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第319話 強さの答え

◆ アバンガルド王都より南東の地方の町 門の外 ◆


 スキルは一切使っていない、彼女達の攻撃なんて止まって見える。目を瞑っても勝てるといっても過言じゃない。時折挟んでくるリッタ隊の波状攻撃には感心させられるけど結局最後に物を言うのはレベルだ。レベル50超えのベテランが今更洞窟ウサギに苦戦するか。素手で捕らえられる。

 今はそれよりひどい状況だ。言うなら災厄クラスに挑む駆け出しの冒険者か。つまり勝負にすらなってない。少し槍を振るえば風圧で大袈裟に跳んでいく。涙ぐましく立て直してくるも、その間に何回でも殺そうと思えば殺せた。驚かせる為に瞬撃少女お得意だと言われている後ろへの回り込みをやってみれば、数秒も気づかない。ひどいものだ。


「イリン! シュリ! もう一度!」

「はい、今度はアレですね?」


 なのに、なんで諦めないんだ。次々と手を変えてはくるがどれも意味をなさない。そもそも意表をついたところで彼女達の攻撃などかすり傷にすらならない。

 あえて評価するならラーシュという少年の幻術か。虚像で距離感を狂わされたりして苛つきはするけど、決め手にはならない。それに彼の攻撃魔法もまた、僕へのダメージにはならないのだから。


「いい加減にしないか! そうまでしてなんで挑んでくるんだ!」

「これがパーティ戦です、ニッカさん!」

「パーティ……戦」


 胸の辺りがズキリとする。ずっと感じていた事、それは彼女達のパーティ戦で気づかされた。僕は一人、この力を振るっていて。それに対して諦めずに挑んでくるパーティ。


「ブレイズショット!」


「うぁッ……」


 ほんのわずか考え事をしていた隙を見抜いたのか、ラーシュ少年が容赦なく炎球を叩き込んでくる。この幻術は常に思考を巡らせていないとすぐに騙されるから厄介だ。本物がすぐ側面に回り込んでいた事にすら気づかないほど、僕は焦っていた。


「そんなもの当たったところで何の痛手にもならない。わからないのか?」

「まったく痛くないわけじゃないだろ?」


「冒険者はいつだってこうして戦ってきたんじゃないんですか?」


 リッタのわざとらしい敬語が今度こそ僕の胸を貫く。そうだ、僕は彼女達にとって凶悪な魔物に等しい。一人じゃ絶対敵わない相手にパーティ戦で挑んでくる。この力を振るって、いい気になっている。さっきから僕がやっている事といえば、レベルに任せた暴力だけ。いや、それ自体はいい。問題はこの状況だ。


「僕は……」


 居たたまれなくなり、僕はついに手に持っていた槍を落としてしまう。戦場で許される行為じゃないどころか、死を望んだようなものだ。だけど相手が本気で挑んでくるものの、僕を殺す力はないしその気もない。わかっていたはずなんだ。


「これじゃ魔物ですよ、バステ隊長」

「なに……?」


 観戦していたバステ隊長の険しい顔、目つき。レスターやドンボス、フェンフーのそれも同様だった。そこにいたのは仲間じゃない。険しくてどこか好奇をはらんでいて、人間のそれとは異なっている。


「ただ横暴に力を振るうのは人間の本懐じゃないです」

「命令違反かな?」

「彼女達を殺すまで続けろと仰るのですか。それこそ人間のやる事ではありません」

「力を持てばどう振るおうと勝手、瞬撃少女もやってきた事だ」


「でもリュアねえちゃんと違ってバステさん達はただ暴走してるようにしか見えないけどな」


 ラーシュが器用に杖を指先に乗せて回しながらバステ隊長に言い放つ。その仕草が気に入らなかったのか、バステ隊長は即座に弱体魔法を放った。回していた杖ごとバランスを崩して転んだラーシュに、バステ隊長は恐怖を与えるかのようにゆっくりと歩いて近づく。


「ち、力が入らねぇ……これが、弱体魔法……」

「大人のやる事に口を挟むんじゃないよ。私に憧れているだって? 知った風な口を……」

「だってすごいじゃん……攻撃魔法を使わずにAランクだなんて……」

「私はな、それしか使えないんだよ。どういうわけか、どんな属性にもどんな系統の魔法も扱えない。おかげで一流ウィザード揃いの家系から爪弾きにされて、惨めな思いもしてきた」

