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第133話 盗賊団殲滅作戦 その4

130話からのサブタイトルを変更しました。

活動報告にもその旨を記載しておりますので、そちらもどうぞ。

◆ カシラム王宮 中庭の訓練所 ◆


「武器はお互い模擬戦用のものを使用、制限時間はなし、どちらかが参ったといえば終了。

もしくは体のどこかに武器を当てたほうの勝利、これでいいな?」

「いいよ、それよりセントールナイトってパシーブに乗るんじゃないの? 乗らなくていいの?」

「見くびっていると思うか? 心配するな、乗ろうが乗るまいが私の実力の真価は変わらん。もちろん結果もな」

「見くびってる……」


 とてもSランクを前にした反応とは思えないと言いたそうな隊長クラスの人達。呆れたのか、乾いた笑いが所々から聴こえてくる。真剣に見守ってくれているのはクリンカと王様だけだ。この二人以外、誰もボクが勝つとは思ってない。いや、王様はどうなんだろう。機嫌がよさそうに笑みを浮かべている表情からはそこは読み取れない。

 模擬戦用という事でディスバレッドはなし、代わりにこの木で出来た剣を使う。あっちもグランドランとかいう槍の代わりに木の槍を手に取っている。この剣、刃先が丸まっていて危険がないように作られていて、それでいて重さは普通の剣と変わらない。限りなく実戦に近い形で訓練できるようになってるんだと関心した。


「二人とも、心の準備はいいな? 判定は私、第14番隊隊長のデックが行う。さぁ、構えよ……さぁ!」

「ボク? 構えてるよ」

「そんな隙だらけの構えがあるか! 剣を両手で持って、お腹の少し下にくるように! 腰も沈めて……なんで決闘の前にこんな指導をせにゃならんのだ!」


「ブハハハハハ! こ、これじゃ勝負じゃなくて本当に訓練じゃないか!」

「おーい! やっぱりこんな無謀な事はやめて、大人しくまずはデック隊長に教わったほうがいいんじゃないか?! ハハハハッ!」


 腹を抱えて笑う周りの隊長達と野次馬の兵士達。まるで自分の事みたいに顔を真っ赤にして座り込んでいるクリンカには申し訳ないけど、正しい構えだとかそんなの知らないんだからしょうがない。そういうのがあるのは別にいいけど、だからってそれで戦わなきゃいけないなんて誰が決めたのさ。

 要するに相手を倒せばいいんだから、いちいち細かい事なんか気にする必要ない。ヴァイスの片手で槍を持って、それを前面に突き出すような構えにも何か意味があるんだろうけどそれはそれでヴァイスの勝手だ。ボクにはボクのやり方がある。


「あれでAランクとはな……。冒険者諸君には悪いが、やはり所詮は野良か……」

「リュアちゃんは負けないもん! 黙って見てて!」

「おおっと、これは失礼……ハハッ」


「ま、まぁいい。ヴァイス殿も手加減はしてやれよ? それでは……始めッ!」


◆ カシラム王宮 中庭の訓練所 VS リュア ◆


 油断するつもりも手加減するつもりもない。陛下が望まれるのならば、私はそれに応えるだけだ。生活苦の果てに両親に奴隷として売られた私を最終的に買ってくれたのが陛下なのだから。陛下の手足となり、生涯かけて恩を返さなければいけない。

 8歳の時に私を買った地方領主を初め、両性問わず思い出すだけでも吐き気がするほどの行為もしたし、させられた。しばらくして民衆の反乱に遭ってそいつは首を切断されて哀れな姿に成り果てたが特別な開放感はなかった。むしろその領主のおかげで自分の容姿に魅力がある事に気づき、命からがら館から逃げ出した後はそれで生計を立てられるようになったのだから、むしろ感謝するべきかもしれない。お前の銀髪は綺麗だ、女の子みたいだと寝床でしきりに呟くあのカエル顔の領主の生臭い息が鼻にこべりついた不快感も今となっては過去の事だ。

 容姿だけではなく、色白で華奢な体つきをしていた私が冒険者の最高位にまで上り詰められたのは生きる意志と陛下の存在があったからだ。陛下は私を買ったからといって甘やかすような事はしなかった。それどころか炎天下で毎日のように過酷な実戦訓練をさせられた挙句、少ない金を握らせて王宮から蹴り出したほどだ。

 この人も両親と同じか、そう絶望した。しかし私が何とか冒険者として板についてきたころ、陛下は私の手に大量の金貨が入った袋を持たせてくれた。お前を評価する、よくやった。私が生まれて初めて、人の言葉で天にも昇るような気分になった瞬間だった。初めて人に認められた、この人は私を見てくれた。もっとこの人に認められたい、その一心で訓練に明け暮れて食事の時さえもその感覚を忘れない為に、槍を手放さない日はなかった。

