第188話 希望を胸に 終了
◆ アバンガルド城 王の間 ◆
「逃がさねぇよ?」
【勇者アレイドはフレイムジェイルを唱えた!】
アレイドの片手一つで王の間全体に火柱が立ち、鉄格子みたいになって円形状に建ち並ぶ。とてつもない魔力から放たれるソレは、火柱一本でここにいる高レベルのウィザードすら恐れさせた。直接触れなくても、それが放つ熱だけで十分に被害を与えている。熱気の檻にボク達を閉じ込めた理由、それはもちろん皆殺しにするためでもあるけど、あいつはきちんとボクが嫌がる事を知っている。
ベルムンドとの戦いもどこかで見ていたに違いない。ボクが必死に皆を守りながら戦っているところを見て、ほくそ笑んでいたとしか思えない。
「ダ、ダメだ! こんなの消せねえよ!」
「触れるな! 骨まで溶かされるぞ!」
「勇者! なぜこんな事をする!」
「なぜぇぇぇ?」
唇をすぼめ、心の底からボク達を馬鹿にしている。どうやったらこんな性格になってしまうのか、改めて不思議に思う。とりあえず、こんな檻で閉じ込めた気になっている辺りがまだまだ甘い。
「そりゃお前ら、こうするためよ」
「な、何をするの!」
アレイドが冒険者一人を片手で抱き込み、人質にように捕えた。若い女の子冒険者じゃなくても抗いようのないアレイドの力。耳たぶに舌を這わされた女の子冒険者はとうとう泣き出してしまう。ここで勢いよくボクが突撃した時にアレイドの狙いがわかった。
【リュアの攻撃!】
「ほれほれ、女の子ガード!」
「わっ!」
早い話が女の子を盾にしているという事。アレイドに抱きかかえられ、絶望の表情を浮かべている女の子が痛々しい。
「ア、アレイドッ! 自分が何をしているのかわかってるの?!」
「わかってないわけねーだろ馬鹿かお前、死ねよ。ねー? べぇろべろべろべろぉぉん!」
ねー、じゃないよバカ。
「もぉみもみもみもみぃぃん!」
「や、やぁぁぁぁぁ!」
「いい加減に……しろ!」
ついに女の子の胸を揉み始めたところで、ボクはトップスピードでアレイドの懐に入り、顔面に一撃を食らわせる。手加減なしの一撃だけど、アレイドに鼻血出させた程度だし大したダメージにはなっていない。でもこれでいい、意表を突かれて女の子を離してくれたみたいだから。
「あ、あぁ……あ、あぁぁぁぁ!」
「もう大丈夫だよ、落ち着いて」
錯乱状態の女の子を落ち着かせている場合じゃない。ボクはすぐに一振りで炎の柱を消し、冒険者や兵士達の逃げ道を確保する。カークトンさんやリッタは王様を守りつつも、ボクの意図に気づいてくれた。さすがは王国兵団の隊長と優秀な小隊長。
「ひ、ひでぇ……こんなの勇者でも何でもないぞ!」
「畜生にさえ劣る外道だ!」
こんな状況で罵倒したら、次のターゲットにされるだけだからやめてほしい。そして言ったそばから今度は別の女の子冒険者、しかも今度はマイだ。人が多すぎて気づかなかったけど、他にも知っている人がいたなんて迂闊だった。
「ちょ、ちょっと離してよ! この陰湿ネクラ野郎!」
「あん?! なんで俺が元引き篭もりだってわかった!」
「知らないけど雰囲気とか、そういうのでわかるのよ! ていうかカマかけたのに自白するとか馬鹿じゃないの」
片手でマイを抱え、片手で火の玉を王の間の出口に放つ。逃げる人達の前にボクが出て火の玉を斬り消す。そうすると今度はアレイドは別の角度からボクに魔法を放ってくる。
【リュアは1034のダメージを受けた! HP 41016/42050】
逃げる人達を助けようとすれば、まともに受けるしかない。避ければ被害が広がる。攻撃しようにも女の子を盾にしている。この火玉の威力、下位魔法なのに一つでもあの人達に当たれば骨まで残らずに燃やし尽くすほどの威力だ。ボクじゃなかったら断末魔さえもあげる間もなく死んでいる。その気になれば王都を更地に出来るというのはどうやら嘘じゃないみたい。
「マイに変な事したら許さないよ!」
【リュアの攻撃! アレイドはひらりと身をかわした!】
ダメだ。マイを盾にされている以上、力もなにもかも無意識に抑えてしまう。並みの相手ならそれでも何とかなったけど相手は何故かとてつもない力を持った奴だ。さっきの一撃は半ば不意打ちみたいなものだったし、これはどうしたらいいのか。奈落の洞窟ではこんな状況なかったし、今すぐにこの状況を打開する方法を考えないと。