「でも這い上がったんじゃん……」

「限界だった。私がやれる事と言えばどこまでいっても支援のみ。最後に花を持たされるのは前衛だ。家を支えている柱をすごいだなんて褒め称えるやつはいない」


 バステ隊長の血走った目はどこを見つめているのか。その迫力はさっきまで威勢よく戦っていたリッタ達を立ち止まらせるほどだ。倒れている子供相手に大人げないとは思わなくもないけど、僕だって今まで同じ事をやっていたんだ。


「そうかぁ……それじゃ何を言ってもダメかなぁ……」

「言い残したい事は他には?」


「あ……」


 羽ばたきを利かせたドラゴンの着陸をリッタが最初に目撃する。金色に輝くドラゴンの翼によって巻き起こる風を受けた時、僕の中でいい知れぬ不安が芽生えた。幾多の強敵と対峙した時に直観として必ず伝わってくる見えない鋭利な刃。相手との差があればあるほど、それが身を引き裂いて恐怖という感情に変える。

 もちろんそのドラゴンと乗っている少女にこの時点で僕を殺すつもりはない。それでもここまで敏感に感じ取れるようになったのはなまじレベルが彼女達に近づいたからだ。もし彼女達が本気で襲いかかってきたら。


「何か人がいるなと思ったらリッタ……ラーシュも。皆、こんなところで何やってるの?」

「ア、アハハ……やっぱりリュアさんは私のヒーローですね……」

「なに、どうしたの」


 少女は道端で知り合いに出会ったかのようにリッタ達に笑いかける。それは同時に僕達の存在を歯牙にもかけていない証でもあった。少し一瞥しただけだ。何かいる程度の扱い、これにはバステ隊共々面白くないだろう。


「そうなんだ……リッタはお兄ちゃんの目を覚まさせようとしてここまで」

「ちょっとラーシュ君! そこまで説明しなくても!」

「いいじゃん別に」

「リュアちゃん。あの人達、アバンガルド特務隊だよ」


 ラーシュの説明でリュアはすべてを把握した。僕達を認識したのはドラゴンから少女の姿に戻ったロエル、いやクリンカだった。華奢な体で金髪をなびかせるその姿は、さっきまでこの場を蹂躙するほどの威圧感を放っていたドラゴンと同一のものとは思えない。


「えっと、バステさんだよね?」

「そうだが?」

「ニッカさんも反省したみたいだし、リッタ達も帰らせるからここはそっちも引いてほしい」

「呆けた事を。ニッカはバステ隊の一員だ。なぁニッカ、命令に背くのか?」


「僕は――――」


◆ アバンガルド王都より南東の地方の町 門の外 ◆


「命令には……従えません」


 ようやく絞り出したニッカさんの声は本当にか細かった。あそこにいるバステ隊がよっぽど怖いのか、もしかしたら特務隊を抜けたくないのか。張りつめた空気の中、プラティウがくいくいとボクの手を引っ張る。


「あそこ、レベル1000超えてる」

「ホ、ホントだ……」


 プラティウのセラフィムにはディテクトリングと同じ機能が備わっている。セラフィムのヘッドの目からレーザーみたいなものが放たれて、白いアーム部分に数値が投影された。


【バステ Lv:1430 クラス:ウィザード HP 9414】

【レスター Lv:1299 クラス:フレイムウィザード HP 9003】

【ドンボス LV:1103 クラス:ウォーリア HP 20655】

【フェンフー Lv:1200 クラス:ソードマスター HP 14101】


 近いうちにボク達にも同じようなものを作ってくれるって張り切っている。だから今はこうして見せてもらうしかないけど、覗き込んだ時に得意げにチラリと見るのがなんとなく癪だった。子供のやる事、子供のやる事。


「なんで皆、こんなにレベルが高いの?」

「嫌味な物言いだな。自分だけが特別だと思い込んでいる証拠だ」

「そ、そういう意味で言ったんじゃ……」


「このHP(エイチピー)は個人差とかクラスによって変わるから」


 このタイミングでプラティウがなんか説明してくれている。ありがたいけど今はやめてほしい。ほら、あの指に刃をつけた人なんかカチカチと鳴らしている。フェンフーって人、ていうか冒険者だったんだ。ハリネズミみたいな頭や口元を覆った黒いマスク、どちらかというと彗狼旅団にいそうな恰好だ。


