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【コミック発売中】魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する~好待遇な上においしいものまで食べれて幸せです~  作者: 延野正行
第9章 魔物の王編

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218/222

第217話 元S級ハンター、再び因縁の相手と対峙する

「リル、例の奴の準備だ」


『わぁう!』


 リルは吠えると、階下に下がっていく。

 スカイ・ボーンには前後に開く扉があって、リルが向かったのは後ろの扉だった。ちなみに前の扉は俺が口だと勘違いした場所である。

 配置につくと、リルは吠える。


「操舵は任せるぞ、スカイ・ボーン」


「お任せください」


 この間のキングコーンの攻撃は激しさを増していた。

 しかし、最初の戦闘では被弾することが多かったスカイ・ボーンだが、今回はうまく回避している。スカイ・ボーン的に言うなら、計算能力が同等になったことによって、キングコーンの攻撃を読むことができるようになったからだろう。こっちに人が乗っていることなどお構いなしなのは、かなり迷惑なところだが、命には変えられない。


 再びキングコーンの鼻先をかすめ、再び上昇していく。

 黒い霧が槍のように迫る中、ついに後部のハッチが開いた。


「リル、落ちるなよ」


『わぁう!』


 残念ながらなんと返事したかは俺にはさっぱりなのだが、「大丈夫」といったような気がする。俺は作戦を続行した。


「よし! リル、落とせ!!」


 リルが落としたのは、俺のお洒落でかっこいいコートだ(異論は認めない)。

 はっきり言って、ここで失うのは自分の子どもを殺されたぐらい心苦しい。

 だが、作戦のためにはこうするしかなかった。


「泣いているのですか?」


「うるさい。黙れ。お前にはわからんだろう。あのコートと俺の思い出を」


「はい。さっぱり」


 なんかむかついてきた。

 プリムの顔をしているから尚更だ。


 コートはそのまま真っ直ぐキングコーンに向かっていく。


「くらえ。俺の愛と怒りと悲しみの……!」


「怨念……、こもってますね」


「黙れ。爆散!!」


 ドンッ!!


 俺の合図とともに、コートの中に仕込まれていた爆薬が爆発する。

 キングコーンの鼻先付近で弾けた爆風は、黒い霧を霧散させた。

 再びキングコーンの本体と核が露出する。

 もちろん、そんな絶好のターゲットチャンスを俺が逃すわけがない。

 スコープ内に収めていた俺は、再び操縦桿の銃把を引いた。


 収束砲の光が天地を貫く。

 見事、キングコーンの核を貫いてみせた。


 ほとんど時間をおかず、核の攻撃を成功させた。

 これはかなり効き目があったはず。


「やりました、マスター。キングコーンの再生能力が40%減。ナノマシンの制御に異常が生じています」


 よくわからんが、なんとなく状況を見ればわかる。

 スカイ・ボーンが〝ナノマシン〟と呼んでいる黒い霧の動きがおかしい。

 一射目では空いた穴をすぐに塞いだのに、7秒経っても本体が露出したままだ。心なしか、いや明らかに核の再生能力も遅い。


「第二射、いけます!!」


「トドメだ!!」


 銃把を引く。

 収束砲の光が黒い霧を縦断していく。

 ついにそれは半壊したキングコーンの核を貫くかと思えた。


 ジャンッ!!


 収束砲の光は、キングコーンに当たる前に弾かれる。

 そのままゆっくりと地上へと落ちていくと、地上を焼き尽くし大爆発を起こす。轟音が響き、大きな煙が上がった。


「なんだ?」


 照準器から目を離し、俺は何があったか確認する。

 続いて聞こえてきたのは、スカイ・ボーンの叫びだった。


「きます!」


 何がという前に、スカイ・ボーンの身体は大きく傾いた。

 瞬間、俺は何が起こったか理解する。


「リル、脱出しろ!!」


 頭に被った兜を脱ぎ、叫ぶ。

 幸い高度は低い、リルなら着地はできるだろう。

 リルの悲しげな声が聞こえるが、俺は怒鳴るように指示を繰り返す。

 すると、その声は無くなった。


 聞こえてきたのは、何かを擦るような音だ。

 俺が座っている部屋の天井が光る。

 何か丸く切りかれた瞬間、ベコッという音とともに、そいつは現れた。


 全身から伸びる鳥の羽根のような黒毛。その濃い毛に覆われていてもわかる鋼の肉体。鞭のようにしなる尻尾に、頭からは山羊のような角が伸びていた。


 広がった黒翼を鶏サイズにまで縮めると、ノックもせずにスカイ・ボーンの中に入ってくる。しばらく辺りを見回したそいつは、赤い複眼の瞳を俺の方に向けた。


(チチガガ湾、あるいはエシャランド島で見たタイプと同じだ)


 俺は知っている。あれはこいつらの外装であることを。あの中には、別の本体があることを。そして俺は知っている。


 こいつらが魔族という、俺の仇であることを……。


 シェリルですら手こずった害虫を見て、俺は口角を上げた。


「まったく……。お前らはどうして揃いも揃って同じ恰好なんだ? もう少しお洒落に気を使え。俺みたいにな」


 自慢のコートを見せびらかそうとするのだが、何かスースーする。あれ?


