第309話 高度文明の行方 その6
◆ 神聖ウーゼイ国 聖都マーティス付近 上空 ◆
【完全人間ブランバムはパーフェクトナックルを放った! リュアはひらりと身をかわした!】
「こぉんのッ……!」
体が金属みたいになっても表情豊かに歯ぎしりをするブランバム。人間だった頃なら血管とか浮き出ていたかもしれない。
「身体能力は五分のはずだ……それは確かだ……経験の差とでも言うのか!」
「さぁ?」
「ここで勝たねばメタリカンじゃねぇ! こんな不完全に踊らされるたままでたまるか!」
【完全人間ブランバムはパーフェクトレーザーを放った! リュアはひらりと身をかわした!】
攻撃のクセ、軌道、こっちの攻撃動作の何に対して怒って動きが乱れるのか。奈落の洞窟でも、魔物の性格や癖を把握しないと突破できない。ブランバムはこっちの裏をかく事ばかり考えていて、最初の攻撃を囮にして次の攻撃、またはその次の攻撃で決める事が多い。それ自体は間違ってないんだけどこれは多分、ブランバムがそういう性格なんだと思う。
コソコソと機械化なんてのを進めていたように、平気な顔をして裏では舌を出して騙しているような奴だ。ボクにも、もしかしたらそういう癖があるのかもしれない。まぁどうにもならなくなったらいつもは最後には考えるのをやめて、力で斬り開くんだけど。難しい事はあまり考えられない。自分の戦い方をこうやって理屈で理解し始めたのは最近だ。だから無意識で体がそう動いているというのはあると思う。
「じゃなかったら、これだけの相手に戦えないからね」
「はぁ?! ぶち殺すぞ!」
【完全人間ブランバムはパーフェクトバルカンを放った!】
口からバルカンとかいう攻撃を放ってきて、またそれを囮にして側面に周り込もうとする。予想だけど、ブランバムはメタリカにいた頃はそんなに戦ってなかったのかも。獣の園との戦いで助けてくれた時くらいじゃないかな。
【リュアはひらりと身をかわした! 完全人間ブランバムはパーフェクトエルボーを放った! リュアはひらりと身をかわした!】
「てやっ!」
【リュアの攻撃! 完全人間ブランバムに165405のダメージを与えた!】
「ぐあぁぁッ! チキショォォッ!」
惜しい、もう少しで半身を消し飛ばせたのに。相手がこれだけ速いとさすがに苦労する。でも左肩を完全になくせたわけだし、これで攻撃力は半減したはず。普通にソニックリッパーを撃っても当たらないから、本当に面倒な相手だ。
「マジ何なんだよ……てめぇは何だって言うんだよ! それだけ強けりゃなんだって叶えられるし、神にだってなれるだろう!」
「ブランバムこそ何なのさ。メタリカをあんな風にして……大体その姿だって何がどうなってるの?」
「これはメタリカの技術の粋を込めた最強の体だ! 金属と肉体の融合……バカに説明してもわかんねぇか」
もう言われ慣れてるから何とも思わない。特にこういう奴がバカにしてくるのなんていつもの事。と、諦めて呆れていたらブランバムが踏ん張ってる。何か始める気だ。
【永久の霊帝ルルドの神刀両断! ブランバムに544のダメージを与えた!】
「斬れぬ」
「言っただろう? こちとら自己進化が生業なんだ、ついさっきですら私を仕留めきれなかったスキルなんざなぁ……産廃なんだよッ!」
吠えたブランバムが踏ん張った体勢から、ルルドに一気に飛びかかる。助けようかと思ったけど、まだボクはあいつを信用していない。
【完全人間はパーフェクトナックルを放った! 永久の霊帝ルルドに25700のダメージを与えた!】
「ぐふッ……!」
「下にいる信者どもに介護してもらえ」
仮面ごと顔に拳を入れられて、今度はルルドが墜落していった。聖都からは絶望の淵に落ちるような悲鳴が沸き上がる。狂ったような叫びがより一層、ルルドがどれだけの存在かをわからせてくれた。もうあの人達はルルドなしじゃ生きられない。こんな状況じゃルルドに悪い考えがあったとしても、ボクに倒す事が出来るんだろうか。
「さて……あそこにいるデカブツ天使もさぞかしお怒りだろうな。えぇ、コラ?」
期待して見上げたブランバムだけど、相変わらずザンエルは無表情だ。なんでこんなにも興味がなさそうな顔をしているんだろう。ボク達には怒ったくせに。
「さて、ダウンロード……完了した」
【完全人間ブランバムはリュアのスキルや戦闘データをダウンロードした!】
雰囲気が変わった。さっきまでは唾をまき散らさんばかりに怒っていたのに、今は勝ちさえも見据えている。そんな落ち着きだ。
「来い」
くいくいと片手で挑発してきたから挑んでやる。まずは一撃。
【リュアの攻撃! 完全人間ブランバムはひらりと身をかわした!】
「あ、強くなった」
「なるほど。私は初撃に対する敬意がなかったか。二撃目で当てる事ばかりを考えていて、それを貴様は踏まえていたと」
「気づいたんだ」
