第142話 裁かれし時 終了
◆ マテール本社 跡地 ◆
地上に降り立ち、クリンカが翼を閉じて人間の姿に戻るまでの間。誰一人として何も喋らなかった。それぞれ表情や仕草は違えど、好意的な感情は抱いていないと思う。何せあの人達からしたら言いたくないけど化け物だし。いや、ボクはそんな事まったく思ってないけど。
この状況でどう話せばいいのかわからないからボクも黙ってる。説明してもわかってくれるかどうかわからないし、何よりクリンカが化け物呼ばわりされるのだけは絶対に嫌だ。
「……竜だったのか? いや、それとも何らかの魔法やスキルによるものか?」
「そのようなスキルや魔法はないとは言い切れませんが、あそこまで再現できるほどの使い手となると世界でも有数でしょう」
「となると、その有数の一つか」
感心したのか驚いたのか、よくわからない頷きをした王様と疲れきったヴァイスの表情を交互に見比べる。さすがにこの二人となると冷静だ。化け物なんて言われたらクリンカが傷つくし、そうなったらボクが黙ってない。
「ま、魔物だったのか……強すぎるわけだ……」
ついに誰かがそう言い放つ。この発言を境にざわめきが大きくなり、そうなると嫌な予感しかしない。助けた社員達でさえ、巨大マシンを見上げていた時の表情をボク達に向けてくる。きちんと声を出して否定しないといけないのに、何も出てこない。何か言っても火に油を注ぎそうで、勇気が沸いてこない。クリンカの為に、クリンカが傷つかないように。ボクが、ボクが何とかしなきゃ。
「クリンカは……魔物じゃないよ」
力強く言ったつもりなのに実際に出た声はあまりにも弱々しかった。この一言の効果がほとんどないのは、反応を見るまでもなくわかる。ざわつくこの場が静まらないどころかハッキリと化け物とまで聴こえてくる以上、もうここにいてもしょうがない。気にしないようにしているけど、目が潤んでるクリンカを見続けるのは辛い。その目から涙がこぼれ落ちようものなら、ボクはこの国を敵に回してでも戦う。これは覚悟とかそんな大層なものじゃない、単なるボク自身の素直な気持ち。
「王様、ボク達はもう行くから……」
「なるほど、竜化のスキルか! 世界でもほとんど使い手がいないと聴いたが、なるほどなるほど! これはSランクと同等ではないのかな、ヴァイス?」
「は、はい。実に興味深いです」
「そうだろうそうだろう! 皆が驚くのも無理はない! 者どもよ、貴重な場面に出会えたな! 盛大な拍手で称えろ! ハハハハッ!」
王様の空まで届くんじゃないかと思えるほどの音の拍手にヴァイスが続いた。それから隊長、兵隊とみるみるうちに伝染していく。そうだったのか、と心底納得した様子の皆を見てボクは改めて王様という存在を見直した。疑いが一瞬で消えるほどの王様の発言、この国で一番偉いからだとか、単純にそれだけじゃない。この人が王様として、闘王なんて呼ばれているくらいの人だからだ。だから、最終的にはこうやって社員達を巻き込んで盛大に称えられる。
「そういう事だったのか! いやいや、私はてっきり魔物が人間に扮しているのかと……」
「デック隊長のさっきの驚きようといったら、見物でしたな! 初めて王宮に入ってきたヴァイス殿に完敗した時よりもすごかった!」
「そ、それはせっかく忘れかけていたのに! そういうクロート隊長こそ、ヴァイス殿に負けた時はしばらく酒びたりになっていたのを覚えているぞ!」
いい歳したおじさん達がお互いをからかい合える雰囲気になるなんて。もうこの時点で、全員がクリンカのスキルだと信じ込んでいる。正確にいえばスキルみたいなものだけど。
「王様、ありがとう……」
「本当の事だろう? 礼を言われる筋合いはない」
素直じゃないのか本当にそう思っているのかはわからないけど、ありがたいのは確かだった。