「知ってるか、本当に強い奴ってのは情も伴侶も持たないんだよ。何故かわかるか? それが弱点になるからだよ、お前みたいに甘っちょろい奴ならこの手であっさりと封じられる。てめぇ一人なら何とかなったものを、下らねぇ情に流されてカス一匹のために攻撃の手が止まる」
「マイ! 今助けますわ!」
「アイ! ダメだ! 敵う相手じゃない!」
【アイのアクセルスイング!】
「リュアちゃん! スピードフォース!」
【クリンカはスピードフォースを唱えた! リュアの素早さが上がった!】
クリンカのおかげで格段に足が軽くなった。だけどアイの斧は危ない、マイがいるせいで狙いがまったく定まってない。現にアレイドは棒立ちのまま、斧が振り下ろされるのを見送った。
「なに、あっちのおっぱいでかい子も仲間なの? ちょっとヤりたいんだけど、いい?」
「ふ、不潔! 死ね!」
「そんな事いって、体は正直だぜ?」
「や、やめっ! いやぁっ!」
腕の中で暴れ回るマイをあっさりと制圧するアレイドを見て、ボクの中で何かが起き上がったような気がした。一段と跳ね上がる心臓、怒りにも似たふつふつと湧き上がる何か。
「……アレイド、それ以上やったら」
それ以上やったら、何を言いかけていたのか自分でもわからない。クリンカのスピードフォースだけじゃない、体全体が更に軽くなる。全身が目標に向かう為に一丸となっている。
「……なっ! いつの間」
その結果、気がつけばアレイドに接近して腕を掴んでいた。マイを抱く腕を剥がし、そのまま。
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
潰す。
「あ、あがが、うううおおおぉぉぉ!」
まるで綿みたいに柔らかかった。アレイドの強靭な肉体でさえそう感じられるほどに、ボクはきっと一切の手加減をやめたんだと思う。ただこいつを許せなくなった、ハバクの時とも違うこの容赦のなさ。いや、それだけじゃない。何か、何かがボクの中で決定的に変化している。
そう、これは前にもあった。今とは状況がちょっと違うけど、ボクが強敵と定めたあの相手の時と同じだ。
「マイ、こっち」
「ひ、ひっ!」
「……マイ?」
「あ、ごめん……」
怪物にでも出会ったかのようにマイの全身が瞬時に震えた。一目で拒絶だとわかる反応にボクも差し伸べる手が止まる。
「ごめん、ごめんね。助けてくれてありがと……」
「マイ! 無事でしたの?!」
「うん、リュアさんのおかげ」
「よかった……」
三人で抱き合って無事を喜ぶ三姉妹の横で、自分のなくなった腕を信じられなさそうに見つめるアレイド。その表情が絶望から憎悪に変わるのにそんなに時間はかからないはずだ。
「マ、マスターヒール……」
【アレイドはマスターヒールを唱えた!】
「ケッケッケッ、バカが。多少驚いたが俺にはどんな傷でも一瞬で完治する術があるんだよ。お前と違ってな」
ボクが回復魔法を一切使えないのを知っているのかな。教えた覚えはないけど、見ていればそのくらいはこいつでもわかるのかもしれない。ボク自身も回復魔法が使えなくて悔やんだ場面は一度や二度じゃないし、いざそれをアレイド程度に見抜かれるのは腹立つ。
「さーて、腕も治った……ん? いや、なんだこれ……」
回復魔法特有の淡い光が放たれたのにアレイドの腕はなくなったままだ。しかも腕の先から流れ出る血も止まらない。それに気づいたアレイドの顔色がみるみるうちに真っ青になる。出血が多くてそうなっているのか、不可解な状況に絶望しているのかはわからない。
「おいおいおいおい、マスターヒール!」
アレイドのマスターヒールは確かに発動している。だけど光が収まっても、なくなった腕は元に戻らない。
「オイオイオイオイオイ、意味わっかんねぇんだけど?! マスターヒール! マスターヒール! マスターヒール!」
息切れするほど何度も唱えているけど一向に回復する気配がない。アレイド本人でさえ戸惑っているのに、他の人なら尚更だ。逃げる足も止めて、ひたすらマスターヒールを連呼し続けるアレイドに視線が一斉に集中する。
「何やってんだ、あいつ……」
「馬鹿だな、回復魔法じゃ身体の損壊は治せないんだよ。ていうかマスターヒールって何だ?」
「最上位はエンジェルヒールだよな」
そういえば、そうだ。それも含めてアレイドの使うスキルにも納得がいかない。そもそもアレイドのこの力そのものに違和感がある。アレイド自身が言っていたけど、まるで誰かそれをもらったかのような口ぶりだった。
「なんで……なんでだよォ! マスターヒールはどんな負傷でも一発で治るんだろ?! おかしいだろ! オイ! 話が違う! 見ているんだろ! 出てこいよ! 説明しろ!」