「それを踏まえて戦っていた貴様の戦闘データをコピーさせてもらったからな」
【完全人間ブランバムはソニックリッパーを放った! リュアはひらりと身をかわした!】
間一髪、ソニックブースト一回の跳躍でかわす。イーリッヒみたいな事を今、ブランバムがやっている。しかもあっちと違って完成度は高いかもしれない。
【完全人間ブランバムはパーフェクトナックルを放った! リュアに1305のダメージを与えた! HP 42810/44115】
「痛ッ……!」
「見えるぞ、貴様の癖が。相手の動きや癖、スキル……すべてを踏まえた上で常にこちらの上を行く。それもすべてほぼ無意識のうちに体が動き、自然と勝利へ進んでいるのだ。恐ろしい事よな、その成長速度は戦いの最中……これはメタリカンの参考になる」
片腕だけになってもまだまだ元気だった。油断したわけじゃないけど、今のは完全にボクを上回っている。だったらボクもそれを超える速度で上に行かないと勝てない。
「いかなる状況でも光の速さの適応力! これこそが人類にとって必要だ! 不治の病も天敵もすべて失せて! 人類は増え続け! そしてやがてはこの世界の外にすら繁栄をもたらす! そうだな、マディアスをぶっ殺したら次は冥界かな! マディアスと並ぶ冥府の王……こいつを討てば我々は死という概念すらなくせる!」
何を言ってるのか全然わからないけど、ムチャクチャなのはわかる。ボクの力をそんな事に利用されてたまるか。大体、破壊の力だってコピーしたと言っていたけど全然なってない。こいつの技術をボクが上回ってやる。いや、メタリカのすべてを上回らないと人類が。
「終わっちゃうんだよね。お前の言う通りにしているとさ」
【リュアの攻撃! 完全人間ブランバムはひらりと身をかわした!】
「ボケがっ……言った事を理解してないのか、不完全脳め。もう貴様は敵じゃねえって話なんだよ」
【リュアの攻撃! 完全人間ブランバムははひらりと身をかわした!】
「猿芝居が。何度やっても無駄だ」
【リュアはソニックインパクトを放った! 完全人間ブランバムはソニックインパクトを放った!】
「とんでもない大技だが周りに被害が及ばない方法として、いつも貴様はこうやっていたよなぁ!」
ボクと同時にあっちもコピーしたソニックインパクトを放つ。イーリッヒと違ってこっちは構えも何もかもボクと同じだ。下にある聖都なんてお構いなし、そう見せかけてはいたけどバレている。お互いの衝撃破がお互いを飲み込み、破裂するような音と爆風が下にいる人達をわずかに散らした。怪我をした人もいるかもしれない。そこは謝りたい。
「こうすりゃどうだ?!」
【完全人間ブランバムはソニックインパクトレインを放った! リュアはソニックインパクトレインを放った!】
一発でさえすごい威力のスキルだ、ここでこんなに連発したらさすがに聖都だって今度こそ無事じゃない。相殺するしか。
【完全人間ブランバムはソニックインパクトレインを放った!】
「え……?!」
「貴様の体が消耗して力尽きるまで、こんな大技を連発した経験なんざないよな。いつも大技はとっておき、最後の手段だった。貴様を超えるには貴様がやった事のない戦い方をすればいい」
【完全人間ブランバムはソニックインパクトレインを放った!】
ブランバムの体に亀裂が入って、明らかに反動でボロボロになりつつある。それもお構いなしだなんて確かにボクでもやった事がない。そしてあのソニックインパクトの連発を止めないと聖都どころか、この辺りから地形と生き物が消えてしまう。なんて1秒が長すぎるくらい短い時間の間、ボクは考えて体は勝手に動いていた。
【リュアは39889のダメージを受けた! HP 2921/44115】
「うあぁッ……!」
【リュアはソニックインパクトレインを放った!】
聖都に向かったソニックインパクトは自分の体で直接守るしかない。ソニックブーストでギリギリ間に合い、自分の最高威力の技を自分で受けて死ぬほどの激痛が走る。叫び出しそうなくらい痛いし涙だって出そうになる。だけど歯を食いしばって泣かず、叫ばず。この痛みを超えなきゃいけない。そうしないとブランバム、いや。今のボクには勝てない。
ブランバムの卑怯さとボクの強さが合わさるとこんなにも痛い目にあうなんて思いもしなかった。痛みを乗り越える最中、ボクはもう一つの行動を取る。
【リュアはソニックインパクトレインを放った!】
「いだい、はぁ、はぁ……クソッ!」
残りの聖都以外の方向へ向かったソニックインパクトも同時に消す。それだけでほとんどの力を使い果たしそうだ。ブランバムも同じで、体中の亀裂が増えている。再生能力を破壊して正解だった、これで状況は五分のはずだ。
「フ、クッククク! すでに力尽きんばかりだな……だがそれ故に勝った! 貴様の破壊の力を乗せてあるが故に、その体は……ん、それならば何故原型をとどめていられる? まさか破壊の力を破壊で……」
