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第182話 希望を胸に その6

◆ アバンガルド城 屋上 ◆


 城下町が一望できるほどの高さ、街全体を取り囲む城壁の形までがハッキリと見える。強風に煽られたら普通なら危ない。だけどティフェリアとボクなら、簡単にここを決戦の場に出来る。誰にも邪魔されず、それでいて静寂。


「あらあら、こんなところに出てしまうなんて……」

「ここでお前を倒すよ、片翼の悪魔」


 場所を変えよう、そう言い出したのはボクだ。この悪魔がそれを認めるかどうかはわからなかったけど、あっさりと呑んでくれた。どこだろうと自分は負けないとでも思っているのかもしれない。

 三角屋根に器用に立ち、ティフェリアはトワイライトブリンガーの切っ先を天に向ける。あの武器、確かハンスと並ぶ名工に打ってもらったと聞いたけど闘技大会の時はあっさりと折れた。その時点でディスバレッドよりも劣るとは思う。


「マスターナイトの武器としてこれ以上適したものは存在しないわ。えぇしないわよ」


 天に反抗するかのように掲げられたトワイライトブリンガーの刀身が一際輝く。同時にエメラルドの鎧も日の光を浴びて強く反射した。


「あなたのそれ、とても禍々しいわ。見ているだけで気が滅入りそう。お似合いよ、クスクスクス」

「でもボクはこれでたくさんの人達を助けてきた。魔剣がどうとか関係ないよ。そっちみたいに人を殺してるわけじゃないし」

「あら、今度は英雄気取り? 助けてきた、だなんて。助けられたほうはそう思ってるのかしら?」

「それは……わからないけど」

「そう、そこが子供なのよ。ちょっとつっつかれるとすぐ自信を失くしちゃう。それだけの力を持ちながら、あなたは何を信じて、何を思って戦ってきたのかしら」


【片翼の悪魔ティフェリアのワンテンポ・キル!】


 刹那に踏み入ってきたティフェリアの狂刃を後ろに引いてかわす。捉えられない速度じゃないけど、ハッキリ言ってイークスさんとは段違いだ。そして今のは多分だけど様子見、その証拠によくかわしたわねと言わんばかりに口元だけで笑っている。


【片翼の悪魔ティフェリアのソードビート!】

【片翼の悪魔ティフェリアはバーストブレイバーを放った!】

【片翼の悪魔ティフェリアは大切斬を放った!】

【片翼の悪魔ティフェリアはセイバーレインを放った!】

【片翼の悪魔ティフェリアはスマッシュボムを放った!】

【片翼の悪魔ティフェリアの影斬り!】

【片翼の悪魔ティフェリアは旋風列波を放った!】

【片翼の悪魔ティフェリアは烈空殺を放った!】

【片翼の悪魔ティフェリアはワイドワイトを放った!】

【片翼の悪魔ティフェリアのボルトスネア!】


 単体、あるいは複合。どれが何のスキルかわからなくなるほどの猛攻。剣が回転して突いてきたと思ったら炎を帯び、弧を描いたと思ったらすでに雷に姿を変えている。こいつはこんな数え切れないほどのスキルをマスターしてきた、だからマスターナイトなんだ。

 だけどそれがどうした。これだけじゃ奈落の洞窟の30階辺りが限界だよ。手数を増やせばいいってもんじゃないし、そんなの悪戯に体力を消耗するだけだ。決してソニックリッパーしか習得できなかったから僻んでるんじゃない。


「数撃てばいいってもんじゃない、そう思ってる?」


 ボクの内を見透かしたかのような悪魔の微笑み、ボクの反撃であるディスバレッドを剣先一つで封じる。つまりこいつの刃、腕力に阻まれてボクは剣を触れなかった。闘技大会では感じられなかった異質な実力の正体がここにきて頭角を表す。

 次の一撃も、また次の一撃も。心の中を読まれているかのように、それでいてボクの速度に対応している。決して舐めていたわけじゃないけど、単純な攻めでは倒せない相手だと再認識した。


