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第306話 高度文明の行方 その3

◆ サタナキア 元中央都市クリッド前 ◆


 助けた人達は内側から外壁に穴を開けて、そこからドラゴン達に乗せた。ドラゴンズバレーのドラゴンが人を乗せるなんてありえないけど、竜神に好かれているクリンカが一声かければ解決。躾された犬みたいに、次々と皆を地上に降ろしていった。もちろん凶悪なドラゴン相手に震え上がる人が大勢で、中には失神する人もいたけどそこは我慢してもらうしかない。降ろした後の事は知らない。一応、テラスさん達に伝えておいたからフォローはしてくれるはず。

 そしてトルカリア連邦と無事協力態勢になれたみたいでホッとしている。テラスさんがうまく説明して、交渉は賢者ハスト様だ。世界に名を轟かせる賢者が直々に出てきたのだから、あっちも面食らったのかも。そして何より、ティフェリアさんとイークスさんの名前の影響が大きかった。2人は遠い国にも知れ渡るほど有名だし、トルカリアの偉い人達なら尚更知らないわけがない。ボク達二人だけじゃそこまでうまくいっていたかわからないし、本当にありがたかった。そんな二人はそれぞれブラストキマイラのネメアと、漆黒の地竜ドグラにまたがって応戦しているらしい。


「ネメアちゃん、来てくれたんだね」

「なんだか勝手に飛んできたみたいだよ。ボク、何も命令してないのに。でもこんな事になるなら、初めから連れてくればよかったかなぁ」

「ドグラも、イークスさんが葬送騎士だった頃に乗っていた竜だよね……。リュアちゃんにはネメアがいるし、私も何かほしい」

「ネメアがいるじゃない。別にボクだけのものだなんて思ってないよ」


 首が三つあるし、ハッキリ言ってイカナ村の人でもあまり近づかない見た目だけど段々と愛着が沸く。餌代がちょっとかかるけど、喉を撫でるとゴロゴロ鳴ってて残り二つの首も撫でろと頭をすりつけてくる。パンサードに飼われていたとは思えないほどだ。


「ねぇ、やっぱり変だよ。フォーマスは魔剣もあるし普通じゃないのはわかるけどさ……アイさん達までこの速さについてこれるのはおかしい」


 クリンカドラゴンの速度に余裕でついてきているのはフォーマスだけじゃない。アイ達も普通に走ってついてきてる。障害物を軽々と飛び越える姿は実際に見ても信じられない。ミィだけはこっちに乗せているから、この子もあのくらい強いのかはわからない。


【マイの大切斬! ビスケスに3008のダメージを与えた! ビスケスを倒した! HP 0/4990】


「よっしぁ!」


 直前にアイがビスケスの手足を弓矢でぶっ飛ばし、止めがマイの斧で一刀両断。あのスキルはガンテツさんも使っていたけど、威力は当然桁違いだ。あのハートレスの装甲をマキ割りみたいに簡単に割って裂くなんて。それにあんなに隙の大きい技を的確に当てている。


「アイお姉ちゃん、これなら当分バーサーカーにならずにすむね! あれやるとフォーマスさんに嫌われちゃうもんね!」

「えぇ、何度殿方に逃げられた事か……」

「オイオイ、俺がそんなちっぽけな人間だと思うのか?」


 ちっぽけだよ、お前は。フォーマスとアイ達が仲良さそうにしているのを見ると、イライラが募る。早く目を覚まさせてあげたい。あいつはどうしようもない奴だってわからせたい。


「アイさん達のあの強さ……話で聞いた、アーギルさん達みたいだよね。あの人達も軽々と殺戮駆動隊(ゾディアック)を倒したみたいだし」

「ディテクトリングも、ALEXがないとまったく動かない。それとなく話しかけて冒険者カードを見せてもらいたいけど、フォーマスが近くにいるからなぁ」

「前にイークスさんが言っていたよね。冒険者達がアバンガルド王都から次々と姿を消しているって……それと関係あるのかも」


「おーい、ここからクリッドの様子が見えるぞー」


 フォーマスがまたなんか呼んでる。言われなくても行く予定だし、あいつが呼んだからじゃない。瓦礫の高台に跳び乗り、その先は崖とまではいかなくても急斜面。その急斜面がここから見えるクリッド全体を囲ってるみたいだ。そう、確かクレーターっていうんだっけ。そのクレーターの中に変わり果てたクリッドはあった。


