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【コミック発売中】魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する~好待遇な上においしいものまで食べれて幸せです~  作者: 延野正行
第4章

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第63話 元S級ハンター、過去を思い出す

 俺たちは集落の周りにいた警備兵たちの無力化に成功する。


 遠眼鏡で覗いたが、これ以上抵抗する者はいないらしい。リルも落ち着いている。少なくとも悪意ある者はいなかった。


「ゼレット……」


 心配そうにパメラは倒れた警備兵を見つめる。


「心配するな。麻痺弾(パラライズ・ブレッド)だ。動けないだけだ」


 とは言っても、着弾の衝撃がある。肋の1本や2本ぐらいは折れているだろうが、あの体格なら命に別状はないだろう。


「そう。良かった」


 パメラは心底をホッとした様子だ。


 俺に人殺しはしてほしくないのだろう。


 すると、茂みを出ていく。手を広げて、パメラは呆然としている集落の人間に呼びかけた。


 俺も砲剣を黒ローブに隠し、エルフの耳を隠すように襟を立てて、出て行く。


「もう安心よ、みんな、助けに来たわ」


「お前ら、なんてことをしてくれたんだ!!」


 直後、俺たちに向けられたのは、安堵の表情ではない。引きつった恐怖であった。


「え? どういう? ……痛ッ!」


 パメラのおでこに石が当たる。幸い石は小さく、ほとんど怪我もなかったが、幼馴染みが戸惑うのも無理もない報復だった。


 契約者が傷付けられ、キュールは『きゅるるる!!』と声を上げる。リルも顔を上げて、周囲を警戒した。


 一触即発の空気の中で、パメラに最初に噛みついた村人が声を荒らげた。


「わからないなら、なんで放っておいてくれんのだ! この英雄気取りのサディストめ!!」


 血の涙を流さんばかりに村人は訴えた。


 男だけではない。他の村人もそうだ。子ども抱えた女の中には泣いている者もいる。老人たちもただ下を向くだけだった。


「おしまいだ。この村はおしまいだ」


 理由を聞いても、村人は頭を抱えて「おしまいだ」という言葉を繰り返し、ついには地面に蹲ってしまった。


 訳が分からない俺たちの前に、この集落の村長らしきエルフがやってくる。


 かなり年を召していた。エルフは比較的に寿命が長く、300年も生きる者もいる。


 一方で病に弱いという特徴があって、短命に終わるケースも少なくない。


 身体が弱い者ほど、空気の良い森を求めて暮らす慣習が存在する。


「お前さんら、旅の者か?」


 長老は杖を突きながら、俺たちの前に出てくる。


「いいえ。王子に依頼されて、あなたたちの解放と、ケリュネアの駆除をしに」


 パメラが説明すると、集落の者たちの猜疑心はより深まったような気がした。


「王子の依頼?」

「何を考えているんだ?」

「子どもに任せるなんて」

「でも、さっきの警備兵を倒した手際……」

「馬鹿野郎! あれはたまたまだ!」


 口々に言いたい放題だ。


 目の前の長老は話を聞き、頷いた。


「なるほど。よくわかりました。それならば、早い方がいい。ここから立ち去りなさい」


「どういうことですか?」


「遅かれ早かれ、我々には罰が下る」


「それは……もしかして、ケリュネア……?」


 パメラが恐る恐る尋ねると、長老は頷いた。


「我々はもうケリュネア教であろうと、王国だろうと、もうどうでもいい。静かに暮らしたいだけだった」


「武器を突きつけられ、貴重なエルフの男手を搾取されてなお、お前たちはそれを望むのか?」


「黙れ、小僧……」


 しかし、長老の反論は実に弱々しい。


 最初から負けを認めているかのようなか細い声だった。


「わしらとて、喜んで服従しているのではない。だが、ヤツらはケリュネアを操る」


「ケリュネアを操る?」


「おそらく魔導具を使っているのだろう」


 魔物を使役する魔導具は、昔から開発されていた。その使用は慎重に行わなければならず、中には禁忌に触れる禁止事項も存在する。


 例えば、魔導具で複数の魔物を操る方法だ。


 この方法を使って、昔人間同士で相争っていた時に、大型の魔物を操っていくつもの都や街を壊滅させたという記録が残っている。


「まさか……。あいつら…………!」


「昨日も隣の村が襲われた。村の猟師が誤って、ケリュネアを誤射したからだ」


「昨日――――」


 パメラが息を飲む。


 俺もまた黒ローブを翻した。


「どこへ行く?」


「その村に行く。まだ生き残りがいるかもしれない」


「待て、小僧」


 長老は俺を引き留める。


「お前、エルフじゃな」


「え? エルフ?」

「黒髪だよ」

「いや、耳を見ろ」

「それに肌の白さも」


 他の村人たちも、俺が黒髪黒瞳のエルフだと気付いたらしい。


「だから、どうした?」


「黒のエルフの噂は聞いたことがある。災いを呼ぶと……」


「俺も聞いたことがある!」

「黒髪エルフは災いを呼ぶと!」

「お前のせいで村は!!」

「出て行け!!」



「違うわ!!」



 声を荒らげたのは、パメラだった。


「ゼレットはそんなんじゃない! ゼレットは災いを呼んだりしない。逆よ! 私の幼馴染みはね!! みんなを災いから助けてくれるの。その力を持っているから、ヴァナレン王子はゼレットに託したの! ゼレットの力を信じているから。私もそう!!」


