表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/352

第27話 キゼル渓谷を越えろ! その1

「アバンガルド闘技大会?」


「そう! もちろん出場するんだろ?」


アバンガルド闘技大会、年に一度開かれる大会らしい。

数日で完全に復帰したセイゲルは調子を取り戻したようで

遠慮なしにそこらにいる女の子に声をかけていた。

今は偶然、そこに居合わせたボク達が話し相手になっている。


「初めて知ったよ。ロエル、知ってた?」


「うん、でもお祭りどころじゃないなって思って」


「お祭りってどんなの?」


「あ、そこからか……ううんとね」


「人がたくさん集まっていろいろな事をして楽しい!

 そして女の子もたくさんいる!

 まぁ闘技大会ってのはその目玉の一つなんだけどな。

 毎年、腕の立つ冒険者が集まってナンバー1を決めるのさ。

 優勝者にはなんと100万ゴールド!

 どうだ? 涎が出てきただろ?

 なんならオレがエスコートして」


「王都までは遠いけど、リュアちゃんが行きたいなら行こうか」


「一年に一回しかないなら、今いかないと来年だし。

 いってみたい」


それまで依頼書をとっかえひっかえしていたけど

祭りとなるとこうもしていられない。

ボク達は忙しなく手持ちの依頼書を全部、指定の場所に戻した。


「待て待て。どうやって王都へいくつもりだ?

 王都への唯一の道、キゼル渓谷はな。

 デンジャーレベル10にも指定されているんだぞ。

 いやリュアなら問題ないがな。

 しかし油断大敵、オレがしっかりとサポー」


「お、もしかして王都行き?

 ちょうどよかったね」


道具屋のシンシアがセイゲルを遮って入ってきた。


「私も王都に用事があるから、ちょうど護衛依頼を

 出そうと思ってたんだ。よかったら引き受けない?

 王都にもいけて報酬もらえちゃうんだよ?

 もしかしたら、その拍子にBランクに上がっちゃうかもね」


「Bランクへの道のりは険しいぞ。

 冒険者にとって一つの壁でな、ここで挫折する奴も多いんだ。

 何せDランクの時と違って、危険な依頼をたくさんこなさなきゃ

 ギルドは認めてくれない。護衛だけじゃなくてフロアモンスターの

 素材収集、闘技大会もそうだが、そういった催しでの実績など」


「リュアちゃん、いいんじゃない?」


「うん、本当にちょうどよかった」


「じゃあ、決まりだね。リンテイさん、手続きお願いします」


手続きをしているボク達の横で諦めきれないセイゲルが

何か言ってたけど、誰も反応しなかった。


"王都への護衛をよろしくお願いしたい! 道具屋 シンシア

 報酬 1400G"


