第302話 バベル破壊作戦 終了
◆ 天空砲 付近 ◆
【コルンバ×200が現れた! HP 2600】
【ペガサス×60が現れた! HP 4270】
カシラム王国への発射準備時間、衛星基地の位置から大体の座標はわかった。天空砲の本体はここ、ノイブランツとカシラム国のちょうど国境辺り。近づくにつれてたくさんのハートレスがやってくるから、ここに天空砲があると教えてくれているようなもの。
【プラティウは拡散プラズマカノンを放った!】
【プラティウはコスモ・バラージを放った!】
コスモ・バラージで弾幕を作って、プラズマカノンで攻撃。視界の中に相手を捉えられなくなった機械が次に何を頼りに相手を見つけるか。それは熱。次に呼吸。そうやって生物を特定していく。それを1秒もかからないでやる。だから弾幕での攪乱は一応、意味がある。
【コルンバ×32に4724のダメージを与えた! コルンバ×32を倒した! HP 0/2600】
【ペガサス×14に4690のダメージを与えた! ペガサス×14を倒した! HP 0/4270】
前の機械武装の武装、アトミックブラスターよりもずっと威力が高い。拡散の時点で、あのハートレスの群れに風穴を空けられる。いちいち相手にしていられない。あの天空砲を壊せば、リュアが褒めてくれるから。すごいよ、プラティウって。
――――もしかしてジーニアも
ジーニアが天空砲を作ったのも。マディアスを倒そうとしているのも。もしかして。
【ペガサスはパルスレーザーを放った!】
【コルンバはフィーシーボムを放った!】
「……ッ!」
【プラティウはリフレクターを展開!】
思ったより正確に狙いをつけてくる。弾幕のおかげでいくつかは外れたし、回避も余裕。念のため、リフレクターを展開したけど必要ないかもしれない。
【プラティウはひらりと身をかわした!】
セラフィムの性能の高さ、それはなんとなく思ったことを正確に実行してくれる。かわすとか逃げるみたいな漠然とした考えでも、何の狂いもなく思った通りに動けた。クリムゾンなんかよりずっとすごい。これをコリンおばさんが?
【天空砲バベルが現れた! HP 170000】
「……見えた」
大きな筒みたいなのが浮いている。発射口だけで小さな町ならすっぽりと覆えるくらい大きい。その筒に四角い透明の板がたくさん突き刺さっていて、あれで多分太陽光を吸収して予備のエネルギーとしてまかなっている。まるで空に浮かぶ煙突だ。煙突を横にひっくり返したみたい。
「制空圏内ニ侵入者確認。迎撃システムヲ作動シマス」
【バベル・ガーダー×500が現れた! HP 10000】
【エントリヒ・バベル×80が現れた! HP 50000】
大空に放たれた音声と一緒に、筒の横から何かが射出される。小さな空中砲台、大きな空中砲台。災厄クラスの魔物も倒せるというのはウソじゃなかった。あれに比べたらハートレスの群れなんか、なんとなく飛んでいる羽虫でしかない。
「リフレクター最大出力、持続時間は約3分」
本体を破壊すれば機能停止するから、守備砲台は無視。持続時間を削ってでも短期決戦で壊す。そして褒められるんだ。今、一番頭を撫でられたい人に。危ないから後ろに下がっててじゃなくて。
――――自分も一緒に背中を合わせて戦おうって、言ってもらいたい
「ターゲット、ロックオン」
そしてセラフィムが出せる最高速度で、天空砲に近づく。
◆ カシラム国 王都前 ◆
「で、こいつらが王都に潜入して人質とるか虐殺しようとしてたわけなの」
殺戮駆動隊の何体かを山積みにして王都前に持ってきた。機能停止させて中身も気絶させておいたから問題ないんだけど。一番の問題はあいつらがアタシの話をまったく聞いていない点だ。大量発生したライオン相手に大苦戦。王様も全身から血を流し、片方の腕をだらりと下げている。ヴァイスが乗っているパシーブも片足をやられていて、今のところまともに戦えているのはバルバスとニースだけ。
「なんなん、これ」
【レオのレイザーソニック! エルメラはひらりと身をかわした!】
「マジなんなの」
【エルメラはアシッドレインを唱えた! レオを倒した! HP 0/9300】
「ねぇ」
いきり立って襲いかかってきたライオンをとりあえず溶かす。いくら強度があろうと、工夫すれば溶ける。アタシはこれ、酸で一番偉くてすごいから王水って呼んでるんだけど。殺戮駆動隊なんてこれで完封よ。速かろうと空気中で発生させれば何の問題もなし。想像魔法に不可能はないのだ。
「なんでライオンが増えてるの」
