 客が自分の金で飲んどるんだ!」

「そーだ、そーだ。人生楽しんだもん勝ちよ! ほれ、じーさん! 俺からの奢りだ! ガッハッハッ!」

「うるさい店ねぇ。静かにお食事させていただけないかしら」

「ママー、ねむいー」

「どうしよう……明日から本当にどうしよう……ブツブツ……」


 この喧噪の中、身を潜めているのも限界か。ここから逃げる算段を立ててふと思い直す。もし奴らがこちらの魔力を感知しているのならば、それこそ逆効果だ。むしろ奴らはそれを狙っている。

 そもそも敵はあの小娘2人だけではない。あのエルメラまでが奴らに加勢とは完全に計算外だった。あのエルフの小娘が人間とつるむなど、予測できるはずもない。何故、エルメラが。解せぬ、そして許しがたい。


「酒失くして何が人生か。健康だのなんだの気を使ってやりたい事もやれんようでは生きてる意味などないわ」

「じいさん、いい事言った! そっちの兄ちゃんも職なんざいくらでもあるって! 俺からの奢りだ!」

「いいなぁ、あなた達は……もういっそ冒険者でも目指そうかなぁ……」

「もう、本当にひどい店ねぇ。客層も下品極まりないわぁ」

「マーマー……」


 おのれ、エルメラめ。こんな事になるのであれば、ファントムの時にもっと飼いならしておくべきだった。虐げられてきた身ならば、どいつも度し難い存在だという事がわかるはずだ。ヴァンダルシアが噛んでいたとはいえ、エルフを絶滅に追い込んだのは他でもない人間だ。魔族を滅ぼしたのは誰か。それも人間だ。

 同じ人間である我々を人外の身に落とし、引き裂かれるような痛みを伴わせたのは誰だ。それにも関わらず、この王都を見渡しても己の春を謳歌していると言わんばかりの連中が多すぎる。だから決めたのだ。こいつらのみならず、それを邪魔するリュアだけは。我が同胞を冥府に叩き落したあの小娘だけは。

 あのふざけた男からは王都の人間を傷つけるなと言われたが関係ない。元を辿ればあの男も勇者一族に加担した人間の末裔だ。いずれは殺すと決めている。あの男の天性ならば、味方につけておけばうまく事が運ぶと思ったがこの様子では怪しい。


「もう……すべて消えてなくなれッ!」


 連鎖する束縛糸(マリオネットチェイン)、最大出力。我が糸により、たった今から自害する人間が出る。この調子でまずは王都を壊滅させてやろう。何がどうなろうと関係ない。その気になればこんな国は一瞬で消せる。スキルだってその為に磨いた。いざとなればアレだって出来る――――


「そこまでだよ!」


「……ッ!」


 ドアが乱暴に開かれたと同時にあの小娘が――――


◆ アバンガルド王都 酒場”昼行燈” ◆


 ここから放たれている魔力の糸は全部断ち切った。ボク達に追い詰められて痺れを切らしたのか、一気に魔力を高めたのが仇になったみたい。そのせいでエルメラに発信場所を特定されたわけで、当のネントロはというと。


「……お父さん。ここにネントロがいるの? どの人?」

「間違いない。そこにいるぞ」

「え……そこにって。えぇ?!」


「ネントロ、久しぶりだな」


 お父さんがネントロのほうを見る。酒場のカウンターにはおじさんとおじいさんと若いおにいさん、テーブルには女の人と子供が座っていた。誰もがきょとんとしている中、お父さんは確実にネントロを見据えている。


「お前のスキルはここにいる娘達によって断ち切られた。どうだ、少し話をしないか? 何も敵対する必要性などないのだ」


「マスター、なんじゃこの連中は! 無粋にも程がある! すぐに追い出せ! 酒がまずくなる!」

「はぁ……あの。他の方の迷惑になりますので……」

「まぁまぁ、いいじゃねぇか! ここに来たって事は客だろ?」

「つらい……もう生きるのがつらい……」


 あれがネントロだと言われても絶対に気づかない。町の中ですれ違っても絶対にわからない。見た目は普通の人間どころか、思いもよらない姿をしているんだもの。


「ネントロ、思えばお前達と道を違えたあの日……もう少し歩み寄るべきだった。私達にも復讐心がないわけではなかったのだ。それを自制する事が何よりの平和への道だと信じていた……」