「あなたの事はずっと見ていたわ。闘技大会や獣の園との戦い、アバンガルドの大空を覆った魔物を倒した時も。ずぅーっと、貴女の事だけを見ていた」


 唇を嘗め回しながら今も尚、ボクを観察し続けている。たったそれだけでボクの速度にも対応できるものなのか、考えてみたけどこいつならやりかねない。相手の癖や初動なんかを見抜いてしまえば、後は反応次第。


「相手のすべてを見切り、制圧(マスター)する。それがマスターナイトの本懐なの」


 強いとは思っていたけど予想以上だった。ただデタラメにスキルを連発するだけが芸じゃない、マスターナイトの真価。本当にすべて読まれているとしたら、少し手を変えなきゃいけない。いくらダイガミ様や竜神を倒そうが、戦闘スタイルの違う相手なら同じやり方じゃ無理。


「ボクの動きをすべて知っているの?」

「えぇ、あなたのご自慢のスキルだって封じてみせるわ。どんな破壊力があろうと速度があろうと、発動させなければまったく問題がないもの」

「ふーん……」


 バトラムのジェントルカウンター並みのセンスだ。実際、こいつとあのバトラムならいい勝負をすると思う。


「私はね、リュアさん。とっても退屈だったの。だって子供の頃から何でも出来ちゃうんですもの。文字の読み書きだって物心がついた頃には完璧だったし、大概の学問は一日で理解したわ。おかげで学院では普通の人達とは話がかみ合わなくていつも浮いていたの。嫌がらせだってされた。それで馬鹿らしくなって中退してね、思い切って剣術を学ぶ事にしたの。そしたら……」


 土石流のごとく止まらない速さで喋りだす悪魔を何故かボクは放置した。この悪魔の話に耳を傾けたくなるほどの興味が沸いたのかな。ボクとはまったく対照的な人だ。だってボクは読み書きだって未だにままならないし、本なんて1分と読んでいられない。出来ない事が多すぎて、たまに落ち込む。

 それに比べたら、うらやましくなるほどだ。それだけ恵まれた能力があるのに、どうして悪魔になっちゃったのか。そこが気になってきたのかも。


「剣術道場の先生を半日で追い抜いちゃってね、たまたまそこに居合わせた世界一の剣聖と言われたおじいさんに見初められたのよ。張り切ってその人に弟子入りしたんだけど……一日で超えたわ。そしたらあの人、人が変わったように怒り狂ってね。何度も、何度も挑んでくる」


 久しぶりにあのけだるそうな溜息を見せたティフェリアからは、その剣聖という人への嘲りの意志を少しだけ感じた。


「私に負けたある日、その人は自殺したわ。私の目の前で、自分の剣で。ねぇ、そんな時はどう反応するのが正しいと思う? リュアさんならわかるでしょ? だってそれだけ強いんだもの、このくらい経験あるわよねぇ?」


 意地悪としか思えない質問を、わざとボクにぶつけてきた。ボクがそれに答えられるわけがない。


「私にはわからないわ。なんで剣聖のおじいさんが自殺までしたのか。だってそうでしょ、私にはその感情が理解できないんだもの。悔しいとかがんばるみたいな、そんな気持ちが全然沸かないの。だから何をやるにしても溜息しか出ない。気だるいのよ、何もかも」


 やる気を出すまでもなく何でも出来る、それはボクからしたらとても羨ましい事だ。だけどこいつを見ていると、そんな気持ちもなくなってしまう。だって、ボクはこんな人間になりたくない。何に対してでも情熱も沸かないなんて怖すぎる。苦労してソニックリッパーを習得しても、何もうれしくないんだから。それどころか苦労さえしない。ボクがあの時得た感動が一切なくなる。こんなの嫌だ。そうなると今まで悩んでいたけどボクは何者になりたいのか、わかってきたような気がした。


「闘技大会決勝戦……あなたと戦った時。私、初めて負けちゃった。それなのに不思議と何とも思わなかった、何故かしらね。やっぱり私には悔しがる感情なんてなかったんだわ」


【片翼の悪魔ティフェリアのトワイライトアーマーが変化する!】


「でもね、リュアさん。少し、少しずつ。あの日から針の穴程度の小さな穴だったのに、それが少しずつ広がるような感覚を覚えたわ。だって、あの日殺し損ねた女の子がこうしてとてつもなく強くなって現れたのよ。そう考えるとね……私も何だか不快な気持ちを味わった。ねぇ、これって悔しい、なのかしら」


