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【コミック発売中】魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する~好待遇な上においしいものまで食べれて幸せです~  作者: 延野正行
第4章

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第59話 元S級ハンターの2番目の弟子

タイトル変更しました。

書籍と同タイトルになる予定です。

気に入っていただけたら幸いです。

「イタタタ……」


 気つけ薬を口に突っ込まれ、ヴァナレンは目を覚ます。


 頭の後ろを軽くさすりながら、まだ朦朧とする頭を振った。


「ヴァナレン様、大丈夫ですか?」


 アネットが井戸から汲んできた水を差し出す。心配そうにヴァナレンを見つめた。


 彼女の介抱に関わらず、ヴァナレンは未だ立てずにいた。


「ゼレット……。さすがにやり過ぎじゃないの?」


 パメラが視線で俺を責める。


「ゼレット殿、そなたが強いことは知っている。だが、ちょっとやり過ぎだ。仕掛けた騎士長も騎士長だが……」


 アネットはまくし立てる。


「それにこの方は、カルネリア王国の希望でもある。第2王子ヴァナレン・フォオ・カルネリア様。何かあってからでは遅いのだ」


「え、ええ……。王子様!? カルネリア王子様が、騎士団長なの??」


 パメラが素っ頓狂な声を上げる。


 対して俺は黒のローブについた砂埃を丁寧に払う。お気に入りが台無しだ。帰ってからクリーニングに出さねば。


 そんなことを考えながら、襟を立たせると、俺は地面に尻を付けたままのヴァナレンの前に立った。


 きっと周りは謝罪の言葉を期待しただろうが、俺は別の言葉をこの国の王子に投げかけた。


「少しは強くなったようだが、まだまだだな、ヴァナレン。その顔と一緒で、動きが甘い。考え方も甘い。ついでに言うと、鍛え方も甘いな。それでは到底俺には追いつけないぞ」


「相変わらず容赦がないですね……」



 師匠……。



 周りの空気が一瞬凍り付く。


 特にパメラが微動だにせず、カッと目を開けたまま固まった。アネットも持っていた空の薬瓶を落とし、割ってしまう。


 周りの騎士団たちも驚いていた。そして示しを合わせたように声を揃える。


「「「「「師匠!!?????」」」」」


 大声が、俺の耳をつんざいた。


 パメラが猛牛の如く俺の方に突っ込んでくると、高速で俺の肩を揺らす。


 おい。やめろ。普通に首がもげる。


「し、師匠ってどういうこと、ゼレット? ヴァナレンさんは、騎士長で、それに王子様なのよ! どこの馬とも知れないプリムさんはともかく、あんたが師匠って」


 落ち着け、パメラ。あと、何気にプリムが可哀想じゃないか。いや、言いたい気持ちは分かるが……。


 大騒ぎするパメラを横で、羽でも生えたような軽やかな声を上げたのは、当のヴァナレンであった。


「あはははは……。本当だよ、パメラちゃん」


 ついにヴァナレンは立ち上がる。


 どうやら身体が痺れたぐらいで、他に外傷はなさそうだ。


 ヴァナレン・フォオ・カルネリアと出会ったのは、2年前になる。


 カルネリア王国からの依頼で、『魔物の駆除の仕方』と題して、ヴァナレンの家庭教師として招かれた時だった。


 当時からヴァナレンの才能は傑出していた。金属性魔法を操り、先ほどの戦いの時のように、空気中の酸素や水分などを自在に動かし、何もないところに火をおこし、雷を落とした。


