第304話 高度文明の行方 その1
◆ アバンガルド王都 付近 上空 飛空艇内 ◆
「真下にいる人達を潰したら、ボクも何するかわからないよ?」
そう付け加えたのは正解だった。今までそういう手段をとってくる奴らがいたけど、ボクが学んだのは人質を殺したら意味がないって事。サタナキアになったブランバムも、情報大好きなメタリカ国の人だけあってボクをそこまで甘く見ていない。だからこその効果でもあったんだと思う。
ボクが怒ったら何をするか、今までの情報である程度はわかっているはず。ブランバムも、大きい言葉を言ってはいたけど今は攻撃の気配を見せていない。元々あいつの目的は神聖ウーゼイ国だし、ここでアバンガルドの人達を殺す意味がないってのもあるかも。
「あれから3日以上経とうとしているが、動きはないな」
「サタナキアの中にいる人達は無事なのかな」
「無事かどうかはわからんが人質の件の反応を見る限り、うかつな真似はせんだろう」
「中の様子はわかりませんが、微力ながらも大量の魔力を感じます。恐らくは生きているでしょう」
メリアさんの創造魔法が生み出した魔力応答は本当に便利だ。行った事がない場所だしわかんなーいとか言ってたエルメラの上を行く。
「マジでどうすりゃいいんだよ……突っ込むか?」
「死にに行くようなもんっスよ、アニキ」
「リュアさんなら破壊も可能なのにねぇ。せめてアレをどかせないかしら。海の上なら下に破片が落ちても、大丈夫でしょ」
ティフェリアさんの言う通りだ。そうなると残る問題は中にいる人だけになる。あの島、というか大陸といってもいいかもしれない。この距離でも、もう壁にしか見えないくらい大きい。壁がずーっと続いている大きさで、見上げればこっちも果てしない。
「内部に侵入できれば、核となっている部分があるかもしれん。いわゆる心臓部というヤツだな」
「ありますよ。それっぽいのが。かなーり深い部分ですし、こんなのそれこそリュアさんでもなければ辿り着けませんが」
「よし、決まりだな」
もう誰もメリアさんの能力に突っ込まない。勝手に決められたし、結局ボクがやるんだね。でも問題はやっぱり人質だ。
「リュアちんさ、メタリカ国の奴ら全員を救助とか考えてない?」
「考えてるよ?」
「仮にできたとしてさ、そいつらその後どこに住むんだろうね」
「そこまで考えてない……」
「もー、問題山積みー」
「ケチつけるんならエルメラも考えてよ! 想像してよ!」
「アタシは問題提起をしただけだし――――」
「ぬ! あの部隊は!」
テラスさんの反応で、皆の視線が画面にくぎ付けになる。切り替わった画面には空飛ぶ船が大量に浮かんでいた。海に浮かぶはずの船が扇状に綺麗に並んでいて、それが無数にいる。見たところ数百隻はいるかも。なんだろう、あの船。
「トルカリア連邦の飛翔船か?! まさかサタナキアの挑発を受けたのか!」
「なに、そのトルカリア連邦って」
「バラード大陸より北、グラダ大陸にある5つの国からなる連邦国家だ! 大国という共通点で言えば、こちらの大陸でいうノイブランツのようなものだな……」
「へぇ、それじゃ相当すごいんだ……」
「軍事力でいえば、規模を含めてノイブランツとは比較にならんぞ。それよりも一刻も早く止めねば!」
あの大小の浮かんだ船、どこか飛空艇に似ている。メタリカ国以外でも空を飛ぶ乗り物を持つ国なんてあったんだ。5つの剣が上に向かって折り重なるようなレリーフ、あれがトルカリア連邦。世界にはまだまだボクの知らない国があるんだ、なんて関心している場合じゃない。
「トルカリアといえば、軍事力だけならメタリカと並ぶとまで言われた国家だ……。もしかしたら、やるかもしれないぞ」
「セイゲルよ、その見立ては甘い! テラスよ、あの軍隊と連絡を取る方法はないかの!」
「通信形式がまるで違うのでな……むしろ、こういう場合はハスト殿のほうがお詳しいのではないか」
