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第185話 希望を胸に その9

◆ アバンガルド城 研究施設跡 ◆


【破壊王の重臣ベルムンドのテンタクルパレード!】


 ベルムンドのウネウネの一部が冒険者達の死角になっている壁や床から飛び出し、間髪入れず全員に襲いかかる。その速さといったら、Aランクの人達がかろうじて振り向ける程度で残りの人達は自分達が攻撃されている事にすら気づかない。

 このまま放っておくと何もわからないままあのウネウネに頭をふっ飛ばされる。もちろん放っておくわけがないんだけど。


【リュアの攻撃!】


 ウネウネの根元を切断しただけじゃ危ない。奈落の洞窟には斬ってもそのまま動くような奴もいたし、こいつもそんな感じかもしれないから。

 ベルムンドは他の冒険者をボクに守らせつつ、消耗させるつもりなんだけど甘くみすぎ。クリンカのスピードフォースを受けなくてもこの程度、何て事ない。奈落の洞窟真ん中あたりで出会った魔物の中には斬るたびに増殖して手に負えなくなる魔物もいたけど、最終的には増殖する寸前を見極めて斬った。つまり増殖よりも早く斬れば問題ない。

 高速で冒険者達に迫ったウネウネをすべて斬り捨てる、速度の限界に挑戦だ。ある冒険者の後頭部に迫ったウネウネを一つ、下から突き出したウネウネを一つ、数本が全方位から襲ってきているものも、残さず。ただ最後の一本だけは危なかった。冒険者の体とウネウネの距離が指一本分くらいしかなくて、少しでも遅れていたら手遅れだった。


「触手が消え……!」


 あのウネウネ、触手っていうんだ。自分のその触手が消失した原因がわかっていない時点でボクの速さを追えていない。だけどすぐにボクを睨み返した辺り、適応が早い。そして一つわかった事、触手を斬ってもあいつには何のダメージにもならない。本数が多い上に、斬った先からまた生えてくる。気持ち悪い。


「な、なんだ?」

「あいつの触手が消えてるけど……」

「自爆したんじゃ?」

「いや、意味わからんし」


 自分達を襲った触手に気づいていないからしょうがない。この人達にはボクが触手をすべて斬った後の結果しか見えていないんだから。なるほど、あまりに速すぎると当然理解できない。だからボクはいつも理解されずに馬鹿にされたんだ。

 いつかボクに挑戦してきた人達がいたけど、誰もが状況を把握できずに次々と挑んできた。前の人がどうやって負けたかも理解できないから、実力差もわからない。つまり納得出来ないんだ。だけどここで時間をかけるわけにはいかない。かといって全力だと周りにどんな被害が出るかわからない。


「なるほど、これでは再生するのも一苦労ですな」


【破壊王の重臣ベルムンドの触手が再生した!】


 斬られた部分から一瞬で新しい触手が高速で生えてきた。これじゃ他の部分を斬っても再生されちゃうかもしれない。その化け物っぷりを見てまたしても、どよめく皆。それでも逃げないのは冒険者なりの意地があるからかな。


「無駄ですぞ、リュア殿。私にかかればたとえ頭だろうと再生してみせます。完璧なる肉体というのはつまりこういう事なのです」

「そんな風になってまで強くなりたいの?」

「そんな風とは? 人が人の形をしているのは言ってしまえば脆弱だからでございますよ。人が化け物と呼んでいる多くの生物は皆、人を超越しています。人が不完全なのは人であるが故でございましょう。リュア殿、あなたのその人という器こそがあるべき姿というのも結局はエゴです」

「エゴ? エゴってなんだろう」


 馬鹿にしたように化け物の肩をすくめたベルムンドは触手攻撃が効かないとなると、今度は直接向かってきた。触手による跳躍は並大抵じゃなく、その速度はすでにティフェリアさんを超えている。本数が本数だけにボクを相手にする触手と冒険者達を狙う触手に分けていた。


【破壊王の重臣ベルムンドはスピードフォースを唱えた! 破壊王の重臣ベルムンドの素早さが上がった!】

【破壊王の重臣ベルムンドのパラライズブレス!】

【破壊王の重臣ベルムンドはエクスプロードを唱えた!】

【破壊王の重臣ベルムンドはラストハリケーンを唱えた!】


「同時詠唱?!」

「最上級魔法を二つも!? 皆、逃げろッ!」


 クリンカを初めとした魔法に詳しそうなクラスの人達がその様子に驚愕する。口から黄色いガスみたいなのを吐き散らしながら、触手による被害を増やす事も忘れない。爆発が黄色いガスに引火して更に範囲は拡大し、研究所の壁がそれに飲み込まれる。更に広がった爆発の勢いは台風なんて生易しいレベルじゃない暴風の刃に乗って止まらず、爆発の嵐が今まさに拡散しようとしていた。