「すまない、エルメラ! 手伝ってほしい!」
「きちんとお願い出来る王様、素敵」
「あれの正体はわからない! 少なくともメタリカ国産なのは確かだ! 頼む!」
「もー」
はいはい、と後ろ髪をかきあげてなんとなくやる気をアピール。バルバスとニースがいるから、放っておいても殲滅できそうなんだけど。
「あれ、中身いないでしょ。動きがそれっぽいもんね」
「そうかもしれんな!」
「じゃあ、終わらせますか」
【リュアはソニックレインを放った! レオ×10に4830212のダメージを与えた! ケンタウロス×16に4945199のダメージを与えた!】
今、まさにやる気を出したところ。出したのにタイミングを見計らいやがって、あの小娘め。もうアタシの目の前には瞬時に跡形もなくなったライオン達の残骸しかない。肉眼で捉えるのが不可能な斬撃の嵐を降らせた小娘は、空を飛んでいる相棒ドラゴン娘の背中から悠々と飛び降りてきた。
【レオ×10を倒した! HP 0/9300】
【ケンタウロス×16を倒した! HP 0/6050】
「ここにもハートレスがたくさんいたんだね。王様もひどい怪我だ……」
「フフ……我が国は何度、お前に助けられたのだろうな」
竜娘が人間形態に戻り、治療を始めたところでアタシは改めて残骸を見る。いや、残骸というにも及ばない。何かの欠片にまで壊されていた。何がすごいかって戦っている奴らをきちんと避けて的確にあいつらに命中させた事。
「我々が苦戦した相手を見事に全滅させてくれたな。並みの人間なら心の根底から折れているところだろう……」
「そういう事は言わないでよ」
「お久しぶりですね、リュア」
「ニース、バルバスも戦ってくれたんだね。仲良くなっていてよかったよ」
照れ隠しにヒゲを揺らして鼻をかく猫獣人。バルバスもこっちを見ないで、空の彼方を眺めている振りをしている。獣人の貴重な照れた時の反応じゃん。
「それにしても、今の敵はメタリカ国なのだろう? 何が起こっている?」
「実は……」
殺戮駆動隊が出来損ないすぎて、生み出された無心駆動隊。ざっくりと説明されて、ふーんって感じ。アタシにしてみれば戦況を左右するのも結局は心だと思うし、おばさんの考えは古い。まぁ聞いている限り、もうとっくに正気じゃないだろうからそこを論ずるだけ無駄だろうけどね。
「そ、それよりここにプラティウ……助っ人がこなかった?!」
「あん? アタシという助っ人がいながら一声もかけないどころか質問?」
「ごめんね、エルメラ! ありがと!」
「いや、それらしきものは何もこなかったが」
王様の答えにリュアちんは青ざめる。プラティウって確か、あの眠そうな顔したがきんちょだっけ。どれどれ、ちょいと見つけてやりますか。あまりに遠くだったり、お姉ちゃんみたいに超高度な封印で封じられているのは無理だけど。
「じゃあ、どこに行っちゃったんだろう……」
「天空砲を破壊しに行ったみたいだよ?」
「……エルメラ、今なんて?」
「大サービス。アンタがあの子を失って絶望した挙句、世界を滅ぼしちゃ敵わないからねっ! ほれ、早く! 場所教えてやるから!」
「エルメラ……ありがとう!」
ドラゴン娘にまたがって飛び立つ姿を見送って、ばいばいと手を振る。手伝ってやってもいいけど、その必要もない。
「素直に教えたものだな」
「そーお? いつも親切だと思うけどな? アタシだってバルバスには優しいでしょ?」
「エルメラはあの二人を快く思っていなかったのでは?」
「んー。ニースちゃんにはわからないかな」
お姉ちゃんを復活させてくれたお礼をまだ言えていないだけ。それだけだからね。
「憎たらしいわけじゃないし」
「そうなのですか?」
馬鹿にした時の反応が面白い。つっつけばきちんと反応してくれる。最近はスルーを覚えやがって可愛げがなくなったけど、本当にそれだけだからね。
「ああいうのは敵に回すより、手なずけておいたほうが得だから」
そうじゃないという気持ちをかき消しながら口に出す。失うものの辛さを知っているから、気まぐれ、世界を壊されたくないから。どれもしっくりこないのはどういう事かな。そうだ。一緒にいてやってもいい、これならしっくりくる。
――――一緒に
なんとも言い難い妙な感情が心の底に漂っているのがどうにも納得いかなかった。一緒に、か。いやいや、なんか変だ。一体アタシはどうしてしまったのか。クソクソ、バルバスどものせいで考え出したら抜け出せなくなった。そもそもなんでアタシはあんな奴らにいつもちょっかいを出しているのか。