「えー、サタナキアに告ぐ! こちらはトルカリア連邦軍第16船隊! これより警告する! ただちに武装解除し、サタナキアを安全な海域上空に移動せよ! 繰り返す……ただちに武装解除し、サタナキアを安全な海域上空に移動せよ!」
通信でも何でもない、あの船から大きな声が聴こえてくる。これは確か彗狼旅団の団長もやっていた、声を大きくする魔法か何かだ。メタリカに匹敵する軍事力を持っているというのも、ウソじゃない。あの船から放たれる威圧感から、それだけのものを感じる。この大陸の覇者とか言っていたノイブランツですら、あの軍隊の前じゃ尻込みをしたはずだ。トルカリア連邦、もし時間があったら行ってみたかった。
だけどダメだ。あの口ぶりからして、サタナキアの事をメタリカ国が作った兵器だと思い込んでいる。あれはブランバムが島と一体化したものなのに。
「警告に従わない場合は、武力行使もやむを得ない! これらの権限は中央政府より、このカーチス少将が授かっている! 当連邦の意思としては貴国とは厳正なる話し合いの場を設けたいと」
「しゃらくせぇ。だぁから不完全なんだよ、カスども」
【サタナキアはハートレスを射出した!
ペガサス×8000が現れた! HP 4270
ジェミニ×6000が現れた! HP 2222
アクイラ×10000が現れた! HP 2400】
サタナキアの側面の金属が剥がれ、いくつもの開いた穴から大量のハートレスが飛び出す。羽虫の大群みたいに見えるけど、あれら一体一体がかなりの戦闘能力を持っている。いくら連邦の人達でも、ひと溜まりもない。
「前方に火線を集中させろ! 撃てぇぇぇぇぇ!」
船の正面に取り付けられた巨大な発射口の筒から無数の光の玉みたいなのが発射される。何かまでは確認できないけど、あれだけの速度で放たれたらさすがのハートレスの装甲でも大して持たない。ハートレスの遠距離攻撃のレーザーをかき消すようにして命中。一発、二発、三発目でハートレスの形は原型をとどめなくなっていた。
「す、すげぇ! じーちゃん! あれって魔法なのか?」
「武導器じゃな。魔力を使わず、道具にスキルを使わせるというコンセプトで……まぁこの大陸ではあまり普及しておらんな。バラード大陸から先ではかなり盛んに取引されておる」
「それにしてもサタナキア出現から3日と経ってないのにこの足の早さ、あの火力の嵐。もしかして初めからやる気だったんじゃねえか?」
関心しているイークスさんには悪いけど、あの人達だけだといずれは押される。ハートレスの相手だけでも手一杯だし、サタナキアの攻撃手段はまだまだあるはず。ここはやっぱりボク達が行かなきゃ。
「それにしてもあのマシンども……あれだけの金属やら何やらをどうやって?」
「理論は不明だが、数にほぼ制限はないと思っていいだろう。時間がない、すぐにサタナキアへの侵入口を算出する」
「あ、もうそれやりました。あそこです」
あそこと言われてもわからない。そうこうしているうちにトルカリア連邦軍のほうに変化があった。飛翔船の数が段々と増えている。遠くの空から続々と集まってきているみたいだ。
「同士カーチスよ! 第13、14、15隊が現時刻をもって到着した!」
「同士ダッハルン! 感謝する!」
「同士って……」
「トルカリア連邦の軍隊の奴らは互いを同士と呼び合っている。今はそんなのどうでもいいな。サタナキアがトルカリア軍に気を取られているうちに、侵入口まで出来るだけ近づくぞ」
あの人達を囮にしているようで気が引ける。本当は助けてあげたいけど、あのハートレスの群れが無限に出てくるならキリがない。だったら元を断つまでだ。
「時間がありません。あの方々が善戦しているうちに私達も動きましょう」
こうしてメリアさんが手短に作戦の説明を始めた。サタナキアへの突入と地上の安全。一つでも間違えば、大勢の人達が死ぬ。多分、今までの中で一番負けられない戦いになる。
「……よし、成功したよ。すぐに駆けつけてくれるって。というかすでに向かっている途中だって」
