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第189話 取り戻した日常

◆ 奈落の洞窟前 ◆


「ベルムンド様、ここに我らが王が眠っているのですか?」

「えぇ、そうですぞ。ここには世界を蝕んできた災厄が封印されております。中でもあのお方は歴史上、最悪なる災厄とまで言わしめたほどです」


 左腕をトカゲの尻尾切りのごとく、切り離してあそこに残してきたのは正解だった。本体ではないとはいえ、直接私が戦えば間違いなく同じ末路を辿っただろう。自らを実験体とした時に、再生能力や細胞構築を重点に置いて魔物の細胞を取り入れたのは正解だった。長年生きた経験上、死なない事こそが至高だとわかっている。

 そう、生きていれば再起はある。何も戦いとはその場限りの事ではない。数百年と生きた私から見れば、普通の人間が送る人生など戦いの一瞬に過ぎない。つまりあの場で逃げたから私は負けたのではない。次に起死回生の一手を打って勝てばよいだけの話だ。たった数十年しか生きられない生物にとっては、その一瞬こそが勝負なのだろう。私から言わせれば実に下らない。それこそが人の身という脆弱な固体が生み出したエゴなのだ。


「ついに我らが王がご降臨なされるのか……」

「カムラン殿、危ないので下がっていなされ。死にますぞ」

「お、おぉ、これは失礼……」


 何が失礼、だ。それなりの地位と権力を持ちながら、破壊の王復活に尽力を尽くすこの者達も呆れたものだ。その身分が故に疲労やストレスが蓄積し、自暴自棄になる。そして欲望だけは沸き続け、恵まれた立場でもそれが尽きる事はない。だから少しばかり理想を吹き込んでやればこうやって簡単に陥落する。己の為ならば、たとえ世界を滅ぼす事になっても構わない。

 つくづく人間とは恐ろしい。あの小娘は人の器などに拘っていたが、その器を持っていようとも人は容易く化け物になれるのだ。この者達のように、現状が不満となればすべてが壊れても構わない。まるで思春期の子供のごとくもろく、そして幼い。

 そんな連中を冷笑しつつも、私はいよいよあのお方を復活させる為の詠唱を読む。かろうじて、何かの呪文としかわからない後ろの連中はマヌケ面を下げて呆然と見守っていた。


「……何も起こりませんな」


 怪しげな呪文からして、これから盛大に我らが王が復活するとでも思っていた連中がざわめき出した。いや、これは確かにおかしい。私はともかく、後ろの連中のような取るに足らない人間が踏み入れるほど、ここの封印は弱まっている。そして現に封印は解かれた。


「まさかまだ眠っておられる、とか?」


 あのお方が寝坊だと? この場は聞き流しておいてやるが、次はない。右腕を高質化させたところで、踏み止まった。その腕を、まだ眠っておられるなどと抜かした者に振りかぶったところで何も変わらない。

 そんな事よりも考えたくはなかったがこの洞窟、見てみれば様子がおかしい。何故、何故誰も踏み入れた事がないはずなのに。


「この足跡は……それにあちらの木の根元には誰かが寝泊りした形跡もありますな。それも大昔というほど前ではない」


 私は内側から凍りつくような感覚を覚える。嘘だ、まさかこんな事が現実に起こりうるはずがない。ないのだ。あのお方の邪悪とも取れる息吹きが、存在感が、すべてが、ない。


「馬鹿な! あり得るはずがない!」

「ベ、ベルムンド殿?! どこへ!」

「すぐにでも最下層に降りるのです! あなた方はそこで待っていなさい! この辺りの魔物なら、そこにいる兵隊でも何とかなるでしょう!」

「そんな! 一体何が起こったのですか?」


「あり得るんだよ」


 いつからそこにいたのか、まだ幼さを残す声の主。黒いローブをまとい、木陰から私達の前に姿を現した。灰色の肌、目元の黒いライン、生気が消失したような目。只者ではないなど、すぐにわかる。この者が何者かなど問わずとも、私にとって脅威とはなりえない事もわかる。大した実力者ではない、あのリュア以上に警戒すべき相手でもない。