「だ、大体あんな女同士で結婚する奴らなんか――――」
ふと、小さくなったドラゴンのシルエットにまたがるリュアを見上げて急に胸が熱くなった。なに、これ。やっぱりアタシはおかしくなった。なんであの二人を見て、こんな訳の分からない気持ちにならないといけないのか。想像魔法で解析してやりたいけど、わからないものはどうしようもない。
「あーもう! とっとと片付けて帰ってこい! また就寝邪魔してやるから! ベッドに潜り込んでやるからね!」
「フフ」
毛並みのいい猫がヒゲを揺らして楽しそうだ。後でしこたまブラッシングしてやる。
◆ 天空砲 付近 ◆
【バベル・ガーダーのスプラッシャービーム! プラティウはひらりと身をかわした!】
「あと、少し……」
損傷率が80%近い。かろうじて翼とバーニアを守っているけど、ここをやられたらお空を真っ逆さまになって落ちてしまう。リフレクターの持続もとっくに切れている。あとは。
【エントリヒ・バベルの大口径ビーム砲! プラティウはひらりと身をかわした!】
よし、怖い一撃をかわした。普通に見たらわからないけど、砲台の攻撃には一定の間隔がある。一つずつ、あの無数の砲台の発射間隔を計算して頭の中で回避プログラムを構築。それをセラフィムに記憶させてる。あのエントリヒ・バベルは一撃が重いけど、発射感覚がバベル・ガーダーよりも長い。プログラムの自動回避に任せて自分は最低限の攻撃だけに専念する。一番攻撃網の薄い部分を算出して、バベル・ガーダーを破壊。ここまでくるのにリフレクターは本当に役に立った。
「あと少しで本体……」
【バベル・ガーダーのスプラッシャービーム! プラティウはひらりと身をかわした!】
射程圏内に入ってはいるけど、ここから攻撃しても多分無駄。セラフィムでも、あの質量は破壊しきれない。だからもう少し。もう少しで内部に――――
【バベル・ガーダーの攻撃! プラティウは1054のダメージを受けた! 4450/25000】
「いづっ……!」
バベル・ガーダーの横の部分からアームが伸びている。通り過ぎようとした時を狙っただけじゃなく、接近戦にも対応してきた。
【バベル・ガーダーのスプラッシャービーム! プラティウは1544のダメージを受けた! HP 2906/25000】
「い、いだぁいッ! 痛い、いたい!」
発射感覚をずらして、回避プログラムに対応してきた。ウソだ、完全にオートで動いていると思ったのに。それともこの迎撃システム自体が学習してプログラムを構築してるのかもしれない。どっちにしても、もうセラフィムはもたない。
【バベル・ガーダーのスプラッシャービーム! プラティウは1501のダメージを受けた! HP 1405/25000】
「いたい、痛い、どうしよ、どうしよ、どうしよ!」
回避プログラム再構築、間に合わない。自力回避、不可能。セラフィムの装甲、残りわずか。飛行可能時間、わずか。
【バベル・エントリヒの大口径ビーム砲!】
さっきから発射感覚がより長くなっていたのは、この時を狙っていたからだ。ちょうど、止めを刺せるように。プログラム通りに自分はここまで誘導されたんだ。
「リュア……」
光が包む。ビームがセラフィムの装甲ごと――――
【リュアはソニックスピアを放った! バベル・エントリヒに7054213のアメージを与えた! バベル・エントリヒを倒した! HP 0/50000】
飛行できなくなって落ちかけた自分は誰かに抱きかかえられていた。自分を撃つはずだったバベル・エントリヒは跡形もなく消えている。
「プラティウッ!」
「怒るのは後だよ! それよりあれが天空砲でしょ!」
「あんなの作って……人殺しの道具! ボクを怒らせたなッ!」
【リュアはソニックインパクトを放った!】
片手で抱きかかえられている自分の耳を貫くほどの声。片手でその剣を怒り任せに振るい。
【バベル・ガーダー×192に121065499のダメージを与えた!】
【バベル・エントリヒ×5に121056009のダメージを与えた!】
◆ 天空砲 付近 ◆
あの人殺しの兵器を完全に。
「この世からぁぁぁぁぁ!」
【リュアはディザルトインパクトを放った!】
ソニックインパクトから更に追撃、この時点で残骸すら残っていないだろうけどまだ足りない。破片一つすら見たくない。残さない。もう二度とこの世界にあんなものが出来ないように。誰も作れないように。
「消えてしまえぇぇぇぇぇ!」
【天空砲バベルを破壊した! HP ―】