 そんな発動直後、ボクを襲う触手に構う事無くさっきと同じ要領ですべての触手を破壊。だけど破壊した先からまた再生し、このままだと永遠に終わらない。もちろんこんなのにいつまでも付き合うはずがない、ぐっと力を入れて一撃に力を注ぐ。これはボクにとっても更に強くなるチャンスだ。あれだけの再生力を、いや。あんなのすら一撃で倒せないようならまだまだ。範囲が拡大しがちなソニックリッパーじゃなく、ここは殺傷力の高いこのスキルで決めてやる。


【リュアはソニックスピアを放った!】


 以前にも増して、極太の一撃が放たれる。この槍みたいな一撃をあいつを余すところなく包み込むように直撃させて。すでに拡散して伸びた触手は仕方ない。だけど本体のあいつが死ねば問題ないはず。


【破壊王の重臣ベルムンドに8543159のダメージを与えた!】


 何の言葉も発する事も出来ず、消失していくベルムンド。本体から千切れた触手はわずかな間だけ空中に留まっていたけどすぐに次々と落ちていく。


「や、やったねリュアちゃ」


【破壊王の重臣ベルムンドは再生した! HP 246900】

【破壊王の重臣ベルムンドは再生した! HP 246900】

【破壊王の重臣ベルムンドは再生した! HP 246900】

【破壊王の重臣ベルムンドは再生した! HP 246900】


 落ちた触手が次々とベルムンドを形作る。予想通りというか、かなりしぶとい。このままだと複数のベルムンドが誕生してしまう。それは気持ち悪いしまずい。


【リュアの攻撃! 破壊王の重臣ベルムンドに4620087のダメージを与えた!

破壊王の重臣ベルムンドを倒した! HP 0/246900】

【リュアの攻撃! 破壊王の重臣ベルムンドに4529090のダメージを与えた!

破壊王の重臣ベルムンドを倒した! HP 0/246900】

【リュアの攻撃! 破壊王の重臣ベルムンドに4421620のダメージを与えた!

破壊王の重臣ベルムンドを倒した! HP 0/246900】

【リュアの攻撃! 破壊王の重臣ベルムンドに4623183のダメージを与えた!

破壊王の重臣ベルムンドを倒した! HP 0/246900】


 そこら辺に散らばっている触手も残らず片付けておく。すぐに再生しようとしていたし、欠片も残しておけない。全部斬った後、数秒の間だけ待ってみたけどこれ以上再生してくる様子がない。つまりこの場から完全にベルムンドを消し去る事が出来た。


「爆風は収まったみたいだな……」

「ベ、ベルムンドが消えた。いや、あの子が倒したんだ」

「お前、見えたか? あの一撃……」

「え、何が?」


「お終いだ、決着はついた」


 ガンテツさんの一声でセイゲルさんも頷き、Aランクの二人が言うのだからそうなんだろうと納得した様子だった。何が何だかわかってない人が多い中、すべてを理解した何人かの実力者達が両手の平を叩く。


「素晴らしい!」


 一人、二人と拍手が続いて。次第に全体を巻き込んでの拍手喝采。これだけ大勢の人達に認めてもらえたのは闘技大会以来だ。あの時を思い出すほどの謎の高揚感、そうだ。やっぱりいい事をしたら気持ちがいいんだ。誰かに嫌われて嫉妬されるより、好かれたほうがいい。そんな当たり前の事を再認識するほど、今のボクはうれしくてたまらなかった。


「リュアちゃん、泣いてる……」

「な、泣いてないよっ」

「……いいんだよ。うれしい時にも涙は出るんだから」

「だから、泣いてにゃいって!」

「あはは、かんでるかんでるー」


 意地悪そうにケラケラと笑うクリンカ。ここに来て気が抜けてしまった、だけどまだこれで終わりじゃない。ティフェリアさんはちゃんと考えて半壊させてくれたみたいで、奥へと続く扉は残っている。


「やれやれ、アレもとんでもない化け物じゃったがお主も相変わらずじゃのう」

「相変わらずって何さ、ボクは化け物じゃないよ」


 よっこらせ、と立ち上がったハスト様を見て違和感があった。なんだろう、別に変わったところはないのに何か変だ。いや、これはおかしい。だってこのハスト様、腰が曲がってない。真っ直ぐと背筋を伸ばして立っている。


「ううむ、なんだかあの子のヒールを受けているうちに力がみなぎってのう。若返ったというか、まるで全盛期に戻ったかのような満ち足りた気分じゃわい」


 体操までやってみせるハスト様を見て確信した。やっぱりクリンカにはボク達の知らない力がある。本人は気づいていないのか、無理しないでだなんてハスト様を労わっていた。


「おおい! 通せよ! あそこにこの国の暗部があるんだろ?!」

「それより破壊の王について説明しろ! もしそんなものがいるなら国家主体で対策を練るべきだ!」

「はいはい、ここでは私の指示に従ってもらうわ」

「どけよSランクー! 一撃必殺で沈めたるわ!」

「あら、ここで私と? さっきの戦いで何が起こってるのかすらわからなかったあなた達が?」


 ティフェリアさんが暴走する冒険者達を牽制してくれている。鎧こそボクが壊しちゃったものの、あの人がその気になれば剣一つで全員を殺せるはず。そんな圧倒的な獣に睨まれて大人しくしない人はいなかった。渋々その場に留まってくれてありがたい。


