第308話 高度文明の行方 その5
◆ 神聖ウーゼイ国 聖都マーティス付近 上空 ◆
【完全人間ブランバムのパーフェクトナックル! 終生を告げる死天使ザンエルに24766のダメージを与えた!】
「いつまでデカい図体をしている!」
ブランバムが飛んでいった先は元ネーゲスタ国だった。あまりの速さにクリンカドラゴンのスピードでも追いきれなくて、一歩遅れてようやく到着。ブランバムがあのザンエルの頬を殴って、よろめかせているところだった。
「尖兵ごときに用はない! マディアスがぁ! いるんだろ? そこによぉ!」
ブランバムが言うそこというのは空だった。人差し指を空に向けて立てて、ゆっくりと態勢を整えるザンエルを笑っている。マディアスは空にいるというのは本当かな。もしブランバムがALEXの機能をそのまま使えるんだとしたら、バカに出来ない情報だと思う。
ザンエルはブランバムに殴られたのにも関わらず、大して興味がなさそうだ。というよりは感情がないだけかもしれない。でもボク達には信じられないくらい怒った顔をしていたし、どうなんだろう。
「フン、寡黙というよりは与えられた意思といった感じか。ザンエル、貴様が時代の節目ごとに降臨して幾度の粛清を行ったのも全部マディアスの意思というわけだ」
「罰当たり極まりないな、てめぇ。よそ見してる余裕があるのか?」
【フォーマスは八つ裂きソーサーを放った! 完全人間ブランバムにダメージを与えられない!】
「なっ……!」
フォーマスが魔剣から分離するようにして放ったのは丸くてギザギザの刃だった。曲線を描いてブランバムに届いたものの、簡単にブランバムの片手に弾かれる。視線はあくまでザンエルで、フォーマスの攻撃はついでに防いだという感じだ。
「さっきの奇襲は見事だったが、まともにやり合えばこんなものだ」
「強くなってやがるな……」
「自己進化なくして何が完全か。適応できずに淘汰されるのはいつの時代も、貴様のような思い上がった不完全だ」
「それなら……」
「下がるがよい、フォーマス」
ザンエルの足元から浮きながら上がってきたのは仮面をつけたアイツだった。ノイブランツ軍を寄せ付けず、壊滅にすら追い込もうとした災厄。ヴァンダルシアが復活させた災厄の中で唯一、逃した奴。ずっと探していたけど、どこにも手がかりがなかった。それが今、ここにいる。
「出たな、ウーゼイ教の教祖ゼダ。いや……永久の霊帝ルルドと呼んでやろうか」
そうだ、ルルドだ。ブランバムが信じられない事を言ってる、ウーゼイ教の教祖って。
「文明に飲まれし迷い子よ、救いを求めるのならば手を差し伸べよ。聖都に害するならば、主神の命を受けてその罪を浄化する」
「相変わらず支離滅裂なカルト団体だな。今、そこにいるデカブツをぶん殴ったのが答えだ。教祖が出てきたのならばちょうどいい」
頭の整理が追いつかないうちにブランバムは攻撃を始めようとしている。なんで災厄のルルドがウーゼイ教の教祖をやっているのか。その頭の上に横になって浮いているのはあの勇者の剣、これも意味がわからない。その勇者の剣がくるくると回って止まり、天に刃を向けて。
「断罪せよ」
【永久の霊帝ルルドの神刀両断!】
速い。これは普通の人なら、ようやく下にある大地がバックリ割れたところで気づくと思う。浮いたままの剣がブランバムを縦に引き裂く。ルルドは両手を上に向かって掲げるようにしたままだ。
【完全人間ブランバムは7792のダメージを受けた!】
「ううぉッ!」
「これは異なる所業」
かわしたものの、ブランバムの肩がバックリと避けている。かわしきれなかったんだ、完全に当たらなかったのにあの金属みたいな体がすでに引き裂かれかけていた。
「人の英知が詰まりしその肉体。だが神には届かぬ」
「この私が代わってやろうって話だろぉが!」
【完全人間ブランバムはパーフェクトレーザーを放った! 永久の霊帝ルルドの精霊障壁! 精霊障壁が攻撃を防ぐ!】
「無駄だと……」
ルルドが絶句する。何かのスキルで防ごうと思ったけど突破された。そう判断した時には遅い、ブランバムのレーザーはすでにルルドを撃ち抜いていた。
【永久の霊帝ルルドに】
「ボケがぁ! こっちにはダウンロードしたあの小娘の力、”破壊”があるのだ!」
【ダメージを与えられない!】
「な、にぃ……?」
今度はブランバムが絶句する番だ。ブランバムが平手から放った、ルルドに命中するはずのレーザーがそのまますり抜けた。一番驚いたのはボクだ。破壊の力を使われただけじゃなく、それも通用しなかったんだから。
「言っておる」