 だがこの者は恐れなどまるで感じておらず、自分よりも遥か高みに位置する実力者である私の前に堂々たる態度で近づいてきた。


「何か用ですかな?」


 何者か、などと問う事は己の立場を下げるだけだ。わざわざ素性を気にかける余裕のなさを見せ付けてやる必要はない。


「君らが復活させようとしている破壊の王がどうなったか、知りたくないか?」

「ほう……」

「倒されたんだよ、あのリュアに」


 腕を軽く振るい、あの華奢な身体は肉片が残らず消し飛ぶ。そんな現実を幻視するほど、私の怒りは高まった。だが感情を制御するほうが得られるものが多い。私はそんな怒りを欠片も出さずに、目の前の少年に胡散臭そうに視線を這わせた。あくまで優位なのはこちらだ。


「それは大層な情報ですな」

「ハハ、もっと動揺してもいいんだよ? ボクはずっと、あのリュアとクリンカを監視してきた。どんな事をしてきたか、どんな会話をしたかわかっている。いやぁさすがに僕自身も驚いたよ。最下層にいたヴァンダルシアの前にはあのヨーツンガンドも葬ってるらしいね」


 この情報が嘘か真か、そんなものを確認する必要はない。だがたった一つある事実、あのお方がすでにこの世からいなくなった事。それはさすがに認めなくてはいけなかった。となると、この少年が何を目的として近づいてきたのか。重要なのはそこだ。少なくとも敵対する意志は感じられない。事がうまく運べば、私にとって有益な事をもたらしてくれる可能性もある。


「話は終わりですか? 我々とて忙しい身なので、用がないのであれば消えていただきますが」

「僕が復活させてあげようか? 破壊の王、ヴァンダルシアを」


 次の一言次第では本当にこの少年はこの世から姿を消す事になっていた。しかし意外な発言が、私の手元を止める。それを見越したかのように少年はもったいぶった薄ら笑いを浮かべた。


「その発言、飲み込めば命はありませんぞ」

「冗談なんかじゃないさ。僕の名前はジュオ。ネクロマンサーだし、死者の魂や器を復元させる力がある」

「ネクロマンサー……」


 聞いた事がある。かつてウィザードキングダムを初めとした魔術界で、禁術とされた死者蘇生の術。死者の復活は一度は誰もが望んだ事だろう。それ故に手を出すものも決して少なくはなかった。だが命を弄ぶなど、人の身を超えた所業だとして各国からその存在は徹底して淘汰され。拷問や処刑など、禁術を使用したと発覚したものには考えうる限りの苦痛を与えたという。それも数百年前の話な上に私自身もまるで興味がなかったから、大して調べもしなかった。

 何故なら、蘇生や復活などとは無縁だからだ。あのお方も私も死を超越した。不死身の身体を持った私からすれば、死などまったく恐れるものでもない。死ぬような脆弱な固体など淘汰されて当然だ、生きる権利を何らかの要因で剥奪されるものなど気にかける必要もない。故にそのようなものの復活など必要ない。死ねば終わり、だが死ななければいい。ただそれだけの話だ。

 だが今、この瞬間に考えを改めなくてはならなかった。私もこの少年の話を信じるようになっている。それもあのリュアの卓越した力を目の当たりにしたからこそだろう。あの小娘ならば、もしかしたら。あのお方に絶対なる忠誠心を抱いていた私にすらそう思わせる、あの小娘の力。警戒すべきどころではない、真っ先に排除すべき存在だ。言ってしまえば、あの小娘さえ消す事が出来れば、この世界の掌握など赤子の手を捻るようなもの。私とて馬鹿ではない、だからこそあの場では左腕を切り離したのだから。


「ネクロマンサーですか。それをどう信じろと?」

「信じなくていいよ。僕は勝手にヴァンダルシアを復活させるから」

「そうですか」


 この細い体から並みならぬ自信が感じて取れる。そんな事をしてこの少年に何の得があるのか、その企みまではわからないがここは一つ、見届けようと思った。死者の蘇生、そんなものがうまくいくとは思えない。聞く者にとっては神への冒涜とも取るだろう。だが私にはそんな道徳などない、あのお方の魂を侮辱するかなどと騒ぐつもりもない。結果的にそうなったのなら、その時はこの少年を始末するだけだ。


「あー、でも結構手間がかかるな。必要なものも多いし、誰か手伝ってくれないかなー」


 私を前にしてこの態度、呆れを通り越す。いいだろう、見届けてやる。ただし不完全な蘇生であれば、死以上の苦痛を与え続ける。そんな無言のプレッシャーを与えながら、私は少年の指示を聞いた。