 新星などと賞賛され、12の時には遥かに大きい大人の冒険者さえ敵わないほどに私は成長した。だが私にはどんな賞賛も空しく響くだけだ。私を欲望のはけ口にした女ども、そんな連中が甲高い声で私を賞賛するな。私には貴様らの声などいらない、必要なのは陛下だけだ。

 人に認められる喜び、それを最初に私に教えてくれたのは陛下だ。だから私は陛下を楽しませる義務がある、期待に応える義務がある。


「陛下、何故ヴァイスを買ったのですか?」

「悲惨な環境にも屈せず、生きてきた。奴の目はまだ死んでなかったからな、それを買っただけだ」


 そんなやり取りを盗み聞きした事もあった。他の人間が聞けば、冷酷な王だと思うだろう。何故他の奴隷や弱者は助けないのか、そう非難するだろう。だが私にはそんな事は関係ない。今この瞬間、陛下に認められたい。それ以外、何もいらない。寝る間も惜しんで磨き上げてきたこの肉体も、私がこれまでに稼いだ金を積み上げて名工に打ってもらったあの槍も。すべては陛下の前で結果を出す為だ。


「結構強いね……気を抜いたら当たっちゃうかも」


 それなのに、なぜ。


「ティフェリアさんと同じくらい、いやもしかしたら……」


 なぜ。私は一撃も浴びせられない。なぜこいつは。なぜ、この少女は。この子供は。私の一突きを読んでいる。心でも読まれているのか、そんな馬鹿な。


「ちょこまかと……つぇぇいっ!」


 銀髪を振り乱し、汗を飛ばして少女に苦戦する姿だけは見せたくなかった。最初は私が手加減をしていると思っていた野次馬も、どうやら事情が違うと次第に気づき始める。初撃で終わらせるはずだった。

 経験の差、才の違い、スキル。頭の中で知識を総動員しても、私が劣る理由が見当たらない。この少女が16にも満たない子供として剣を握り始めたのが幼少だとしても、時間的な経験の差に大差はないはずだ。レベル換算するとしたら、恐らく400は超えている。だとしたら何故こんな逸材が埋もれていたのか。

 いや、評価はされていた。瞬撃少女というチープな通り名につきまとう、数々の功績。あくまで予想だが、それは恐らく彼女自身が積極的に勝ち取ったものではないだろう。名声を得たいだとかそんな動機があれば、この実力をもってすればいずれは世界中にその名を轟かせる。過大評価かもしれないが、そうでもなければ私の自我が保てない。

 何より恐ろしいのはこの少女に反応速度というものがほとんど存在しないところだ。生物の反応速度というのはおおよそ限られている。例えば眼球の前に突然現れた刃に反応できる人間など、存在しないだろう。しかしこの少女にはそれが出来る。言ってしまえば、攻撃に対処するのは相手が攻撃を繰り出した後でいいのだ。達人のように常に二手も三手も先を読む必要がない。

 まるで戦いの中で産み落とされた天性そのものだ。誰にも教えを乞わずとも、勝手に戦い方を覚える。戦場がこの少女にとっての師だ。


「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「ヴァイス殿、一体どうされたのだ……?」

「いつもの冷静さがまるでないな」

「それどころか、翻弄されている……」


 生まれて初めての苦戦、いや圧倒されている。あの汗一つ流さない涼しい風貌が余計に私を苛立たせた。わざとそうしている、それが伝わってくるのだから尚更だ。なんのつもりかは知らないが、この少女は私の実力を計っている。

 この場がどうなろうとスキルを駆使すればまた違ったかもしれない。しかしそれは今の自分に唯一残った自我だ。何より、それはこの少女も同じだ。

 そして、柄にもなく頭に血が上った私をたしなめるかのように。終焉は訪れた。


「……勝負、あり」


 力なく判定を下したデック自身も釈然としない様子だ。優しく触れるように私の胸を突いた少女の模擬戦用の木剣は少しの間だけ、制止した。もはや何も言えない。ただ一つ、私はこの少女に完敗した。冒険者カードを見せてほしい、それが戦った後に出た一声だった。


「レベル……これは……」


 その数値を見た時、私は生まれて初めて自分の世界の狭さを思い知った。一体、どこの誰がこの少女に勝てるというのか。


◆ カシラム王宮 中庭の訓練所 ◆


「見事な戦いだった」


 静まったこの場で唯一、大きく拍手をしたのは王様だけだった。明らかに落ち込んでいるヴァイスを叱り飛ばすかと思ったら、王様は構わずにボクの冒険者カードをひったくるように取り上げる。


