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13.水を掛けた訳でもないのに、何故か増殖した

「……そうか。それはウッドロイド家も大変だね」


俺としては、それぐらいしかかける言葉もない。

“ごめんなさい。こういうときどんな顔すればいいかわからないの”ってな心境だよ。

勿論、そんな事を言っても「笑えば良いと思うよ」なんて返事が期待できるとは思わないから、口にはしないけどね。


それにしても……。

ホントに、ヒューイはどうにかならないのか?

あいつの唯我独尊なあの態度は、一体何に裏付けされたものなんだろうかね。

クラックにしても、伯爵にしても、接触してそんなおかしな印象を受けたことはないし、常識のない振る舞いをされた事もない。なのに何故、同じ兄弟でここまで性格が違うんだ?

ホントは、クラックも同じ性格だけど、それを見せないだけの分別があるって事なんだろうか。

貴族なんて、表で噂されている事が全て事実とは限らない生物なんだし、ウッドロイド伯爵家にも何かしら噂とは違う真実が隠れているのかもしれない。


まぁ、そんな真相があるのかどうかは解らないけど、ヒューイがこの国にとってのお荷物であるって事はハッキリしたよな。王子の婚約者に手を出すとか、伯爵家だけの問題で納まる話じゃないだろ。

これって、クラックの謝罪で事が済まないようなら、俺がうまく納めるようにって言う親父の策略も絶対に含まれてるよな?

だいたいさぁ! 伯爵もあんな問題ばっかり起こす奴は、さっさと見捨ててしまえば良いんだよ。

まぁ、十中八九夫人が許さないんだろうけどね。

マジで、今回の醜聞なんて“ウッドロイド伯爵家お取り潰し”なんて事になっても、全然おかしく無いんだからな?


俺は伯爵家のこの先の運命を思って、思わず憐れみの視線をクラックに向けてしまっていたら、彼は全てを受け入れたような表情で俺を見て


「フォックス皇国と、カイル皇子には愚弟が本当にご迷惑をおかけして……。どの様にお詫びをすれば良いのか解らないくらいです。父と愚弟に代わり、私から謝罪させていただきます。誠に申し訳ありませんでした……」


そう言って、胸に手を当てて俺の目の前に跪き深く頭を下げた。

この姿勢は、日本で言うところの土下座の様なものだ。

「いつでも首を差し出す覚悟は出来ているので、どの様にでも処分して下さい」って意味を持つ、この世界、イヤ、この国での最大級の謝罪の姿勢なんだ。


本来はクラックも言っていたように、伯爵家当主でありヒューイの父親でもある現伯爵が謝罪に来るのが筋ではあるが、事情が事情だけに仕方がない。それに、クラックがこうして伯爵名代を勤める事で「時期伯爵はクラックだ」って事を、周知するつもりでもあるんだろう。


と、なると。

クラックの同行を許可しないわけにはいかないよな。たとえ俺が許可しなくても、親父が許可を出してしまっているんだからそれを覆す事なんて出来ないんだし。

まあ、事情が事情なんだ、しょうがないか……。


「そう言う事ならば仕方がありませんよね。クラック、今回の貴方の同行を私も許可しましょう。………ただ……、リリス? 君はどうしてついてくるのかな? どんな理由があるのか説明して欲しいのだが?」


だが、リリス。

お前は違うぞ? 例え親父の許可があったとしても、俺が納得できる理由がないなら連れて行きません。

断固、拒否します!!

お前がこの旅行についてくるのに、どんな正当な理由があるって言うんだ?

ほら、兄様にちゃんと説明してみなさい。


「えー? だって、面白そうじゃありませんか! それに、わたくしがこの旅行について行く事は“ゲームのシナリオ”の上で決まっている事なんですもの。行くしかない! でしょ?」


悪戯っぽい意味深な笑顔で、俺をみるリリス。


はい、イキナリ爆弾発言きましたー!

莫山ばくざん先生もビックリのバクザン発言ですよ。


“ゲームのシナリオ”なんて言葉、思いっきり「わたし、転生者なの」ってアピールじゃねぇか!