「ざ、雑だなぁ……」


あまりの大雑把な依頼内容に引いたセイゲル。


「いーの、こんなもん。細々書いたって

 読み飛ばされるだけだって」


「いや、そんな事はないだろ……

 冒険者としては出来るだけ詳細を書いてくれたほうが

 ありがたい」


「あんたが引き受けるわけじゃないんだからいいでしょ」


「えっ? 仲間はずれ?」


なんやかんやでボク達は翌日からアバンガルド王都を目指す事になった。


///


クイーミルから1日程度、馬車に揺られるだけでそこはキゼル渓谷だ。

ある程度、舗装されて柵までつけられている。

もっと険しい道のりなのかと思ったボクは拍子抜けした。

しかし、柵の外は底が見えない崖だ。

一歩踏み違えて落ちれば、ボクも助かる自信はちょっとない。

砂利と石が混じった、ゴツゴツした道を馬車馬は軽快に歩く。


「リュアちゃーん、下は見ちゃダメよー?」


シンシアが手持ちのお菓子か何かを食べながらボクにひらひらと

手を振る。馬車の中は案外広くて、ボク達4人が座っても

まだ余裕がある。4人、なぜかセイゲルまでついてきた。

しかしセイゲルは先頭で馬車馬を歩かせるのに必死だ。


「あの人、チャラいけど役立つじゃない。

 まさか馬車馬を引けたなんて」


「一応、Aランクの有名な人なんだよ……」


マイペースなシンシアにロエルは戸惑う。

それにしても護衛なんて必要なのかと思うくらい魔物がいない。

さすがに休憩は挟んだとはいえ、一日も馬車の中で揺られていると

眠くなる。


「ふぁぁ~……」


「あら、おねむ? 護衛なんだからしっかりしないと。

 はい、これ」


シンシアから手渡された赤い物体を何の疑いもなく飲んだ瞬間

喉の奥から頭の先まで、痛みといっていいほどの刺激が駆け巡った。


「んん! み、水! みず!」


「リュアちゃん、しっかり! はい、お水!」


ロエルが差し出した水のおかげで一命を取り留めた。

シンシアはその様子を見てけたけたと笑う。


「ほらね、油断してるとそうなるんだよ。

 ただでさえここは魔物が出る場所なの。

 そんなあくびなんてして護衛対象に傷がついたらその時点で

 依頼失敗よ?」


「がんばる……というか、今のは?」


「スパークトウガラシ」


なんでそんなものを持ち歩いているのか。

ボク達よりも少し年上なのか、シンシアはお姉さん気取りで

やりたい放題だ。

同じお姉さんならアイのほうが絶対いい。


「ここのフロアモンスターでも出りゃ、少しは退屈しのぎに

 なるんだけどな」


「やーん、それは勘弁」


セイゲルの楽しそうな声にシンシアがおどける。

言葉とは裏腹に二人はその襲来を心待ちにしている。


【ゲッコウモンキー×2 が現れた! HP 73】


崖から大型の猿がリズミカルに降りてきた。


「お、こいつらなかなかタフな上に腕っ節も強いから

 駆け出し冒険者は泣きを見るんだよな。

 ちなみにフロアモンスターはこいつらのボスだ」


「さ、眠気覚ましにパパッとやっちゃって」


気軽にいってくれるなぁ、といいたいところだけど

本当に気軽だった。

あまりの動きの遅さに逆に眠くなりそうだった。

一匹はボクが拳で粉砕したけど、もう一匹はロエルが

はりきってファイアロッドで焼き殺していた。


【ロエル は ファイアロッド を使った!

 ゲッコウモンキー に 301 のダメージを与えた!

 ゲッコウモンキー を倒した! HP 0/73】


なんか前よりも火力が上がってるような気がした。

実はとんでもない大器なんじゃないか、最近ロエルに対して

そう思えるようになってきた。


「ちょ、二人ともやるじゃん……

 特にリュアちん、あんたなにそれ?」


「ち、ちん?」


「はしたない!」


自分で言ったくせに咎められた。

ロエルも聞きたそうにしているのに。


「ハッハッハッ! 二人とも強いな!

 オレなんか必要ないくらいだ」


「うん、ホント!」


「あ、いやそこは否定してくれよ」


段々セイゲルがかわいそうになってきた。

悪い人ではないと思うのだけど、報われない人だ。

そうこうして進んでいるうちに日がすっかり沈んでいた。


「さすがに暗くなってきたな。

 今日はここで野宿するか」


「それなら火を焚いたほうがいいかな?

 私のファイアロッドで……」


「ここの魔物に火を恐れる奴はいない。

 逆に居場所を教えるハメになる。

 それと、その杖はそういう使い方をするもんじゃないぜ」


「見張りを立てないとねぇ」


ボク達を信頼してくれているのかはわからないけど

シンシアは他人事で楽しそうだ。


「いいよ、何か来ればボクが気づくから。

 そういうのには慣れてるし」


「ネコって熟睡しているようで、何かあるとすぐに起きるよね。

 あんな感じ?」


「う、うん。そんな感じかも」


シンシアに調子を狂わされたけど、奈落の洞窟ではいつも

そうしていた。何度、寝込みを襲われた事か。

ふとセイゲルの視線が気になった。

いつものふざけた感じと違って心なしか、ボクを見る目が鋭い。

でもそれも一瞬でセイゲルはまたいつもの調子に戻った。


「さすがにレディーに見張りをさせるわけにはいかないな。

 少しくらいはオレに頼ってくれないか?」


「セイゲルさんなら安心できるけど、なんか悪いな」


「いいのいいの。それじゃ、寝ましょ」


「ほんっとうに遠慮がないな、君は……」


「あと、襲ってきたら殺すから」


「はいはい」


セイゲルがシンシアを襲うわけないのに何を

いってるんだろう?


やがてロエルとシンシアは寝息をたて始めた。

馬車の中に静寂が訪れ、ようやく今になって夜の世界を

実感し始めた。


「リュア、起きてるんだろ?」


「なんで起きてるってわかったの?」


「戦いは上手くても、たぬき寝入りは下手糞だな」


「たぬき?」


「……なぁ、リュア。おまえ、レベルいくつなんだ?」


「オーバーフローって出るから100以上みたい」


「だろうな……。

 レベル100超えか。実力だけならSランクの連中と同等かもな」


「Sランク?」


A、B、C、Dの順ならSはDよりも下のはず。

そんな連中とボクは同じなのか。


「世界に10人といない、各国お抱えのエリート冒険者……

 いや、すでに冒険者じゃないか。

 全員、レベル100をぶっちぎってやがる化け物集団さ。

 世のほとんどの人間はレベルキャップで止まっちまう。

 それに悩んで冒険者を引退しちまう奴だっている」


グルンドムを思い出した。自分の限界を知った時や

そこに到達した時。人は壊れる。

でもボクはグルンドムのように他人の足を引っ張る真似は

絶対にしたくない。


「オレのレベルキャップは幸いまだだけどな。

 リュア、奈落の洞窟ではどんな奴を倒したんだ?」


「うーんと……破壊の王、バ、ヴァ……

 ヴァンなんとか」


「はかいのおう?」


「うん、そう言ってたよ。丸い光の玉みたいなのをいくつも

 出してきて、それに触れると何でも消し飛ぶんだ。

 後は巨大な蛇や犬も強かったなぁ……」


暗い洞窟の中、自分の火で起こした灯りを頼りに進んだ日々。

考えれば考えるほど、なぜあそこまでがんばれたのか。

そう思わずにはいられない。


「奈落の洞窟か……」


そう呟いてセイゲルはしばらく沈黙した。


「リュア、オレと勝負しないか?」


セイゲルは突然、笑顔で口を開いた。

魔物図鑑

【ゲッコウモンキー HP 73】

キゼル渓谷に生息する凶暴な猿。

その力と身のこなしで幾多もの駆け出し冒険者を葬ってきた。

荷物を奪われる事もあるので注意。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