事件の後
「アポロ、まだアナトのブラッシングが終わってないから待ってね。次はアポロだから」
俺は現実逃避に4匹をブラッシングしている。3人を殺したことを後悔してないとは思わないけど、あの光景を見て俺は抑えることができなかった。武器を持たれ女子生徒を人質にされる危険性もあった。
女子生徒の前で殺したことも問題だ。帰ってきてから新撰組の4人に言われて初めて気が付いた俺は、ダンジョンでレベルが上がっておかしくなったのだろうか。前は人を殺すだなんて考えたことも無かったのに。
帰ってから新撰組に怒られたけど、なんかいつもと違って俺のことを気遣ってくれた。でも仲間が被害にあったりするなら俺はまた同じ選択をするだろう。
避難してきた人もそれぞれの意見があって対立してるし、何人かは立川基地に移りたいと言っているらしい。
例の惨い経験をした5人は館長の奥さんたちが面倒を見てくれているが、やはり男性が近付くとパニックになるらしい。
俺は自分だけ生き延びてやる気持ちから準備を始めた。いつしか人を受け入れ仲間ができて、俺は人々を助けられるんじゃないかと勘違いしていた。俺は昔の俺と何も変わっていない。今だって本当は逃げ出したい。人数が増えれば食料の問題だってある。米と小麦は門下生のおかげでまだ50トン以上はあるが、いつかは無くなる。
「ナビ、ダンジョンクリエイトの能力で田畑を作れないかな」
《マスターのダンジョンマスターレベル44ですから、ダンジョンを44階層まで作り変えることができます。田んぼを造るには手を加えないといけませんが畑は問題なく作れます。米や麦ならダンジョン内で年2回以上の収穫可能だと思われます》
「本当かナビ、早く教えてくれよ」
《マスター、私はナビゲーターです。聞かれたことしかお答えできません》
「分かった。これからはナビに色々聞くからよろしく」
新撰組が来た。
「雅也さん、防衛大臣と無線で話したわ。大臣からの伝言で今回の事で雅也さんに責任の追及はしないと言ってきたわ。ただ、この事を口外しないでほしいとも」
「分かった。向こうも問題を大きくしたくないから隠したいんだろう」
「雅也さん、私たちが見てきた自衛官は皆一所懸命で給料も出ないのに働いていて頭が下がる思いだったけど、ダンジョンのせいで皆おかしくなっているよね」
「私は日本では暴動や略奪が起きないと思ってたけど、現実はそんなこと無いんだと実感したよ」
「ダンジョンのせいで日本も戦国時代みたいになるのかなー嫌だなー」
「それと大臣から明後日無線で話がしたいと言われたけど、雅也さんどうする?」
「夜に主要メンバーで話し合おう。立川基地に移りたい人も居るだろうからどちらにしても話さないといけないからね」
「雅也さん、大丈夫?」
「大丈夫だ、心配無いよ。皆で乗りきろう」
「違うの、雅也さんが大丈夫か聞いているの」
「ああ、俺は大丈夫だよ。この子たちに癒されたから大丈夫」
「そう、なら良いけど。雅也さん、一人で抱え込まないで私たちに相談して? 私たちはいつでも雅也さんの味方だから」
「うん、ありがとう」
その夜、話し合って以下のことが決まった。
①学生たちの親の捜索
②立川基地に移りたい人の移動③ダンジョンでの農地改革
④政府の出方によっては決別
翌朝からダンジョンの改修に取りかかった。皆で果実の収穫とトレーニング用品の撤去をして、ダンジョン改造をした。
ナビに教えてもらいながらダンジョンを5階層のまま、広さを44階層の広さに広げた。
1階は果樹園と部屋が造れたので、トレーニングジムとゲーセン、精米と小麦粉を作る機械の部屋を造った。ただ、部屋にすると外部の光が入らないので照明を電器工事の職人さんに任せた。
2階は畑にした。ナビの指導で作物が育つイメージをして造った。
3、4階は川を作り畑と同じようにイメージして造ったが、水路までは造れなかったので、水路はダンジョンクリエイトと人海戦術と重機で造ることにした。
5階層は草原にしたマリアの寝床と牧草地だ。広くなったのと池と川を造ってやったからか、マリアは走り回り池にダイブしていた。
階層がでかくなりすぎて水脈や温泉に影響出ないか心配したら、ナビがダンジョンの入口以外は別の空間になっているから大丈夫と教えてくれた。確かに1階層の一辺が2km以上ありそうで山からはみ出ないからそうなんだと解っても不思議だ。
立川基地への移住を希望してる人たちは避難所でも文句ばかり言って自衛隊員を困らせ事件を起こしている原因らしい。今も文句を言っているらしいが俺に言ってはこない。噂で俺を怒らせるとここから叩き出されるらしいと言われているからだろう。嫌だな、俺はそんなどっかの独裁者じゃないのに。
例の5人はまだまだ精神的に不安定らしく旅館で介護している。なんとか食事は取れるようになったがまだ生気が無いらしい。心配だな、目の前で人殺しちゃったしな。
立川移住組以外は皆仕事を手伝っていて馴染もうとしているのが分かる。ただ、問題があって若い職人たちの目が女子高生に行ってしまい親方たちに雷を落とされている。
俺は若い職人たちに
「俺たちは雅也さんに一生付いていきます」
と言われたが、多分テンションの差がありすぎて上手くいかないと思う。被害にあった人も居るからちゃんと考えろって言ったけど多分親方たちと同じように奥様たちに精神的にボコボコにされるな。確実におば……もとい奥様たちは容赦しないからな。
それにしても、高校生たちの笑顔を見せる様子が垣間見えたので助けられて良かったと思う。
さて、明日は政府との話し合いだ。
俺は館長にも言われたが「流されず信念を持って当たれ。俺たちが付いてる」とありがたいお言葉を頂けたので俺も頑張ろう。
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