しかもこの感じだと、俺の事も“転生者”って疑ってるよな? それともこの場にいるメンバーに、鎌をかけているだけなのか?

やっべ、さっきあのセリフを口にしてたら確実にバレてたよな! 思いとどまった俺、GJ!!


チラリと周囲の様子を伺ってみれば、誰もがリリスの主張に首を傾げている。それは、彼女が言わんとしている事が分かっていない証拠だ。

なので、俺も周囲と同じように軽く眉を寄せて少し首をかしげてみせる。


「リリスが何を言っているのかよく解らないのだが……。要するに、誰かとの遊びの延長で旅行についてくる事を決めたって言う認識で良いのかな?」


彼女の意図するモノが何なのか解らないし、摘か味方かの判断も出来ないこの状況で、秘密を漏らすほど俺だって馬鹿じゃない。なので俺は、“意味不明”と顔に書いて対応しておくことにした。


俺の返答が気にいらなかったのだろう。

リリスが不服そうな顔をしているが、そんな事は俺には関係ない。

そもそも、そう簡単に「俺は転生者だぜ!」なんて、カミングアウトをする訳ないだろうが!

味方だって確定しているミシェルにも、知られないようにしているんだ。中身もわからないような相手になんて、更に教える気にはならないね!


「…………まあ、今はそれでも良いっか」


あくまでリリスの言葉の意味が解らないって態度を貫く俺に、彼女もこの場は諦めてくれたようだ。

小さく呟くようにそう言った後「ふぅ」っと、1つ息をついて気持ちを整えたのか、その美少女然とした貌に皇女としては満点の、とても上品な笑顔を浮かべた。


「わたくしがこの旅行について行く事になったのは、お兄様が護衛を付けたがらなかったことが一番の原因ですのよ?」


小さく首を傾げ、立てた人差し指を軽く唇に当てながら言う。


「え? それは、どう言う事なんだい?」

「いくら其々の執事や侍女を連れて行くから、護衛は邪魔になるって言っても、立場的に、騎士2人しか連れて行かないなんて許されるわけが無いじゃありませんか」


いやいや、ちゃんとかげ君も連れて行くぞ?

彼らには3日前から現地に前のりしてもらっているから、今頃はキャンデロロ伯爵の領地や館内の点検も終わって、安全確認といざという時の為の逃走経路の確保も済んでいるはずだ。


「いや、忍部隊(かげ)も2人連れて行くし……」

「表に見える護衛が騎士2人って事が問題なんです!」


俺が反論しようとすれば、言葉を最後まで聞かず遮るように言われた。


そして俺は、そう言われてしまえばもう何も言えない。

確かに親父の言い分は解るんだよ? 俺の立場とか、世間体ってものがあるしね。ただ現状を考えれば、危険人物に繋がっているかもしれない人物を、何人もゾロゾロ連れて行動するのって嫌じゃねぇか。

その事は何回も説明したし、最終的には俺の考えを認めてくれたクセに、当日になってこんな事を企みやがって、あの親父!!


「お兄様が騎士を多く連れて行きたく無い理由も解っていますから、増員する騎士も3人だけにしましたわ。あとは、わたくしの侍女も連れて行きますので、隙はかなりなくなるはずですわよ?」

「…………」

「大切な婚約者の守りは、しっかり固めておいた方が良いんじゃありません事?」


そこまで考えてお膳立てされてしまえば、もう俺に言える事は一つだけだ。


「解った。リリスの同行も許可するよ。……色々と気を配ってくれてありがとう」


認めるしか無いよな。

確かにアンジェリカやジェシカが、女性しか立ち入れない場所に行く時、リリスが一緒に行動してくれるのであれば、警護面の強化が容易に図れる。

彼女たちの安全を確保する為にも、リリスを連れて行くというのは良いのかもしれないな。


そう思考を切り替えた俺は、リリスに「じゃあ、増えたメンバーの紹介をしてもらおうかな?」と、爽やかに笑ってみせたのだった。

書き終わってから気付いたのですが、「莫山先生のバクザン発言」を知っている人がどれだけいるんでしょうね?

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