「ニッカ、命令違反の件はきちんとアーギル隊長に報告しておく。除隊だけで済めばいいがな」

「覚悟はできています……」


「ちょっと待って下さい! お兄ちゃんはどうなるんですか?!」


 バステさんが食ってかかるリッタに唇だけを吊り上げて目を細める。邪悪に満ちたその顔はとても前に見た時からは想像もつかない。闘技大会の予選で戦った時とはまるで別人だ。


「それは軍法会議で明らかになる事だ。命令違反は良くて除隊に加えて拷問……悪ければ処刑」

「あなた達、元は冒険者ですよね? 軍隊の真似事なんかして、一体何がしたいんですか」

「真似ではない。いつまでも冒険者を気取っているわけにはいかんのだ。逆に君は何を見据えている」

「意味がわかりません」

「新生魔王軍、彗狼旅団、ヴァンダルシアによる支配、これだけの危機に対して我々は何を出来た?」


 言いたい事はなんとなくわかる。だけどこの人が本当に言いたい事はそうじゃない気がした。だってさっきの顔、あまりに醜かったから。何かにとりつかれているとしか思えない。


「何も出来なかった。それどころかそこにいるリュアという少女がいなければすべて終わっていた」

「ボクの事は気にしなくていいよ」

「黙ってろ。我々に出来る事……それはより結束を固めて、来るべき脅威に備える事だ」

「だからボクが何とかするから」

「黙ってろ」


 なんか悲しくなってきた。プラティウに笑われているのはどうでもいい。クリンカに肩を叩かれて首を左右に振られた事がじゃない。ボクがやってきた事が逆にこの人達を苛立たせる結果になっていた事だ。誰かに助けられて感謝する人達ばかりじゃない。無力感を味わう人達だっている。考えてみればボクがそうだった。それが嫌だから強くなった。


「知っての通り、今の我々はレベルが1000を超えている。一名を除いてな。ただでさえ強い我々が結束すれば、どんな災厄とて退けられるのだ。リッタ君にその部下達よ、アバンガルドの兵役が活躍する必要はないぞ。すべて、すべて我々に任せておけばいいんだ……フフ、フフッフフ」


 ボクでも微妙に言ってる事がおかしいと気づける。どんな方法か知らないけど、この人達はレベルが上がった事で力に溺れているんだ。とりついているのは魔物でも何でもない、力だ。力にとりつかれて、結局は自分の強さを示したいだけ。


「……とにかく、ニッカさんが拷問やら処刑されるんなら放っておけないかな」

「特務隊への妨害かな?」

「うん」


 待ってましたと言わんばかりだ。バステさんだけじゃない、他の3人も力を見せびらかしたくてうずうずしているのがわかる。それぞれが独特のスタイルを見せる構えを取り、完全に標的を決めたみたいだ。


「やれやれ……まさか我々の隊が瞬撃少女と戦う事になろうとはな」

「バステさん、強くなって嬉しいのはわかるけど世界にはまだまだ強い奴がたくさんいるんだよ」

「黙れ、どこの目線から物を言っている。下らん、瞬撃少女とてこれで終いよ……ウィーキングエリアッ!」


「わぁっ!」


 ディスバレッドを抜いた直後に腕に力が入らなくなって落としてしまった。弱体化魔法、あの人の得意なやつだ。しかも広範囲に及んでいるらしく、クリンカまでへばって杖を転がしている。その隙を見逃すはずもなく、フェンフーが刃を鳴らしながら接近戦を挑みに。


「あぁぁ~、ファイアッ! ファイ! ファイ! ファッ! フッ! ッアイ! イッ!」


 レスターが炎のレーザーみたいな魔法を乱れ撃ってくる。ボク達を弱らせた上で念には念を押して逃げ場を失くす。迂闊に転がって逃げようものなら炎のレーザーの餌食になる、なるほど。どうでもいいけど、あの踊りはなんだろう。


「レスターめ、絶好調のようだな! ああなってはもはや誰にも止まらん!」

「アッ……ファァイ! ヒィト! ヒイィト! ファイファイファイアァン!」


heat! 滾るぜ鼓動 燃えるぜ heart! heat!

腹の底から 限界の底から 内なる 衝動 吐き出せ heat!

社会の呪縛 その鎖を ひきちぎれ heat!

