第112話 追憶の彼方より その5
「ロエルッ!」
ボクを呼ぶロエルの声が遠くの林からかすかに聴こえてきた。いくらハンターネスト内を探しても見つからないはずだ。
ロエルが見つかる、そしてロエルがボクを拒絶したんじゃないという二つの安心感がボクをホッとさせた。なんで黙っていなくなっちゃったのかなんて後で聞けばいい。今はすぐにでもロエルの元へ駆けつけなきゃ。
◆ ドラゴンズバレー付近 ハンターネストはずれの林 ◆
「どうした、セイゲル。Aランクの冒険者をやってるらしいが、ひょっとしてその程度か?」
「ジャグさん、勝負ってのは口でするもんじゃないですよ」
「何やらあっちに颯爽と登場した女の子がいるな。見事な跳躍力だ」
「あんたの相手はこのオレだ。オレから目を逸らして怪我しても知らないぜ?」
「……本当に上等こくようになったなぁ」
大勢のドラゴンハンターらしき人達、何故か戦っているセイゲルとジャグ。そして木の影で目を真っ赤にして泣きはらしたロエル、その背中にある翼。
まったくこの状況を理解できないけど、ボクが心配なのはロエルだ。円状に散らばって取り囲むようにしているドラゴンハンター達の頭を飛び越えて、ボクはロエルの元に着地した。
びくりとしたロエルがボクを見上げてまた顔を伏せる。はっきりいって背中の翼には驚いた。何があったのか気になるけど、多分ロエルが黙って出て行った原因がこれのような気がしてならない。ロエルは何も言わずに、叱られた子供みたいに頭を引っ込めている。
「ロエル、ボクだよ」
「リュ、リュアちゃん……来てくれたんだ……」
「当たり前じゃない、それよりもう怖がらなくていいんだよ」
「あのね、私……」
「いいよ、今は何も言わなくて」
ロエルの頭をボクの胸に抱き寄せる。背中の金色の翼がかすかに動く。こんなもののせいでロエルは苦しんでいたのなら、理不尽どころじゃない。なんでロエルがこんな事になっているのか、それはロエルが一番知りたいはず。
「リュアちゃん、聞いて。私ね……」
ロエルの口から語られる真実。頭がおいつかないほど、信じられない事ばかりだったけどボクは決して耳を塞いだりしない。きちんと向き合って、これからもロエルと共に歩くと決めたから。
「リュアちゃん、覚えてる? 村に大きな穴を掘って、リュアちゃんのお父さんにものすごく怒られた事」
「うんうん……ボク、あれで泣きそうになっちゃって……ロエル。いや、クリンカ。おかえり……」
「えへへ、ただいまっ」
クリンカはすぐそこにいた。目頭が熱い、目の前がぼんやりする。クリンカに瓜二つだったのはあたり前だ。だって、ロエルはクリンカだから。
夕方まではしゃいで、川辺で語り合って。明日は何をしようかと考えながら眠る。幸せだった日々がボクの中にもより鮮明に蘇った。男の子にいじめられがちなクリンカ、ボクが大声を出しただけで泣き出しそうになるクリンカ、些細な事で小さく笑うクリンカ。
――――リュアちゃん
「リュアちゃん」
あの日のクリンカと今のロエルが重なる。10年前から変わらない、笑顔。今は涙が流れる笑顔。クイーミルで字が書けなくて困っていたボクを助けてくれたロエル。フランソワスの屋敷でトルッポと出会い、それからアイ達三人と出会って。
すべてを繋いでくれたのはロエル、いやクリンカだ。もし、ボクがあそこに行かなかったら。きっと何もかもがなかったはず。考えただけで身震いしてしまう。明るいとは限らない、もう片方の未来。暗闇に閉ざされているかもしれない未来。クリンカと永遠に再会できない未来。
そんな闇を払う現実が確かにここにある。
「クリンカッ! 会いたかった! 会いたかったよ……!」
「私もだよ……って、すでに会ってるんだから」
「違う! ボクは会えなかった! ロエルは確かにいい子だし大好きだよ! でもクリンカじゃない! ボクは無意識のうちにロエルをクリンカと重ねていた!
でも! 今日クリンカとここで会えた!
