第107話 目覚めしもの
◆ バラード大陸 ミズカル国 民家 ◆
目が覚めた時は昼過ぎだった。覚醒しても尚、ベッドから降りる気がしない。もう一眠りしようか、昼過ぎだというのに我ながらどうしようもない人間だとは思うが、仕方がない。親が残した遺産だけで食っていける状況で誰が働くか。
そんな俺は昨日も一昨日も一日の半分以上を寝て過ごした。腹が減れば外に出て適当に食事を済ませる。行きつけの店のオヤジはおろか、客にまで後ろ指を差されるが気にしない。働かなきゃ暮らせないのは他でもない、お前らの責任だ。
俺は親が優秀だったから、今でもこうしてのんびり暮らしている。ただそれだけだ。いい歳の男が働かなきゃいけないなんて誰が決めたんだ。俺の人生は俺のものだ。
強いていえば女に不自由している事くらいだが問題ない。その気になれば買えない事もないが、人と話すのは面倒だし何より出来るだけ家から出たくない。そんなものに金を当ててしまって生活が出来なくなれば本末転倒だ。
それに最近ではろくに運動もしてないせいか、少し走っただけでくたびれる。つまり、だるい。
「あぁ、だりぃ……さて、何か食いにいくかな」
それにしても昨日の夜は随分とうるさかった。何かのお祭りでもやっているのか、外ではやたらと馬鹿騒ぎしている連中が多かったように思える。悲鳴と何か獣の咆哮のようなものまで聴こえたし、本格的だなとは思ったが参加する気にはなれなかった。だるいから。
俺はその辺に散らかしている服を着て、あくびをしながら家を出た。
「なんだぁ? 今日はどいつもこいつも休業か?」
俺の家の外は人通りも多いし、民家や出店が立ち並ぶほどだ。歩けば正面から来る冒険者みたいな奴と肩がぶつかって、絡まれそうになる。ホント、あの冒険者って奴らは屑だよ。安定しないその日暮らしの稼ぎをしてる屑のくせにやたらとガラが悪い。こいつら全部死なねぇかなと思いながら、歩くはずのこの町並み。
人がまったくいない。
「お、いるじゃん。おーい!」
道の真ん中で寝そべってる奴がいた。昼間っからダメなおっさんだぜ。俺もまだまだ捨てたもんじゃねえな。そんな感じで近寄った俺の血の気をなくさせたのは血まみれになったおっさんの死体だった。
「ひ、ひぃッ?! な、なんで!」
瞳孔が開き、何かに引き裂かれたようにして臓物が飛び散っている。なんでこんなものに遠目からとはいえ、気づかなかったんだ俺は。
ダメだ、足腰が立たない。これが腰を抜かしたってヤツか。冗談じゃねぇ。なんだこれ。しかもよく見たら、あっちの奥にも死体がある。反対にも、そっちにも。
「何があったんだ……。誰か他に生きてる奴はいないのか?」
――――ズシン
地面が揺れた。地震かと思ったのも束の間、引き篭もりの俺だって何が迫ってきているのかはわかる。民家を踏み潰して歩いてくる象。鼻を振るうだけで屋根が爆散している。やべぇ。なにあれ、やべぇ。
落ち着け、俺。ここはミズカル国、バラード大陸一治安のいい国のはずだ。育ての親が誇らしげにそう説明していたが、だったらあの人相の悪い冒険者達もたたき出せよと思った。だが、あえて言わなかった。
とにかく、散々安全地帯だと言われていたこの国にあの象。どう見ても魔物です、さようなら。
「こ、こっちに気づきやがった! ひぃ!」
俺の全速力に応えて建物を破壊しながら突進してくる象。走り始めて間もないのに、もうわき腹が痛くなってきやがった。それでなくても、俺ごとき引き篭もりが逃げられる相手じゃない。
【大王エレファントが現れた! HP 4050】
近くで見るとかなり凶悪な面構えをしてやがる。もうそれだけで若干、ちびったわ。あの死体の山はこいつの仕業か。
でも俺が最初に見つけたおっさんの死体は明らかに何かで引き裂かれていた。こいつにはそれらしき事が出来る部位も見当たらない。となると、他にもまだ何かいるって事だ。あ、俺死んだわ。
【大王エレファントの攻撃! アレイドは811のダメージを受けた!