 鎧の背中から生えている翼のような骨組みを眩い虹色が覆う。一枚、一枚の輝いた鳥の羽が組み合わさって一つの翼となり、ティフェリアの細い体のラインを軸に雄々しく広がった。赤、緑と様々なラインがエメラルドの鎧に加わり、それらが表面をスライドする。


「トワイライトアーマー最終形態……黄昏の天使」


 アバンガルド城に降り立った一人の天使。それは多分、城下町からでも確認できると思う。ここからだと豆粒程度に見える城下町の人達が一斉に歩みを止めてこちらを見上げている。窓から覗く人、仕事の手を止める人、町全体がティフェリアという天使に魅了された瞬間だった。

 これがあの鎧の効果なのかティフェリアのスキルなのか、この際どっちでもいい。あっちは本気の本気、天使という名の悪魔がボクを殺そうとしている。


「思ったよりすごいね……」

「ありがとう。でも褒めても助からないわ、ウフフフ」

「でもお前は知らないよ。思い通りに行かない事がたくさんあるって事を」


【リュアの攻撃!】

【ティフェリアの攻撃! リュアの攻撃を封じた!】


 振ったティスバレッドの刃を、いや。振った直後の刃をトワイライトブリンガーだけで止め、そこから流れるようにボクの体を目指してやってきた。この間、わずか1秒もない。


【片翼の悪魔ティフェリアの流し斬り!】


ボクの初動を止めつつ、命を奪い取る。超人、化け物という言葉すら生ぬるいほどの芸当。完全に動きを読まれ、封じられたボクに勝ち目はない。と普通なら思うところだけど。


「どっちみち、丸見えだよ」


【リュアはひらりと身をかわした!】


「どうかしら?」


【片翼の悪魔ティフェリアの流し斬り! リュアはひらりと身をかわした! 片翼の悪魔ティフェリアの流し斬り! リュアはひらりと身をかわした! 片翼の悪魔ティフェリアの流し斬り! リュアは1233のダメージを受けた! HP 40817/42050】


 かわしたはずの刃がまた目の前に現れ、さらにかわしても今度は更に近くに。かわしても、かわしても距離が近づき、次に刃が現れた場所はボクの胴体だった。斬ったという結果だけが残る、自分の血を見たからといって動揺はしない。こんなのは今までだっていくらでもあった事だ。


「ウフッ、この形態になるとね。スキルもあなたを学習し、制圧(マスター)するの」


 一気に決める気だ、持てるスキルをすべてボクに叩き込んで完膚なきまでに潰す。すべてのスキルがボクの動きを学習し、確実にヒットさせる。いつからかボクは仇であるはずのこいつを見直すようになっていた。これだけの強さ、ボクも応えないわけにはいかない。


「じゃあ、ボクも少しだけ本気を出してあげるよ」


 いつもはのどかなアバンガルド王国の空から音が消えた。鳥の羽ばたきも気配も風の音も、そして地上の人々の動きさえも停止する。


「……あらあら」


 ボクに気圧されて、ほんの少しだけ上体を引いた瞬間を見逃さなかった。今まで遊んでいたわけじゃないけど、ちょっとだけ本気を出すだけだ。それなのにびびっちゃって。


「後悔……させてあげるわ」


 怒涛のごとく、トワイライトブリンガーからティフェリアのすべてが放出された。


【片翼の悪魔ティフェリアの流し斬り! リュアはひらりと身をかわした! 片翼の悪魔ティフェリアの流 リュアの攻撃! 片翼の悪魔ティフェリアは狂真紅月を放った! リュアはひらりと身をかわした! 片翼の悪魔ティフェリアは狂 リュアの攻撃! 片翼の悪魔ティフェリアのサウザン リュアの攻撃! リュアの攻撃! 片翼の悪魔ティフェリアのワンテンポ リュアの攻撃! 片翼の悪魔ティフェリアはグランド リュアの攻撃! リュアの攻撃!】


