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第99話 獣の使者 後編

◆ スルアード港町 酒場 海人の食卓 ◆


「こいつを殺した後で残りの奴らを殺せばいい。そう考えただろ?」


 剣を握り締めたボクを牽制するかのような破壊。ソゴックの腕が伸びて天井を貫いていた。突き出した腕は長い棒のように際限なく伸びているように見える。

 そしてその腕をそのまま前に倒す、それが王様とベルムンドの真上に到達する前にボクは二人を両手に抱きかかえるようにして、安全圏まで運んだ。その直後、振り下ろされた腕は天井を裂いて酒場の扉と床にめり込む。

 まるでそこに大きな棒を叩きつけたかのような跡を残して、ソゴックの腕は瞬間的に取り替えられるようにして元の大きさに戻った。裂かれた天井からは日の光が差し込んでいる。


「とまぁ、オレが腕を上げるだけで合図にもなるのさ。今のは戦闘開始前を奴らに知らせた。

もう一度、同じ事をすればこの町が瓦礫の山になるのに1時間もいらねぇだろうよ。キッキッキッ」

「……リュア君、大人しく座っていてくれないか?」


 カークトンが低い声でボクを見ずに指示する。余計な事をしないでくれ、言い換えればそういう事だと思う。危うく、ボクのせいですべてが台無しになるところだった。

 でもだからと言って、やめるつもりなんかない。今のは剣を握り締める動作をあの猿に見せてしまった。頭に血が上って、そこを冷静になれなかった。

 じゃあどうするかというと、そんなの簡単だ。


「た、助かったのか……?」


 ようやく自分の身に何が起こったのかを理解した王様が遅れて、床の亀裂を見る。反応できなかった悔しさを紛らわすかのように王様の前に立つカークトン、そして兵士達もそれに合わせて囲んだ。

 位置的に王様とベルムンドしか、あの腕が振り下ろされる所にいなかったけど、下手をすれば2人だけじゃすまなかった。

 そんな様子をあのソゴックはボトルを片手に、まるで見世物を楽しむかのように眺めている。


「ソゴック殿、そちらの要求についてですが。

この大陸にはアバンガルド王国の他に4つもの国が栄えている。

もちろん、我が国は他国にも負けぬほどの繁栄と実績があるのは自負しておりますが、だからといって我らの一存だけでは決めかねますな。

我らがアバンガルド王国を指定していただいた事は誇りとして受け取っておきますが」

「知らねーな。上からもそう言われているし、お前らがこの場でガタガタ抜かすなら一通り暴れてやってもいいんだが?」

「……一週間、待ってもらえぬか? それだけの人数となると何かと準備期間が必要だ。

もし指定期間を過ぎれば、この場に残った私の首を刎ねてくれ」


「陛下?!」


 何を言うかと思ったら王様は護衛を掻き分けて、ボク達よりも前へ出てソゴックの前に堂々と立った。慌ててまた王様を守りに入ろうとするカークトンと兵士達を手で制して、首を振る。


「それはつまり、お前自らが人質になるという事か?」

「そうだ。元よりこの場には私の意志で来たのだ。その程度の覚悟はある」

「キャッキャッキャッ! 見上げたサルだ! よし、いいだろう!

気に入らんところはあるが、これ以上はそこのリュアちゃんが黙ってないだろうからなぁ?」


「陛下! そのような勝手な真似は許しませんぞ!」

「そうです! このような不当な要求など、呑む必要はありません!」

「お気を確かに!」


 口々に王様を説得しにかかる皆の言葉にも王様はこれでいい、と短く返すだけだった。

 これでいいはずがない、あそこでサル達に唾を吐き掛けられたり、頭を叩かれながら料理をしている酒場のおじさんだって恐怖と戦っているんだ。これ以上、好き勝手にさせるつもりはない。


「よし、それでは期限はい」


【リュアの奇襲攻撃! 猿人王ソゴックに500192のダメージを与えた!

猿人王ソゴックを倒した! HP 0/3420】


 まず一匹。


「キッ?!」


【リュアの奇襲攻撃! ソルジャーモンキーに5432091のダメージを与えた!