アレイドは倒れた! HP 0/12】
奴が振るった鼻先が俺の体に激突。全身の骨が砕け、内臓も破壊され。たった一瞬だったが、間違いなく生命活動は維持できないと理解した。
終わったか。俺の人生って何だったんだろうな。まだやりたい事があったはずなんだが。
「パンサード様、これですべて片付きましたわ」
「おう、ご苦労だったな。カーマ」
「うふ、この魔獣使いカーマ。パンサード様の為なら何だってしますわぁ。うっふっふ」
「それ以上、近寄るんじゃねぇ。殺すぞ」
薄れゆく意識の中で俺が見たのは、長身のおっさんと気持ち悪い格好をしたおっさんの二人だった。多分、長身で帽子をかぶったほうが主犯か何かだと思うが、それ以上にもう片方のおっさんのすね毛が濃すぎて霞む。意識も霞む。
「これにてバラード大陸制圧、と。よし、今日からここが俺達の国だ。獣の園と名づける」
「いいですわねぇ、獣の園。今日からここが私とパンサード様の園って事ね。うふふふふふふ」
「それ以上、口開いたら命はないと思え」
もうなんだこれ。こいつらが何者で何でこんな事をするのかなんてどうでもいい。誰か助けてくれ。痛い、苦しい。まだ死にたくない。俺はまだ、死にたく、ない。
「……勇者よ、目覚めるのだ」
――なんだって
「魔王を倒せるのは代々、勇者の血を受け継ぐ者のみ。もう一度、立ち上がるのだ」
「だ、誰だ……俺は……死んだはず……」
ここはミズカル国じゃない。全方位、真っ白の空間。その中で俺の体は宙に浮いていた。いや、体がない。意識だけが漂っている、そんな感じだ。現に手足を動かそうとしても、何一つ感覚がない。
「力を貸し与えよう。再び目が覚めた時、お前は何者にも負けぬ伝説の勇者となっていよう」
「意味がわからねぇ……だから、お前は誰だ……」
真っ白が弾け、光となって俺の目を襲った。また意識が薄れていく。
まったくよくわからんが俺は今度こそ死ぬのか。せめて女を抱きたかったなぁ。年齢は10代半ば前後がよかった。
城下町をふらついてかわいい女の子を嘗め回すように見ていたら、不審人物の張り紙がされていた時がなつかしい。いや、普通に歩いてた時から不審人物扱いされてたわ。
俺も30だし普通の人間ならこの辺りでかわいい嫁さんをとって、子供もそこそこ生まれて幸せな家庭を築いているんだろうな。でも無理だわ、だって俺ブサイクだし働いてないし。10代半ば前後、出来れば前がいいし。我ながら屑すぎる。どこの世界に30歳のおっさんを相手にする10代前半の女の子がいるんだよ。もう死ねばいい。死ぬけど。
「まずはアバンガルド城を目指せ。そこにお前が持つべき剣がある」
アバンガルド王国。闘技大会で優勝したのが確か女の子だっけ。ろくに知識もない俺だけど、そういう情報だけは何故か入手していた。
でも、もう何の意味もないけどな。
だって、俺、死んだし――――
◆ アバンガルド城 王の間 ◆
「とまぁ、紆余曲折を経て今に至るわけだ」
颯爽と現れて魔物達を一瞬で倒した勇者アレイドと名乗ったおじさんは、傍らにボク達と同じ歳くらいの女の子を連れていた。頬を染めておじさんの腕に抱きついている。ピンク髪のロングヘアに大きなリボンをつけ、栗色の瞳に膝上のスカート。動くたびにリボンがフリフリと揺れていた。
あんなのを履いて戦ったら、見えちゃうし恥ずかしいと思うんだけど平気なのかな。ボクには未だにスカートというものの存在理由がわからない。
「あの、宰相様。今の話、私まったく意味がわからないのですが……」
「私もですぞ」
「え、えぇー……」
ロエルが小さく手を上げて質問をするも、ベルムンドすら理解していない有様。
支援に来たメタリカ国代表として話をつけにきたジーニアでさえ、珍しく何かを考え込んでいる。
「俺は勇者だと名乗り、この城に来た時は門前払いしたのですがな。
我が国の兵士総がかりでも止められないほどの実力……。どうせ偽者なら剣など抜けぬはず、と高をくくって触らせたところ、ご覧の通りです」
「手に馴染むぜ。これぞ勇者の実感ってヤツだな」
「アレイド様、かっこいいです……」
女の子は夢でも見ているかのようなうっとりとした目つきになっている。この子はアレイドという人が勇者だから一緒にいるのかな。それとも。