「クリンカ、よかったね。ボクも安心したよ」
「うん、平気だよ。それでなくても、ぜーんぜん気にしてないから」
無理に笑うクリンカを見ていると、まだ気にしているんじゃないかなと思う。そもそもドラゴンになるように促したのはボクだ。わざわざあの位置にまで飛ばなくてもよかったかもしれないのに、何をやっているんだろう。ボクの身勝手でクリンカを傷つけてしまった。
「もしかしたら、失敗してあの武器が爆発して皆死んじゃったかもしれないよ。だからリュアちゃんは間違ってない」
予想通り、そう言ってくれて余計に申し訳ない気持ちになった。クリンカがボクを傷つけないように、ボクがクリンカを傷つけないように。お互いが大切に思っている事の証だと思えば少しは気が楽になるかな。
それよりさっきから気になっていたんだけど、妙に臭い。最初は気のせいかなと思ったけど、この臭いは明らかにアレだ。
「……なんかさ。臭くない?」
「あーー! せ、背中っ!」
「え……えぇぇ……」
どんな相手と戦ってもここまで絶望した事はなかった。背中に張り付いていたはずのシンがいつの間にかいなくなっているのに、この生温かい感触。臭い上にこの独特な不快感は何とも言えない。誰の仕業か、悩む必要もない。あそこで口笛を吹いて顔を逸らしている子だ。
さすがに頭にきたので空中まで跳んで小さな体を両手で掴んで着地、高く上げて濡らしている部分を見た。
「ボクの背中でお漏らししたでしょ」
「ひゅーひゅーひゅひゅー」
「口笛になってないから、ソレ」
「ひゅううううううう!」
ごまかしきれなくて狂ったとしか思えない。変えの服があったかどうか、宿に置いてきていないか。あったとしても、どこで着替えればいいのか。というかお風呂で洗い流したい。そんな心配事が山ほど頭をよぎるっていうのにこの子はまだ目を逸らしている。
「シンちゃん、悪い事をしたらきちんと謝るんだよ。誰だって失敗はあるけどね、大事なのはやってしまった後でどうするか。シンちゃんは悪い子じゃないなら出来るよね?」
「……めん」
「大きな声で」
「うるせーです! なんでこの魔王軍幹部であるシンがお前達なんかに」
「「えっ」」
今、何かすごいセリフが飛び出た。ちょっと、どういう事。
「お、こいつらまだ息があるな」
「マテール以外は全員気絶していますね。それにしても、よく生きていたな……」
「あと少し右にずれていれば全員即死だっただろう。操縦席の隣が綺麗に削り取られている」
巨大マシンの残骸から王様とヴァイスが引きずり出したのは、マテール含む6人だった。衣服が焼け焦げていて、綺麗な身なりのはずなのにみすぼらしく見える。そうなったのはボクのせいだけど謝らない。
「私の……私のマテール商社が……ここまで成長するのに、一体どれだけかかったと思っているんだ……幾度なく辛酸を舐めさせられながらも、私は常に商売と正しく向き合っていた……それを、それをッ!」
恨みの篭った充血した目つきでマテールはボクを睨む。獣のように牙を剥き出す事はないだろうけど、あの様子だとボクへの殺意は半端ない。
「知れた事よ、マテール。お前は商人から逸脱しすぎた。目先の利益に目がくらんで盗賊などと取引をし、その下で支えている大勢の部下達を見ずに上ばかりを見る。土台がもろくなっているのに気づかず、お前はこんな木偶に心血を注いでしまった」
「黙れ、蛮王が! 貴様に何がわかる! 玉座を温めるだけで見せかけの戦いに興じてきた貴様なんぞに! 私は常に戦ってきた! 誰よりも優れる為に、幸福を手に入れる為に!」
「お前に私を理解してもらおうなどとも思わんし、お前を理解しようとも思わん。盗賊と繋がったお前を王都まで連行する、ただそれだけの事よ」
「ま、待って下さい!」