◆ イカナ村 ◆


 あれから数ヶ月、いろいろな事があった。アバンガルド王国の人体実験はベルムンドが主導で、王様はほとんど関わっていない。だけど見て見ぬ振りをしていたのは事実で、王様もベルムンドにあれこれと吹き込まれて頷かざるを得なかったらしい。


 アバンガルド王国は豊かで活気溢れる国だけど、武力は大陸内でも最弱だ。それだけに王様は他国や魔物に攻め込まれたら終わりだと常日頃から感じていて、ベルムンドはそこにつけ込む。国を良くする為、国民の命を守る為。そう言いくるめられてやってきた事を王様は素直に皆の前で認めた。

 一国の王様が下々の者に対して床に手をついて謝るなんて、本来なら考えられない事だとお父さんは言う。王様は自分の王位を捨て去ると宣言し、なんと今の制度をほとんど失くしてしまった。最初、ボクには難しくてわからなかったけどクリンカが言うにはアバンガルド王国は生まれ変わるらしい。


 アバンガルド王国改め、アバンガルド共和国。つまり王様がいなくなって、代わりに国を治める人を国民全員で決める。王様が言っていた最後の仕事というのはこれの事だった。寝ないでこれの為に心血を注いでがんばってようやくその下地が整う。今はまだ王様が国を治めている形だけど、そのうち国民投票とかいうのが始まるみたい。立候補する人はかなり多いみたいで、まずは何人かに絞るみたいだけど。


「あなた、立候補してみたら?」

「ハハ、馬鹿を言っちゃいけないよ。私にはこの村が一番居心地がいい」


 そうそう、今はイカナ村を復興しているところだった。まずは昔の風景を甦らせるためにボク達は今、がんばっている。そして応援に来てくれたガンテツさんやセイゲルさん、それにアバンガルド兵団からも来てくれた。

 あれからどうするか、皆で話し合った。アバンガルド城下町に住む案もあったけど、結局は村の復興で落ち着く。何より皆の時間は10年前から止まったままだ。だからまずは時間を動かさないといけない。それはボクだって同じだ。5歳の時で両親との生活は途絶えている。


「お父さん! 丸太持ってきたよ!」

「うおぉぉ!? おおおお、落とすなよ?! な?」

「ひとつ、ふたつ……リュア、さすがに40本まとめて持ち歩くのは危険よ。やめなさい」

「はい……」


 お母さんは5歳のボクを嗜めるかのようだ。それはしょうがない、止まった時間がようやく動き出したんだから。でもボクも悪い気はしないし、もっと持ってきてうんと叱られようかなとか思っちゃう。


「やぁジュークさん、捗ってるかい? よかったらお昼、一緒にどうかね」

「ランドさん。それにクリンカちゃんも一緒か」


「食事は皆でするのがおいしいからな!」

「ボンゴさん、あんたはただ飲みたいだけだろう?」

「ハッハッハッ! まぁ、そうとも言うな!」

「まったくだ! ガハハハ!」

「ガンテツさん、あんたもいつの間に……」


 賑やかになるのはいいんだけど、酒盛りが行き過ぎてお父さん達がベロンベロンに酔っ払って午後のお仕事どころじゃなくなる。その度にお母さんに怒られるし、ガンテツさんも何気に元凶だ。復興作業するのになんでお酒なんか持ち込んでるの。


「クリンカちゃんもすっかり美人になったなぁ。リュアとはまだまだ仲良しのようだな」

「仲良しどころじゃないですよ! リュアちゃんとは……」

「ん?」

「いえ、何も」


 その先に何を言おうとしたのか、クリンカは押し黙る。お父さんとお母さんもさすがに首を傾げた。ボクとはなんだろう。


「あんまりお酒ばかり勧めるとワンテンポキルしますよ、ガンテツさん。うふふ」

「やめてくれ、俺は即死耐性は微妙なんだ。うぃっく」

「お酒くさっ! もう! 酔っ払うなら帰ってよ!」

「大丈夫だ、リュア。この人にとって酒はパワーに変換されるんだよ」

「そんなスキルないよ、セイゲルさん……」


 アバンガルドのSランクにして片翼の悪魔が自ら村の復興への手伝いを名乗り出てきたのが意外だった。さすがの皆も一度は自分達を殺しにきた相手だし当然身構える。だけどこの人の天然な人柄ですぐに打ち解けたみたいでよかった。それどころか、村に美人がやってきたと男の人達がはしゃいで仕事がもりもり捗る。