ロエル、いやクリンカ……」
「なぁに、リュアちゃん」
「ボクと冒険しよう。これからずっと一緒にいよう」
「うんっ……。んッ!」
大好きをこれ以上、ボクの言葉では言い表せない。だからボクに出来る事はこれだけだ。
好きな人同士がやると聞いた、コレ。ボクはクリンカの唇に自分の唇を押し当てた。恥ずかしくて一瞬で離しちゃったし、いきなりの事でさすがにクリンカも言葉が出ない。
今ボクがした事を確かめるように、自分の唇をさすっている。そして段々と赤くなる頬、耳。タコみたいに赤くなったクリンカを見て、自分でやっておいてボクも今更恥ずかしくなった。
「リュアちゃん……?」
「ご、ごめん。ロエル、いやクリンカが大好きって行動で示したかった……。
嫌だったら本当にごめん」
「……ううん。嫌じゃない、またしよう?」
「え……?」
「なんか私もうまくいえないけど、すごくよかった。暖かいというかほんわりしたというか……」
「じゃ、じゃあもう一回!」
今度はゆっくりと、ボクとクリンカがお互いに顔を近づける。一瞬じゃなくゆっくり、ゆっくりと。そしてボク達の唇が触れ合い、押し付けた。
「んっ……」
この時間が永遠に続けばいいのに、ボクとクリンカは互いの腰や背中に手を回してより密着した。心臓の鼓動が聞こえてくるほど近い。クリンカのローブを通してぬくもりが伝わってきた。
「……えへへ、なんだか恋人みたいだね」
「そ、そうだね。やっぱり変かも……。女の子同士なのに」
「私は変だと思わないよ。誰がなんて言おうと、私はリュアちゃんが好きだから」
「じゃあ、ボク達恋人同士?」
結構冷え込んでいたはずなのにこの夜は暖かい。ボクの手をクリンカの冷たくなった手に絡ませて、また二人で照れ笑い。クリンカ、大好き。
「そういう関係だったのかぁ。おじさんもそれなりに歳を食ってるつもりだが、さすがに気持ち悪いと言わざるを得ないな」
中年のおじさんの野太い声がボク達を現実に引き戻した。数十人のドラゴンハンター達の視線が突き刺さっている事にまったく気づかなかった。
そのたくさんの好奇な視線が突き刺さる。何人かが口を半開きにして、ニヤニヤしながら内股でモジモジしているのが気になるけど、それよりもセイゲルだ。
ボク達が自分達の世界に入っている間、ジャグが語りかけてくるほどの余裕を持ってしまった。つまりそれは戦況がジャグに傾いているという事だ。
「なぁ、セイゲル。あいつらってそういう関係だったのか?」
「だったら、どうだっていうんですかね。オレは愛に性別なんざ関係ないと思います」
「膝をついてるくせに、言う事は一丁前だな。ハハッ」
息を切らせて片方の膝をついているセイゲルに対して、ジャグは棒立ちしてせせら笑っている。この二人が戦っている理由はクリンカから聞いている。クリンカを狩るだなんてそれだけでボクが懲らしめてやりたいけどセイゲルはボクが手を出さないよう、片手で待ったをかけている。
手を出すな、セイゲルがそう言う以上はボクも見守るしかない。クリンカはボクが守るから、そこは安全だけど考えてみたら、たとえここにいる全員が襲いかかってきても平気かもしれない。何せファイアロッドだけで獣の園の魔物を撃退するほどだから。
でも油断できないのはこの人達がドラゴンハンターだという事。もちろんドラゴンとの戦いは当然熟知しているだろうし、弱点だってわかるはず。クリンカは今は人間だけど、ドラゴンの性質が残っているとしたら危ないとも考えられる。
「つぁッ!」
セイゲルは丸腰のジャグに容赦なく大剣を振りかぶり、叩き込もうとする。でもジャグは余裕の棒立ちを崩さない。
そしてセイゲルの刃がジャグに届く事なく、体全体が瞬時に発光したと思ったら痙攣して地面に肩を打ちつけて落ちた。何もしないジャグの前でセイゲルが痺れるようにして倒れた。多分、普通はそう見えるけどあれはもちろんジャグの攻撃だ。いや、攻撃とはちょっと違うかも。
「ガハッ……! ダ、ダメか……」
「攻めあぐねると、左方向から振りかぶるのは悪い癖だと昔教えなかったかい?