誰にも 遠慮はするな 吐き出した その衝動 heat!(甲高い)

ぶっちっ まけっ(3秒溜め)ろぉぉぉぉぁあ!

恋も 心も 燃え盛れ! あの子と盛れ! その気にさせろ

すべては お前の もの なぜなら お前は吐き出したから

欲望という名の 爆せる ハァト! すなわち heart! heat!

常勝全勝全焼必勝 燃え上がる 俺のっ

heat! heat! heat! heat! heat!

(以下 金切り声16回繰り返し)


作詞作曲 レスター


 なんか変な歌を歌い始めた。頭を上下に揺さぶって狂ってるとしか思えない。同じ事ばかり言ってるし、本当にこの歌はなんだろう。プラティウの下手って呟きも聴こえてないんだろうな。


「ラーシュ達が危ないかな……って、すでに逃げてるか。さすが」


 自分達の立ち位置を理解してくれて助かった。これはレベル1000超えの戦いだ、フェンフーの刃が地面から立ち上がれないでいるボクを狙い撃ちにしようと突き立ててくる。さすがに早い、弱体化を受けている時点でこれをかわし続けるのは無理。当たったとしても致命傷にはならないだろうけど、向こうはバステを含めてすでに確信していた。


「ヒィヒッ! とどめぇ! ヒヒッ!」


「わっっっっッ!!」


 大きく息を吸い込んでからの渾身の叫び。興奮して鼻先まで近づいてきたフェンフーの攻撃は当然緩み、それどころかとっさに耳を抑えて寝っ転がってしまった。


「なッ……!」

「ぐあぁぁ! み、耳が……!」


 あっちにいるバステ、レスターもフェンフーほどの被害はなかったけど耳を抑えていた。もちろん攻撃どころじゃない、一歩間違えれば耳がしばらく聴こえなくなっていたところだ。


「よっこらしょっと。クリンカ、立てる?」

「うん。強化魔法をかけたから」

「プラティウは……平気だね」


 いくらプラティウを弱体化したところでセラフィムが動いてくれる。最悪、プラティウが気絶しても自動で戦って守ってくれるから便利だ。強化魔法と違って弱体化魔法は相手によって威力が変わってしまうのが欠点だと思う。


「いくらレベルが上がっても、鍛えられないところってあるんだよねぇ……」

「ヒ、ヒヒィ! こ、この、このガキァ!」

「いいの? 耳を抑えてないとまた叫ぶよ?」

「ヒッ!」


 フェンフーがとっさに両手で耳を塞ぐ。奈落の洞窟でとんでもない雄たけびを上げている魔物を見て思いついた戦い方だ。こんなの竜神やヴァンダルシア、メタリカンクラスには当然効かないから普段はやらない。あっちでリッタ達にも被害が及んでいるし、後で謝らなくちゃ。こんな風に味方まで巻き込んじゃうのが欠点。


「バステさん達さ、大切なのはレベルだけじゃないんだ」

「つくづく化け物だな、君は……!」

「レベル1000を超えた人達も普通の人から見たら化け物だよ」

「こんなところで……こんなところでまた煮え湯を飲まされてたまるか! バステ隊こそが瞬撃少女を討ち取るのだ! もう二度と惨めな思いは……!」


 たじろいではいるものの、まだまだバステ隊はやる気だ。かけられた弱体化魔法の効果も切れたし、もう次は効かない。ボクに同じ異常系の攻撃は通用しない。とはいっても相手はあのレベル、ちょっと殴った程度じゃ気絶しないしどうしようか。そしてそろそろ地面に潜ったドンボスとかいう人が来る頃だ。まぁこんなのはどうでもいいんだけど。


◆ シンレポート ◆


れべる1000ごえが 4にん

あっちは2000ごえ

1000 かける 4で 4000 2000をあっとう!

なわけ ないのです

それじゃ れべる1が 2400にんあつまれば りゅあを たおせるですか

ちょっと かんがえれば わかること

れべる れべる れべる

こんなものがあるから ひとは まどわされる

しんは こんなものに おどらされるほど まぬけじゃないのです

しんの れべるが1だろうと きにしてないのです

べつに れべるが かちを けっていするわけじゃないし?

むしろ そんなものに とらわれているとか あほだし?

きにしてないから べつに


あのくそがき ぷらてぃうめ なんで しんのれべるを はかった

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