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【コミック発売中】魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する~好待遇な上においしいものまで食べれて幸せです~  作者: 延野正行
第4章

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第58話 元S級ハンター、騎士団長と戦う

 俺とヴァナレンは向かい合う。


 いつの間にか騎士団員が集まっていて、円状の人垣を作り声援を送っていた。


「騎士団長!」

「頑張って下さい、騎士団長!!」

「ヴァナレン様、頑張って!」


 野太い声と黄色い声が交じる。


「あの人、騎士団長なの……」


 パメラは驚きを隠せない。


 すると、俺の方に振り返った。


「ゼレット、大丈夫なの? 結構強そうよ。地位だって……」


「パメラ、俺を誰だと思ってる? S級ハンターだ。あいつよりも大きな魔物と、強大な魔力を有した魔物を何匹も倒している。問題ない」


「そうだといいんだけど……」


「ふーん。君、パメラというのか。なかなかいい名前だね」


 ヴァナレンは白い歯を見せて笑う。


「ところで何をコソコソ話してるんだ? それとも今になって怖じ気づいたのかな?」


「そんな訳ないだろ」


「よし。じゃあ、アネット……。審判を頼むよ」


「あ、あの~、ヴァナレン様。どういうおつもりか知りませんが、お止めに――――」


「聞こえなかったか、アネット。審判を頼む(ヽヽヽヽヽ)


「…………はい」


 最後にはアネットも折れた。


 俺とヴァナレンの真ん中に立つと、手を上げる。


「はじめ!!」


 俺は小型の砲剣を取りだし、構える。弾を装填し、レバーを引いた。もう何万回と行った動作だ。


 最適化に最適化を繰り返し、そのための筋肉を整えた。


 1秒とかからず、ヴァナレンの眉間に照準を合わせる。


「遅い!!」


 ヴァナレンは声を上げた。


 その時には、2本の矢が同時に放たれていた。


 真っ直ぐ俺の方に向かってくる。


 銃把を引くことを中止し、俺は迫ってくる矢を回避することに注力する。


 ギリギリでかわしつつ、ヴァナレンに踏み込む。奴を絶対に仕留める距離へと迫る――――。


 ――――つもりだった。


 ヴァナレンの矢がすでに弓弦を引いて、俺が踏み込んでくるのを待っていた。


 その矢尻の先は確実に俺を狙っている。


「速い!」


 瞠目したのは、アネットだ。


 おそらく戦いの素人であるパメラでは、ヴァナレンが何をやったかわかっていないだろう。


 横を見ると、ただ息を飲むだけだった。


 ヴァナレンが凄いのは、砲剣に負けないクイックシューティングができることではない。


 その都度、弓弦を目一杯引いた弓と矢を用意することができる技術だ。


「さあ、今度はどう躱す?」


 ヴァナレンは口角を上げる。


 直後、俺に挑戦状を送りつけるように矢を放った。それもわずかに時差を付けてだ。1本目で退路を断ち、2本目で仕留める。


 まるで森で獲物を狙う弓さばきだ。


 俺は立ち止まらない(ヽヽヽヽヽ)


 落ち着いて向かってくる矢に向かって、照準を付けた。


 ドドンッ!!


 砲声が鳴り響く。


 2つの矢は弾かれた。


「すごい! 迫ってくる矢をはじき返すなんて」


 常人ならできない。


 だが、俺は常人ではない。


 ついにヴァナレンとの距離は、残り4歩と迫る。すでに必殺の距離だ。如何にヴァナレンが素早く動こうとも、砲剣の弾速から逃れることはほぼ不可能である。


「終わりだ」


 俺は砲剣を向け、銃把にかけた指に力を込めた。


「そいつは、どうかな?」


 ヴァナレンは弓を捨てる。俺を待ち構えると、グローブをした手を掲げ、指を弾いた。


 パチッ!!


 その瞬間、炎が俺の目の前で燃え上がる。


 渦を巻いて、俺の行く手を阻んだ。


 さすがの俺も、一旦身を引かざる得ない。小型の砲身を握ったまま、目の前のヴァナレンを睨む。


「弓と矢を一瞬にして精製した魔法――あれは金属性だな」


「ああ。そうだとも」


「だが、先ほどの炎は炎属性魔法だった」


 ヴァナレンはニヤリと笑った。


 対照的に身を竦ませたのは、戦いを見守っていたパメラだった。


「ヴァナレンさんが、2つの属性を持っているということ? それって…………」



 ……ゼレットと一緒じゃ。



 そう。俺にも2つの『魔法(ルーン)』が宿っている。


 つまり『火』と『雷』である。


 それは世界的にも希有な例であることは間違いないが、どうやら目の前にいる男もまた、神から奇跡中の奇跡を受けたエルフのようだ。


 少なくともパメラには、そう見えただろう。


「驚くのは速いよ。こういうこともできる」


 その瞬間、ヴァナレンの手にあったのは水だった。それを俺に向けて放つ。


 攻撃性はない。俺の足下にかかった。


「水? 水属性も??」


「驚くのは早いよ、パメラちゃん」


 そして、ヴァナレンの手を擦り上げる。


 それを大きく開くと、現れたのは雷だった。


「嘘!」


 パメラの声は悲鳴じみていた。


 金、火、水、さらに雷……。


 実に4つの属性を、俺たちの前で披露したことになる。それもたった1人の手によってだ。


「これは躱せないだろ、ゼレット!」


 ヴァナレンは雷を放つ。


 それでも俺は回避を試みるが、足が動かない。


 見ると、足下が凍っていた。先ほどヴァナレンが放った水が一瞬にして氷となり、俺の足を凍らせていたのだ。


 つまり、相手の術中にはまったということになる。


「ふん。見事だな、ヴァナレン」


「お褒めいただきありがとう。だが、その言葉をもう少し早く聞きたかったものだね」



 さらばだ、神に逆らう者よ……。



 ヴァナレンの死刑宣告が響く。


 パメラが悲鳴を上げ、アネットが息を飲んだ。


 ああ。見事だ、ヴァナレン。


「だが、とっくに詰んでいるのはお前の方だがな」


「何??」



 その瞬間、ヴァナレンの胸元が光った。


 鎧に1発の弾丸がめり込んでいる。それに気付いたヴァナレンはようやく悟った。


「まさか――――矢を叩き落とした時……」


「そうだ。俺は2発撃ったんじゃない……」



 すでに3発目を撃っていたんだよ……。



「しまっ!」



 ぎゃああああああああああああああ!!



 ヴァナレンの絶叫が響く。


 その瞬間、俺に目がけて迫っていた雷が霧散した。


 代わりにヴァナレンが、俺の雷弾(サンダーブリッド)の餌食となる。


 意識を刈られたヴァナレンは、そのまま砂楼のように崩れ去るのだった。


次回の更新で書籍のタイトルに変更することを予定しております。

『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する~好待遇な上においしいものまで食べれて幸せです~』というタイトルになるので、お間違いないようにお願いします。

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