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第七十二話 建国祭での一幕(後編)

 

「んなもん決まってらぁ、こいつらの袋の中身を無理やりにでも確認してやるさ!」


 レインが禿げ頭の男を足蹴にしていた。


「ったく、何をふざけてんのよ!早く手伝いなさい!」


 モニカは呆れながら男達を縄で縛っている。

 レインは禿げ男の口調を真似してふざけていたのでモニカに叱られていた。



 男達に刃物で襲われたのだが、結果は火を見るよりも明らか。


 男たちはエレナ達にかすり傷を負わせることもなく、ものの見事に取り押さえられることになった。


「やっぱり予想通りだったね」

「どうしてこの人たちってこうも懲りずにこういうことをするのでしょうか?」


 エレナ達の予想通り、案の定麻袋の中には小さな女の子が意識を朦朧とさせていたのを確認して衛兵に通報する。


 男の集団は人攫い集団だったのだ。


 衛兵への引き渡しを終えるとヨハン達は一旦落ち着こうと近くの飲食店に入る。

 事情のわからなかったニーナは一連のやり取りをただ見ているしかなく、事情を説明されてやっと理解することができた。


「なるほど、そういうことだったんですね!でも、それにしてもエレナさん、人攫いに気付くの早かったですね!どうしてわかったんですか?」


「あっ、え、ええ…………」


 ニーナの問いかけにどう答えようかと頭を悩ませる。


「そうね、まぁ……お祭りの時はああいう手合いが多くなるから特に気にして周りを見るようにしていますの」


 ニーナがエレナの発見の早さに関心を示すが、エレナは自身の過去の経験から、王都を歩く時は特に気にしていたのだった。


「へぇー!そうだったんですね!わかりました、あたしも気を付けて見ておきます!エレナさんお姉ちゃんと同じくらい綺麗だし、そういう細かなことにも気付くのって凄いと思います!」

