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【コミック発売中】魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する~好待遇な上においしいものまで食べれて幸せです~  作者: 延野正行
第4章

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第69話 元S級ハンターの猟師飯

書籍版が6月15日発売です!

 猟師飯ってのは、ハンターの間でよく作られる料理だ。


 獲れたばかりの獲物を塩や胡椒など簡単に味付けをして、一口大ぐらいにして食べる。新鮮なうちに食べられるので、狩猟者の醍醐味みたいな料理である。


 早くて簡単。獲物が新鮮なので、おいしいのは当たり前。それに狩猟飯の特長は、身体を温めるところにある。


 特に冬の雪山はいくら防寒してても、芯から温まることはない。


 身体の中からエネルギーを作ってもらうために、適した料理でもあるのだ。


 使うのはケリュネアの内ロースだ。


 内転筋に当たる部分で比較的柔らかく、鹿肉では稀少部位に当たる。


 鹿肉ではほんの少ししか獲れないが、その点ケリュネアは大きい分、周囲のヤツらに振る舞う分ぐらいにはあるようだ。


 軽く触ってみると、やはり柔らかい。


 鹿のそれと比べても遜色(そんしょく)なく、筋が通っているような感触もない。


 俺は荷物からまな板と包丁を取り出して、肉を適当な大きさに切っていく。


「うわ。本当にゼレットが料理してる」


 パメラが物珍しそうに覗き込んでくる。


「包丁なんか持ってたんだ。ナイフで切ってるのかと思ってた」


「魔物や木を削ったりするナイフは、あまり清潔とは言えないからな。調理用の包丁はいつも持ち歩くことにしている」


「なるほどね」


 パメラは感心した様子で、料理風景を見守る。


 なんだか教官に見られてるみたいだな。


 肉を切り終えると、次に生姜を千切りにする。


 俺自身、生姜はハンターにとって必携の食材と思ってる。


 生で食べれば解熱や殺菌効果があり、食材と混ぜれば肉などの臭味を緩和し、生姜湯は雪山での強い味方になる。


 どんな風に食べても、身体に良いため俺はハントの時は絶対に持っていくことにしている。


 肉と生姜を鍋に入れ、酒、大蒜、魚醤、砂糖などで豪快に和える。横で見ていたパメラは、ちょっとは計量したらというが、目分量で決めるのが猟師飯のメソッドだ。


 熱したフライパンに油を引き、先ほど調味料と和えた肉を入れれば……。



 ジュウウウウウウウウウウウ!!



 酒気混じりの白い湯気が上がる。


 魚醤の香ばしい香りが、鼻を衝き、プリムとリルがバチバチと音を鳴らしながら、尻尾を振っていた。


 空きっ腹には響く音と匂い。


 かくいう俺の腹もさっきから抗議を上げっぱなしである。


 強火で一気に焼き上げる。


 表面が少し焼けたところで、俺は手早くあらかじめ舟折りされたボォンの葉に移していった。


 ここに葱でも撒くことができれば最高だろうが、残念ながらそんな気の利いた薬味はない。


 彩りは少々悪いが、これもまた猟師飯の醍醐味だ。


「ケリュネア肉の猟師焼きのできあがりだ」


 俺は皿を掲げて、みんなに見せる。


「おいしそう!」

『ワァウ!!』


 目を輝かせたのは、プリムとリルだ。


 というか、お前たちはいつも食べてるだろうが。


「おいしそう……。早速食べていい、ゼレット」


「ああ。構わん。肉はまだまだあるしな」


「じゃあ、いただきます」


 パメラは手を合わせると、用意していた串で肉を差す。


「すご~い。やわらか~い。串がすっと刺さる」


 パメラは再び感動する。


 そしてプリムたちと同様に口に入れた。


「むふぅぅぅうぅうううう!!」


 パメラは思わず仰け反る。


 幸せ、とばかりに頬が膨らんでいく。目がキラキラと光り、肉の味に酔いしれる。


 そんな幸せそうな顔を見てると、やはり食べたくなるものだ。俺も肉を串に刺す。パメラが感動するのもわかる。串が躊躇なく肉の中へと潜っていく。


 鹿の内ロースも似たような感触になるが、それよりもずっと柔らかいかもしれない。


 早速、口にしてみた。


 ゆっくりと味わう。


「おおおおおおおおお!!」


 うまい。


 食感は柔らかく、少しねっとりとしているが味わい深い。


 牛と比べれば淡白だが、元々味付けを濃い目にしていたので、もっさりとした感はなく、飽きが来ない。


 生姜と大蒜のツンとした味も良いアクセントになっていた。


「ゼレット、このちょっと焦げ目が張っている茶色は何?」


 パメラは茶色い調味料の滓を串で集めて、俺に見せる。


「オレも気になっていた。この茶色の調味料がよく利いてる。コクがあって、魚醤の塩辛さともよく似ている。……見たことがあるんだけど、なんだったかな?」


 ヴァナレンは首を捻るが、今1つ答えがでてこないらしい。


 まあ、仕方ない。この辺りでは流通していない調味料だしな。


「それはミソだ」


「ミソって東方の!?」


 ミソは東方の国の調味料だ。


 ここら辺では流通しておらず、東方から取り寄せる必要があるため、非常に高価な調味料になっている。


「なるほど。この強いコクと、塩気には覚えがあると思ったが、ミソか」


 ヴァナレンも感心した様子で舌鼓を打っていた。


 王国の王子でもミソは滅多に食べられないものらしい。


「なんでそんな高価な調味料を、ゼレットが持ってるのよ?」


「昔、東方出身のハンターに教えてもらったんだ。それは自作だ」


「ぜ、ゼレットが作ったのぉ!!」


「大きな声をあげるな。ここは魔物がいる森だぞ。あと、俺が作れるってことは絶対に口外するな」


 昔、ミソを作ってる現場を、商人に見られたことがあったのだが、その後しつこくレシピを教えてくれと、俺の部屋まで訪ねてきたことがあった。


「そう言えば、そんなことあったわね。別に教えてあげればいいじゃない」


「その東方のハンターに言われてたんだよ。できれば、ミソの作り方を触れ回らないでくれって」


「なんで、そんなこと言ったんだろ?」


「おそらくだが、粗悪品を作られてミソの価値が下がることを恐れたんだろうね」


 ヴァナレンは説明する。


「なんで、ゼレットには教えたんだろう」


「ししょーがハンターで、魔物を狩るしか興味がないから安心したんだろうね。ししょー、口も硬いから」


「へぇ……。信頼されてるのね。ところで、ゼレット。そのハンターって、男? 女?」


「なんで、それを今聞く必要があるんだ?」


「別にいいでしょ。興味本位よ」


 興味本位で聞く内容ではないと思うが……。


「想像に任せる」


「じゃあ、女性なんだ」


 ……幼馴染みには勝てないな。


「そうだ」


「ふーん」


 さっきから何なんだ。


 そしてさっきからヴァナレンが俺の方に背中を向けてクツクツと笑っていた。


「いや~。元S級ハンターも、幼馴染みには形無しなんだなって」


 ヴァナレンはとうとう口を開けて笑い出す。他の者も釣られて笑うと、パメラまで笑い始めた。


 プリムといい。ヴァナレンといい。


 どうして、うちの弟子たちは師匠を敬うという態度にかけているのだろうか。


 やれやれ……。


こういうざっくばらんというか、大雑把な猟師飯とか好きです。


※※※※ 書籍版 6月15日発売 ※※※※


緊急事態宣言が6月まで延長しそうな感じです。

書店が開いているどうか微妙な状況ですが、

是非お買い上げの上、今からご予約いただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。



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