「ハスト様、あの奥にボク達の家族や村の人達がいるかもしれない」

「うむ、優秀な実験体ならば長らく拘束されておるはずじゃ」

「え、なんで知って……」

「ほれ、バシーンと開けんかい!」


 何かを誤魔化すようにハスト様は扉を乱暴に開けた。そこから先は枝分かれ廊下が続いていて迷いそう。頼りない灯りだけが灯された陰気な廊下をハスト様は軽快に進む。まるで道を知っているかのように、何の迷いもなかった。


◆ アバンガルド城 研究施設 実験体保管室 ◆


 積み上げられた石に金属の板が混ざったような壁、そこに備え付けられている鉄格子の窓。それが通路の両脇にいくつも並んでいる。その奥には確かに何かがいる。呻きともつかない、くぐもった声がかすかに聴こえてきた。


「相変わらずカビ臭いところじゃて。さて、実験体はどれだけおるかのう」

「ハスト様、ずいぶんと詳しいですね……」

「積もる話は後じゃ。それよりも問題はここからじゃな。見たところ、ほとんどが自我を失っておる」

「そんな!」


 そんな言葉を信じたくない。でも確かに、鉄格子の奥でうずくまる黒い影は人じゃないような気もする。壁をがりがりと爪で削っていたり、頭を打ちつけていたり、大の字になって倒れたまま動かなかったり。ハッキリ言ってこれじゃイカナ村の皆、そしてボク達の両親も絶望的だ。


「お父さん! お母さん! いるんなら返事をしてよ!」


 返ってくるのはわずかに反響したボクの声だけだ。このカビ臭さがこの実験そのものを表しているようだった。暗くて臭くて、それでいて邪悪。悔しさのあまり、鉄格子を握りつぶしてしまったところで、何も解決しない。


「ここまで来たのに……嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!」

「リュアちゃん、落ち着いて! 絶対に方法はあるはずだから!」

「方法ってどこにあるのさ! どこに!」

「わからないけどここで泣いても解決しないよ!」


「その通りじゃ! 黙らんかッ!」


 お年寄りとは思えないほどの怒声がボクの心の乱れを正した。止まらない悲しみと、この実験に対する怒りを一瞬で静めるほどの一喝。だけど呼吸が落ち着いても涙は止まらない。


「お主の相方も泣きたい気持ちのはずじゃ」

「そ、そうだった……」


 無言で首を横に振るクリンカに申し訳ない。一生懸命、腕で涙を拭いて今の事をなかった事にしようとするボク。ボクなんかよりもクリンカのほうが大人だった。止まらなかった悲しみをクリンカは必死に堪えている。それでいて取り乱すボクを止めてくれた。


「ごめん、ごめん……」

「落ち着いてくれたならいいの」

「でも本当にどうしたらいいのかな……」


「ふーむ……」


 ハスト様が何かを考え込むほど事態は深刻なのかな。と思ったら何かを思いついたのか、腕組みを止めてボク達の顔を見る。


「もしかしたら、もしかするかもしれん。ロエル、いや今はクリンカだったかの。やれるのはお主かもしれん」

「は、い……?」


 ボク達じゃなくて見ていたのはクリンカのほうだった。言われている本人でさえ訳がわからないのに、ボクにもわかるはずがない。だけど賢者様は何かを確信したかのように、その白い眉毛に埋もれた目を見開いていた。


◆ シンレポート ◆


よ よった おえぇぇ

いつもいじょうに うごきやがるです


あのべるむんど どうやら わずかな さいぼうさえのこっていれば

ほんたいごと さいせいできる おそろしい やつなのです

あそこまでの さいせいりょくを もったやつなんて さすがに まぞくのなかにも

いるかどうか

そうかんがえると じっけんのそこしれない おそろしさが みえるです

もしこれが かんせいしていれば せかいを とれるかもしれない


りゅあが いなければ


ですが ひっかかるです あのさいしょうにしては ひきぎわもわからず

このよから たいじょうとは とても すうひゃくねん いきたとは おもえんです


いやいや そんなことより りゅあの なきがお

こいつを すけっちしておけば けんかしたときの ひっさつへいきと なりうる

もしくは これをつかって おどしかければ あのおいしいみせたちの

でざーとを おごらせて くふふ


いや とりみだして てつごうしを はかいするようなやつです

このしんも にぎりつぶされたら かなわん ひ ひぃ

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