「当初の目的通り、勇者の剣を抜ける者が現れたのですがギリギリまで公表は控えようと思っておりましてな。
アレイド殿にもこの城にしばらく滞在していただいていたのですが……」
「獣の園の奴らが攻めてくるんなら、黙っちゃいねえよ。俺はあいつらにぶっ殺されたんだからな。
まずは手始めにあそこからぶっ潰してやる。それとトカゲ宰相、俺は俺のやりたいようにやるぞ。
俺を御したかったら、まずはそれなりのものを用意するんだな」
「ト、トカゲですと?!」
誰もが思っていた事をアレイドはあっさりと言ってのけた。王様や宰相だとか、そんなの構う事なく普通に話す様子を見ていると、最近になってようやくがんばって敬語を覚えたボクの努力は何だったんだろうと思う。
「それなりのものとは?」
「そうだな。例えばそこの女の子達を抱かせろ。そっちのちっちゃい子もな」
「……は?」
アレイドがボク達とプラティウを見比べた。その瞬間、背筋がぞわりとしたのはボクだけじゃないはず。ロエルもまるで汚いものでも見るかのような目でアレイドを見ている。
あんなおじさんに抱きつかれたくないし、そもそもいきなり何を言い出すのさ。もう本当、男の人のこういうところが嫌だ。あれから比べるとガンテツやセイゲルは立派な大人なんだなと再認識する。
それどころか、オードすらまともに見えてくるから不思議だ。
「ジーニア、あいつ気持ち悪い」
「同感です、いわゆる小児性愛者でしょう。人間の中でも最下層に位置する人種なので近づいてはいけませんよ」
「はぁい」
なんかジーニアがすごい事を言ってるような気がするけど、アレイドには聴こえてないみたい。自分に寄り添ってくる女の子の頭をひたすら撫で続けている。
「しかし、リュア殿とロエル殿は冒険者であって……」
「あー、だったら魔王退治とかだりぃからやーめた! やっぱり好き勝手やるわー」
「そんなぁ」
「じゃあ、俺の言う通りにする?」
「ですから、私にその権限はないと……」
「勝手にもらっていくわ」
プラティウに手を伸ばそうとしたアレイドの前にジーニアが立ち塞ぐ。背も高いし、これだけだとアレイドを圧倒しているように見える。
「薄汚い手で触らないでくぼふぁッ!」
「保護者気取りかよ。邪魔だ」
ボディブローを入れられて一撃で床にくの字で曲がるジーニア。頭はいいし、いろいろとすごいものを作っているけど戦いはホントにダメなんだな。なんて黙って見ている場合じゃない。
プラティウの細い手を掴んで強引に連れていこうとしているアレイドを止めないと。
「やだ離して気持ち悪い」
「俺はいずれ世界を救う勇者だぜ? その為には英気を養っておかないといけない……ん?」
「離してよ」
「……ッ!」
プラティウの腕を掴んでいるその手首に力を入れる。おかしいな、普通の人ならここで痛がって離すはずなんだけど。引き剥がしはしたものの痛がる様子もなく、やや苦痛に顔を歪めているだけだ。
「いってぇな。離せよ。おい、王様に宰相よ。こいつ、牢獄にでもぶち込んでおけや。
勇者様に対する不敬罪だろ、これ」
「アレイドよ。いくら勇者とて、それ以上の蛮行は大目に見られぬぞ」
「ふーん、じゃあ王様は魔王を倒せなくてもいいんだ?」
「アレイドさんと言いましたか。その辺にしておかないと、本当に痛い目に遭いますよ。いたた……」
お腹を押さえながら、ようやく立ち上がったジーニアはボクに目配せをしている。親指でアレイドを指す動作をしているって事は、遠慮するなという事かな。いいのかな。いいや、何が勇者様だ。
「い、いでぇぇぇぇ! な、な、なんだこいつ、とんでもねぇ力……いだだ!」
「勇者がどれだけ偉いのか知らないけど、これ以上好き勝手するなら折るよ?」
「わかったわかったやめてくれぇ! いたいよぉぉ!」
「何するんですか、やめてください! アレイド様が痛がっているじゃありませんか!」
ピンク髪をしばっているリボンをふりふりとさせて、女の子はアレイドからボクを引き剥がそうとしている。非力だけどアレイドを心配する気持ちは本物みたいだ。
もちろん、本当に折る気はないから離してあげる。
「君はなんでそんな奴と一緒にいるの?」
「そんな奴って何ですか! アレイド様の事なんか何一つ知らないくせに!
