表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミック発売中】魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する~好待遇な上においしいものまで食べれて幸せです~  作者: 延野正行
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/222

第55話 元S級ハンター、気持ち良くなる

『きゅるるる……』


 引き続き搾乳していたキュールが、突然叫ぶ。


 俺とパメラは同時に振り返った。


「スターダストオークスが……」


 俺の目には何か細かな砂の粒のようなものが流れていた。


 それにいつの間にか、洞穴内が光に満たされている。『星屑ミルク』の光のせいもあるのだろう。


 しかし、青かった洞穴が、陽光が差す何か絵画めいた空間に見えた理由は、スターダストオークスが光を食べることをやめたからだろう。


 その考察に行き当たり、俺はようやくスターダストオークスの死期を悟る。


 直後、薄い硝子が割れたような音がした。地面に弾けると、そのまま空気の中に溶けるように消えていく。スターダストオークスを最期まで支え続けてきた足が壊れる音だった。


 俺たちは何もしていない。


 おそらくとっくに限界だったのだろう。俺たちがここに来なくても、スターダストオークスは、消滅する運命だったのだ。


 横を見ると、パメラは大泣きしていた。


 スターダストオークスの姿がはっきりと霊視できる幼馴染みは、どんな光景を見たのだろうか。


 牛よりも一回り大きな魔物が、まるで砂塵のように消えていくのを見つめているのだろうか。


 俺からはただただ目の前のかすかな光の灯火が、消えていったようにしか見えない。


 それはやがて小さくなり、蝋燭ほどの明かりとなって、天井へと向かう。


 そして弾けた。


 俺の目の前にあった強い存在感が消えるのを感じる。


 パメラは目元を拭いつつ、告げた。


「スターダストオークスが消えたわ」


「そのようだな」


 こう言っていいのかわからないが、俺たちは運が良かった。


 スターダストオークスの最期に、『星屑ミルク』を手に入れることができたのだ。そしてスターダストオークスが動けない状態でなければ、俺たちは『星屑ミルク』を手に入れることはできなかっただろう。


 死期を前にして、ようやく手に入れることができる食材……。


 もしかしたら、1億グラでも全然安いかもしれないな。


 パメラは手を合わせる。


 それを見て、俺も倣った。


 スターダストオークスの最期のミルク。せめておいしく食べてやろう。それがせめてもの手向けだ。


 受け皿の『星屑ミルク』を硝子瓶に移す。最期とは思えないほど、スターダストオークスは生乳を出してくれた。


 以前、ラフィナが催した試食会規模ぐらいの分は十分あるだろう。


 用意が調ったところで、俺たちは洞穴の方へと戻る。


「――――ッ!」


 金属が激しく打ち鳴らされるような音が、かすかに俺の耳に入ってきた。


 すぐさま振り返る。


 おそらく剣戟の音だ。


 パメラにも聞こえたのだろう。胸の前に手を置いて、竦み上がっている。


「パメラはここで待っててくれ」


「う、うん。ゼレット、気を付けてね」


「ああ。キュール、パメラを頼むぞ」


『きゅるるる!』


 任せろ、とキュールは元気よく返事する。


 俺は来た道を戻った


 コートから砲剣を取りだし、発射態勢を整え、洞穴を飛び出した。


 ぐるりと前転し、周囲の状況を確認する。


『ワァウ!!』


 リルが魔物たちを吹き飛ばす。


 その周りで、カルネリア王国の騎士団も奮闘していた。


「ぽいっ!」


 プリムは魔物を掴み、明後日の方向へと投げ飛ばす。


 見たところ、全員スターダストオークスの幻覚魔法から解かれたのだろう。


 正気を取り戻した瞬間、いきなり魔物とそれ以外で別れて、戦い始めたといったところか。


「ししょー! 何やってんだよ! 手伝ってよー。あと、この人たち邪魔!」


『ワァウ!!』


 プリムは師匠と再会するなり、不平を漏らす。バカ弟子はともかく、リルも戦いづらそうだ。


 周りに騎士団がいるからだな。プリムとリルが本気で戦うと、騎士団を巻き込みかねない。


「我々が邪魔とはどういうことだ、小娘!!」


 猛り散らしたのは、あの女副長アネットだった。細剣を振るい、迫ってきたグレイハウンドの眉間を貫く。


 直近の脅威を排除すると、鋭い眼光をこちらに飛ばした。


「貴様ら、民間人だろう。ここは我ら騎士団に任せて、その洞穴に引け!」


 正気に戻ったというのに、まだ俺をゼレット・ヴィンターだと認識できていないらしい。


 どうやら、かなりの天然のようだ。


「プリム、リル……。お前たちは一旦退け」


「ええ……」


『ワァウ!』


「ふん。ようやく身の程を知ったか」


 アネットは腕を組み、偉そうに顎を上げた。


 ゴンッ!


 その自尊心を撃ち抜くような重い音が響き渡る。


 俺がコートから取り出したのは、砲剣だ。ただの砲剣ではない。長柄の砲剣とは違って、こっちは短い。片手でも扱えるぐらいの大きさだった。


 それが二丁……。


 それぞれ片手で持ち、魔物たちが群がる方に向けた。


「アネット、それにカルネリア騎士団……」


「ん? なんだ」


「忠告だ。その場を動くな」


 銃把を引く。


 ドドドドドドドドドドドドドッッッ!!


 けたたましい銃声が、静かなエトワフの森に響き渡った。


 何十発という魔法弾が魔物たちの命を無遠慮に刈り取っていく。


 しかも、すべての弾が木々や騎士たちをすり抜けていく。俺は適当に撃っているように見えて、これでも狙いを付けているのだ。


 魔物の数は、約70体。


 余裕で掃討できる。


 俺は弾倉を落とし、新たな魔法弾を装填する。


 ちなみにこの砲剣は連射専用の砲剣だ。威力こそ長柄の砲剣より弱いが、Bランク以下ぐらいならこれで楽に殺せる。


 弾丸も魔法との相性がいい魔法銀ではなく、単なる鉄製だ。


 だから、コストも安い(重要)。


 今回の依頼は1億グラだ。


 これぐらい大盤振る舞いしてやろう。といっても、経費とやらで落ちるらしいから、気兼ねなく撃てるのだが……。


 1度やってみたかったのだ。


 用意していた弾を、全弾発射するという狙撃手のロマンを……。


 シュ~~。


 そして俺の望みは叶う。


 静かに砲身の先から白い煙がたなびき、銃把の部分まで熱くなっていた。


 こんなに砲剣を振るったのは初めてだ。


 ハンターギルドにいる頃は、1発撃つのにも、経費計算をしていたからな。


 落ちた薬莢が金貨に見えた時は、さすがに病院に行った方がいいかなって思ったほどだ。


 砲剣のうなり声は止み、ついにエトワフの森は静かになる。


 魔物の生の気配はなく、戦意喪失してしまった魔物たちは、我先と逃げ出してしまった。


 俺はこみ上げてきた感情を、そのまま吐露する。


「はあ~。気持ち良かった」


昨日『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』のコミカライズ最新話が更新されました。

ニコニコ漫画で更新されておりますので、気になる方は是非チェックして下さいね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス10巻 11月14日発売!
90万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
役立たずと言われた王子、最強のもふもふ国家を再建する~ハズレスキル【料理】のレシピは実は万能でした~

コミカライズ9巻1月8日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる⑨』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



シリーズ大重版中! 第5巻が10月18日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本5巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本2巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月25日!ブレイブ文庫様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large






好評発売中! 全編書き下ろしですよ~。
↓※タイトルをクリックすると、カドカワBOOKS公式ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる2』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large

小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