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第24話 三姉妹の事情 その5

【蜜なる激母 が現れた! HP 1211】


「あ、あ、あれって」


マイの震える指の先にはテラービーよりも一回り以上大きい

蜂がいた。羽の数は八枚、針は本体と同じ程度の長さがある。

総合的なサイズは成人男性よりもわずかに下回る程度だが

テラービーとは一線を画すオーラが新米冒険者に刺すように伝わってきた。


「蜜は回収できたのに今頃現れるなんて……

 逃げましょう」

「でもリュアさんは?! ミィは!」

「リュアちゃんもミィちゃんも平気! 逃げよ!」


ロエルはアイとマイの手を引いて走り出した。女王蜂は森に響き渡る羽音を立てて追跡を開始した。


「あんな大きい音なのに、なんで誰も気づかなかったの?!」

「今はそんな事、どうでもいいでしょう!」


姉の一喝にマイは黙った。本当にそれどころではない状態で、女王蜂の周りに次々とテラービーが集まる。

森を抜ければそこまでは追ってこないと踏んだ三人は全速力で出口を目指した。


【蜜なる激母 は テラービー を操った! テラービー は列を作って飛行する!!】


テラービーの群れは八の字を描いたと思ったら順次並んで三人に向かってきた。


【テラービー の総攻撃!

 ロエルは 14 のダメージを受けた! HP 94/108

 アイは 21 ダメージを受けた! HP  10/31

 マイは 25 ダメージを受けた! HP  1/26】


【蜜なる激母 は更に テラービー を呼び出した!】


倍の数に膨れ上がったテラービー。数の分だけ威力が上がるのだとすれば危険極まりない。

アイはどうしていいのかわからず、瀕死の妹を気遣うのが精一杯だった。

すでに退路は断たれて三人は囲まれた。


「マイ! しっかり!」

「お……姉さん……」


次のテラービーの猛攻は今の比ではないと思ったがとてもヒールが間に合わない。緊張の中、つまづいて転んだアイを容赦なく女王蜂が刺殺にかかる。


【蜜なる激母 の攻撃!】


ロエルがアイの前に躍り出る。

女王蜂の長い針がロエルを突き刺した。


【ロエル は 91 のダメージを受けた! HP 3/108】


ロエルの背中から針が突き出る。

瞬時に全身に毒が回り、ロエルはそのまま倒れた。


「ロ、ロエルさんッ!」

「おまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!」


雄叫びをあげるリュアが上空に舞い、剣を振り下ろした。


///


ロエルを刺した蜂をボクは頭上から斬った。羽の欠片も微塵も残さず、女王蜂は消失した。勢い余ってその下の地面に大きく地割れを残してしまったけどそんなものはどうでもいい。

ようやく戻れたと思ったら、ロエルが……


【リュアの攻撃! クリティカルヒット!

 蜜なる激母 に 1363391 のダメージを与えた!

 蜜なる激母 を倒した! HP 0/1211】


「ロエルッ!」

「へ、平気……う、う……」

「げ、解毒薬を。ボクが、ボクが使うから」

「キュア……ヒール……ヒール……ヒール……」


今までボクにおぶさっていたミィが降りて健気にロエルを癒した。

いつの間にキュアなんて覚えたんだろう。


それより迂闊だった。

もっと早く駆けつけていればよかったのだろうか。

蜜の採取なんてほっといて三人を森から脱出させればよかっただろうか。

ボクが至らないばかりに……魔物は倒したのに悔しさが収まらない。


「ありがと、ミィちゃん……楽になった」


ロエルがよろよろと立ち上がる。ミィは不安そうにロエルを見上げていた。


「ロエル、ごめん。ボク、守れなかった……」


「リュアちゃんはミィちゃんを守った。それだけで十分だよ」


励ましの言葉がまったく響かない。

ボクがもっと、もっと、もっと強ければミィも助けて素早くここに駆けつけられたはず。まだ、足りない。もっと強くなるにはどうしたら……


「すみません。私達が未熟なばかりにお二人に本当に迷惑ばかりかけてしまいました。なんとお詫びしていいのか……」


アイが心底落ち込んだ様子でボク達に謝罪する。


「ミィ、もう! 心配かけて……」


ミィはふるふると首を縦にふる。謝罪のつもりだろう。

やっぱり強くなるしかない。この三人もボク達も。

当初の目的である蜜は採取できたようなのでボク達は早々に森から引き上げた。


///


「あっりがとー! これでロイヤルゼリーが大量に作れる!」


道具屋の娘、シンシアは新しい玩具を手に入れた子供のように目を輝かせて蜜の入った容器を抱いた。


「あ、そういえば大丈夫だった? あそこのフロアモンスター」

「襲われたけどボクが倒した」

「マジで?! じゃ、じゃあ、あいつの針は採取したよね?!