さっきの言葉の続きを言うルルド。ルルドの体がなんとなく透けて見えて、それが当たらなかった原因なのかもしれない。ブランバムはどうでもいいけど、問題はルルドだ。あのスキルか何かの正体はわからないけど、ブランバムが破壊の力を活かしきれていたとしたら。
「いかなる概念も無意味である」
「フ、フフフ……落胆しろ、瞬撃少女よ。貴様の天性がまるで通用せぬ、どんな気分だ?」
「知らないよ。大体、それ本当にボクの力なの?」
「貴様らが天性と呼んでいるものの正体なぞ、私はとっくに把握している。何故なら、いかなる事象にも原理はあるからな。つまり技術をもって再現できぬものなど、この世に存在せんのだよ」
そう力を入れて解説しているけど、結局ルルドには届いていない。今ので確信した、ブランバムは天性を理解していない。前にエルメラが言っていた、天性は概念だって。ルルドもそう言っている辺り、理解はしているはず。だけど再現できているかどうかまではわかっていない。それでもボクの天性を使ったと気づいたのはすごいけど。
「一筋縄ではいかないか……」
「最後の通告となる。救いを求めるのならば手を差し」
「のべるわきゃねぇだろぉぉ!」
【完全人間ブランバムは拡散パーフェクトレーザーを放った!】
いきなりの発狂からのレーザー乱れ撃ち。下にある聖都も巻き込み、更にルルドやザンエルをも狙う。ブランバムは本気で攻める気だ。
「私はなぁぁ! 神になるんだよぉ!」
【拡散パーフェクトレーザーは外れた!】
無数に放たれたレーザーがぐにゃりと曲がり、それぞれ聖都以外の方向に飛んでいく。空の彼方に曲げられて飛んでいってしまっても、ブランバムは気にしていない。何かのスキルだとか、どういう理屈なのかはどうでもいい。今、ここで倒さなきゃいけない相手はルルドじゃない。まずはブランバムだ。ルルドもザンエルも今のところ、ボクに攻撃する様子がないから。
「ていうかぶっちゃけ、このままだとマディアスは世界を滅ぼすからなぁ! あいつはとっくに壊れてんだよ! そうだろう、教祖気取り様! 永久の霊帝ルルド! いやいやいや……」
ルルドは何も言わない、ブランバムの狂った様子を見守っているようにさえ見えた。ザンエルが動かないのも謎だ、世界にとって。マディアスにとって害になるならブランバムを倒さなきゃいけないのに。ボクの時はあれだけ怒ったのに。
「いやいやぁ……あえて、こう呼んでやろう。勇者ウゼよ?」
ブランバムはボクの頭を更に混乱させようとしているのかな。勇者ウゼ、ルルドが。ウゼって確か。
「ウゼって……ウーゼイ教の発祥の元になった……」
「そうだよ、リュアちゃん……。正確には開祖ラコンにそのきっかけを与えた人。そのおかげで悪人のラコンが改心して最終的にウーゼイ教を作ったって。リョウホウさんが話してくれたんだよね」
「なぁ勇者様よ。貴様がこの時代まで生き永らえた理由を言ってやろうか? 何故、勇者の貴様が永久の霊帝ルルドとなり……挙句、災厄として封印されたのか。クククッ、ウーゼイ教も結局は」
「ザンエル」
【終生を告げる死天使ザンエルのジャッジメントレイ! 完全人間ブランバムに30560のダメージを与えた!】
「づぁぁぁぁッ!」
ルルドの様子が明らかに変わった。ザンエルも今まで動かなかったのに、ジャッジメントレイと同時に表情が変わる。眉間に皺が寄り、ジャッジメントレイで撃たれて墜落したブランバムを見下ろして睨んでいる。まるで悪さをしすぎた子供に怒っているみたい。
「こんんぬなぁぁクソがぁぁぁ!」
「ブランバム! 今の話って」
「うるせぇ! 貴様にも脳みそが少しでも詰まっているなら、そこにいる仮面の道化野郎を殺せ!」
「どういう事なのか説明してよ!」
「あのクソカス野郎はなぁ! 危険思想が過ぎて、他の一族の仲間に災厄として封印されたのだ! どれだけ危険かはすでに知っての通りだ!」
無知な人間を滅ぼすとか、そんな事は言っていた気がする。そこにどんな深い理由があるのかは知らないけど、だからってやっていい事にはならない。ブランバムを倒すつもりだったけど、あいつの言ってる事が正しいならルルドも無視できない。
「教祖様ー!」
「聖都をお守り下さい!」
「皆の者、祈るのだ! 主神マディアスの加護があらん事を!」
下の聖都から、かすかにルルドを応援する声が聴こえてきた。大勢どころか、もしかたら聖都中の人達がいるんじゃないかな。豆粒みたいに見える人達が道という道にぎっしりと詰まっている。何万人、何十万人いるんだろう。
「フォファフォファ……というわけで、どちらが必要とされておるか。忌み子達よ、今一度考えよ」