ソルジャーモンキー×6を倒した! HP 0/460】


 この程度の相手、数なら2秒もかからない。昔なら10秒はかかったかな。酒場のおじさんを取り囲んでいた猿も含めて、跡形も残らず消した。

 ソゴックがずっと、ボク達が変な動きをしないか目を光らせていたのはわかっている。カークトンが面白くなさそうに小さく舌打ちした時も、それも見逃さず小さく人差し指をぴくりと動かしていた。そんな小さな動作すら見逃さずにこれだけの人数に目を配っているところをみると、さすがは何番隊だかの隊長なだけはある。

 加えてあの伸縮自在の腕。戦う時もあれを駆使するんだろうし、あの並外れた勘で更に有利に運ぶのも予想できる。

 でもそんなのはどうでもいいし、関係ない。こんな卑劣な手段をとってくる相手とまともに戦ってやりたくないし、これで十分だ。


「皆、ちょっと待っててね。全滅させてくるから」

「リュアちゃん、ちょっと!」


 ロエルが最後に何か言っていたけど、聞いている暇はない。説経かもしれないけど、ボクはもう我慢できないんだ。


◆ スルアード港町 ◆


【ヴァンパイアビーストを倒した! 0/1120】

【ソルジャーレオを倒した! 0/805】


「これで最後かな?」


 この広い三日月型の港町を駆け巡るだけでも、2分はかかった。でもノルミッツ王国の時よりはマシか。あっちは植物なだけに建物の影に潜んで触手で奇襲してくるような奴もいたし、こっちは獣ばかりだから真っ向から挑んできてくれてわかりやすい。

 驚いたのは獣の園を象徴するシンボルが書かれた帆船が何隻も港にあった事。そこで別の集団が待機していたのを見た時はさすがに焦った。

 妙な動きをしたら殺す、そう言っていたしボクの姿を発見すればすぐ行動に移していたはずだ。考えてみればボスがソゴックだけとは限らないし、迂闊だったかもしれない。あれらがいなければもっと早い時間で殲滅できた。


「見つかる前に倒せばいい、そう軽く考えていたけどきついなぁ……。

こんな相手でさえ、くたびれちゃった」


 全力疾走すれば建物の影に隠れながらなんて、遠回りな事をしなくても全滅は出来た。でもボクだって疲れるものは疲れる。息が上がるほどじゃないけど、喉が渇く程度には疲れた。

 大勢の人達はまだ魔物達がいなくなった事を知らない。未だ、静かな港町がそれを主張している。


「とりあえず、酒場に……ん?」


 路地のほうに逃げていく猿の後姿が見えた。まだ一匹残っていたんだ。あのまま逃げられたら面倒な事になりそうだし捕まえよう。

 素早い身のこなしで建物の壁をつたってあっという間に屋根の上まで登ったけど、ボクならそんな事しなくても少し跳ぶだけだ。

 跳び乗って尻尾を掴むと、サルは押しつぶされたような声を出した。

 

「ウキィィィ! クソー! こんな事で我ら獣の園を倒したと思うなよ!

オレ達139番隊は獣の園でも最弱に位置する部隊! いわば偵察部隊のようなものよ!」

「何番まであるの?」

「オレ達、下っ端だけでも万は超える!

オレ達139番隊が帰ってこなかった時点で、獣の園は本格的にこの大陸を襲撃するだろう!

特にあのお方の大隊はたった数人でありながら、バラード大陸の国一つを攻め滅ぼした!

キキキッ、楽しみだなぁ! お前のその顔が絶望に」


【ソルジャーモンキーを倒した! 0/460】


 それを聞いて黙っていられるはずがない。すぐに酒場に戻って皆に伝えないと。


◆ スルアード港町 酒場 海人の食卓 ◆


「リュア君! 何を勝手な事を」

「町にいた魔物達は全員倒してきたよ。船着場にもたくさんいたけど、もう大丈夫」

「……ほ、本当か? 町は無事なのか?」

「それより実は……」


 真っ先にカークトンが唾を飛ばして叱りつけてきたけど、そんなの相手にしてる場合じゃない。ボクのヘタクソな説明をロエルが何とかわかりやすくして話してくれたおかげで、何とか通じた。

 ロエルだけが勝手に行動した事について何も言わなかった。ボクならやってくれると信じてくれたんだ。

 すべてを話し終えた後、最初に口を開いたのは宰相のベルムンドだった。


「困りましたな。いくら我が国といえど、それだけの軍勢を相手取るほどの戦力はありませぬ。

平地に誘い込んでギガースホースで一網打尽にするのが無難でございましょうが、問題は東西南北あらゆる方角から攻められてしまえば、さすがに厳しいでしょう」

「ノルミッツ王国に至っては戦力はほぼ皆無。残りはネーゲスタとカシラム、フロンか。

とにかく、すぐに各国と連携をとらねば」

「で、でもこの港町も実質占拠されていたようなものですし、完全に太刀打ちするのは難しいんじゃ……」

「貴様、陛下に向かって無礼な!」

「ひゃっ、ご、ごめんなさいっ」


 口出ししたロエルが兵士の人に怒られて、亀みたいに頭を引っ込める。こんな状況なのにかわいいなと思ってしまうところからして案外、余裕があるのかな。

 でも無礼も何も本当の事じゃないか。ボクがこなかったら、本当に罪もない1000人をあいつらに渡すところだったくせに。あの程度の集団にどうこうされているようじゃ、あのサルが言っていた大隊とかいうのが攻めてきたら、あっさり負けてしまう。