アレイド様はですね、私が魔物に襲われているところを助けてくれたんですよ!
ほとんどお金を持ってなかった私を拾って下さってとっても感謝してるんです!」
助けてもらって感謝するのはわかるけど、だからってそれだけでここまで入れ込むものなのかな。今のアレイドの様子からして、女の子だから助けたんじゃと勘ぐってしまう。
「いってぇ……。おかしいだろ、俺は最強の勇者だぞ?
なんで力負けしてんだよぉぉぉぉ!」
当り散らしたアレイドが足で床を蹴り、亀裂を入れてしまった。勇者というだけあって、身体能力はとんでもない。それだけならティフェリアさんよりも遥かに上なんじゃないかと思う。
「アレイド殿、豪華な昼食をご用意致しますので今日のところはどうか……」
「フン、今日のところはそれで手をうってやる。行くぞ、ロイン!」
「はいっ!」
「きゃっ!」
ロエルを押し除けて王の間を出ていったところを見て、後ろからソニックリッパーを撃ちたい衝動に駆られた。ダメだ、あいつは最悪だ。勇者だからってやりたい放題だし、あのロインって子も絶対騙されてる。
何よりこれだけ好き勝手やってるのに王様やベルムンドが妙に大人しいのもわからない。なんであんな奴にヘコヘコしてるのさ。
「……すまぬ。見ての通りの傍若無人だが、あれでも勇者の剣を扱いし者。魔王討伐の要なのだ」
「陛下、私は反対です。あのような者を勇者として迎えるなど……。
それに我が国にはここにいるリュア君とロエル君を始め、実力者が大勢います。
奴の力を借りずとも、魔王は討てましょう」
「なりませんぞ、カークトン殿。陛下、この件をお話してもよろしいか?」
「許可する」
「では……」
ベルムンドは一度咳払いをしてから、背筋を伸ばした。前にもムゲンに言われたっけ。ボクじゃ魔王は倒せないって。今でも納得してないけどもしかしたら、それと関係があるのかもしれない。
確かに魔王の実力はまったくわからない、ボクより強いかもしれない。でも、強いだけの相手ならこの10年間たくさん戦ってきた。ヴァンダルシアやダイガミ様より強いというなら、ボクはそれを超えるだけだ。ただ、それだけ。
「魔王は勇者の剣でしか討てない、ですよね?」
「……!」
ベルムンドが口を開く前にジーニアが微笑みながら先に答えを言う。何故それを、かすれた声でそう漏らすベルムンド。
ボクも驚きよりもまず疑問が浮かぶ。
「30年前の魔王軍侵攻の際、戦いは熾烈を極めた。矢が降ろうが火が襲おうが魔王は不死身だった。
ところがたった一人の少年がその不死身の魔王を討った。どんな名工の刃さえも通さなかった魔王の体に初めて傷をつけ、打ち倒した事実。
ベルムンドさん、あなたは30年前の魔王と現代の魔王再来を重ねておられるのでしょう?