「フ、ハハハハハ! 何だこれは、過去の歴史を紐解いてもここまでのレベルに達した者がいただろうか! 一生かかっても30程度で収まる者もいれば、そこそこの経験で優に50を超える者もいる! こればかりは個人の才覚という他はないだろうな! リュア、貴様は戦いの申し子か? ハハハハハッ!」


 ボクの冒険者カードを皆に見えるようにして公開した王様。桁を何度も数える人がいるなんて、今更だ。どうせおかしいだの、ギルドの箱が壊れているだの文句を言われるに決まっている。だから本当はあまり冒険者カードを見せびらかしたりはしたくない。あの汗を流して戦ったヴァイスは本当に強かったし認めたい相手だからこそ見せた。

 何となくだけど、この人なら馬鹿にしたりはしない。そう思ったから。


「こんな馬鹿な話がありますか! ギルドのあの装置も当てになりませんな!」

「それに今の戦いだって、ヴァイス殿の本領をまったく発揮できていない! セントールナイト、それは乗馬時に……」


「これ以上、私に恥をかかすなッ!」


 ヴァイスの一喝でうるさい隊長達が一気に静かになった。ヴァイスの本領がパシーブに乗った時だとしたら、今以上に強い事になる。スキルだって使うだろうし、それでも負ける気はしないけど少なくとも戦っている時に感じたヴァイスの執念。何かを背負って、その一心で戦っていたように見える。

 本当は一撃で終わらせようと思ったけど、その思った以上の気迫で先制をとられたのは事実だった。そこからの猛攻は久しぶりに人間相手で関心する事ばかりだ。ティフェリアさんはよくわからないから除外として、プラティウのアレも人間としての強さというのは違う気がするからこれもなしとして。

 ザンギリ、グラーブ、アズマの鬼神衆。この誰よりもヴァイスは遥かに強かった。ただそれに感動した。ボクと同じく、ここまで強くなるのに相当苦労したんだなと肌で感じ取れてうれしかった。


「陛下、勝利を勝ち取れず申し訳ございません。今後はより気を引き締めて、鍛錬に望む所存であります」

「その志は結構だが、もし私がお前に失望していると勘違いしているのならばそれは間違いだ。久しぶりにいい闘志と闘志のぶつかり合いを見せてもらえて感謝するぞ」

「陛下……」


 王様に嫌われなくて安堵したヴァイスの様子からして、よっぽど王様を尊敬しているんだなと思った。誰かの為に戦うという事はそれだけ人を強くする。ヴァイスを見て、それを確信した。ボクにもそう思える相手といったら。


「リュアちゃん、お疲れ様。あの隊長のおじさん達が何かいってきても、気にしたらダメだよ」


 道具袋から果実ジュースを取り出して渡してくれたこのクリンカしかいない。この笑顔を守る為に戦えばいい。今までもそうしてきたけど、よりそう願う事によって更に強くなれる気がした。


「これが前金だ、受け取れ」


 王様から受け取った袋が明らかに重い。数えてみれば合計40万ゴールド。王様が間違えたんだろうか。


「いい闘志を見せてもらったからな。ほんの気持ちだ」


 依頼の報酬額としては破格すぎる。そんなものを気前良く渡してしまうところで、なんとなくヴァイスが心酔する気持ちがわかった。


「それで作戦に向けて最終確認だ。会議室に行くぞ」


 作戦と聞いて誰もが姿勢を正した。そう、盗賊達のアジトにボクが囮として潜りこむ。これだけ聞くと変だけど、そのアジトというのがもっと変だからだ。作戦決行日に向けてボク達は一眠りする事にした。


◆ カシラム王国 辺境の村 ◆


「おやおや……ようこんなとこに。今日はもう遅い、泊まっていきなされ」

「どうも、すみません」


 王都から数日進んだ先の村、そこでは腰の曲がったおじいさんが迎えてくれた。クリンカに乗って移動すればそんなにかからないけど、それをやると目立ちすぎるという事で仕方なく地上を疾走した。それでも日数はかかったから、この村までの距離は相当なものだと思う。


「何のおもてなしも出来んですまんのう」


 作戦決行の為にボク達は早速、動き出した。


◆ シンレポート ◆


とうぞくたいじごときで もめて ぎんぱつきざやろうを りゅあが おちょくった

あのぎんぱつ こころなしか なみだめになっていたのは きのせいですか

だから やめておけと あれほど

ほんきになったら おまえなんか にくへんすら のこらない


そんななか りゅあが ばばーんと ぼうけんしゃかーどを みせびらかして はいしゅうりょう

ちゃばんすぎて ねむたくなるのです ねむねむ Zzz

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