「早急に5ヶ国会議を開こう。ノルミッツ王国含む、残りの4ヶ国にただちに伝令を出すのだ」

「お待ち下さい、陛下。兵士を伝令として使ってはここからそれぞれ各国に到達するのに、最低一ヶ月はかかりますぞ。獣の園がいつ攻めてくるかわからない以上、後手どころではありませぬ」

「ならば、案を出してみせよ」

「リュア殿にお願いするのです。瞬く間にこの港町に巣くう魔物を倒したその足ならば、半分以下の日数で達成できますぞ」


 ちょっと待って、勝手にボクを使わないでほしい。今回はリッタの頼み事でもあったし、この港町の人達の命がかかっているから引き受けただけ。もちろん、こんな事態だし何もしないわけじゃない。

 でもそれを頼まれても困る。


「あの、少しいいですか」

「何かな、ロエル殿」


 ロエルが手をあげて王様とベルムンドの間に割って入った。さっき怒られて萎縮したばかりなのに、さすがはロエル。前のロエルなら、あそこで黙り込んでたはず。フォーマスの時といい、ロエルも成長したなぁとつくづく感心した。


「さっきも言った通り、たとえ五ヶ国が連携しても獣の園に太刀打ちできるかわかりません。

そこで私に考えがあるんです。私達だけでダメなら、別の国にもお願いすればいいんじゃないかなと……例えば、メタリカ国とか」

「メタリカ国……!」


 こんな事態じゃなくても、ボクとロエルがこれから行こうと思っていたところだ。全世界で新生魔王軍に侵攻されている国をあのメタリカ国に助けてもらう。

 最初聞いた時は、メタリカ国にそんな力があるのかなと思った。でも謎に包まれているとはいえ、あの国は間違いなく世界最強だとか。現にあの国だけが唯一、新生魔王軍の侵攻を一度退けているらしい。


「メタリカ国ですか。それは私も考えましたよ。ですがそれは不可能です。

何故ならこの私自らが十年以上前から何度もそういった外交を試みたのですが、実を結ぶ結果は得られませんでした。

あの国がもたらした技術は我々の生活を大きく一変させるほどです。下水完備、電気の供給など挙げれば切りがありません。しかしそれだけです」

「メタリカは孤高だ、その一点張りだったか。とにかく、あの国を動かすのは無理だ。

それどころか下手に刺激すれば新生魔王軍と同等の脅威となりかねない。特にあそこのSランクは……」

「絶対に、とは言い切れませんが希望はあります。どうか私達に任せて下さい」


 苦いものを噛み潰したような顔を並べる王様とベルムンドはしばらく沈黙した後、小さく仕方ないとだけ呟いた。

 別に王様の許可をもらう必要なんてない、どっちにしろボク達はメタリカ国を目指す。


「……そもそも、まず入国できますかな」


 ベルムンドの嫌味とも取れる言葉が気になったけど、ジーニアは確かにこう言った。ボクがプラティウに協力すれば何か力になる。ウソじゃなければ、きっと平気なはず。


◆ シンレポート ◆


れぽぽぽ


これは おもしろいことに なってきたです

けもののそのが あのたいりくをしゅうげきすれば りゅあひとりでは すべてをまもれないのです

ひとが たくさんしねば りゅあは なげきかなしむのです

じゃくてんが なきむし そして ないて ないて なみだが かれて たたかういしも

なくなるのです

ぼくは もう たたかいたくない と


ふっふっふっふっ


このしんれぽも いよいよ おわりのときなのです

このしんは りゅあのじゃくてんなど とっくに かんぱしていたです

このしんが てをくだすまでもない


しかし きがかりなのが あのめたりか

やつらだけは まおうぐんにとっても きょういなのです

まんがいち きょうりょくするようなてんかいになれば けもののそのといえど

あやういことに なりかねないです


あぁ つかれた なにか おいしいものを たべたいです


まったんごを  あれ

ない

まったんご どこだ

もっと ほしいのに あぁ

魔物図鑑

【猿人王ソゴック HP 3470】

獣の園の百魔獣の一匹。

並外れた勘であらゆる方角からの攻撃をかわし続ける様は野生の勘というものを遥かに逸脱している。

腕の強度や長さを自在に変化させる事が可能。


【ソルジャーモンキー HP 460】

ソゴックの手下の猿。

人間の大人よりも一回り小さいが、身体能力は比較にならない。

体力は大した事ないが恐るべき回避力を誇っており、並みの冒険者では攻撃を当てる事すら難しい。

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