「何よ、この人! 近寄らないで! マスター、追い出しなさいよ!」

「あの時、どうすればよかったのか。お前達を全否定せずに……多少、道は違ったとしても。根気よく考えるべきだった」

「ねぇマスター! この人、頭おかしいんじゃないの?! 衛兵を呼びなさいよ! マスタァ?! マスタァァァァ!」

「今からでも遅くはない。ネントロ、考え直そう」


 ボクは女の人にそっと近づき、肩に手を触れる。半狂乱になっていた女の人はビクリと体を震わせて止まり、少しの間だけボーッとしていた。


「……あら? なに、ここ? 私、なんでこんなところに? あらあら、この子は?」

「この子はって……あなたのお子さんでは?」

「こんなに小さい息子はいないわよ……」


「……チッ」


 ネントロは小さな体でひょいっと椅子から降りる。観念したのか、さっきまでの無邪気な演技を消して今度はお父さんを憎々しく見上げて睨んだ。


「あの時と同じだ、ジューク。寝ぼけた戯言を繰り返すためにわざわざ来たのか」

「こ、これがネントロ……ほんの子供じゃ……」


 5歳くらいの小さな子供にしか見えない。てっきりおじいさんみたいなのを想像していただけに、お父さんにこれがネントロだと言われても信じられなかった。身なりは綺麗で、短い銀髪にオレンジ色の瞳。くりっとした丸いその目を見ているだけじゃ、そこらにいる子供と変わらない。


「こうして向かい合うのは初めてだな、リュア。フリーシング国以来か」

「ようやく姿を見せてくれたね……」

「こんな子供が、そう思った事だろう。ワシとしてもこの身が忌々しい。永遠に成長しないこんな体にしたこの国を、すべてを……」

「姿を見せなかったのはスキルの性質のせいだと思ってたけど……そんな事情があったなんて」


「わかったのならば大人しく果ててはくれんか」


 ボクよりも先にお父さんがネントロに組み付く。鬼気迫る表情でネントロを凝視し、どこか悲しそうな顔でもあった。


「ネントロ、私達にはお前を受け入れる準備がある。もういいだろう、お前の憎しみを一人だけに背負わせはしない」

「ならばどうするというのだ、ジューク。共にこの世界を滅ぼしてくれるか」

「それは出来ん」

「やはり話にならんなッ!」


「お父さん、離れて!」


 ネントロの肉体が不気味に蠢く。もう何度も見た光景だ。人の形から、そうじゃないものになる瞬間。その速度は何秒もなくて、人の体の原型がなくなるのも本当に一瞬だった。手、足がそれぞれ分離して胴体とは無数の糸の束が結ぶ。胴体には胸当てみたいな鱗が覆い、首もまた糸の束で頭とつながる。


「ネントロ……! それをやったら人間には戻れないんだよ!」


【憤怒に纏われし傀儡ネントロが現れた! HP 20000】


「元より人ではない」


 酒場の天井を突き破り、その形は糸の化け物だった。糸の束が鎧や小手を装着していて、それがうねっている。顔は笑っているドクロみたいな、どこかひょうきんな表情。人形劇を見た事がある。表情は変わらないけど糸で上から操られ、くねくねと動いているアレ。アレを連想させる。


「やっぱりこうなっちゃったね。もう倒すしかないじゃん?」

「エルメラちゃんは皆を守って。リュアちゃん、ここは私に任せてくれない?」

「ほいほい、案の定便利屋ね……って、クリンちん?」

「クリンカ、任せるよ」


 レスターを助けられなかった事でずっと落ち込んでいたクリンカ。昨日の夜、自分の考えをやっと打ち明けてくれた。こうなる事はボクもクリンカも予想していたから、その上でどうするか。やっぱりボクじゃ出来る事に限界がある。