「え、それじゃ言わなくてもやる気満々だったの?」
メリアさんの魔法でクリンカが連絡をとったのは。
「あ、ほら」
南の空を覆うほどの大群。それらの中に一際目立つ大きいドラゴン、遥か昔にこの世界を蹂躙したと言われる、唯一人間の手に負えなかった災厄。そんなのが大勢引き連れているのはもちろんドラゴンだ。大小の無数のドラゴンを率いているのは。
「竜神様!」
「ひぇぇぇ! なんだありゃ! あれ全部ドラゴンズバレーから来たのか?!」
「人も竜も愛する者の為には一途なんだよ、オード……。それにしても地上最強の魔物と言われるカイザードラゴンまで引き連れちゃってまぁ……」
「にゃんもセイゲルを愛するにゃん」
羽ばたきだけで人間なんか簡単に吹き飛びそうな巨体、そんな竜神がジロリと睨みつけたのはもちろんサタナキアだ。
「人間が何の真似事をしているのかは知らんが、竜姫が愛した地を脅かすというのならば消えてもらう」
「何かと思えば竜神とかいう大トカゲか。人間に成りそこなった女に手玉に取られるとはな」
「え、何? 今、クリンカを人間のなりそこないって言った?」
飛空艇の中だというのに、ここからソニックリッパーを撃とうとしてしまった。もちろん皆が全力で組み付いて止めてくれたけど。いくらボクでも踏みとどまれるよ、そこはね。大丈夫。
「フー、フー……。あぁ、もう少しで大陸ごと消そうかと」
「中に人がいなければ、そうしてくれると助かるんだけどねぇ。でもリュアちゃんが私の為に怒ってくれた。きゃっ」
「はぁ……見てらんねぇ」
「何さ、オード」
「あの竜神が来てくれたなら一安心だな! ヴァンダルシアの時も助かったよな!」
なんか必死にはぐらかしてる。どうもやっぱり変だ、単にからかっているのとも違う。いや、こんなのは別にいいや。
「トルカリア連邦軍の人達に誤解されないかな。竜神達が敵じゃないってわかってくれるかな」
「竜神様のほうから攻撃するつもりもないし、あっちも敵対意思がないとわかってくれるよ。多分……」
「同士カーチス! 南方より竜の大群の接近を確認した!」
「同士ダッハルン! どうやら我々への攻撃意思はないようだ! それよりも目の前の火線を切らすな!」
物分かりのいい人達でよかった。ノイブランツみたいに聞き分けのない人達だったらどうしようかと。そうこうしているうちにボク達の飛空艇はサタナキアへの突入口へと着実に近づいている。ブランバムに見つからない理由はエルメラの想像魔法、認識妨害のおかげだ。サタナキアはあらゆるレーダーでこちらを見つけてくるだろうから、あらゆる見つかる要素を消せばいいらしい。この調子で全部何とかしてって言ったら、甘えんなって言われた。どうせ出来ないんだろうな。
「やっぱりエルメラはお姉ちゃんより才能があるわ。よしよし」
「お姉ちゃんのほうがすごいってぇ……ふへへへ」
「これ以上の飛空艇での接近は危険だ。ジャミングがあるとはいえ、サタナキアの機能は未知数だからな」
来るときが来た。突入するのはボクとクリンカだ。エルメラはジャミング維持、プラティウは空中戦が出来るからトルカリア連邦軍の援護。メリアさんも何かあった時の為に待機、連絡は魔法で出来る。
「トカゲ風情がぁ! てめぇも所詮は不完全なんだよ!」
「う、うぬおぉぉぉぉ!」
竜神が気合を入れるほどの事がある。それはサタナキアを少しでもこの大陸からずらして、海に落とす。サタナキアの下に張り付いて、押し上げて。他のドラゴンも加勢しているけど、すでに何匹かはサタナキアの猛攻を受けて散っていったのが痛々しい。竜人族達もドラゴンにまたがって援護をしてくれているけど、サタナキアの攻撃に加えてあのハートレスの数だ。トルカリア連邦軍と同じでいつまでもつかわからない。すべてはボク達の仕事にかかってる。それにしてもブランバム、ずいぶんと口調が荒くなった。あれがあいつの本性なのかもしれない。