「マスターのコートはすでに投下されました。お忘れになったのですか?」


 しまったぁぁぁあぁあああ!

 忘れてたぁぁぁぁあああ!!


 あまりのショックで記憶をなくしていた。

 やばい。思い出したら、精神が……。


 風が鳴る。

 俺は一早く反応し、持っていた兜を投げる。俺から見ても、かなり頑丈だった兜は魔族によって一刀両断にされた。


「マスター、備品を壊さないでください」


「そんなこと言ってる場合か!」


 とはいえ、もうこの距離で【砲剣】を運用するのは不利だ。ここはやはり使うしかないだろう。


 俺はシートの側に置いていたシェリルの剣を鞘から抜く。シェリルがこの剣を使わなくなって、四半世紀も経とうとしているのに、剣は俺の魔力に感応して、青白く光始めた。


(シェリル、俺に力を貸してくれよ)


 先に動いたのは、俺だった。

 スカイ・ボーンの床を蹴ると、真っ直ぐ魔族に向かって行く。激しい剣戟の音を立て、俺の初撃があっさりと防御されてしまった。しかし、俺は構わない。そのまま連撃に繋げる。名うての剣士でもこの連撃だけでサイコロのように斬られていただろうが、魔族は簡単にいなしてしまう。それどころか爪を立てて、反撃してきた。ついに俺は劣勢に立たされる。


 やはり白兵戦はこちらが不利だ。身体能力ではどうしても魔族に劣ってしまう。技も理論もないが、こいつらの反射速度と筋力は異常だ。どんな達人の技量も基礎能力だけで上回ってくる。


 幸運にも斬撃を加えることができても、俺は魔族が纏っている外装の硬さを知っている。


 平たく言うと、真っ向勝負では叶わない。


 なら……!


「スカイ!!」


「了解!」


 それまで地面に対して水平に飛んでいたスカイ・ボーンが突然、右翼を大きく立てて、旋回を始める。無論、俺たちが立っていた床は垂直に近くなる。俺はあらかじめ用意していた雷属性『魔法(ルーン)』で、スカイ・ボーンの床に張り付いた。


 一方、魔族は俺とスカイ・ボーンが仕掛けた不意打ちにまったく対応できていなかった。黒羽根の外装が大きく傾く。一瞬だったが、その一瞬の隙で俺には十分だった。

 俺はベルトを外して、奥へと滑っていく魔族に飛びかかる。シェリルの剣には炎の『魔法(ルーン)』が赤く光っていた。



 【竜虎咆哮斬(レーバテイン)・炎】!!



 さらに剣を返す。そこには雷の『魔法(ルーン)』が宿っていた。



 【竜虎咆哮斬(レーバテイン)・雷】!!



 2発の竜の咆哮がスカイ・ボーンの体内で響く。Sランクの魔物ですら葬り去る一撃。如何に頑丈な外装とはいえ、耐えることは難しい。何より俺が持っているのは、シェリルの剣だ。勇者の剣の一撃は、この世のすべての武器の中でも重い。


 魔族はそのまま壁を突き破って、スカイ・ボーンの外へと出て行く。やったと思ったが、違う。出ていったのは、魔族が纏っていた外装だけだ。


「マスター、上です」


「何?」


 外壁に掴まっていた俺は頭上を動く微かな影の動きに反応する。上を見ると、そこには青白い身体をした魔族が鬼の形相で立っていた。


ゴミ虫(にんげん)め。死ね」


 短い言葉を添えて、俺が捕まっていた外壁ごと踏み潰そうとする。すると、スカイ・ボーンが再び態勢を変えた。これがまた魔族にとって不意打ちになる。また体勢を崩すと、その隙に俺はスカイ・ボーンの体内に戻った。


「助かった、スカイ・ボーン」


「どういたしまして」


 こうして会話している間も、俺は魔族から目を外さない。


 エシャランド島で出会った奴とは違う。逆立った銀髪に、大きく見開かれた真っ赤な瞳。以前に会った魔族と比べると、少し幼い感じがする。何よりも頭2つ分背が低かった。

 だが、魔族の子どもというわけではないだろう。漂ってくる殺気は、俺の肌を身震いさせるのに十分なものだった。


「殺すぞ、虫けら(にんげん)


「奇遇だな。俺もそのつもりだ、害虫(まぞく)


 俺は再びシェリルの剣を構えるのだった。


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こう見ると魔族って存在がよくわからんな
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