雲が消え、突き抜けたソニックインパクトとディザルトインパクトは空の遥か向こうにあるものまで消し去った。空の向こう、何があるのかわからないけど今のボクには関係ない。あの兵器が消えてしまえば、もう何でもいい。
「はぁ……はぁ……」
「リュアちゃん、消耗してるよ……。プラティウちゃんも」
「立て続けに、に、二発は……まずかったよ……」
クリンカの背中に張り付く勢いで、べったりと倒れる。少しだけ大きくなった気がしたこの背中が、ボクを安心させてくれた。
「天空、砲……もう、どこにも……ないよね」
「ない。完全に消えたよ。その辺りを飛んでいたハートレスも消し飛んだみたい」
「よかった……」
「リュア……」
ボクの背中に重なるようにして、くっついてきたプラティウ。かすれた涙声が弱々しい。
「わかってるよ……役に立とうとしたんだよね」
「セラフィムでもダメだった……」
「悔しい気持ち、ボクが受け止めてあげる」
すすり泣いているプラティウの体温が背中で感じられる。さっきは怒っちゃったけど、今は何も言わない。悔しい気持ちはボクにだってわかるから。それ以上は何もしてあげられない歯がゆさもあって、プラティウの鼻水まですする音がより悲痛に聴こえた。
「強くなりたい……リュアとクリンカと一緒に戦えるようになりたい……」
「プラティウちゃんは十分強いよ。私一人だったら、ハートレスの群れにやられちゃっていたかもしれないもん。それにプラティウちゃんは何か勘違いしているけど、別に強くなる事だけが背中を合わせるってだけじゃないんだよ」
「でも、強くならないと戦えない……」
「私達に出来ない事、それをプラティウちゃんの得意で補ってくれたらいい。機械武装だって一人で作っちゃう子だし、それだけでも才能だよ。いい? 自分に何が出来るか、もう一度よく考えて。だから二度とこんな無茶しちゃダメ」
それっきり黙ったプラティウは何か考えているようだった。ボク達に認められたい、一緒に戦いたい。クリンカはずっとボクと一緒にいて、少しずつ強くなってきたけどプラティウはまだ一緒にいる時間が短い。だから焦っちゃうのかな。
だったらその分、一緒にいてあげないといけない。まだ体が動かないし、今立ち上がったらプラティウが落ちちゃうから出来ないけど。抱きしめられないけど。
「お願いだから焦らないでね。私だって今よりずっと弱かったんだから」
「ずりゅっ……」
だいぶ落ち着いたように思えた。生暖かい感触を通して、プラティウの感情が伝わってくる気がする。ボクよりもこんな小さな体で、あの恐ろしい天空砲に挑んだんだ。ボクが奈落の洞窟で戦ったように、遥かに強い相手を倒そうとした。考えてみたら怒るなんてとんでもない。ボクだって通ってきた道だ。
「プラティウ、これからずっと一緒にいようね」
「うん……ずりゅりゅっ」
「ん、なんかさっきから変だな……」
「鼻水、染みてる」
「ぎゃぁぁぁ!」
さっきからおかしいと思った。生暖かさは体温だけじゃない、冷えて冷たくなった鼻水の感触が今更伝わってくる。ちょっと気を許したらすぐこれだ。
「リュア、ありがと……」
小さくお礼を言ったプラティウは気が緩んだのか、静かに寝息を立て始める。ここから大地を見下ろしていると、ふと思う。マディアスもこうやって世界を見ているのかなって。何を考えて世界の調停なんかやってるのか知らないけど、ここから見ていると気づく事があるのかな。
「さ、皆が待ってるから戻ろう」
クリンカが翼を動かし、地上を目指す。果てしなく広がるこの大空の中を漂っていると、世界にはボク達3人しかいないとすら思えた。
「さーて、帰ったらプリンまんじゅうでも食べよーっと。確かとっておいたはずなんだよねぇ」
「ボクはもう食べちゃったよ」
「あげないからね」
「別にいいよ」
腐ってないのかな。結構前からとっておいてあるはずだけど、どうせクリンカが再生させるからどうでもいいか。
◆ シンレポート ◆
えっ
魔物図鑑
【コルンバ HP 2600】
殺戮駆動隊、鳩を模したパワードスーツ。飛行能力と最低限の射撃兵器しか搭載していない。いわゆる量産型を意識して設計されている。空中から爆撃するフィーシーボムは鳥が糞を落とすようだと評判が悪い。
【ペガサス HP 4270】
殺戮駆動隊、ペガサスを模したパワードスーツ。コルンバよりも高い戦闘能力と飛行能力を持つ。ケンタウロスのように馬の四足歩行の形状というより、馬人間といったほうが近い。その射撃能力は秒間数百発のパルスレーザーを放てるので一機だけでも制圧力はかなり高い。