王様がマテールの腕を掴もうとしたところで走って割って入ってきたのはノーツだ。息を切らしながらも王様の足元の地面に頭をつけて、体全体で謝罪している。
「マテール社長達を裁くなら、私も同罪です! 私も悪事を知りながら、それに加担していました! ですが……もし、情状酌量の余地があるなら。社長達の減刑を……」
「証拠品の数々はお手柄だ。これを持ち出してマテール商社に反旗を翻した闘志は買おう。よってお前の減刑は考えておく。だがそいつらはいかんな」
「そんな……! それなら私が彼らの罪を被ります! どんな刑も受け入れます!」
「馬鹿がッ! お前にそんな要求をする権利もないし、聞き入れるとでも思ったか!」
ノーツがあそこまでしているのに王様はそれを見下ろして、唾を飛ばしている。このやり取りを見て完全にボクがやるべき事が決まった。相手は王様だし、何かあるとこの国にいられなくなりそうだからクリンカにも釘を刺されていたけど。どうせ、もうすぐ出て行くから関係ない。ボクは王様に。
「何か来るぞ!」
刹那、遥か向こうから土煙を上げて爆走してくる何かが迫る。兵隊の向こう側、荒地を突き進んでくる何かに全員が注目した。それが一つじゃないのは接近するにつれてはっきりとわかってくる。
1、2、3、4、5……複数の乗り物。メタリカ国でも見たあの乗り物だ。だけどあっちに見えるのはかなり大きい。正面にガラスがついた箱の後ろに長い箱が連結されている。ボクが見てきた中ではトレインに近い。
「ぬ、何事だ?」
「あのトレーラーはまさか! おぉぉぉい! 息子よーーー!」
マテールが息子と呼んでくれてすぐに正体がわかった。トレーラーという乗り物の正面ガラスの奥に不敵な笑みを浮かべているフォーマスがいる。それを操縦しているのは見ただけでわかるし、問題はあんなものに乗って何しに来たのか。
トレーラーが兵隊の前で止まって、横のドアが開く。格好つけて着地したフォーマスはすでに銃を親指に引っ掛けて回している。フォーマスがアレをやる時は機嫌がいい時だ。あまり長く一緒にいた事はなかったけど、何故かそれだけはかわかる。
「おーおー、見事にお揃いで。おまけに本社までぶっ潰しちゃってくれて何してくれてんだか」
「お前がマテールの息子か。見ての通り、すべて終わったところだ」
「いやいやいやいや、何言っちゃってんの。むしろ終わるのはおたくらのほうだぜ?」
「どういう意味だ」
「こういう意味さ……出てきな」
フォーマスが指を鳴らすとトレーラーの後ろに繋がっていた大きな箱から大勢の人が降りてきた。兵隊が身構えるけど、その人達はどう見ても戦いに向いてそうには見えない。ドウマの工場の作業服みたいなのを着てる人も目立つけど、この人達はたぶん一般人。
ここまできてもフォーマスの狙いがわからない。それは王様も同じで、その集団をどう捉えていいかわからない様子だった。
「お初にお目にかかります、陛下。私はカラント地方で製鉄業を営んでおりますアンデムと申します」
「同じく、カラント地方で炭鉱業を取りまとめているホールです」
「それはご苦労な事だな。それで、一体この私に何の用があるというのだ?」
「単刀直入に申し上げますとマテール商社は私どもの大事な取引先です。仕事の大部分はマテール商社からの受注で成り立っており、それがなくなると従業員の家族を含めた全員が奴隷にまで身を落とすハメになってしまいます。そしてこの状況、最悪の事態が起こってしまったようで大変残念です……」
察しの悪いボクでもフォーマスの狙いがわかってきた。にやけるフォーマスがまさに狙い通りといった感じで何故かボクを見てくる。こんな状況に持ち込んで王様にプレッシャーを与えてはいるけど、あいつが本当に潰したいのはボク達だ。
この状況があいつにとって有利な方向に進んだら、それだけボク達が苦しむ事になる。それを知っているから、あんな風に笑っていられるんだ。