「リュアの腰巾着が、何を奮起したかと思えば……。竜になったところでワシに敵うものか」

「……そうだね。私はずっと守られていたし、戦いだってどんなにがんばってもリュアちゃんには及ばない」

「ならば引っ込んでおれ。このワシがリュアや王都を滅ぼす様をな」


 もしここにボクしかいなかったら、倒すしかなかった。それどころかエルメラやお父さんがいなかったら、ネントロに辿り着けもしなかった。強さだけに捉われていた過去の自分に同じ事を言っても聞かないと思う。ネントロもそれと同じだ。強さ、それだけじゃなくて今は憎しみに捉われている。


「フリーシング国の時よりも遥かに強くなったワシの力を知るがいい!」


【憤怒に纏われし傀儡ネントロは貪欲なる操り糸(ハングリーネット)を放った!】


「すぅ……」


【クリンカはファイアブレスを吐き出した! 憤怒に纏われし傀儡ネントロに18406のダメージを与えた! HP 1594/20000】


 クリンカが大きく息を吸い込み、襲いかかる糸の束に向かって吐き出した。ネントロの糸の右腕が一瞬で焼き消え、その勢いでバランスを崩す。一撃で勝負は終わったようなものだ。ネントロの焼き消えた腕の先、肩の部分から焦げた臭いがする。酒場がぐちゃぐちゃになっちゃったけど、これはもう弁償するしかない。


「ぬぁぁぁぁ! 熱い、熱いぃぃ!」

「熱いでしょ」

「この、このッ……よくもォ……何故貴様が上回る……おのれェッ……」

「ネントロさんもがんばったけど……私にはリュアちゃんがいたから。ネントロさんはずっと一人だったでしょ。魔王軍に所属はしていたけどファントムについたり、今はこうしてまだ一人で戦ってる……」

「死に体の魔王軍を捨てたまで……ファントムとして再起し、それが叶わぬのならば一人で戦うまで……例えこの腕がちぎれ消えたとしてもなッ!」


【憤怒に纏われし傀儡ネントロは蹂躙する殺戮糸(オーバーチェイン)を放った!】


「この王都もろとも……」


 ネントロの体から放たれた無数の糸は王都中を這うはずだった。円を描くようなクリンカの炎がそれを阻止した事によって、スキルもネントロの笑いも止まる。

 ネントロは十二将魔の中でも弱いほうだとは聞いたけど、それでも本当に弱いはずがない。まともに本気で暴れられたらいくらクリンカでも止めるのは難しいはずだ。だけどこの場が収まっているのはネントロが心の底で敗北を認めているからに違いない。例え死に物狂いで戦っても勝てない、そんな思いが疲れを加速させている。実際、今のスキルが阻止された事でネントロはもう追撃しなかった。


完成化(エンド)まで極めたというのに、こんな……こんな惨めな話が……憎い……何もかも憎い……」

「怒りがいつまでも消えないのはずっと一人だからだよ。私も一人だったからわかるもん……」


 クリンカは幼い頃、ドラゴンの状態でずっと一人だった。セイゲルさんに助けられなかったら今頃はどうなっていたのかわからない。そんな記憶とネントロを重ねているのかもしれない。


「同情を引いて何を企むかは知らんが手の内を見せたつもりは」

「はい」


【クリンカはエンジェルヒールを唱えた!】


 ネントロの体に手を置き、淡い光で包む。クリンカが使える最高の回復魔法であると同時に再生の力をフル活用。クリンカは初めからこれをするつもりだったんだ。


「な、何をする気じゃ……」

「まずは元に戻ってもらうの。意地でも話を聞いてもらうからね。皆と約束したから……」

「出来るものか! 完成化(エンド)は人を止めて魔物として完成するという意味! すでに人の身は捨てたのだ!」

「不可能を可能にするのが天性だよ」

「出来るものか! 出来るものかぁ!」


 糸だらけのネントロの体がみるみる縮んでいき、束が重なる。重なった束が筋肉になり、やがて人の体を形作っていく。光がネントロを纏い、それはまるで憎しみを覆い包み込むようにも見えた。