「なんだ……? 誰に向かって喚き散らしているんだ?」
誰一人、アレイドを助けようとする人はいなかった。今まで好き勝手やってきた奴を助けるどころか、蔑みや哀れみの視線を突き刺す。完全に狂ったとしか思えないその勇者は高い天井に向かってひたすら叫び続けていた。
「血が……血が止まらんねぇよぅ……どうなってんだよ……」
「恐らくはリュアの一撃そのものが原因じゃのう」
人を掻き分けて進んできたハスト様、この人はいつだってマイペースな登場をする。研究施設のほうはいいのかな。
「クリンカと同じ出生なら、リュアにもその力が宿っていると考えたほうが自然じゃ。ただしこちらは再生などという優しいものではないがの」
「ボクに……? なんで?」
「言い方はあまりよくないが、突然変異かの。ごく普通の家庭でごく普通の人間から生まれた子供が天才だったりするように、お主はその類じゃ。それが実験体となった人間同士の血が混ざり合ったとなればの……」
「よくわからないなぁ……」
「言うなれば、人と魔物の血が混ざった者同士が交配した結果生み出された……究極の混血児というところかの」
ボクは両親の顔を見た。訝しげにその話を聞いている様子からして、よくわかっていない。それどころかボクがここまで強くなった事にすら頭が追いついていない。そんな感じだった。
「あくまでワシの予想だがの」
「うるせぇ、ジジイ! てめぇも魔法使えんならとっとと治しやがれ!」
「やれやれ、それが人に物を頼む態度か」
「早くしろ! 俺は勇者だぞ! この国にとって俺を失う事がどれだけの損失か理解してるのか!」
「周りを見てみい。この場において、お主を必要としている者が一人でもおるか」
軽蔑、哀れみ、怒り。静かで冷たい眼差しがアレイドに注がれている。声にして何かを言う人もいない、だけど助けようともしない。これがアレイドが積み重ねてきた結果なんだ。悪い事をすれば絶対にこうやって跳ね返ってくる。それなのにこいつはまだ何もわかっていない。ハスト様にさえ、唾を飛ばして助けろと命令するなんて。
「てめぇら……クソッ! ぶっ殺してやる……どうせ、どうせこのまま死ぬんなら一人でも道連れにしてやらぁなぁ……ヒヘヘ……」
「アレイド、きちんと謝らないと誰も助けてくれないよ」
「無駄じゃ。そもそもこれはリュア、お主の力。回復魔法すらも寄せ付けないとなると……これは。ううむ、再生に反して破壊とでも名づけるべきか」
「破壊?!」
「うむ。破壊という絶対的な力の前では何者も打ち破る事は敵わず、または復元も許されん。お主が倒したというヴァンダルシアもそれに近い力を持っていたはずじゃ、数少ない資料にもそう記されておる」
「でも今までボクが攻撃しても回復して立ち上がってきた魔物はいたよ。奈落の洞窟に」
「内なる力に気づいてなかったのじゃろう。それが少しずつ覚醒していった、と……」
ダイガミ様が言っていた事を急に思い出した。己の力の本質に気づいていない、その言葉の意味がハスト様が出した答えで合っているなら意味がようやくわかる。あの絶対神域は無敵に近かったし、それを打ち破ったのがそれだとしたらとんでもない事だ。ボクにそんな恐ろしい力があるなんて。
半狂乱になって立ち上がるアレイドを視界に入れつつもボクはハスト様の話からも興味を逸らせなかった。そして今、ハスト様が漏らした情報は皆に衝撃を与える。
「は?! ヴァルダンシアなんとかってベルムンドが言っていた……?」
「倒した?」
「ハスト様! 今の話は?!」
名前が微妙に間違っている。ハスト様は言ってしまって後悔したのか、騒ぎに対して面倒そうに小さく息を吐いた。
「落ち着け、落ち着くのじゃ。あとでゆっくりと話してやるわい、といってもお主らが信じるわけないが……」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
最後の咆哮とでも言うべきか、アレイドは力を振り絞って突進してきた。腕を失ってもその速度は変わらない。この場にいる誰一人も認識できない速さで、アレイドが向かった先は。
「きゃっ!」
「最後にてめぇの相方をムチャクチャにしてやる! ひゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」
「リュアちゃ」
【リュアの攻撃! 勇者アレイドに625401のダメージを与えた!