◆ サタナキア 中央都市クリッド ◆


 あの灰色の景色はどこにもなくて、機械に侵食された大都市は完全に病気に冒されているみたいだった。高い建物もぐにゃりと曲がったまま、パイプが巻き付いて支えていてなんとか倒れずにいる。不思議な乗り物が行き交っていたクリッドなんてどこにもない。全体的に熱で変形した金属みたいに曲がった都市。何かを作ろうとして失敗したまま放っておいたような歪んだ都市。そこにはもちろん人の姿なんてなかった。


「うわっ……あ、あれって魔物? 機械?」

「人間だろうな。ただし元、だ」


 マイが震えながら指した先にいたのは、頭に金属の板が張り付いている人間だった。服も着ていなくて、むき出しの胸板には金属と人間部分が混じっている。機械の右腕でぎこちなく、機械じゃない左腕をポリポリとかいていた。


「あれが機械人間だ。サタナキアじゃ不完全な人間の体を捨てて機械になる事を推し進めているらしいな。逆らったところであの様さ。あいつなんかもう自分がなんなのかさえわからなくなってるぜ」

「肌の部分は人間なんだよね、フォーマスさん。だから痒くもなってかいちゃうんだ……」

「もちろん、進んで機械人間になった奴らもいるがな。ほれ」


 2人の機械人間が楽しそうに何か話している。あっちは頭も体も全身が機械だ。といってもハートレスみたいな綺麗なデザインじゃなくて、ガラクタをつなぎ合わせたような不格好な見た目。筒みたいな腕に石ころみたいな形をした頭。もう一人なんか頭に箱を被っているように見える。


「このカラダになってから持病が治りマシテな。これなら何年でも生きられソウデスわ」

「このカラダなら魔物に襲われても平気だナ。今まで人間の体でいたノガ、馬鹿のように思エル」

「ワタシノ知り合いなんぞ、ブランバム様にもっといいボディをもらったソウだ。なんでも、左手からマシンガンを発射できるようにしてモラッタとか。念願のマシンガンとついに一つにナレたとか、大喜びでしたワ」


 2人とも、自慢げに話しているけど動きが本当にぎこちない。普通のクリッドなら、この道はたくさんの人が行き交っていたはず。それなのに今は機械人間が当然のように歩いている。あの2人みたいにお喋りしながら歩いているのもいれば、躓いて転んで頭がとれた人もいる。


「に、人間が少しの間でここまで変わるなんて……。だってサタナキアが出現したのはつい3日前でしょ。いくらなんでも適応しすぎだよ」

「だがクリンカ。メタリカ国内ではかなり前から、こんな兆候があったという噂だ。病気を治す代わりに体の一部を機械にするというような取引が闇社会で行われていた。機械将軍(マシンジェネラル)ブランバムは特例で本来はメタリカじゃ違法だ。組織ぐるみでの仕業らしいが、裏で糸を引いていた大御所なんざ語るまでもないわな」


 悔しいけどそういう話に詳しいのは認めるしかない。ボク達は冒険者なのに、そういう情報や知識があまりない。フォーマスはきっと普段から常に情報を集めているんだろうな。


「なんでそこまでして……あんな体になるんだ」

「機械の体になれば病気にもならないし、寿命だって関係ない。身体能力は言わずもがな、困るのはメンテナンスくらいだな」

「理解できないよ! 確かにすごいかもしれないけど、なんか……なんか違うよ、こんなの……」

「なんで人間はあらゆる技術を発展させると思う? 結局、根底にあるのは弱い自分を克服したいからだ。不便をなくしたい、病気で苦しみたくない。いわゆる生存本能ってやつだな。お前だって弱い自分が嫌で必死に強くなったんだろ?」


 フォーマスなんかにここまで言われて本来なら腹が立つところだけど、立ち止まって考える。何も言い返せない。この人達とボクは同じ人間、フォーマスが言う根底にあるものは変わらないんだ。

 だけど、自分だけが特別だなんて思ってない。


「すると次にくるのが、『あいつには負けたくない』だ。隣がすごいものを作れば自分はもっとすごいものを作ろうとする、競争本能だ。メタリカ国はどこの国にも負けない力を身に着けて、果てにはどこに行きついたか。答えがココだ」


