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【コミック発売中】魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する~好待遇な上においしいものまで食べれて幸せです~  作者: 延野正行
第9章 魔物の王編

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第216話 元S級ハンター、魔物を乗りこなす

「街は?」


 俺は操縦桿を握りながら、プリムの身体を乗っ取った(ヽヽヽヽヽ)スカイ・ボーンに尋ねる。すると、俺の目の前に突如透明な窓のようなものが現れた。そこに描かれていたのは、俺が住んでいる街の拡大図だ。


 目をこらすと、まだ街の原形は保てているらしい。だが、街の中に相当数の魔物が入り込んでいるのがわかった。どうやら魔物の群れに合わせて、市民は街の北の方に避難しているらしい。


「シエルと、パメラは?」


 その時、突如1本の木が伸び上がった。スカイ・ボーンが起こす風雨に揺られる姿は、どこか手を振っているように見える。俺にはすぐ何かわかった。


「キュールの木だ」


『わぁう!』


「『シエルとパメラの匂いがする』だそうです」


「木の根元付近を拡大――――」


 次の瞬間、スカイ・ボーンの機体(からだ)が大きく傾く。右翼を大きく上に立てて、キングコーンから放たれた霧の固まりを回避した。


 どうやら、それどころじゃないらしい。キングコーンは早速やってきた俺たちを狙い始める。それでいい。奴の注意を引ければ。


「木の根元付近を拡大しますか?」


「命令撤回だ。このままキングコーンの気を引きつつ、街から引き離す」


「街には多くの魔物が残っていますが」


 エストローナがある街は、度々魔物の被害にあってきた。そのため護衛(ガーディアン)ギルドの支部が建てられるほど、魔物に対する防御は万全だ。それに――――。


「あそこには頑固なハンターギルドのマスターがいてな。多少頼りないが、やる時はやる男だ」


 ガンゲルのことだ。

 今頃、雑魚モンスターを倒して、街の市民の株を上げながら、ハンターギルドの宣伝でもしているだろう。


「シエルはともかくパメラも伊達に魔物の解体をしてきていない。キュールもいるし、ラフィナやギルマス、オリヴィエだってついているだろう」


 信じろ。

 師匠が言っていた言葉だ。


「…………」


「ん? どうした? 饒舌なお前が黙り込むなんて珍しいな」


「なんでもありません。では、気を引きながらキングコーンを街から引き離します」


「頼む!」


 スカイ・ボーンは巨大化したキングコーンの鼻先をかすめつつ、街から離れていった。



 ◆◇◆◇◆



 キングコーンが街から離れていく。

 それを見ていた街の人間からは歓声が上がった。何が起こっているか理解できている者は皆無に等しいが、突如現れた巨大な鳥に、皆が帽子や手を振った。


「な、なんだったの、あれ?」


「おそらくスカイ・ボーンだ」


 ガンゲルの言葉に、その場にいた全員が驚いた。魔物に関わる者、いや……この世界に住む人間なら誰もでも知っている魔物の〝王〟の一角。一目見るだけでも奇跡的な確率なのに、その〝王〟たちを2匹同じ視界の中でも収めてしまったことに驚きを禁じ得なかった。