 魔法ではなく、化学反応を応用した魔法らしく、砲剣の仕組みを作ることができたのも、ヴァナレンの知識によるものだ。


 強さにおいても、知識においても、ヴァナレンは王宮の中で傑出していた。これはあくまで俺の想像だが、ヴァナレンの天狗鼻を誰かに折って欲しいと、誰かが考えたのだろう。


 すでに何匹ものSランクの魔物を葬り去り、ハンターとして売り出し中だった俺が、家庭教師として呼び出された。


 そして何者かの思惑通り、伸びに伸びたヴァナレンの鼻は、あっさりとへし折られることになる。


 それから改心したのか、ヴァナレンの言動は変わっていったことは、何度かやりとりしていた手紙でわかった。


 騎士団長になったことも、ヴァナレンからの手紙で知っていたし、副長であるアネットが俺の事を知っていたのも、何となく察しがついた。


「ゼレット殿は、尊敬するヴァナレン様が認める方……。まさかヴァナレン様のお師匠様とは知りませんでした」


 アネットは冷や汗を拭きながら、頭を下げた。


「やあ、リル。久しぶりだね」


 ヴァナレンはリルの頭を撫でようと手を伸ばす。


 バグッ!


「ふがあああああああ!!」


 ヴァナレンは悲鳴を上げた。突然、リルに噛まれたのだ。


 そう言えば、リルって何故かヴァナレンのことが嫌いだったな。


 噛まれて赤くなった手をヴァナレンは、「ふー。ふー」と息を吹きかけ、冷まそうとする。


 そこに現れたのは、猫耳の影だった。


「ヴァナレン、久しぶりだな!」


 プリムがヴァナレンの前に出でると、ふんと鼻息を荒くし、偉そうに腕を組む。


 実はヴァナレンがパメラに話しかけている時も、リルに触ろうとした時も、ずっと横にいたのだが、ヴァナレンはプリムを無視し続けていた。


 なるべく目を合わさず、まるでいない者として扱っていたことを俺は知っている。


「え、えっと……」


「ん? もしかして、ヴァナレン。僕のことを忘れたの?」


 ずいっと1歩、ヴァナレンに踏み込む。


「い、いや、そういうわけじゃないんだ、プリム」


「ちーがーうー。プリムじゃない。姉弟子でしょ。あーねーでーしー」


 プリムは一国の王子に向かって圧力をかけ続ける。


 女性を見れば話しかけずにはいられない軟派なヴァナレンだが、プリムの前ではタジタジだった。


 助けて、と涙目を向けるが、俺は肩を竦めるだけで精一杯だった。


 プリムが俺の弟子になったのも2年前になる。時期はほぼ重なっているのだが、2ヶ月ほどプリムの方が早く、馬鹿弟子が主張するのは間違っていない。


 つまりヴァナレンはプリムの弟弟子に当たるのだ。


「あ、姉弟子……。お久しぶりです」


 ヴァナレンは頭を下げる。


「うむ! お前も元気そうで何よりだ」


 プリムは胸を張り、偉そうな態度でバシバシとヴァナレンを叩いた。


 一応わかっているのだ。タイミング悪くプリムの弟弟子になったが、その姉弟子もまた恐ろしく強いことを……。


「ヴァナレン様のあんな顔、初めてみました。さ、さすがゼレット様です」


「あはは、ははははは……」


 感心するアネットの横で、パメラは苦笑するしかなかった。


「しかし、まさかあそこで3発も撃っていたなんて……。師匠、また強くなってません?」


「よく耳を澄ませば、俺が3発撃ったことはすぐわかったはずだ」


「じゃあ、なんで3発撃って、すぐに決着を着けなかったんですか?」


「弟子に華を持たせるぐらいならするさ。いい自己紹介になっただろ」


「か――――っ! 相変わらず可愛げのない師匠だぜ」


 参った参った、とヴァナレンは顔を手で覆い、天を仰ぐ。


 平静を装っているが、かなり悔しがっていた。どうやら俺に勝つ気でいたらしい。


「お前の方こそ、下手な茶番に師匠を巻き込むな」


「ほら。騎士団の長として、威厳は見せておかないと。それにケリュネアの名前を出されては、こちらも引くわけにはいかないので」


「アネットから概ね今のカルネリアの状況を伝え聞いたが、お前の口から改めて聞きたい」


「わかりました……。ここではなんですので、オレの執務室でお話しましょう」


 ヴァナレンは王宮へと案内するのだった。


拙作「ゼロスキルの料理番」のコミカライズが更新されました。

ヤングエースUPで無料で読めますので、是非チェックして下さい!

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