【リュアはソニックスピアを放った! 完全人間ブランバムはひらりと身をかわした!】
「うおっ!」
ソニックインパクトに紛れて撃ったボクの最後の一発、見事にかわされた。すごいや、さすがボク。こっちは腕や足に力が入らなくなってきた。あいつだって限界のはずだ、まったく。奈落の洞窟では誰にも気を使って戦う事もなかった。ましてや自分の強さをコピーした相手がいて、しかも他の人達がいる状況で戦う経験なんてあるわけない。こんなの初めてだ、久しぶりだな。奈落の洞窟でもよくこうやってボロボロになったっけ。
――――いや、もっとひどかったかな
「まだだ……これで決めてやるっ!」
【リュアのソニックブースト!】
「……! 突進だと?! なるほど、最後の悪あがきか! 迎撃してくれる!」
【完全人間ブランバムはソニックインパクトを放った!】
躊躇なく、自分の体に構う事なく最高威力の大技を。これであいつの残った片腕も完全に砕けた。片足だけで空中で立ち、そして笑っている。
「私の勝ちだ。短い天下だったな、瞬撃少女よ」
最後の狙って撃った頼みのソニックスピアも外した。ソニックインパクトがボロボロのボクに命中し、これでブランバムの勝ち。
「ワハ――」
【リュアはブランバムに体当たりをした! 完全人間ブランバムに4867811のダメージを与えた!】
「はぎゃふッ……?!」
と、思わせたのには成功した。
「あがッ……何故ェ……!」
ブランバムの胴体が完全に砕かれて、残った頭にもいよいよ亀裂が激しく入る。
「今、お前がかわしたソニックスピアだけどさ。あれは単に当てる為だけに撃ったんじゃない。威力の余波でボクがより通りやすいようにしたんだよ。その威力はコピーしてわかってるくせに、撃ってすぐ勢いや余波が消えるわけないじゃない」
「どういう……」
「ソニックインパクトは大規模ですごい技だけど、ソニックスピアで一部だけなら貫ける。余波で穴を開けたんだよ」
ボクの体当たりだけでも突破できただろうけど、ソニックスピアでインパクトに風穴を空けてトンネルを作ったのは念の為だ。ただの体当たりだからって甘く見ていたこいつの負け。ソニックスピアを放つボクが体当たりをして、それ以下の威力だなんて普通は考えないはずなんだけど。
「てめぇ、えぇぇ……ガキの、くせに、私を……マジ何なんだァ……貴様は、本当に、何者」
初めに戦った時に教えたはずだ。追い詰められた振りをしていただけだって。こいつが放ったソニックインパクトの一つを体であえて受けたのも全部この為。あれでボクの演技に気づけば今もなんとかなったかもしれないのに。いくらコピーしたところでこれじゃ意味がない。結局、あいつはこれが戦いなんだって気づけなかったんだ。
「嫌だ、ここで、私が死ねば……人類が、じん、るいがぁぁ……」
「安心してよ。ボクが全部何とかするから」
「そう、だ、協力しよ、う……マディア、スだって、絶対」
「やだよ。だってお前、無関係の人を殺そうとしたくせに反省してないじゃない」
ブランバムが口を開こうとして、そこでようやく限界がきた。頭だけになったブランバムが端から砕け始め、目や口を最後に残す。
「バ、ック……ア、ッ……」
【完全人間ブランバムを倒した! HP 0/405000】
砂みたいに空中で拡散したのがブランバムの最後だった。完全だとか言いながら、ボクに勝てない時点で完全じゃない。
「リュアちゃん!」
「クリンカ……ありがとう」
援護をしてもクリンカの力じゃ、ブランバム相手となると水を差すだけになっちゃう。それをわかっていたから、聖都の守りに入ってくれていたんだ。ブランバムが暴れて攻撃した余波をクリンカが必死に防いでくれていた。そして空中から落ちそうになったボクをドラゴンの背中で受け止めてくれる。
「疲れた……」
「いろいろ話したい事はあるけど、逃げたほうがよさそう……」
クリンカの背中に這いつくばりながら、ふと見上げる。ザンエルの表情があの時みたいに怒りまみれになっていて。
「あ、あれ……なんでまた怒ってるの……」
「多分、リュアちゃんがこうやってボロボロになるのを待っていたんじゃないかな……」
「ちょ、思ったより卑怯……」
「今はアバンガルドに戻ろう。ブランバムは死んだけど、サタナキアがどうなっているかわからないし」
【終生を告げる死天使ザンエルのジャッジメントレイ!】
クリンカが速度強化魔法をかけて命からがら、ボクを運んでくれる。必死に攻撃の光を連発してくるザンエルの顔はもう見えないけど、もっとひどい顔になってるんだろうな。こんな事なら守ってやるんじゃなかった。なんて。
◆ シンレポート ◆
おい あいつら まじに どこいきやがった
さたなきあがよぉ まじに たいへんなことに なってるのによぉ
なんか しんの きれいな ぶんたいが おかしい
まじによぉ どうなってんだよぉ




