第208話 元S級ハンター、王の討伐に出かける
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翌日、バル爺の家から辞することにした。本人はもっとシエルと遊びたかったみたいだが、これから鍛冶の仕事に入る。邪魔にならないように、すぐ出て行くことにしたのだ。
俺の【炮剣】はバル爺が直接届けることになっている。その時に存分にシエルの相手をしくれればいいだろう。
その後、カルネリア王宮に行ったり、王子に会ったりで10日ほど過ごした俺たちは、帰路についた。1カ月近くかかった里帰りは満足の行くもので、シエルも喜んでくれたようだ。
街に戻ると、オリヴィアが料理ギルドのギルドマスター、さらにラフィナを連れて、エストローナにやってきた。
料理ギルドのギルドマスターはともかく、エストローナにラフィナがやってくるのは異例中の異例だ。何かあったことは間違いない。
俺は住居になっている1階ではなく、空き部屋になっている2階に3人を通した。
「大変です! 大変なのです!!」
「そうよ。一大事よ、ゼレットくぅ~ん」
「ついにやりましたわ、ゼレット様」
3人も鼻息を荒く、興奮していた。
「落ち着け。何が起こった?」
俺の質問に対して3人は声を揃えてこう答えた。
「「「Sランクの魔物が見つかったんです!」」」
さすがに驚きを禁じ得なかった。
今まで料理ギルドの依頼でSランクの魔物がいなかったわけではないが、こうやって直球で聞いたのは初めてだ。それまでダラッと背もたれに持たれながら座っていた俺は、つい前のめりになって事情を聞く。
「本当か?」
神妙な表情で、オリヴィアが現状を話し始める。
「はい。というか、正確にはその痕跡が見つかっただけですが……」
「痕跡?」
オリヴィアはゴクリと息を飲む。
「実はヴァナハイア王国にある比較的小さな街が、一夜にして忽然と消えました。現在王国は総動員して、その消えた街の行方を追っているのですが……」
「まさか……」
「さすがゼレットさん。もうすでに心当たりがあるんですね」
「本当に奴が現れたのか」
「はい。魔力の残滓が16年前に現れた時と一致しました。間違いありません。魔物の中でも一番ランクの高い〝S〟。その中でも〝王〟の名前を冠する5体の魔物の1つ」
【角王】キングコーンの仕業で間違いないかと……。
以前、俺がその卵を奪った【海竜王】リヴァイアサン。キングコーンはそれに匹敵する、いやそれ以上と噂されている謎多き魔物だ。古代の時代から存在し、度々地上に現れては、人間に厄災を振りまいてきた。オリヴィアが話したように街はおろか、国1つ消滅した文献も残っている恐ろしい魔物である。
1番恐ろしいことは、古代からあって、大きな角があること以外に、未だにその全貌を捉えられていないことだ。そのため出現のパターンや、身を隠している時、いったいどこを住み処としているのかすらわかっていない。
そういうことから、魔物の王の中でも1番強いと推す者も少なくなかった。
「どうしますか、ゼレットさん?」
「慎重に考えた方がいいわよ~ん。ゼレットくぅ~ん」
「そうですね。相手は魔物の〝王〟です。さすがに一筋縄ではいかないかと」
「やろう」
オリヴィエが作った報告書を黙読した後、即決した。すぐにプリムとリルを呼んで、支度をさせる。
俺の動きの速さに、オリヴィエたちは慌てる。
「ちょ、ちょちょちょちょっと待ってください、ゼレットさん。もうちょっと慎重になっても」
「無駄よ、オリヴィエ」
4人分の珈琲をトレーにのせて、パメラが入ってくる。
テーブルに珈琲をのせると、事情を話した。
「キングコーンと、ゼレットには因縁があってね。両親の仇なの」
「パメラ」
「いいでしょ。みんなに聞いておいてもらうべきよ」
パメラは16年前、俺が住んでいた村での出来事を話した。そう。俺の両親を殺し、隣人や村の人間の何もかも奪っていった魔物とは、キングコーンのことだった。
俺が少し前に見たあの夢は、たまたまキングコーンらしきものと対峙した時の夢だったのだ。
「16年前……。じゃあ、ゼレットさんは以前キングコーンが現れた時の被害者の1人?」
「仇ってことね~」
「そんなところだ。だからというわけではないが、依頼を受けるぞ」
「けど、もっと情報を精査した方が……」
「1週間だ」
「え?」
「最初にキングコーンが目撃されてから、1週間。それがキングコーンの活動期間。それから奴は16年間現れなかった」
料理ギルドがこの情報を掴むまで、目撃されてから2日が経っている。つまり、あと5日後にはキングコーンが消える可能性がある。
「マゴマゴしていたら、キングコーンがいなくなるぞ」
「わかったわぁん。でも、1つ忠告させてぇん、ゼレットくぅん」
「なんだ、ギルドマスター」
「あなたは料理ギルドの食材提供者……。それを忘れてはいけないわよん」
「……わかっている。だが、相手は正体不明の魔物の〝王〟だ。食べる部分はあるかどうか保証はできないぞ」
「大丈夫。椅子の脚以外なら、いや椅子の脚だって食材にしてあげるわよん」
ギルドマスターは不敵に笑う。確かにこいつなら、骨1本でもおいしくしてしまいそうだ。
少しだけ肩の力が抜けたような気がする。昔なら復讐に走っていたかもしれない。そのわずかなぶんくらいなら、俺も成長したのかもしれないな。
「ゼレット様。ヴァナハイア王国は今回の件で【角王】キングコーンに賞金をかけました」
「いくらだ、ラフィナ」
「100億。……ゼレット様の古巣だけではなく、多くの名うての強者がキングコーンを狙いにいくでしょう」
「その賞金を取るのも悪くないな」
「いえ。その遺骸と引き替えに、国は100億を渡すと言っています」
「つまり、遺骸が国に渡れば、料理ができないということか?」
「はい。ですが……」
「全部言わなくていい。ラフィナが言いたいことはだいたいわかっている。任せろ。その代わり賞金は……」
「もちろん。200億を用意しましょう」
ラフィナはニヤリと笑う。
まったくそんなお金、どこから出てくるんだ? というか、国の賞金よりも高い金額を出せるアストワリ公爵家の財力って一体……。
「ゼレット……」
「ああ。パメラ。シエルをたの――――」
「200億ゲットしたら、エストローナを高級宿屋にして、がっぽり儲けるわよ」
おい。旦那の心配しろ。仮にもお前も、キングコーンの被害に直接的ではないにしろ、関係者だろ。せめて目を金貨みたいに光らせるのはやめてくれ。
「なんてね。ゼレットがキングコーンを倒すために、ハンターになったのも知ってるし、そのために今日までキングコーンの対策を練ってきた。……私から言うことはないわ。しっかり稼いできて、食材ハンターのゼレット・ヴィンターさん」
「食材……ハンター……?」
「食材提供者じゃ、なんか締まり悪いでしょ。ゼレットはどっちかというとこっちかなって」
「いいですね、食材ハンター」
「うーん。正式名称にしようかしら」
「食材ハンター、ゼレット・ヴィンターだと、語呂が悪いですが……。合ってるかと」
今さら名称を変えられてもな。
でも、なんかしっくり来た感じだ。
俺はいつも通り装備を調え、【砲剣】を担ぐと、部屋の前でシエルが立っていた。
「パーパ、おでかけ?」
「ああ。おっきな魔物を仕留めてくるからな」
「うん。おっきな魔物、シエルみたい!」
「任せろ」
シエルの頭をひと撫でした俺は、プリムとリルを引き連れ、【角王】キングコーン討伐に向かうのだった。