勇者アレイドを倒した! HP 0/572000】
一撃、いやニ撃。三撃、瞬時に打ち込んだ回数はボクでも把握しきれていない。それだけ無意識でやったという事。確実にアレイドの全身はボロボロだし、骨だってほぼ折れている。それでもかろうじて致命傷になっていないのはやっぱりアレイドの丈夫さがあるからだ。
「げぶぁっ!」
玉座まで飛ばされて激突し、それすらも破壊してまたぶっ飛んでいった。地面に回転しながら何度かバウンドし、ようやく止まる。ぴくりとも動かない様子からして只事じゃない。
「クリンカ、もう大丈夫だよ」
「まだ何もされてなかったら平気だけど……」
それでもクリンカの心配をせずにはいられない。冷静になってボクは自分のやった事の大きさを認識し始める。クリンカもアレイドが飛んでいった玉座の後ろを見た。手足が変な方向に曲がってるし、ぴくりとも動かない。さすがのボクも血の気が引く、まさか。まさかまさかまさか。
「し、死んじゃった……?」
「回復してみるね」
これほどまでにエンジェルヒールの輝きを頼りにした事があったかわからない。いくらこいつでも人間だ。エンジェルヒールの持続時間が長引くと、それだけボクの心臓の鼓動が高まる。やってしまった、人を。そんな最悪な結果だけは免れたい。
「……ぅ」
「あ、息を吹き返したかも!」
「いいよクリンカ、その調子!」
アレイドの目がうっすらと開いて意識が戻ったのか、口を動かしている。何か喋ろうとしているけど、声が出ないみたい。
「アレイド、お前みたいな奴でも一応」
――――勇者よ、その定めから解き放たれよ
王の間全体が突然白一色に変化した。いや、これは目が潰れるほどの光だ。あまりに突然の事で眩しいという感覚すらない。少し遅れて光だと認識できるほどの事態。どこからともなく聴こえるかすかな声、それはこの王の間全体に響き渡っているのかどうか。いや、違う。
「て、てめ、ぇ……見てたんなら……助け……」
――――そなたが背負う宿命はない、還れ
ダイガミ様の時と同じだ。これは頭の中に直接語りかけてきている。いや、正確にはボク達にじゃない。アレイドへ、誰かが何かを訴えかけている。
「どういう……意味」
――――勇者としての器はなかった、そなたを理の輪から外す
「あああぁぁぁぁぁぁぁッ!」
眩しくて見えないけど、アレイドの絶叫だけが聴こえる。そしてその直後、瞼が暗くなる。辺りを包む光が消えて、いつもの風景が戻ってきたとわかったけど動く事もできなかった。頭に流れ込むあの声、一瞬の今の出来事。ようやく目を開けると、そこには傷が癒えたアレイドが立っている。
「い、今のは何だ……?」
「お前も聴こえたか?」
「わからないけど、何かこう……暖かいような……冷たいような……」
ようやく皆も動揺し始める。あれはボクにだけ聴こえたわけじゃないとここで再認識した。一つだけ確かな事は、あの声の主は少なくともダイガミ様と同等の存在。もしくはそれ以上。頭に直接メッセージを流し込む手段だけじゃない、その言葉一つ一つが響くたびに抗いようのない謎の抱擁を受けたような気がした。
只者じゃないなんてありきたりだけど、それ以外に言い方があるのかな。アレイドに何か言っていたみたいだけど、肝心の本人は傷が癒えてすっかり元気にボク達を睨みつけてきた。
「あの野郎、何を言ってるのかわからねぇがとにかく新しい力でもくれたんだろ。さぁてめぇら、覚悟は出来ているか?」
「アレイド、もうやめなよ」
「もう一回閉じ込められないとわっかんねぇかなぁ! フレイムジェイル!」
迫力満点で叫び、手の平を突き出すアレイド。だけどアレイドは棒立ち、辺りに何も変化がない。静まる中、アレイドは自分の手の平をまじまじと見つめる。
「あぁん? フレイムジェイル!」
またしても何も起きない。気のせいか、今のアレイドはさっきまでとどこか違う。何ていうか、赤いマントだけは立派だけどそれを着ているのは冴えない男みたいな。いや元々冴えなかったけど、今は確かに何かが違う。