 ずっと独身のお隣のボンゴさんなんか、露骨にティフェリアさんの近くばかりにいて指示を仰ごうとしてた。だけどあのティフェリアさんはなんとなく、男の人とかに興味なさそう。まして、相手はおじさんだし。


「それにしても大きくなったのう、リュア」

「でも胸は昔のままだぜ!」

「クリンカはポヨンポヨンなのにな!」


 村長がやたらと頭を撫でてくるのは何なんだろう。この人もボクが5歳の時と同じ気分なのかな。後は胸がどうとか喚いているこの子供達がひたすらしつこい。ポヨンポヨンだから何さ。


「皆して子供扱いして……」


「皆さん、お疲れ様です」


 アバンガルド兵団の人達が飲み物を持ってきてくれた。冷たくした果物のジュースがものすごくありがたい。この人達は補給部隊らしくて、戦いはあまり得意じゃないけどこうした物資の調達や配給に長けている。戦い専門のリッタの部隊とは違った雰囲気があって、全員がどこか大人しい感じだ。


「おう、すまないな」

「ガンテツさんはお酒があるでしょ」

「それをコイツで割るんだよ」

「割るって……うわ、結局お酒」

「無敵の瞬撃少女もこいつには勝てないんだよな。唯一の弱点、今のうちに克服しておかないとやばくねぇか? ん?」

「ガンテツさん! うちの娘にお酒なんか勧めないで下さい!」

「じょ、冗談だって。意外とおっかない母ちゃんだな……」


 兵士の一人がたどたどしく全員に飲み物を配る。確かによく冷えていて、働いた後には喉越しがよさそう。だけどボクに飲み物を手渡そうとした兵士が、何故かカップを引っ込める。くれないのかな、と思ったら別のカップを渡された。


「よし、それじゃ乾杯といきますかぁ!」

「うぃっく! おうおう! セイゲル、お前さんも行けるクチだなぁ!」

「そりゃガンテツさんよ、リュアの母さんがこんなに美人だなんて知ったらなぁ! 若々しくていいねぇ!」

「セイゲルさん、念の為に言っておくが私の妻に手を出したら相応の痛みを味わってもらうぞ」

「ほ、褒めただけっすよ。怖いなぁ……」


 お父さんの睨みでセイゲルさんが萎縮した。なんたってお父さんはあの魔王が認めるほどの実力者だ。もし戦ったらセイゲルさんなんか一溜まりもないはず。それにあのびびり方からして、隙あらば狙おうと思っていたに違いない。本当にどうしようもない人だ。確かに母さんだけじゃなく、村人全員があの時から歳をとっていない。母さんなんてティフェリアさんとそんなに変わらない歳だというから、ビックリする。