「王様よ、マテール商社はな。この国にふかーく根をおろしているんだ。大木はこの国から養分を吸い取っちゃいるがその枝には鳥が巣を作り、幹の樹液をすする虫がいるように必要としている奴らが大勢いるんだよ。それをあんたは無惨にも斬り落としちまった。そうなると当然、鳥や虫が黙っちゃいないよな?」
「回りくどい事を言うな。我々相手に革命戦争でも起こそうというのだろう?」
「元よりこのままだと私どもは飢え死にです。陛下はもちろんご存知かと思いますがカラント地方だけでなく、マテール商社の下請け事業は各地に点在します。それらに携わる人々がこの事実を知ったらどういった行動に移るでしょう?」
「そりゃ暴動で盛り上がるわな! そして暴王を倒せを一丸の目標にして……想像しただけでゾッとするぜ。カッカッカッ!」
もう完全にフォーマスは勝ち誇っている。そしてマテールが息を吹き返したかのように息子を生まれたばかりの赤ん坊を見るように目元を緩ませていた。
「よくやった、我が息子よ! お前は小さい頃から父親思いの優しい子だった! それだけでなく、マテールに関わる者達の未来まで案じているとは……子は親の知らないところで成長しているものだな……」
フォーマスはその人達を利用して王様を脅しているだけだ。もしこれから暴動が起きてもフォーマスは笑いながらそれを眺めているだけ、助ける気なんてない。そういう奴だ。
「なるほど、つまりマテールの愚息はこの私に脅しをかけていると。いい度胸だ、やってみろ」
「脅しじゃなくて事実を言ってるだけなんですけどねぇ。そこにレズガキどもがいやがる時点で想像はつくが、どうせ後先考えずにこの王様に協力したんだろ? 今回ばかりはやっちまったな、お前ら」
「そこまでだ。それ以上の無礼は不敬とみなす」
フォーマスの首に槍先をつきつけたヴァイス。本当にこれ以上フォーマスが挑発すると突き刺す気満々だ。瞳の奥底には怒りの炎が燃え上がり、それが槍に宿ってフォーマスを突き殺す。そんなイメージがわきあがるほど、今のヴァイスは危ない。
「はい、言い過ぎました。ですがヴァイスさん、そういう行動こそが逆効果になるんですよ?」
慌ててヴァイスが見渡すと、アンデムやホールを初めとした労働者達の表情に恐怖と怒りがかぶさっていた。あのやり場のない握り拳が王様への不満を表している。もちろんここで殴りかかっても王様に辿り付く事なく、兵隊に阻まれて殺される。
「マテール商社を潰すって事は国を潰すって事ですよ。各地で暴動なんぞ起きてみて下さいな、怒り狂った民衆は王都を目指します。王都中にも今回の件で失業した奴らもいるでしょう、そいつら含めた大勢の人間が国に対して反乱を起こす。すべてを鎮圧したとしてもどうだ、そこに広がるのは民の亡骸だ。そこから一体何がどう発展するんですかねぇ……ゲラゲラゲラゲラ!」
下品に笑い立てるフォーマスはよっぽど気分がよくなったのか、隣にいるブリクナのお尻を撫で回し始めた。それを見た瞬間、背筋がぞわりとして身震いしてしまうボク。クリンカも目を細めて汚物から顔を背ける。汚い、そんなクリンカの呟きが今のボクの気持ちでもあった。それを嫌がっていないブリクナもおかしいし、どうして男って。
「あれぇ? レズガキちゃん達はまーだこういう事してないんでちゅか? まさかお手をつないで仲良しなんで間柄じゃねえよな?」
「やっぱりあいつらレズだったんだ、キモッ……」
キモッて気持ち悪いって意味なの。それならそっちのほうが百倍気持ち悪いよ。ボク達はあんな不潔な事しない。笑い合うフォーマスとブリクナを見ていると、心の底からあんな風にはなりたくないなと思う。
そして何故か生唾を飲み込んでこちらをちらちらと見る兵士が目立つ。なんだろう、アレ。少なくともキモッという目ではないけど。どちらにしてもいい気分はしない。