「風雨と雷を操る空の覇者……。あれほどの動きと速さで動ける魔物は、私が知る限りスカイ・ボーンしか思い当たらぬ」


「でも、キングコーンはスカイ・ボーンを攻撃していたわよん」


「知らんのか? あの2匹は元々犬猿の仲だ。古代の文献や壁画には、ヤツらが戦っている様子が描かれている……って、なんだ、その顔は」


 ラフィナ、パメラ、ギルマス、シエルはじっとガンゲルを見つめていた。


「お詳しいのですね、と思ってしまって」


「腐っても、ハンターギルドのギルドマスターだからね。ガンケルさんって」


「やる時はやるのね~ん」


「ダー。ダー」


「ふざけるな!! 私を誰だと思ってる!!」


「落ち目の中年!!」


「大きなお世話だ!!」


 ガンゲルは顔を真っ赤にしながら、猛り狂う。


 パメラは再び空を見上げた。


「あれにゼレットが跨がっていたようには見えなかったけど、キュールの木を見て、手を振っているように見えた……」


「いますわ。きっとゼレット様は……。おそらくあの魔物の中に」


 ラフィナはパメラの肩を叩いた。


 すると、唸り声が聞こえる。

 路地から相次いで、魔物が現れた。ほとんどが雑魚だが、中にはBランクの魔物も含まれている。


「チッ! まだいたのか」


 ガンゲルは持っていたシャベルの柄を握り、構える。料理ギルドのギルドマスターも落ちていた箒を拾って、構えた。


「キングコーンのことはゼレットくぅんに任せましょ」


「わたくしたちはこっちですわね」


 ラフィナは弓を構える。


「キュール、頼むわよ」


『キュイ!!』


 パメラの言葉に、キュールはくるっとその場で回って、敬礼をした。


「さあて。この街のことは街に住むあたしたちが守るわよん」


『おう!!』


 声を揃うと、襲いかかってきた魔物たちを迎え討つのだった。



 ◆◇◆◇◆



「マスター、そろそろ頃合いかと」


 街から離脱すること10分……。

 たかが10分といえど、スカイ・ボーンとキングコーンの移動速度は馬車や人間の歩く速さよりもはるかに速い。気が付けば、俺がいた街は地平の彼方に消え、ヴァナハイア王国が誇る平原を通過しようとしていた。この辺りは春先になると麦の穂が揺れていることが多いのだが、今は休耕状態にあるらしい。


 どうしてスカイ・ボーンの中にいる俺が、地上の様子をわかるかというと、単純に見えている(ヽヽヽヽヽ)からだ。先ほどスカイ・ボーンから渡されたフルフェイスの兜を被ると、突如俺はスカイ・ボーンの外へと投げ出された。最初は戸惑ったが、スカイ・ボーンが外の様子を立体的に俺の視覚に直接映しているらしい。

 細かい説明は聞いててさっぱりだったが、とにかく便利なのはわかった。


 キングコーンの本体は俺の尻の下、やや右後方にいる。魔族の姿はわからないが、おそらく本体の近くにいるだろう。


 戦場は整った。

 あとは戦うだけだ。


「よし。反撃だ。うわっ!!」


 スカイ・ボーンは待っていたかのように急上昇を始める。速い。というか、胸の辺りが苦しい。何か巨大な手に押されているような圧迫感を感じる。


「戦闘加速になると、身体に負担がかかるので気を付けてください」


「そ、そういうのは早く言え。というか、気を付けろって、どう気を付けろと」


 腹が立つのは、スカイ・ボーンだけじゃない。キングコーンもほとんど同等、あるいはそれ以上の速度で黒い霧を飛ばしくる。それをアクロバティックに回避すると、空で反転し、攻勢に出た。


「俺は何をすればいい?」


 スカイ・ボーンに語りかけると、目の前にスコープが現れる。説明こそなかったが、なるほど――これで狙い撃てというわけだ。

 よくわからないことをやらせるよりは、こっちの方がずっと性に合ってる。


 俺はハントの時と同じくスコープを覗き込んだ。


「馬の姿のままでいいのか、キングコーン」


 そして操縦桿についた銃把を引いた。

 瞬間、スカイ・ボーンの先端で雷が弾ける。力が収束し、臨界に達した直後、強烈な光の帯が放たれた。


 ドゥッ!!


 刹那、光はキングコーンの首の付け根部分を貫く。黒い霧を纏った巨大魔馬の体躯は、大きく横に傾く。続けて襲ったのは、爆発と爆風だった。


「お見事です」


「よし!」


 馬の姿のままなのが災いしたな。俺は1度本体を見ている。そこからどこに核があるか類推することは難しいことじゃない。いくら大きくなったところで、極端にその位置は変えないと俺は睨んでいた。


「どうして、そのように考えたのですか?」


「核は人間でいうところの心臓だ。そして黒い霧は殺傷兵器であり、優秀な防衛機能だ。守りやすいようにするため、核を身体の中心付近に配置するのは当然だろ」


 そもそも核はかなり大きかったからな。

 あれを狙うぐらいなら、まだ三つ首ワイバーンの首を同時にヒットさせる方が難しい。


「それにしても、さっきの攻撃は最初の第一戦ではなかったが?」


「この第16世代のおかげです」


「プリムの?」


「高い計算能力のおかげで、発生させる雷を操作することができるようになりました。これなら霧の防衛機能を無力化できます」


「さて、それはどうかな?」


 スカイ・ボーンは翻って、再び攻撃を仕掛ける。キングコーンは転倒こそしなかったが、濛々と煙を上げていた。チャンスだとばかりにスカイ・ボーンはツッコむと、俺に収束砲を撃たせる。


 光の収束砲は今度はキングコーンにぶつかる。しかし、先ほど身体を貫通した攻撃が今度は通じない。それどころか中の本体を貫く前に黒い霧によって消失してしまった。


「収束砲、無力化しました」


「やっぱり学習してきたな」


 第1戦目もそうだったが、キングコーンはこっちの攻撃を学習し、対応してくる速度が尋常じゃない。今までいなかったわけじゃないのだが、黒い霧を自在に操作する攻撃スタイルも含めて、かなり厄介だ。


「如何しましょうか?」


「心配するな。要領はもうわかってきた」


「?」


「ここからは……」



 ハントの時間だ。


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