「おい、どういう事だ? スターライトホーリー!」
少しずつ焦り始めるアレイド。こうなると何が起こってしまったのか、大半の人達は理解し始める。ひたすらスキルや魔法の名前を連呼するアレイドがどうなってしまったのか。一つだけ言える事は、もう今のアレイドにこの場を脅かす力がないということ。
「ちくしょう! なんでだよ! おい、コラ! あの糞神! 力よこせや! おぉぉい! 殺すぞ!」
「ふむ、これはアレじゃな。お主、先ほどの声の主に力を与えてもらっていたのか」
「うるせぇ、クソジジイ!」
「となると万事休すじゃな。事情はわからんがお主に力を扱う資格がないと判断されたんじゃろう。さてさて、ワシはワシとて今の声の主が非常に気になる。どうじゃ、この場はワシがかくまってやるから話を聴かせてもらえんかのう?」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ハスト様を突き飛ばそうとしたものの、その力はあまりに非力だった。お年寄り一人すらよろめかせられないほどのアレイドの力。これが本来のあいつの力なのかとボクも確信する。アレイドは本人が言っていた通り、あの声の主に力をもらっていた。それが今、この瞬間なくなった。そうなると、どうなるんだろう。
「おい、よくわからんが攻撃してこないのか?」
「散々舐めくさった礼だ。覚悟は出来ているんだろうな?」
「う、うわぁぁ……。ウソだろ、まさかこんな……ウソだ! 俺は勇者だぞ! 俺は勇者の血を引いているんだ! こんなのありえねぇよ! うわぁぁぁぁ!」
にじり寄る冒険者達に圧倒されて、アレイドはついに発狂してしまった。かろうじて勇者の剣を持つものの、その重さに耐えられずに床に刀身を落としてしまう。まともに持つことすらできず、涙目になって金切り声をあげた。
「やめろよぉぉぉぉ! 俺は勇者なんだぞおおおぉぉ! いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
冒険者達に取り囲まれ、アレイドはひたすら泣き叫ぶ。ボクだって悪魔じゃないし可哀想と思いたい。だけど思えない。ひたすら惨め、それに尽きる。自業自得、それとなんだっけ。
「因果応報、だな」
それだ、さすがお父さん。アレイドの事をあまり知らないはずのお父さんにさえ、こんな風に言われている。それだけアレイドは短い時間の中で皆の恨みを買ってしまった。
「たしゅけてよぉ……俺、勇者だからさぁ……俺がいると何かと便利かもよぉ? だって勇者だしよぉ、勇者の剣って俺しか使えないし……なぁ?」
「ダメだな、お仕置きだ。この"跳剣"にだってプライドはあるんだ」
跳剣の人に荒々しく髪の毛を掴まれながらも涙を流して許しを乞うアレイドをボクは少しだけ眺める事にする。そこにさっきの盾にされた女の子も混じっていたのはごく自然な事だった。
◆ シンレポート ◆
まさか あれいども こうなるとは おもってなかったはず
このまま ぼこられて しまうがよいのです
ただのひきこもりが ちからを もったところで こうやって
たすうの うらみをかって いつかは じめつするだけなのです
よのなかを しらない ただのばかが ちからをもらったところで
よわたりなんか できるはずが ない そうだんげんする しんなのでした
そうそう りゅあが はかいのちからを もっていた!
と どやる けんじゃさま
は? そんなもの いまさら です
きずが いえなかったから はかいのちから?
だから なんです
そんなことで いまさら しんが おどろくとでも
あー はいはい いちおう かいておくです
りゅあのちからの みなもとは はかい!
きゅうきょくのこんけつしゅ! とつぜんへんい! かいぶつ!
ばけもの! ふぅ こんなものですか