ま、それとは関係なしにお前がオレに触れる事は不可能だけどなっ」
「まだまだぁ! バーストブレイバーッ!」
剣先から小さい炎の玉のようなものが、振りかぶった剣の通り道に次々と出現する。そして最初に出現した炎の玉から順番にジャグの目の前で爆発した。耳がつぶれそうなほどの炸裂音がその威力を表している。
まともに受けたら怪我どころじゃすまないスキルをセイゲルはジャグに向けて容赦なく放った。セイゲルはジャグを殺すつもりなのかと思えるほどだ。
でもその炸裂もジャグに到達する前に途切れる。放っていたセイゲル自身が見えない何かに弾かれるようにして後方へと吹っ飛んだから。セイゲルは攻撃の正体がわかっていないのかもしれない。奈落の洞窟でもあれと似たような事をやってくる魔物がいたけど、本当に面倒だった。
「うげっ!」
「なぁセイゲル、親父さんは好きだったか?」
「突然なんですか……そんなもん、答えるまでもないでしょう」
「そうか、オレは大嫌いだったけどなっ! ハハッ!」
「……なんだって?」
「んー、なんつうかな。鼻につく感じ。糞真面目で硬派、軟派じゃないオレかっこいいみたいな?
それでいてアホみたいに強かっただろ? 当時のオレとしては嫉妬が止まらなかったさ」
体中にダメージが溜まっている上に体力も消耗しているセイゲルにジャグは笑いながら、言葉でたたみかける。セイゲルは口の端から流した一筋の血を腕で拭って、ジャグに対して目を見開く。
ジャグが何を言っているのかまったくわからない。硬派じゃないオレかっこいいってどういう事。セイゲルのお父さんがそんな事を言うはずないし。
「でもな、セイゲル。世の中、糞真面目は負けるように出来ているんだよ。
親父は糞真面目で馬鹿だから死んだんだ」
「……わかるように言ってくれませんか」
「いくら強くても、馬鹿だと生き残れない。そう言ったんだ」
「意味がわからないな」
「おいおい、どうしたよ。急におっかない顔をして。それに言うなら意味がわかりません、だろ?」
「ジャグ、あんたの言ってる事がまったく理解できない。少なくとも親父はあんたよりずっと強い」
「さんをつけろよ」
剣を思いっきり地面に突き立てて、それを杖代わりにして立ち上がった。眉間に皺をよせ、威嚇する獣のような目。あそこまで本気で怒ったセイゲルは初めて見た。それだけお父さんが大好きだったという事だし、侮辱したジャグを許せないという事だ。
「セイゲルさんのあの目……あの日、私を睨みつけた時と同じ……」
クリンカは身震いして、視線を落とした。肩を抱き寄せるボク、最初からだけど背中の翼なんか気にならない。
ヘラヘラするジャグの態度にはボクも相当腹立っている。今すぐにでも殴ってやりたい。
「もうボロボロじゃないか。お前、一撃すらオレに入れてないよな。
悲しいかな、いくらお前がアバンガルドでAランクの冒険者になろうが、オレとじゃ踏んだ場数が違うんだよ」
「ジャグ。親父を馬鹿にした事、訂正しろ……」
「ジャグさん、だろ」
どう攻撃しようが、何度も迎撃されるセイゲル。何度、吹っ飛ばされてもまた立ち上がる。周りのドラゴンハンター達も、セイゲルに野次を飛ばしている。アバンガルドの冒険者の上位といってもこの程度か、なんて言われちゃセイゲルだって面白くないはずだ。
でもここはグッと堪える。何故ならボクには全部わかっているから。
「親父は強かったが息子がこれじゃ、浮かばれんなぁ」
「あれでAランクなら俺だっていけるぜ」
「ジャグさん、もう見てられないっす……セイゲル坊やがかわいそうで! ギャハハハハハ!」
今、失礼な事を言っている奴らを黙らせるのなんて簡単だ。2秒もいらない。でもボクは大人だから我慢する。セイゲルの為に。
「グ、グォォ……まだまだぁ……!」
「まだ生き恥を晒すのか。ジャグさんに逆らってごめんなさい、これからは心を入れ替えてジャグさんの元で修業しますと一言でも謝れば許してやらんでもなかったのに。
そうそう、ここにいる奴らも全員オレが育てた。若手ばかりだがどいつも将来有望だぜ、お前と違って。ハハッ!」
「そうなのか……やっぱり、親父やオレと違うんだな……」
「セイゲルさん、何を言ってるの?!」
クリンカが半狂乱で叫ぶ。それに被せるように下品な笑いを漏らすドラゴンハンター達。クリンカはセイゲルのお父さんを殺してしまった事を気に病んでいるはず。だからセイゲルのあの一言はクリンカにとって、かなりショックなはずだ。
だってクリンカだってセイゲルのお父さんが大好きだったんだから。
「でも、ジャグ。今、戦っているオレだからこそ言える。親父はあんたより強い……
これだけは譲れねぇ!」
「ハハッ! ハハハハッ! まだいうか?