「それじゃ私はこれで……」


 兵士達が全員に配り終えると、ボク達全員の前で並んで一礼をした。ボク達の為にこんなところまで来てくれたなんてありがたい。これなら村の復興も意外と早く終わりそう。

 だけど兵士達がそそくさと戻ろうとした時、ガンテツさんが酔いも覚めたような目つきであの人達を睨んでいた。


「ちょいと待ちな、そこの兄ちゃんよ」


 お祭りムードが一気に冷めるほどのガンテツさんの野太い一声。そしてボクから飲み物をひったくるようにして奪うと、それを呼び止めた兵士の前に突きつける。


「な、何でしょうか? 私ですか?」

「おうよ、お前だ。なぁ兄ちゃん、ちょっとこいつを飲んでみろや」

「な、な、何故です?」

「いいから飲んでみろ」

「お出ししたものを私が飲むわけには……」

「一度もらったものをどうしようがそれも自由だ。アルコールも入ってないし、これなら兄ちゃんが酒が飲めなくても安心だ。ただし別のものが入ってりゃ別だが」

「うっ……!」


 騒然がこの場を包んだ。どういう事なのか、まだよくわからない。別のもの、あの人は何かを入れたのかな。


「あんたがあのタルから一つずつ汲んだんだろ? 俺は見てたぜ、その時にたった一つだけ、何かを入れてたよな。周りの目を気にしながらよ」

「一体何のことですか? 私が何を入れたと?」

「そして全員に配る時、リュアの時には何も入れてないカップを渡そうとしたよな。慌てて取り替えたのも見逃さなかったぜ」

「で、ですから意味が……」

「じゃあ、飲んでみろよ。それでお前が無事なら、俺が酔っ払ってたって事になる」


 ガンテツさんにカップを突きつけられて、後ずさりする兵士。ガンテツさんに圧倒されて黙ってしまい、ひたすらに目を逸らし続けている。


「ほれ、どうした?」

「あ、あう……く、く、く……クソッ!」


 背中の槍を手にとり、ガンテツさんからカップを奪った兵士の人が豹変した。優しそうだったのに苦悶に満ちたような顔をして白い歯をむき出している。あまりに突然の事で子供達も悲鳴をあげて大人達の後ろに隠れてしまった。


「な、な、なんだアンタ! どういうつもりだ!」


「酔っ払ってたくせに目ざといな、さすがはAランクかよ。クソッ、成功してりゃ俺も、も、モ」


 ぎこちなく頭や肩が揺れだし、兵士は槍を捨てて白目をむき出した。戦闘態勢に入ったセイゲルさんやガンテツさんも、武器を構えたままそれを見守る。


「シょせん、オレはファントムなのさ! 何をシテモ報われない哀れな亡霊……ファントムッ!」


 甲高い声でそう叫んだかと思うと、兵士はカップに口をつけて一気に飲み干した。口から血を噴き出し、全身が痙攣して飛び跳ねるかのように身体を曲げてながら地面に落ちる。それから一回の痙攣を最後に兵士は動かなくなった。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「なんだよ、なんだコレ?!」


「ダメだよ、死んでる……」


 兵士の胸に手を当てたクリンカが残念そうに首を振る。さすがにクリンカの力でも死んだ人は生き返らせられない。やっぱり、あのカップには毒が入っていた事になる。なんで、どうして。


「あらあら、今の即効性からしてこれに入っていたのは竜殺しかもしれないわねぇ」

「ティフェリアさん……」


「と、とにかく彼の亡骸は我々が責任を持って預かりますので……」

「私も同行するわ。だってまだ亡霊があなた達の中にいたら困るわよねぇ」


 ティフェリアさんが兵隊に微笑みかけて牽制する。亡霊、ファントム。またしてもそれがボクの命を狙ってきたのか。すっかり平和に慣れてしまって忘れていた事だった。そう、まだファントムについては何一つわかっていない。倒すべき敵として認識するには足りないものが多すぎる。


「まー、とにかく補給部隊の皆さんはティフェリアちゃんの言う通りにしましょうや」

「セイゲルさん、あなたまで……」

「ファントムといや、あの花屋もそんな事を口走っていたな。リュア、心当たりは……ないよな」


 取り戻した平和、だけど。得体の知れない何かが確実に迫っている。見えない亡霊が確実にボク達を、ボクを狙っている。


「リュア?」

「あ、うん。なに?」

「ファントムについて何か知ってるか?」

「ボクが聞きたいよ……」


「俺が子供の頃に流れたファントムの噂……どうもアレと関わりがあるようにも思えるなぁ」


 ガンテツさんの腕組みを見ながら、ボクはまだまだ平和が訪れていない事を実感した。


◆ シンレポート ◆


このしんに のーたっちとは どういうことですか

あのははおやなんか しんをだきかかえやがってからに

はい あーん なんて こどもあつかいして

もう もう はふはふ うまい としかいいようが ない


ふっこうちゅうの むらに おんせんが できるらしいです

なんでも ほっていたら げんせんが みつかったとか

ほかにも ごらくじょうだとか たくさん しせつができて

いかなむらから いかなまちに なるかもしれないとか

まぁ しんには どうでもいいですが

いちばん すごいのは りゅあのおかげで いちねんいじょう

かかるところを わずかすうかげつで おわらせたところ

あのかいりきなら ひゃくにんまえどころか まんにんまえです

ま それしか とりえがないし せいぜい はたらきやがれです


ふぁんとむ? しんは なーんにも しらないのです

ただ いちど りゅうごろしで しっぱいしてるのに

また おなじてを つかうとは

ふぁんとむが ばかなのか と おもうところですが

どーも へんなかんじです まるで とうそつせいがないというか

あのしにまぎわ あれは もしかして あいつが やったのでは と

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