もし現代に現れた魔王も、勇者の剣でしか倒せないとしたら……。そうなると、どのような軍勢だろうと無意味です。犬死です。あの方にすがるのは当然ですよねぇ。クックックッ」
「ジ、ジーニア殿。メタリカ国は一体どこまで……」
「どこまで、ですか。まるで知られたくない領域に踏み込んでいるか、確かめるような質問ですね」
「そのような事はありませぬ。ただ私は友好国として……」
「アバンガルド王国と我が国の間には何の同盟もありませんよ。今回はリュアさん達に免じただけです。メタリカは孤高、そこは今も変わりません」
「惜しいですな……。それほどの力があれば、魔王軍など容易に打ち破れるでしょうに」
「買い被りすぎですよ」
あのベルムンドが手玉にとられている。ジーニアが楽しそうに笑いながら、ベルムンドを翻弄している。ある意味、貴重な光景だ。
それにしてもジーニア、なんだかボク達に話してくれなかった事まで知っていそうな感じだ。ベルムンドのあの慌てた態度も気になるし、やっぱり何かを隠している。
「ベルムンドさん、今後の戦力配分について説明をしたいのですが」
「えぇ、わかりました」
◆ アバンガルド城下町 ホテル メイゾン ◆
「あぁー、つっかれたぁ」
「ホントにねぇ、まさか勇者が現れるなんて私、ビックリしちゃった」
「あーもう! 納得できないよ。なんでボクは触る事もできなかったのにあいつにあの剣を扱えるのさ」
「それはやっぱり勇者だから……」
「勇者ってなに? そんなに偉いの?」
「……そういえば、勇者ってなんだろうね」
ユウシャ。これってクラス名なのかな。すごくどうでもいいし、あんな奴の事なんか考えたくもない。それよりも、ロエルを突き飛ばしたのが腹立つ。
「もし、あいつがロエルを連れて行こうとしてもボクが守るからね」
「と、突然どうしたの?」
「あんな奴にロエルは渡さない」
なんだか奮起してボクはロエルのベッドに飛び移って思わず抱きしめてしまった。ひゅん、と短い悲鳴ともつかない声を上げたロエル。
自分でもなんでこんな事をしたのかわからない。でもこうしないと、あいつにロエルが連れていかれそうで不安になる。
「……平気だよ。私、リュアちゃんとずっと一緒だから。
それにリュアちゃんに守られているなら、何も怖くないもん。えいっ!」
ロエルが一緒に横倒しになる。そして急激に襲ってきた眠気、まぶたが落ちかけた。
「もう今日はこのまま寝ようか?」
「え、でもお風呂は……」
「たまには、ね?」
「このままっていうのは?」
「このまま」
がっちりボクを離さないロエル。ボクよりも先に寝息を立ててしまったので、本当にこのまま寝るしかない。まぁいいか、たまには。
「ロエル、記憶は絶対に戻そうね。ドラゴンズバレー、まずはそこを目指そう」
「むにゃ……?」
返事をされたのかそうでないのかよくわからないけど、とにかく明日からドラゴンズバレーを目指す。ロエルは自分の記憶なんか後回しでいいといったけど、本当はロエルだって辛いはずだ。
ドラゴンズバレーというところに行けば、記憶が戻るかはわからない。でもロエルの口から出た言葉だし、何かはあるはず。
「ドラゴンズバレー……どこにあるんだろう。あれ、ドラゴンといえばあの人……」
あれこれ考えているうちにボクもついに眠りへと落ちていった。ロエルを抱き合いながら、一つのベッドで。
◆ シンレポート ◆
ゆうしゃ しんの れぽ
ぎゃくにして しんの ゆうしゃ なんちて
けもののその みごとに ぎょくさい したですね
まぁ どうせ あのぱんさーどのことだから たいして なにもかんがえてない
かとうが まけようが きっと どーでもいい
あいつは そういうやつ
めたりかのせいで せかいかっこくの まもりが きょうかされたです
これで いままでいじょうに まおうぐんは せめあぐねるはず
そして あのゆうしゃの とうじょう
うううううう ふかく! これはすぐにでも まおうさまに ほうこくすべきじたい!
まさか ゆうしゃに こどもが いたなんて!
あばんがるども まおうさまも まったく よそうしてなかった
みずがるこくに いたなんて
ぱんさーどのやつ なにやってるですか
りゅあ?
いや あんながきより いまは あのゆうしゃのこと
いちど まおうじょうに もどるべき
このことを まおうさまに ほうこくしないと
あのふたり あーあー だきあって ぐーすかぴー
やっぱり そういうかんけい うひゃー