「ウ、ウソォ……!」


 戦っているというのに驚いている余裕なんてあるはずがない。何をぼんやりしてるの、こいつは。馬鹿だ、まさかちょっと本気を出しただけで。


「次のスキルは……これよ、えぇこれならやれるわ!」


【片翼の悪魔ティフェリアのトワイライトレインボウ!】


 七色以上の光が折り重なってそれが猛スピードでそんなのはどうでもいい、斬る。


【リュアの攻撃! 片翼の悪魔ティフェリアのトワイライトレインボウ! リュアの攻撃! 攻撃! 攻撃! 攻撃!】


 トワイライトブリンガーを弾かれ、わずかにのけぞった隙を見逃すはずがない。


【リュアの攻撃!】


「ッ! キャァッ!」


 もう片方の翼を叩き折り、粉々になったエメラルドの破片と共に天使のような翼も消滅した。


「こ、こんなのぉ……こんなのー! もうーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 微笑みと溜息でしか構成されていなかった女の人の本性を垣間見た気がする。今まで陥った事のない不利な状況で、成す術も思いつかない。そして子供みたいにふくれっ面を見せる。

 そうか、この人はそういう事だった。たった今ボクが思ったように、この人は子供なんだ。


制圧(マスター)したはずなのに!」


「どこを見てそう勘違いしたのかは知らないけど、簡単にボクの10年間を崩せるなんて思わないでよ」


 それでもさすがだとは思う。ボクの()()の癖や動きを観察できるという事は、少なくともこの人にはボクの速度が追えている。それだけでもヒヤリとするべきところだけど、それならその癖や動きを変えるだけだ。ワンパターンじゃとてもあの洞窟では生き残れない、相手の動きを学習して襲ってくる魔物がいないわけがない。つまりこの人はあの洞窟にいる魔物の一匹くらいの強さはあるという事だ。


「なんで! なんで! なんでこのぉ!」


 この人、いつしかボクはそう呼んでいた。仇であるはずの悪魔の化けの皮が剥がれて、出てきたのがこんな子供みたいなのだから。よくわからないし、理解できないけどこの人は大人になれていないんだ。暗い洞窟で10年以上も篭っていたボクが何も知らなかったように、この人もまた完璧すぎて何かを知る機会がなかった。

 今ここで生まれて初めて、追い詰められて悔しい思いをしている。この人にとって物事がうまくいかなかった事なんてまったくなかっただろうし。こうなるとボクはある程度、物分りが悪くてよかったなとも思える。


「もうね、リュアさんったら本当にひどいんだから!」


【片翼の悪魔ティフェリアの】


「もういいよ、終わりにしよう」


【リュアはソニックリッパーを放った!】


 ちょっと動きを変えただけでこの通り。


【片翼の悪魔ティフェリアに11545のダメージを与えた!】


「あグッ……!」


 縦型の斬撃は綺麗な肩当てを消し飛ばし、守られていた肉を削り取った。首横から噴出した血の色はもちろん赤い。イークスさんの時と違って、今度はちゃんとうまくかすらせた。


「い、いやぁ……私、全然……勝て……ない……」


 瞳から光が消え、虚空を見つめるかのようにティフェリアは。いや、ティフェリアさんは地上へと引かれて転落していった。あの日、村を壊滅させた悪魔の終わりのはずなのにどうしてこうもスッキリしないんだろう。

 敵討ちのはずなのに、どうしてこんなにも胸が痛いんだろう。


【片翼の悪魔ティフェリアを倒した! HP 0/9959】


「あ……」


 落ちていくティフェリアさんに手を伸ばし、気がつけばボクもその後を追っていた。


◆ シンレポート ◆


だめだ もうなにが おこっているのか わからない


こどものときに たいけんすべきことを すっぽぬいたら

てぃふぇりあみたいな うふふおんなになる

しん おぼえた

まぁ しんも てんさいゆえの なやみがあるです

たとえば このそくひつ つねに じょうきょうをはあくして

れぽにまとめる

つまり しんには れぽをそくひつできないやつの きもちが わからない

そうなると しんみたいに なる

いや これはこれで いいこと ううむ?

よくわからん です 

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