「か、体が……」

「ふぅ……元通り」

「バカな……こんな話が……何故だ、何故……これほどの力が……」


 元の子供の体に戻ったネントロは自分の胸に手を当てて、戻った事を確認している。着ていた服は破れちゃったから、お父さんがあらかじめ用意していた薄手のマントを被せた。


「驚いただろう、ネントロ」

「ジューク……貴様ら、一体何を企んでおる……」

「お前が何を望んでいるのかはよくわかった。だが私達はそれを良しとしない。お前がもう一度憤怒に捉われるような事がないよう、イカナ村で生き延びてもらうぞ」

「このワシがそんな事をいつ望んだ!」

「長い時間をかけてでも分かり合いたいと思う。これ以上、同胞が死ぬのは見たくない」

「き、貴様……」


 お父さんがネントロを両手で抱える。そう簡単にネントロの怒りが消えないのはわかってる。だけどまた暴れたりしないのは、きっと心の底ではお父さんを傷つけたくないと思っているからかもしれない。歯を食いしばってはいるものの、何かをやろうとする様子もなかった。


「まずはかつての仲間とうまい飯でも食おう。腹が減れば怒りもするさ」

「その甘さがなければ……貴様が魔王様にとって代われたものを……」


 そうかもな、と笑って素直に答えたお父さんだけど復讐心はないみたいだから無理だと思う。粘土が、粘土がって喚いていたエルメラもさすがに今回は何も言わない。空気を読んで椅子に座ってティーカップに口をつけている。いつの間に注文したの。ネントロが暴れる前かな。


「ネントロさんと話し合って分かり合うには長い時間が必要だと思う。ケンカもすると思うけど、いつかはきっと……」

「クリンカが出した答えは間違ってないと思うよ。ボクじゃネントロを倒すしかなかったし……今までみたいにね」

「私は私のやり方で誰も悲しまない方法を見つけたつもり……。リュアちゃんならどんな相手でも平気だけどね……。それにリュアちゃんが今までの十二将魔と戦ってきたのを見たからこそ出せた答えだよ。あの人達は救いようもないように見えたけど、考えてみたら犠牲者だもん」


 クリンカがぐっと拳を握り、笑顔を作る。そこに迷いはないように見えた。ボクのおかげだなんて照れくさい。お礼を言いたいのはボクだよ。助けられたからじゃなくて、自分じゃ出来ない方法を見せてくれたんだから。


「レスターさんを死なせたのは悔しいけど……それなら強くなる。リュアちゃんは今までそうしてきたんだもんね。勝てない相手に勝てるように必死に努力してさ……そう考えると落ち込んでいるのがバカらしくて。私ね、リュアちゃんみたいに強くなる」

「じゃあ……ボクはボクでもっともっと強くなるね。お手本になり続けられるようにさ」


「おーい、帰るぞー。酒場への修理代はもう払ったからな」


 お父さんが呼んだと思ったら、後ろからエルメラが無言で割って入ってきた。ボクとクリンカの肩を抱き寄せてすごいため息をついている。本当、何なの。


「粘土の件はチャラにしてやるからね。はー、こき使われるだけ使われた上に新婚のおあつい場面を見せつけられて損な役回りですわー」

「え、もしかしてエルメラも結婚したいの?」

「憎らしい。憤怒に纏われている」

「は?」


 もう本当に意味がわからない。とにかく粘土、じゃなくてネントロの事は村でじっくりと解決していくしかない。それが正解かはわからないけど、一つの答えだと思う。だったら正解だと信じて進むしかない。暗い奈落の奥底でがんばっていた頃に比べたら楽なはず。


◆ シンレポート ◆


ありがとう ありがとう

みんな いいやつなのです

えるめらも わずかに みなおしたのです


でも まおうさまは けっきょく こなかった

ん むらで まってるって?

なるほど すべて かいけつさせると みこんで さきをよんだ こうどう

さすがすぎて もんぜつ

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