「サタナキアの攻撃やハートレスはボクが何とかするから! クリンカはボクを信じて、あそこの突入口まで飛んで!」
「ずっと信じてるから平気!」
竜神達に負けじと、クリンカもボクを乗せて金色の翼を広げて飛び立つ。
「サタナキアである私の内部に侵入して破壊を試みるのは結構だ! むしろ招待してやる! それにすでに何匹か羽虫が入り込んでいるからな!」
「え、一体誰が……」
「あそこから入れそう、行くよ!」
ハートレスも攻撃もまったくない。ブランバムの宣言通り、本当にボク達を招待する気だ。どれだけ自信があるのか知らないけど、絶対後悔するから。
何が不完全だってさ。ここには今までボク達が出会った人達がサタナキア打倒を目指している。お金がもらえるわけでもないし、死ぬかもしれないのに。
「皆……いい人達ばかりだよね」
「それもね、リュアちゃんの影響も少なからずあるんだよ? イークスさんやティフェリアさんだって……ハスト様達のウィザードキングダムだってリュアちゃんが救った。エルメラちゃんもリュアちゃんに負けてなかったら、今もひどかったと思う」
「ハハハ……確かに」
「うまく言えないけど、助けられたってだけじゃ皆ここまでしてくれないと思うよ。それぞれどんな想いがあるかまではわからないけど……リュアちゃんがこれまでにしてきた事は無駄じゃなかった。それだけは言える」
それどころか獣人、エルフ、巨人族、、魔族、人間。今、この時代に皆が一緒に存在していて暮らしている。初めは仲が悪かったはずだ、シンだってボク達の事を目の敵にしていた。でも気がつけば、一緒にいるようになって。
「皆、リュアちゃんが大好きなんだよ。きっと」
「そう、かなぁ。ちょっと違うような……。でもあの竜神はクリンカが大好きなんだよ。ボクだけじゃ今も味方になってくれなかったように思えるし」
「未だに竜姫とか言ってるのがちょっと気になるけどね……」
そう、ボクだけじゃこの結果はなかった。クリンカと二人で歩いてきたからこそ、サタナキアを何とか出来るかもしれないところまで来ている。本当に何一つ無駄な事はなかった。今、それを確信している。
「ボク……やっぱり冒険してよかった」
クリンカも頷き、ポッカリと開いた突入口へと飛び込んだ。
◆ シンレポート ◆
とつにゅうぐみ りゅあ くりんかで おわり?
のんのん りゅあ くりんか しん やくいちめい やくたたず
やっちまったです
まぁ そとの かいじゅうだいけっせんに まきこまれて ひくうていが
ついらくなんてことに なるよりは まだ ましです
きづいたですが じつはここ せかいいち あんぜんな ばしょ
とるかりあれんぽう たった みっかで ぐんたいを はけんしてくるとは
のいぶらんつみたいな くそこっかじゃないことを いのるです
また あらたな しんりゃくこっかを あいてにするなんて だれもとくしない
そう だれも
しかし さたなきあなんて たいりくを うみにどかしたとして おとしたら
つなみとか たくさんきて あばんがるど ぴんちじゃないです?
めたりかの やつらとか さんざん ばせいをあびせてきたやつらです
しんなら まちがいなく みすてている
りゅあには それができない ふん おひとよしさんめ
ん こあを はかいして さたなきあがおちて どのみち だれも
たすからないです?
まーた そこまで かんがえずに とつにゅうしたです
もう しらん しらん
魔物図鑑
【アクイラ HP 2400】
殺戮駆動隊、鷹を模したパワードスーツ。コルンバよりもスピードに特化していて、接近戦に特化している。
ハートレスのAIではミサイルのように高速で敵に突進し、時には自爆も可能。ヒットアンドアウェイの動きを基本としており、一度に敵の命を狙わずに少しずつ消耗させる戦法も行う。並みの戦闘部隊ならば、コルンバのフィーシーボムで攪乱されている間にアクイラに狙われて終わりだろう。