そのオレより強いキリウスがなんでオレに殺されるのかな?」
「な……なんて……いった……?」
「ウソ……」
話を聞いただけのボクでさえ、結構ショックなのに当事者のクリンカにとってどれだけの衝撃だろう。ジャグがセイゲルのお父さんを殺した。今、はっきりとそれがジャグの口から出た。
「お前の親父な、あんまりに聞き分けがなくてさ。そこの竜の前から意地でもどかないものだから、オレもイラッときちまってよ。ついうっかりぶっ刺しちまったよ。
それなのにお前ったら、キリウスがドラゴンに殺されたなんて嘘をまるっと信じてしまうんだもんな。
あの時、お前なんて言ったっけ? オレ、絶対に仇を討ちます! だっけ?
プッ、ハハハッ! ハハハハハハハハッ! ほら、面白いだろ? お前らも笑えよ」
「ヒャハハハハハハハハハハ!」
「イーヒヒヒヒヒヒ! オ、オレ! ジャグさんに一生ついていきますわ!」
「キリウスみたいな奴がいたらオレ達の商売上がったりだもんな! 殺してくれて感謝してますぜ!」
ドラゴンハンター達もジャグに促されて、決壊したように笑い出した。下品で不快な笑い声の不恰好な演奏が夜の空に響き渡る。
おかしいよ、なんでこいつらは人を殺したジャグに賛成してるのさ。ドラゴンハンターはセイゲルみたいに誇りを持ってる人ばかりだと思っていたのに。
ボクがお前達を殺してやろうか。
「まぁこいつらはキリウスの現役時代を知らない連中ばかりだから許してやってくれや。
ところでセイゲル、今どんな気持ちだ? ちょっと聞かせてくれよっ!
そこの竜娘の記憶がなくて助かったぜホント」
「……本当にあんたが親父を殺したのか? ウソだろ?」
「キリウスの奴、死に間際になってもあの竜を逃がそうとしていたんだぜ。
とっくに喋れないのに口をパクパクさせてな。何度も、逃げろってよ。
ま、ホントに逃げられちまったのはオレの落ち度だが」
「ウソ……それじゃ、それじゃ私は今まで……」
本来ならクリンカが安心するはずの事実だけど、それでも歯の根を鳴らす音が聴こえる。ボクに出来るのはクリンカの震えを止める事だけだ。
ボクがここにいるから、どんな事が起こっても平気。そう言葉で語るように一層肩を抱き寄せる。
「ジャグ……さん。何でそんな事を……」
「気に入らないからいつか殺してやろうと思ってたんでな。絶好の機会が訪れただけさ。
こいつらが言うようにキリウスみたいな奴がいちゃ、オレ達の取り分がほぼなくなっちまう。
そんなオレの考えに賛同してくれて集まったのがこいつらさ。ホンット、将来有望だわなぁ。ハハッ!」
「そうか……オレは今まで思い違いをしていたのか」
「そうだ、今までよくがんばったな。ハハッ! ハハハハハハハッ!」
「そいつを聞けてよかったぜ」
「……ッ!?」
セイゲルの瞳に光が戻った。そして間髪入れず、ジャグの足元に放つバーストブレイバー。地面が爆発し、風圧でジャグを転ばせた後で悠々とその剣を高々と掲げる。それは完全にセイゲルのお芝居が終わった事を表していた。
「ヌァッ! な、何が……」
「ようやく喋ってくれたな。手加減するのも楽じゃないぜ、ったく」
そう。セイゲルがなんで手加減しているのか、それがわからなかった。すべてはこの為だったんだ。セイゲルは口笛を吹きながら、大剣で宙に何度も円を書いた。それが起き上がろうとするジャグへの挑発だとわかる。
「ハ、ハハッ……手加減? 強がりを……」
「オレは後になって冷静になり、疑問に思っていた。竜に殺されたはずの親父の遺体になんで剣の刺し傷があるのか。