「い、忌み子ってボク達の事?!」
「竜神も言っていたね、それ……。確かに純粋な人間の血が流れていないけど……」
「我らは世界を滅ぼすか。あやつが世界を滅ぼすか」
「勇者一族の面汚しが、不完全脳どもを懐柔するか! 騙されんなよ、ガキども! あのクサレ勇者は下にいる奴ら含めて、最終的に全部滅ぼす気でいやがるからな!」
見つけようとしても見つけられなかったルルドがそこにいる。災厄としての力はすでに知っているし、危険なのもわかる。だけどここであいつを倒しちゃっていいのかな。
「ボサッとしてやがんなら、私が片付ける! つぁッ!」
【完全人間ブランバムはパーフェクトバーストを放った!】
ブランバムがまた攻撃を始めた。サタナキアの一部を削り取った威力のスキルだけど、ルルドには何故かすり抜ける。
「解析、解析してやるぞ! それは天流拳……いや、その上位互換の類だな! ほぉれ、見ろ! このメタリカンは自己進化すると共にALEX以上の分析力があるのだ! 破り方もたった今、判明したッ!」
【完全人間ブランバムは拡散パーフェクトレーザーを放った!】
「破壊の力をもってすれば容易い!」
もうわかった。たくさんだ。この場でどっちを倒すべきか。ここでルルドと協力してブランバムを倒せば全部解決。
「……するわけないよね」
【リュアの攻撃! 完全人間ブランバムに229540のダメージを与えた!】
「ッだぁぁぁ!」
後ろから攻撃するとか、フォーマスみたいで嫌だけどそんなの今はどうでもいい。どうでもよくなるくらい、ボクはやっぱりこいつが許せなかった。完全に当てられなくて、かわしたようだけど関係ない。右肩後ろを斬りつけて破壊してやった。再生するだろうけど、させない。ブランバムはボクから破壊の力を奪ったって言ってたけど、全然わかってないんだもん。
「て、てめぇマジに頭イカれてんじゃねぇのか? あそこに災厄がぁ! いるんだぞぉ!」
「今、ここで最悪なのはお前だよ。ブランバム」
「最悪……さいやく……んあぁぁ! 私は何も人間を滅ぼすなどと言っていない! 私のように完全人間となり、全人類の安泰を願っているのだ! 何故わからん?!」
「じゃあ、なんで下にいる人達を巻き添えにしようとしたのさ。その時点でもういいよ、お前は」
クリンカの背から飛び降り、ソニックブーストで軽く空中を跳ねる。ブランバムをバカにするように前から後ろに、横に跳んでディスバレッドを握り締めた。
「あいつはそれほど危険な奴なのだ! ウーゼイ教も人間も、奴にとっては最終的に滅ぼす存在でしかない! 大昔にあいつは人間こそが自然に害なすと唱えて人類に反旗を翻したのだぞ!」
「そうだとしても、巻き込んでいい理由にはならないよね」
「わっかんねぇ不完全脳だよなぁ?! 多くを救うには多少の犠牲はつきものだろうがよぉ! 全部救うとか、ありえねぇ事言ってんじゃない!」
「出来ないならホントにもういいよ」
「この猿が……貴様がどれだけ強かろうと、無理なもんは無理だと理解しろ! 現にサタナキアの内部にいる奴らは救えてねぇだろうが!」
「助けるよ。お前を倒した後でね」
数回ソニックブーストで跳ねた後、呼吸を整える。相手はそれなりの奴だ、ボクだって真剣になる。だけどアボロには及ばない。その程度の相手でもある。
「クッソカスがぁ……今の一撃でいい気になってんだろうが簡単に治るんだよ……ん、あれ」
「治らないよ。破壊したから」
「あぁ?」
「再生機能だか何だか知らないけど、その概念を破壊したからね」
何をバカな事を、そういうセリフを言いたいんだろうけど言えない。実際に今受けたダメージは回復しなくて、ブランバムもようやく理解し始めて静かになり始める。
「何がどうなってる……」
「今、お前が使ってる破壊の力は偽物だよ。それっぽくて近い性能だけど、所詮偽物。だからルルドに当てられないんだ」
「馬鹿をほざけぇ! 要はこの世におけるすべての物質を破壊するエネルギーを構築すればよいのであって、それにはまず元素単位で分解する事が必須であってそれには」
「だからさ、そういう理屈じゃなくて……もういいや」
どのみち、再生できなくて動揺しているのがわかる。サタナキアの中でボクと戦ったのはブランバムにとって間違いだった。一戦あればどれだけ成長できると思ってるんだ。
「お前もサタナキアもここまでだよ」
「ンカスがぁぁぁぁぁ!」
もう何を言ってるのかわからないほど激高してて、わけがわからない。ここ一番の雄たけびを上げて、ブランバムは襲いかかってきた。
◆ シンレポート ◆
やっと でられたと おもったら どこいった