 フォーマスはくいくいと親指で下を指した。歪になった大都市クリッドがそうだと言ってるんだ。


「……ブランバムさんは。ううん、ブランバムはずっとずっと前からこういう支配を目論んでいたんだね。鋼鉄の5人の1人でありながら、裏では機械化の違法取引をして……。私もリュアちゃんと同じ意見だよ。こんな事をして何が楽しいのさ!」


「その不完全脳では、理解できぬのも当然だな」


 ブランバムが勝ち誇ったように、どこからか喋ってる。このサタナキアがブランバムそのものだし、こっちの行動も声も全部バレてるのはわかっていた。だからこそ、ここまでほとんど妨害がないのが不気味だ。


「人は新しい環境になると確実に不平不満を口にする。ところがどうだ、周囲を見ろ。私の草の根運動が功を成したのか、思ったよりも多くの人間が機械化に適応している。研究バカのジーニア、ALEXに熱愛しているコリンなどは見てみぬ振り。王女の教育担当のハゲも無能、鋼鉄の5人ですらこの有様よ……私が好きなように動けたのも当然というわけだ」

「ハッハッハッ……それ以下の臣下なんざ、責任の押し付け合いが仕事みてぇなもんだもんな?」

「自国内ですらこの不完全っぷりよ! 形だけの政策では草の根を根絶など出来やしない! 結局は多くの人間が現状を心の底で受け入れていたとさえ思える! まぁ文句垂れる奴は漏れなく強引に機械化してやったがな!」


「あ、れ、体ガ、ウゴか、な、い……」


 ブランバムが叫んでいる端から、歩いたままの姿勢で動きが止まった人がいた。そして機械の体が崩れて、ガラクタみたいになる。これのどこが完全なのさ。国の上に立つ人があんなのだし、技術があってもここはアバンガルドよりも恵まれてない。灰色のメタリカ、それは見た目じゃなくて中身まで。


「でも、待って。こうなる事を望んでいない人だってたくさんいたはず。あたかも大勢が機械化に適応していると言っていたけど、そう見せてるだけじゃない? コリンさんの時と同じだよ」

「そうだよ、クリンカの言う通りだ。こんな状態になってうれしいわけない。ブランバム、今すぐサタナキアを壊されたくなかったら元通りにしてよ」


「貴様らは……誰に向かって口を利いているつもりなのか。今や私は神になろうとしている男だぞ」


 これはダメだ。無駄だとわかっていたけど、一応聞いてみただけ。ディスバレッドを抜き、ボクはどこにいるともわからないブランバムに対して攻撃姿勢を見せた。サタナキアを落とされたらまずいけど、竜神やドラゴンズバレーのドラゴン達を信じる。


「はぁーん? キツネと外で踏ん張ってるトカゲを負かして神殺しを気取っているのか。いいだろう、貴様らが私の心臓部と思い込んでいる場所はすぐそこだ。見えるだろう?」


 高い建物の中で一番目立つのはメタルタワーだ。元の形が想像も出来ないくらい歪に変形している。鉄の塔に絡みついたパイプ、一番上が膨らんでまるでキノコみたいだ。メリアさんとのやり取りで、あそこが心臓部だと今わかる。ブランバムが嘘をついている可能性があるから、一応聞いてみた。


「サタナキアの制御はあそこで一括して行われていると思われますよ、リュアさん。というか急いでください、無限に湧いてくるハートレス相手に皆さん大苦戦です」

「わ、わかった。すぐあそこにソニックリッパーを撃ちこむよ」


「誰と相談しているのかは知らんが、言ったはずだ。そこを心臓部だと思い込んでいるようだが……誤りだと証明してやろう!」


 メタルタワーがブルブルと震えて、先端から何かが弾けるようにして発射された。その直後、メタルタワーがぐにゃりと曲がり、溶けるようにして消えていく。発射された何かは、糸を引くようにネバネバとしたものをまとわりつかせながら高速でこっちに向かって飛んできた。


「これが……神の姿だ。喜べ、世界の秩序は私が真っ先に塗り替える。まがい物の神もろともな」


 灰色の筋肉質の体、頭はブランバム。だけどそれは肌じゃなくて全身が金属で出来ているみたいだった。金属が筋肉の体を作って動いている。それでいて硬い。イメージはそんな感じだ。ブランバムは機械の体じゃなくて金属の体を手に入れたのか。頭すら生身じゃなくて、髪の毛も目もヒゲも全部が灰色だった。