 あれ、コウゾウさんに売りつければ喜ぶよ?」

「消し飛んだからしてない」

「けし……なに?」


まぁいいか、と片付けてシンシアは再び蜜に視線を戻す。

もうボク達は用済みといわんばかりに彼女は蜜を抱えて店の奥に消えていった。ロイヤルゼリー。一体どんなアイテムなんだろう。


///


ギルド内が騒がしかった。

何やら、重傷を負ったセイゲルが路地裏のゴミと一緒にまざって倒れていたらしい。ひどい有様でとっくに死んでいると思われたけどかすかに息はあったようだ。


「あのセイゲルさんをそこまで痛めつける奴って……」

「ヒールステーションで集中治療をしているけど

 未だに意識が戻らないってさ……」

「奴だ……奴しかいない」


どよめいたギルド内。

その呟きの主に視線が集まる。


「伝説の剣豪ザンギリ……蘇ったのだ」


ガタガタと震える年季の入った冒険者。ガンテツよりも年上と思われる、そのおじいさんは自分の武器を目線まで掲げつつ、震えた手で語る。


「ガメッツ商会で護衛をやっているあやつ……ザンギリそのものだ!

 そうだ、あれはザンギリだ!」

「お、おじいさん落ち着いて……」


ウィザードの女の人がなだめるが、おじいさんは止まらない。


「奴は生前、十万以上の人間を斬った!

 殺したりずに蘇ったのだ!」

「ザンギリは70年以上前に死んでいるんだぞ!

 本人なわけないだろ!

 じいさん、しっかりしろ!」


何人かが半狂乱になるおじいさんを数人がかりで止めようとしている。

そして、おじいさんはギルドからつまみ出された。


「ロエル、セイゲルって人……」

「うん……信じられない。

 でもセイゲルさん、なんでその人と戦ったんだろう」

「ガメッツ商会のあの用心棒風の男かしら……」


マイの言葉にピンときた。筆髭の男の横にいた男だ。

変わった剣を腰に下げていて、他の連中とは明らかに格が違う雰囲気だった。


「で、でもちゃんとお金を返せば私達には関係ないわよね」


不安を振り払うようにマイは狼狽していた。

そんな危険な男がガメッツ商会にいるというだけで安心できないのはわかる。


「さ、気分転換にレベルでも計りましょう」


アイが陰気なムードを払拭する。


「ボクはどうせオーバーフローだし」


いじけて見せたようでボクは本当にいじけていた。

自分の本当のレベルがわからない。他の人達はレベルアップに一喜一憂しているのにボクにはその楽しみがない。

でもロエルがレベルアップして喜んでいるのをみるとボクもうれしくなる。


「わ、わぁ! ミィどうしたの?!

 レベルが一気に12って?」


レベル8、だからキュアも使えたのか。しかし本当、なんでだろう。

と考えたけど答えはすぐに見つかった。元々ボク達とパーティを組んでいたミィ。あの時、倒したフロアモンスター。

あの場にいたミィ。なるほど、それで。


「あれあれあれぇ?! 私もレベル9!」


マイが結果を見て驚く。

あの蜂のフロアモンスターの分だろうか。


「冒険者七不思議ですね、パーティを組んでいる全員が強くなるなんて」

「強い冒険者と一緒に強い相手と戦うだけで強くなれるなら皆、超人だらけになりそうね」

「確かにそれは言えてるが、リスクもでかい。

 そして何よりレベルアップで強くなるのは身体能力だけだ。

 新しいスキルなんかも覚えたりするがな。

 肝心の"戦闘経験"がないまま成長したって意味ないんだぜ」


アイとマイに割って入ったのはオードだ。

またいたのか。


「リスクってのは強い相手と戦えば死の危険性が高まる。何をするにも命がけなのよ。ていうか、そんなコバンザメの面倒を見たがる奴なんかそもそもいないだろうけどな」

「その通りですね。うまい話なんて早々ありません」

「だろ?」


得意げに語るオードに相槌をうつアイ。

それより、ボク達と同じ新米なのにずいぶんと詳しいと思った。


「昨日セイゲルさんから教えてもらったんだもんな」


からかう冒険者の男。オードはばつの悪そうな顔をする。


///


その日の報酬はほぼ全額、三人に渡した。

遠慮、遠慮の押し問答でなかなか受け取ってくれなくて疲れた。

一日の疲れを癒す為に部屋に帰ろうと思ったけど、その前に

セイゲルが気になるとロエルが言い出した。


ベッドに横たわるセイゲルは体中に妙な管がついていて包帯だらけだった。セイゲルと言われなければまったくわからないほど、変わり果てた姿だ。


「ひどい……」


ロエルのその言葉通りだった。

生きているのが不思議なほど、痛々しい姿だ。


「おじさん、ぼくたちのためにね……」


知らない男の子が傍らで泣いていた。

その両親と思われる二人はずっと同じ姿勢でセイゲルを見つめている。


「この世は地獄か……!」


男の子の父親は呻き、泣いた。


ガメッツ商会。ザンギリ。


セイゲルがこんな状態にされたのに、どんな理由があるかはわからない。

人をここまで追い詰められるほど腐っているならボクが直接……


「…ちゃん! リュアちゃん!」

「あ、うん?」

「怖い顔してどうしたの? まさかリュアちゃん……」

「行こう」


追求される前にボクはヒールステーションの出口に向かって歩き出した。

魔物図鑑

【蜜なる激母 HP 1211】

テラービーの女王蜂。

滅多に姿を現さず、巣に手を出さなければ無害。

しかし一度その禁を破ったものには女王の激情が容赦なく

その者に降りかかる。

蜜は高級回復薬の原料、針は武器の素材として重宝される為

ベテラン冒険者に乱獲される事も。

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