「さてさてさて、この国はどうなっちゃうのかなぁ?」
「それより自分の身の安全を心配したらどうだ?」
「……はぁ?」
「お、来たようだな」
王様が空を見上げると、その彼方から何かが飛んできた。その小さな点が大きくなり、いつかボク達が乗った飛空艇になる。上にいるだけで大きな風が巻き起こり、兵士達ですら風で飛ばされないように体勢を崩さないようにするほどだ。
その飛空艇にはもちろん、銀色の翼が描かれている。メタリカ国、それが何故かここへ来てしまった。ゆっくりとそれが遠くに着陸し、鉄のドアが開いてそのまま足場になる。その奥から真っ先に出てきたのはジーニアだった。
「タイミングはバッチリのようですね、カシラム王」
「うむ、わざわざ済まない」
「いえいえ、こちらとしても我が国の技術が無断使用されていると聞けば黙っているわけにも行きませんので」
「……はい?」
誰よりも素っ頓狂な声を上げたのはマテールだった。人形のように動かなくなり、マテールだけが世界から取り残されてしまったみたい。
「マテール社長はそちらの方ですか?」
「ま、待ってもらいたい! 無断使用とは聞き捨てなりませんな! これでもそちらのローエイ社から直々に……あっ!」
しまった、と言わんばかりに慌てて口を押さえるマテール。何か相当まずい事を言ってしまったみたいだけど、もう遅いかも。
「なるほど、私に無断で技術を提供したのはローエイ社ですか。そちらの処分は後ほど考えましょう」
「い、い、いやいやいや! 先方とはきちんとした取引で……」
「メタリカ国内の技術の譲渡は禁止しています。技術開発局長である私はメタリカ国内の技術に関するすべてを一任しているのです。水洗設備や電気系統など、生活に必要最低限の技術や施設の普及は容認していますが今回の件は聞いていませんねぇ」
「そんなぁ! 話が違う! あの、ローエイ社の社長に今すぐ連絡をとってもらいたい! きっと誤解だとわかるはずだ!」
「そうそう、あなたに会いたがっている方々がたくさんいるんです」
マテールの話なんて初めから聞く気なんてないように、ジーニアは淡々と話を進めていく。多分、ジーニアの中ではもうお話が決まっていて、マテールが何を言おうとそれは変わらないんだ。それを見てとれるほど、ジーニアの物腰はまるでマシンみたいだ。
「はい、出てきて下さい」
ドアから一人、二人と出てきたと思ったらそれが長蛇の列になる。横一杯に広がっても、どれだけいるんだというくらいまだまだ出てくる。老若男女それぞれが兵隊達の前にずらりと並び、何かを言いたそうにしてマテールを睨みつけていた。
「マテール商社を不当な理由で解雇された方、不当な条件で強制労働させられた方、マテール商社の思うような取引に応じずに家族を狙われた方、いい立地に佇むお店に圧力をかけられて泣く泣く退散した方、それでも屈せずに立ち向かって返り討ちに遭った方、挙げれば切りがありませんねぇ。集めるのに苦労しましたよ」
「ま、ま、まさか全員連れてきただと……ありえない!」
「ALEXを持ってすれば居場所の把握などは容易かったですが問題は心のほうですね。折れた心を修復してこの場に立たせるのに私がどれだけ苦労したと思ってるんですか」
「フォ、フォーマス! これはどういう事だ! お前がそんな連中をつれてくるから!」
「そんな! パパが卑怯な事ばっかりやるから怨まれたんだ!」
「うるさい、この馬鹿息子が!」
あれだけ仲良しだった親子が口喧嘩を始めるほどの事態。それはつまり、あそこで未だ煙を吹く巨大マシンの残骸のごとく、すべての終わりを示していた。
「ジーニアさん、感謝する」