あの時のロエ……いや、竜の爪の大きさから考えると、かなり器用な真似でもしなけりゃそんな芸当は出来ない。
あの時は取り乱して、竜に襲いかかっちまったがな。ガキのオレを口車に乗せるくらい、あんたにとっては訳なかったわけだ」
「それでオレが吐くまでわざと追い詰められた振りをしていたわけか。ハハッ……糞ガキが」
「あんたは昔から調子に乗ると、いらん事までベラベラ喋る癖があるからな。
オレが片思いしていた子に、オレが女性専用装備を装着しようとした事をバラしたのは今でも割と根に持ってるよ。あの子、元気かなぁ」
「セイゲル、お前もしかしてオレを舐めてんのか? このオレを?」
「舐めてませんよ。ムカついてるだけです」
「この青二才がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ジャグの蹴りの連打をセイゲルは最小限の動きでのらりくらりとかわす。見たところジャグは格闘戦も出来るみたいだけど、セイゲルを倒すほどの技量はないと思う。
なんであいつが武器も何も持ってないのか、それはきっとセイゲルを迎撃していたスキルに頼っているからだとわかる。
「どうしたんすか、ジャグさん。あんたの戦闘スタイルはそれじゃないでしょう。
なんならオレからいきましょうか?」
「黙れ小便ちびりがぁ!」
セイゲルが大剣を振るったと同時にジャグの周りから放たれる雷のようなもの。これがジャグのスキルだ。攻撃に反応して自動で放たれる反撃スキル。奈落の洞窟にも一切攻撃してこない、反撃だけで迎え撃ってくる魔物がいたからすぐにわかった。
正体がわからないとこれほど不気味で怖いスキルもないけど、種がわかってしまえば割とそうでもない。あの時、ボクが破った時と同じやり方でセイゲルはジャグに大剣の刃を逸らしつつ、叩きつけた。わき腹にあの大きな剣がクリーンヒットしたものだから、その痛みは想像以上だ。
ジャグの目玉が飛び出るかと思うくらいの表情。人って本当に痛い時は声も出ないんだとよくわかる光景だ。地面でのた打ち回るジャグが少しだけかわいそうに見える。
「ぁ……ッ……?!」
「反撃が来るってわかってりゃ、そのタイミングを見切ってしまえばどうって事はない。
攻撃すると反撃しますよって教えてくれるんだから、これほど楽な相手はいないわな。
ってその様子じゃ聞いてないか。
あ、そうだ。おーい、そろそろ出てきてくれー!」
「終わったみたいだな、セイゲル」
林の奥から、大勢のドラゴンハンター達がぞろぞろと出てきた。正確に何人いるかはわからないけど、ジャグが引き連れていたドラゴンハンター達の数を軽く上回っている。
「オレが何の準備もなしにノコノコやってくる熱血馬鹿と思ったら大間違いだ。
ジャグ、お前の悪行はここにいる皆もしっかりと聞いたぜ」
「ゼ、ゼエゲルゥゥゥ……! 殺してやるぅぅぞぉぉぉ!」
「キリウスさんには生前、お世話になった。惜しい人を亡くしたとあの時は諦めていたが、そういう事だったんだな」
「ジャグさん、キリウスさんはあんたの事だって認めていた。それなのにひどいマネを……」
取り囲まれた若いドラゴンハンター達の顔色がみるみると変わる。さっきまでの笑いなんかとっくに消えうせて、今じゃ奈落の洞窟にでも叩き落されたかのような顔だ。
「見ろ、これが親父……ドラゴハンターキリウスが生きた証だ」
涎を垂らしながら地面に這いつくばるジャグをセイゲルは静かに見下した。