 パメラはドンと自分の胸を叩く。


「いーい! もし、村が開放されて、みんなが生き残っていたら、ちゃんとゼレットに謝って!! 黒髪黒瞳のエルフは、決して災いなんか呼ばないって、子どもたちに教えるの。いーい??」


 パメラは言いたいことだけ言うと、自分はそのままスタスタとその場を離れる。


 俺、リル、プリム、キュールは慌てて追いかけた。


「ちょ! 待て! パメラ!!」


「ゼレットは悔しくないの! あんなことまで言われて……。昔の過去をほじくり返されて。災いの1番の被害者はゼレットなのに」


 パメラは鼻を(すす)りながら、森を歩き続ける。


 泣いているのか。時々、涙声になった。


「別に……。過去のことだ。それよりも止まれ! 一旦落ち着くんだ」


「落ち着いていられないわよ。なんでゼレットはそう――――」


 ようやくパメラは振り返る。


 やはり泣いていた。耳と鼻の頭が真っ赤になっている。


 パメラが俺よりも一足早くヴァナハイア王国に引っ越したのは、5歳の頃だ。


 その頃となんら変わらない。


 変わらなさすぎて、何か笑えてきた。


「あのな、パメラ」


「何よ! 何か文句でもあるの?」


「文句はないが……。その、忠告はある」


「忠告?」


「方向が逆だ」


「え?」


 パメラは呆然として固まった。


「襲われた村に行くのだろ。だったら、方向は逆だ」


 俺は木々の向こうに見えるかすかな煙を指差した。


 リルも、プリムも反応している。


 まず間違いない。


 すると、パメラの顔が真っ赤になった。


「あと、1つ言っておくことがある」


「な、なに?」


「ありがとな」


 俺はパメラの頭をポンポンと撫でる。


 やや俯き加減だった幼馴染みは、ようやく笑顔を取り戻し、リルの背中に乗った。


「行きましょう」


「ああ」


 俺たちは煙がたなびく方へと向かうのだった。



 ◆◇◆◇◆



 荒らされた田畑。


 破壊された水路。


 痛々しく横たわる崩れた家屋。


 あぜ道には無数の足跡が残っている。鹿に似ているが、蹄の痕が一回り大きい。


 何よりも人の気配がない。


 たなびいていた煙も、竈の火が燻っていただけだった。慌てて逃げたのだろう。魔物に踏みつぶされた鍋が、その辺に転がっていた。


「ひどい……」


 パメラは絶句する。


 俺は近くにあった木で出来た人形を持ち上げる。


 エルフの子どもは綿が入った人形ではなく、木で作られた人形で遊ぶ。


「同じだな……」


 俺の故郷の時と同じだ。


 否応なく、10年前の光景がフラッシュバックする。


 聞こえもしないエルフたちの阿鼻叫喚が、村の奥から今にも聞こえてきそうだった。


「しーしょー……」


 プリムののんびりした声が響く。


 生存者でも見つけたかと思ったが違った。


 それは木に刻まれたメッセージだった。




 ようこそ! ゼレット・ヴィンター様。


     ヘンデローネより愛を込めて




「ヘンデローネって……。あの元侯爵の」


「どうやら、そのようだな」


 馬鹿な奴だ。


 逆恨みも甚だしい。ヘンデローネの処分は聞いているが、処分を下したのは女王だと聞いている。


 さらに、あれはどう考えても、ヘンデローネの自業自得だった。


 しかし、何よりも元侯爵夫人が馬鹿だと思えるのは、このゼレット・ヴィンターを怒らせたことである。


 どうやら、元侯爵夫人は元S級ハンターという俺の実力を過小評価しているようだ。


「いいだろう」



 元S級ハンターが本気で人を狙った時、どれだけ恐ろしいことが起こるのか、その身で教えてやろう……。


現在、書籍版の作業が大詰めを迎えております。

料理の品を変えたり、展開を変えたりしてたら、

ほぼほぼ別作品みたいになってきました……(笑)


WEB版では謎のままになってることや、細かい設定部分も調整しているところなので、

是非ともお買い上げください。よろしくお願いします。


発売日は6月15日の予定です。

もう少し詳細が話すことができたら、お知らせしますね。

よろしくお願いします。

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