「いえ、すべての手筈はそちらが指定した通りですので。こちらとしてもマテール商社にはしかるべき制裁を加えるべきだと判断しました。それより、あちらの失業者はどうなさるおつもりで?」
「なに、奴らの闘志を買うだけだ。暴動だの何だの起こすだけの闘志があれば何でも出来る」
「つまり面倒を見ると? それはなかなか大変ですね……」
「やってみるさ」
細身のジーニアとムキムキの浅黒い肌の王様が握手する光景はこの先、見られるだろうか。本来なら絶対に関わり合わないような二人だし、なんだか貴重な瞬間を見た気がした。そのやり取りを聞いた、フォーマスが連れて来た労働者が次々と王様に疑問を投げかけ、次第にこの場が和むのを感じる。
どうやら王様への恨みはなんとか消えたみたい。闘志を買うとか何とか言ってたけど、具体的にはどうするのかな。
「まさか王様、初めから全部こうなるってわかってて……」
「クリンカ、どういう事?」
「王様は予め、ずーっと前にジーニアさんに連絡していたんだと思う。フォーマスのあの行動まで読んでいたかはわからないけど……」
「ひぇぇ……ただの戦闘好きなおじさんだと思っていたのに」
やっぱり王様は王様だった。戦いが出来るだけじゃ王様は出来ない、それを思い知った。
「あんたがマテールか。あんたのせいで俺は家族を失ったんだ……私刑はどうやら認められているようだし、覚悟は出来ているよな?」
「お前のせいで職どころか愛する者までなくしちまったんだ! 殺してやるぞ! お前だけは!」
「散々弱味を握ってくれたよな。人の骨の髄までしゃぶりつくした気分はどうだ?」
マテールが王様に首根っこを掴まれて投げ入れられた先はまるで猛獣の中だった。殺気、殺気、殺気。
「パパ! おいクソ野郎、どいつもこいつも裏切りやがって! ぶっ殺してやるチキショオオオオオ! お前か! それともお前か! 死にたい奴からかかってこいや! オレは……オレはマテール商社のオオオオオ!」
後ろからヴァイスに羽交い絞めにされたフォーマスが暴れまくり、思いつく限りの暴言を吐き散らしている。Aランクのフォーマスの背後に回って動きまで封じるなんて事が出来るのはヴァイスだからこそだ。あんな風になってしまうとフォーマスがもう駄々っ子にしか見えない。社長の息子だの、散々偉そうにしていたけど今あいつはすべてを失った。何より悲惨なのはあれだけ慕っていたブリクナにすら、軽蔑の眼差しを向けられている。あの手の平の返しようもちょっと腹立つけど、そんな本性を見抜けずに連れ回していたフォーマスが悪い。
「お前らカスどもがこんな真似してどうなるかわかってんだろうなぁ! なぁ! 親父に頼んで家も何もかもぶっ潰してやる! オレはマテール商社の社長の息子だからなぁ! ひゃっはっはっはっ!」
そのマテール商社が終わったのに何を言ってるんだろう。もう完全におかしくなっている。これが今まで社長の息子という事実だけにしがみついて来た奴の最後か。
「おいブリクナァ! こいつらを殺せや! なぁ! おい、どこへ行く!」
マテール商社にも裁かれる時がきた。それがどんな形かはわからないけど、ジーニアが連れて来たあの人達は多分許してくれないと思う。
◆ シンレポート ◆
ひゃっはっはっはっはっ
じゃねーですっ!
くそが! くそくそくそくそ! くそりゅあしね! しね! しね!
このしんを もちあげて お おまたまで み みやがって
はずかしくて もう およめに いけねーです!
くそのうみそきんにく! でりかしーのかけらもないくそがき!
このまおうぐんかんぶの しんに あやまれ だって!
かとうせいぶつの くせに くせに!
あぁう めのまえが うるんで きたです
ふぇぇ
りゅあしね りゅあしね りゅあしね りゅあしね
なんでか きが はれない
しんは わるく ない はずなのに
わるくない はずです うう




