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第12話 幽霊屋敷の怪 その2

「まったく、どういう教育を受けてきたのかしら」


「すみません……」


ボクとロエルは怒り心頭のおばさんにひたすら頭を下げた。


「ドアの修理代は解決できたら大目に見るわ。

 もし出来なかったらまとめて請求するのでそのつもりでいなさい。

 今度、不審な真似をしたらクビよ」


ボク達はすごすごと部屋に戻った。

ロエルはさっきまで怯えていたのも忘れたのか、ドアの修理代の事ばかり気にしている。

その証拠に指をおってひたすら数えていた。

部屋ではトルッポが両手をかざしたままのポーズで静止していた。


「何してるの?」


ボクが問いかけるとトルッポはその手を静かに下ろした。


「霊……専門外……本来……プリーストなし……無謀……。

 否……やれる事やる……」


トルッポも不安だったらしい。

結局、さっきのポーズが何だったのかはわからないけど。

ボク達はさっきの出来事を交えて話し合った。


「地下……絶対何かある……」


「そこに幽霊がいるのかな。でもおばさんは幽霊を退治してほしいんじゃ」


「あの人、結婚していたんだね」


ロエルが思い出したようにポツリと呟いた。


「指にはめていたのは結婚指輪だと思う」


それじゃ、家族がいたのか。

確かにこんなに広い屋敷で一人で暮らしてても寂しいはず。

だとしたら家族はどこにいるんだろう。


「予想……恐らく……婦人……」


トルッポが言ったのと同時に部屋のドアがノックされた。


「夕食が出来たわ。1階の食堂までいらっしゃい。

 寄り道せずにね」


寄り道という部分を強調して、おばさんの足音が部屋の外から遠のいた。

ボク達もついていって夕食をとる事にした。

テーブルの上には牛肉のステーキにパン、サラダが並べられている。

焼きあがったばかりみたいでステーキは熱々だった。

こんなに豪華な食事をさせてもらっていいのだろうか。

ボクはさっきの事が急に申し訳なくなった。

おばさんは何も言わずに肉を口に運んでいる。

ボク達も何を話せばいいのかわからず、黙々と食事を続けた。


「幽霊退治……夜……やる……」


トルッポが唐突にそういうと、おばさんは少しだけ表情が和らいだ。

このまま解決できれば、おばさんも機嫌を直してくれるかもしれない。

ボクも奮起した。


食事を終えると今度は風呂を沸かしたというので入る事にした。

さっきの地下へのドアは無理矢理壁にはめ込んだ形になっている。

目をそらしたボクは服を脱いでロエルと一緒に風呂へ向かう。

広いから3人で入ろうと誘ったけど、トルッポは後で入るといって辞退した。

同じ女の子なのに本当によくわからない子だ。

顔は見えないけど声からして多分女の子だと思う。


「こんなに広いお風呂、初めて」


ロエルが浸かりながらお湯でぱちゃぱちゃと遊ぶ。

確かにボク達の部屋のお風呂は二人で入るには少し狭い。

壁にはライオンの首ような石像があって口からお湯がだだ漏れしていた。

お金をたくさん持つとこういうのがよく思えるんだろうか。

どうもボクには無駄のように思える。


「二人でお風呂に入ったのなんて何年ぶりだろう」


「えっ、ロエルは前に誰かと暮らしていたの?」


ずっと一人で暮らしていたものだと思っていたから意外だった。

そういえばボクはロエルの過去をあんまりよく知らない。


「ずっとね、お世話してくれた人がいたんだ。

 もういないけど……」


もういない、で察してボクからは追求しなかった。

知らなかった、ロエルにそんな人がいたなんて。

ボクが10年も奈落の洞窟にいる間、ロエルにも当然ドラマがあった。

どんな思いで彼女が暮らしていたか、ボクに知る術はない。


「小さい頃の記憶がなくてね……」


記憶がない? すごく知りたい。けれど歯切れが悪く、言いにくそうだ。

ボクはロエルが喋るのを黙って聞いているしかない。


その時。


すりガラスの向こうに誰かいた。


ロエルはちょうど背にしていて気づいていなかった。

ぼんやりとだけど、女の子が立っているのが見えた。

直立姿勢で身動きをする様子も見せずにこちらを見つめている、そんな感じだった。

昼間見た子だろうか。


ふっと浴室内の明りが消えた。


「きゃっ!」


突然の事でパニックになったロエルを抱きしめて落ち着かせる。

暗くてよくわからないけど、もうそこに女の子はいない気がした。

ボクはゆっくりとロエルを抱きしめたまま、浴室を出た。

恐る恐る片手で浴室のすりガラスのドアを開けて、手探りで電気をつけようとした。

しかし、ようやくスイッチを探してつけようとしたけど音がカチカチと響くだけで

明りがつかない。

仕方がないので先に着替える事にする。

ロエルは恐怖のあまり言葉を失っているのか、静かだった。

二人で手を繋いで廊下に出たけど、こちらも真っ暗だった。

おばさんはどうしてるんだろう、彼女も電気がつかなくて困ってるはず。

まずはトルッポと合流しよう。


目が慣れてきたところで二階への階段へ辿りつく。

リビングには誰もいなかった。

おばさんもトルッポも二階にいるのか。

転ばないように慎重に階段を登り、ロエルの手を引く。


二階の廊下も静かだった。左右に伸びる暗闇の廊下はこのまま地獄に

続いているんじゃないかとさえ錯覚する。

そのくらい、不気味な雰囲気だった。

暗闇の中、ロエルはずっとボクから離れない。


「トルッポと話し合ってこれからどうするか考えよう、ロエル」


ロエルは黙ってボクの腕に抱きついたままだ。

そこまで苦労するとは思わなかった幽霊退治がまさかこんなことになるなんて。

相変わらず相手は姿を見せないし、どうしたらいいのかわからなかった。

あの浴室で見た女の子が幽霊なんだろうか。

だとしたらなんでこんな事をするんだろう。

あの子だって幽霊になる前は普通の女の子だったはず、何か理由があるのか。


バタンバタンと遠くでドアの開け閉めする音が聴こえた。

その直後、奥の部屋から順番にドアが開いてまた閉まる。


――バタン! バタン! バタン! バタン!


勝手に開閉するドアの音が暗い廊下に響き渡る。

奈落の洞窟の暗闇に比べたら何てことはない、しかしあの時には感じられなかった

異質の気配を確かに感じる。


「ロエル、ボクから離れちゃダメだよ」


より一層ボクの腕に強くしがみつくロエル。

さすがに歩きにくくなってきた。


「そんなに強く抱きつかなくてもボクは逃げないよ」


「リュアちゃん! どこにいるのー?!」


遠くからロエルの声が聴こえてきた。

いやロエルはここにいる。ボクの腕から離れない。


「リュアちゃーーん! どうして置いてっちゃうの? リュアちゃん!」


連れてきたはずだ。

その証拠にここに


違う。


今、ボクにしがみついてるのはロエルより一回り以上小さい。

なぜか力が段々強くなってきてる。

長い髪、白いワンピース、小さくて真っ白い、というより青白く痩せ細った腕。

暗闇の中だというのになぜかそれらは視認できた。

そしてそれはゆっくりとボクを見上げた。


眼球がなく、二つの穴には闇が広がっていた。

子供に似つかわしくないしわだらけの顔をこちらに向けてくる。

体温が感じられない冷たい感触だけが伝わってきた。

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