「ケッ、ようやくお出ましか。前座が長すぎなんだよ」

「貴様こそ、狙いはわかっている。とっととその魔剣を抜いたらどうだ。神の初陣だ、特別に相手をしてやろうではないか」


 フォーマスが中指を立ててブランバムを挑発している。あいつに任せてやるわけない、ボクはわざとフォーマスの前に出て、ブランバムに近い位置に立つ。


「ここまで近くで対面するのは初めてかもな。これほど小さな体から、よくもパワーが出るものだ……」

「それ機械なの? 別に何でもいいけど」

「これこそが新人類のあるべき姿……完全人間(メタリカン)だ。いわゆる金属人間……頭でっかちなだけの不完全な肉体を持つ旧人類に代わって地上を支配すべき存在である。貴様、さっきから恐れ多いぞ?」

「ふーん、それが人間よりすごいんだ」

「葛藤を捨て、病に負けず、永遠に生き続け、人知を凌駕する。不老不死に憧れた人間は多いだろうが、そこに到達できた者はいない。私を除いてな。どうだ、羨ましくなってきただろう? 今すぐにでも頭を下げれば、この肉体を与えてやっても構わんぞ」


 さっきから人間を捨てたから完璧だとか、神だとか。マディアスがどんな奴か知らないけど、さすがにこんなのにとって代わられたくないだろうな。こいつの言う通り、確かにボクは負けたくないから強くなろうとした。だけどそれは誰かを蹴落としたり見下したり命を奪ったり支配するためじゃない。まずそこが違う。


「当然、交尾の必要もない。快楽を得たいなどという低俗な欲求などに支配されず、そもそも種を増やす必要もないからだ。この完全人間(メタリカン)は種としての常識を脱ぎ捨てているからな」

「生きるためにすべてを失くしちゃったんだね……。もうきっとこれから先、楽しい事なんてないだろうね……」

「なに……?」

「悩んだり学んだりして成長したと実感した時が一番うれしいのに。そういうのが面倒になって逃げて、完全な体だけを手に入れて……なんだか、かわいそう」

「貴様……もしやとは思うが、貴様程度がこの私を哀れんでいるのか?」


 ボクにとって生きるという事は皆と暮らすためだ。クリンカと幸せになるためだ。これからもきっと悩んだりすると思う。だけどそのたびに乗り越えてやる。そして成長してやる。


「貴様ァ……貴様ごときが! これだから不完全はよぉぉ! 物の道理とか損得とかそんなの考えねぇで、成長だの目に見えないものを妄信しやがるからよぉ! たかだか15年生きた程度で知った気になってんじゃあないぞ!」

「ブランバムこそ、ボクより長く生きているくせにそんなのもわからないの? いいよ、そんなに完璧ならボクだって倒せるでしょ」


完全人間(メタリカン)ブランバムが現れた! HP ?????】


「マジでうざってぇガキだよなぁ! コリンの気持ちも少しだけわかった気がするぞ!」


 ブランバムがその場で踏ん張ると、足場の金属と足が一体化した。するすると金属がブランバムにまとわりついたかと思うと一体化。体が少しだけ膨張して、金属筋肉お化けみたいにゴツゴツとした体になる。

 その時、後ろにいたフォーマスが剣を抜いた気配がした。


◆ シンレポート ◆


ふぅ だっしゅつ せいこう

これいじょう たたかいに まきこまれるわけには いかないのです

しかし くりんかのひとこえで どらごんのむれが うごく

もはや どらごんつかい です

つごうよく おとこを たぶらかして みつがせる あくじょみたいです

りゅあ おまえが あいしたおんなは よそういじょうに やばい


きかいのからだが さいきょう

きかいだって いずれは れっかするです

めたりかんになれば ちがうです?

せかいじゅう あんなので あふれかえるという まきょう

まぁ まぞくも ひとのこと いえない

それに かんぜんなんて あるです?

なおせない びょうきをなおしても またなおせない びょうきがでてくる

てんてきにかっても またてんてきが でてくる

しぜんって うまく できてるです

にんげんだって そのたびに こくふくして きょうまで はんえいしてきたです

だからこそ まんしんした まぞくは まけた

めたりかんは はたして どのくらいのあいだ しはいしゃで いられるです

ふふっ しんも たまには まじめな れぽをしたのでした


あれ はぐれた? やばい


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