「あ、ありがと」

「ごめんなさいね、がさつなお姉ちゃんで」


 エレナはニーナの言葉に思わずぎこちない笑顔を取り繕い応えてしまい、顎に手を当て比べられた結果微妙に不貞腐れるモニカ。


「(まぁ……それは仕方ないのかな?王女様だしね)」


 ヨハンはそのやり取りを苦笑いしながら見ていた。

 エレナは王女だということは基本的には隠している。

 結局王女だということは言えずに、言葉を選ぶのに多少苦慮してしまった。


 何気なく話すニーナはヨハンとモニカと同じパーティーを組んでいるエレナもとレインもある程度認めているのは先日のやり取り。


「お兄ちゃんとお姉ちゃんとパーティー組んでいるし、それに見た感じエレナさんはお姉ちゃんと同じくらいの魔力量だし、きっと強いのですよね?」

「まぁ……そうですわね、負けるとは思わないですけど、勝てるとも思わないですわよ?」

「すっごいです!」


「(…………俺の方はんなことないけどな)」


 といったことがあり同じように話すようになっていた。

 やはりこの子はただ単純に素直な子なだけだという印象をそれぞれが抱いている。



 建国祭を楽しんでいた一同だったのだが、思わぬ騒動に巻き込まれてしまうことになったが、その後も建国祭を各々自由に楽しんだ。


「申し訳ありません。キズナの皆様ですね?」

「はい、そうですが?」


 日が暮れかかる頃、寮に帰ろうとしている時に衛兵に呼び止められる。


「ギルドの方から呼び出しが入っております」

「えっ?ギルドから?」

「はい。昼の件でお話があります」


 突然衛兵に呼び止められて驚くのだが、呼び出された用件は昼間に起きた人攫いの件だったのだがわざわざ呼び出されることに覚えはない。


「なんだろうね?」

「さぁ?」


 わけもわからずそのままの足でギルドに向かうことにする。



 ギルドに入ると、受付の女性がヨハン達を見て微笑む。

 極秘事項なのだが、ヨハン達キズナはギルド内において人気者であった。


 実力者揃いなのはもちろんだが、その子供らしさや容姿が人気の理由である。

 実はレインも密かに人気はあるのだが、本人は知らない。


「二階に上がって下さい」


 受付で上に行くよう言われ顔を見合わせる。

 二階といって呼ばれるのはギルド長アルバのところに行けということ。


 そのまま二階に上がり、ギルド長室をノックする。


「入れ」


 返事があり、中に入った。


 そこには恰幅の良いギルド長アルバが座っており、その横には白髪混じりの長髪の女性、シェバンニ教頭が立っている。


「えっ、教頭先生がどうしてここに??」

「アルバに呼ばれてここに来ています。詳しい話はアルバがします」


 一体どういうことなのだろうか。


「さて早速だが。君たちに、ここに来てもらった理由についてから話そうか」


 アルバがヨハン達を鋭い目つきで見た後に本題に入ろうとする。


「――すいません」


 ヨハンが言葉を差しこみニーナをチラッと見た。


 ギルド長からの呼び出しといえばキズナに対する依頼関連だろうということを察しはつくのだが、果たしてニーナもこの席に同席していいものかどうか迷う。


「あなた達がどういう経緯を辿って今一緒にいるのかはわかりませんが、どうせ追々あなた達にお願いようと思っていたので時期が早まったと思えば丁度良いです」


 ヨハン達と共にニーナに視線を向けるシェバンニは小さく息を吐いた。


「ニーナの今後の学生活動の一部ですが、キズナと一緒にしてもらおうと思っています」

「「「えっ!?」」」


 ヨハンとモニカとエレナは声を重ねる。


「(まぁその程度は想定外ではないわな)」


 その程度で驚くことはない、とレインは堂々としていた。


「あなたたちも見たでしょう?」


 シェバンニは言った。

 入学式で見ていた通り、ニーナの実力は飛びぬけており、このままではニーナ自身と他の学生の成長を阻害させかねない、と。

 それならばキズナと共にいることで一層の成長を見込めるのではないのだろうと考えたと。


「あなた達と同じように切磋琢磨できる子がいればまた違うのですがね」


 ニーナにもヨハン達のように近しいレベルがもう少しいればまた違った話なのだと付け加える。


 そこで初めてわかった。

 シェバンニがニーナを入学式後に呼び出していたのは――。


「あなたは別に課題を与えます。内容は追って伝えます」


 と話していたのだった。



 ただし、シェバンニもわかっている。

 ニーナには常識に欠けているところがあり、学校としても基礎をしっかりと学ばせる必要があるので飛び級まではさせない。

 そのために裏の活動として動いているキズナが丁度良かったのだと。


 そこで本題に入る前にこれまでのキズナの活動の一部をシェバンニから聞いたニーナは思わず驚くのと同時に笑顔になる。


「みなさん凄いです!」


 これから自分も関与するのにまるで他人事のように尊敬の眼差しを向けていた。



「…………」


 最初は微笑ましく見ていたアルバだったのだが徐々に話の長さから表情を曇らせる。


「ぼちぼち……良いかな?こっちの話を始めても…………」


 ここまでアルバは待ちぼうけを喰らっていた。

 だが、内心ではニーナの力をその魔眼で視ている。


「(ふむ。まぁこの様子では問題はなさそうだな。それよりもどこかで視たことのある魔力なのだが、どこだったか……随分と昔だった気がするが)」


 キズナに加わるということはギルドとしても無関係ではない。

 しっかりとニーナを見定める。




「申し訳ありませんアルバ。それではどうぞ」


 シェバンニが一歩下がった。


「うむ。お前達に頼みたいのは昼間の件だ」

「あの人攫い達がどうかしたんですか?」

「いやなに、やつらは結構大規模に活動を展開していたようでな。捕まえた者からやっとアジトを聞き出せたのだ」

「つまり、そいつらを潰して来いってことね?」

「まぁ端的に言えばそうだ」


 アジトは王都を出て少し南に行った廃鉱にあるという情報を得ている。

 そこまでなら王国の衛兵や騎士団を派遣すれば良いだけの話なのだが、ここで問題が起きた。


 どうもその人攫いに情報を流している者がいるのだと。

 それがよりにもよって王国の貴族だという情報があった。


「本当にくだらない人たちですわね」


 一部の貴族の行いに嫌悪感を抱くエレナ。

 王国の兵士を派遣して、もしそれが事実であり兵士たちが耳にするようなことでもあればたちまち噂は広まり、貴族引いては王国の信頼に関わってくる。


 そういったことのため、キズナに依頼を行う運びとなっていたのだった。


 シェバンニが同席していた理由は、例えギルドの裏のことでAランク扱いとはいえ、まだ学生のヨハン達を休日以外に依頼を行うことを正式な場で行いたかったためなのだと。


 結果的にシェバンニからすればニーナのことをキズナやアルバについでとして話せたし、そもそも二学年の最初は一学年の応用なのだから特に問題もなかった。

 それに、ニーナは基礎を必要としない上にしばらく時間を空けないと恐れを抱かれているのは、入学式で全員を倒したのだから周囲からなんと言われるかわからない。



 ヨハン達の冒険者学校二学年最初の活動は人攫い集団のアジトの壊滅及び真相解明から始まる。



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