第205話 元S級ハンター、文明を壊す
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照準器をのぞき、狙いを定める。
ふっと息を吐き、そして銃把に指をかけた。
何千何万回と行ってきた動作だ。
落ち着いて撃てば、外すことはない。
いつも通り、標的を射貫くことができるはずである。
最後に銃把を引いた。
衝撃が身体を押し、轟音が耳をつんざく。
弾丸は真っ直ぐ赤い光点へと向かって行くと、硝子が割れたような音を立てた。赤い宝石のような欠片が砕け散り、バラバラと四散する。まるで赤い涙のようだった。
ゴゥン……。
どこからか扉が閉まるような音が聞こえる。空間全体の照度が落ちたが、まったく見えないわけじゃない。
「おい。お前、俺に何をさせた?」
プリムに抗議しようとしたが、その前にダルミスが指差した。
「ゼレット……。あれを見ろ」
思わず息を飲んだ。
10体ほどいた赤耳の獣人が突如動きを止めていたのだ。試しにユーギーが近づき、双剣で小突いてみる。さらに押してみると、あっさり赤耳獣人は倒れてしまった。金色の目を覗き込むも、そこに光はなく、固まっている。
突然赤耳の獣人が停止したことに戸惑っていたのは、俺たちだけではなかった。
『な、なんだ! どういうことだ!? 何故、動かん! 貴様ら! 一体何をした!?』
むしろこっちが教えてほしいぐらいだ。
「おそらくだが……」
ダルミスが顎をさする。
「ゼレットが撃った弾はこいつらを動かすための重要な魔導具だったんじゃないのか? それが壊されたから、動かなくなった……とか」
「的を射てると思うが、あんな小さな魔導具でこの空間ならまだしも、外にまでどうやってこいつらを動かすんだ?」
「そもそも赤耳の獣人はガーディアン同様、このダンジョンを守っていただけで、侵攻するための兵器としては不完全だった――ということじゃないのか?」
「なんだよ、それ。ははっ! それでどうやって世界征服するつもりだったんだ」
ダルミスの推測を聞いたユーギーはせせら笑う。吊られて、他の冒険者も口角を上げて、世界征服を宣言した専門家をあざ笑った。戦場だった場所に和やかな空気が吹き込んでくる。唯一歯ぎしりしながら悔しがっていたのは、ベンガレンだ。
『貴様ら!!』
「終わりだ、ベンガレン。どこにいるか知らないが出てこい。たとえ未遂であろうと、一瞬でも国家転覆する兵器を操った罪は重いぞ!」
『貴様らに捕まえられるものか! わたしがいるところは、あの『メギドの炎』にすら耐えられるように設計された避難所だ。貴様らのへぼな『戦技』や『魔法』では破れんよ』
ベンガレンは逆に俺たちを嘲笑う。避難所の中がどうなっているか知らないが、そこに食料がなかったら餓死するだけなんだがな。貯蔵されていたとしても、いくら旧文明の力でも1年も2年も籠城できまい。おそらく正常な判断ができないのだろう。これだから狂信者というのは困る。
ちなみに『メギドの炎』という旧文明を滅ぼしたといわれている、別名『神の火』と呼ばれているものだ。初等学校でも習うような常識的知識である。
『わぁう!』
リルが天井に向かって吠えている。
翻訳してくれたのは、プリムだ。
「この上に、人間の気配がするって」
「言われなくてもわかってる」
冒険者たちは奥に階段を見つける。どうやらそこから空間上の避難所に移動できたらしい。ベンガレンのヤツ、戦闘のどさくさに自分はしっかりダンジョンの調査を進めていたようだ。
冒険者たちが命がけで戦っていたというのに……。つくづく救えないヤツである。
調べてみたが、出入り口は完全にロックされていた。プリムの力を持ってしても難しいようだ。
俺は再び弾を込めた。
「おい。ゼレット、何をする気だ? 放っておけ。オレたちが侵入できないなら、あいつもここから出られないってことだろ?」
「ああ。だが俺は気に食わない」
何を言ってんだよ、とユーギーは吠えるが、俺は淡々と準備を進める。
「俺たちは赤耳の獣人を制した。どんな方法であろうとだ。『メギドの炎』だか、『神の火』だか知らないが、旧文明の技術がすべて俺たちの文明に勝っているなんてあり得ない」
それに俺にも誇りぐらいある。
ハンターとして、今この時代を生きる『魔法剣士』として……。
そして勇者シェリル・マタラ・ヴィンターの最後の弟子として……。
「たかが文明如きに退くわけにはいかん!!」
ドンッ!!
銃把を引く。
『魔法』を最大まで込めた1発が天井に突き刺さる。凄まじい閃光と轟音を立てるも、天井に広がったのは黒い煤だけだった。
『ふふ……。アハハハハハ!! なんだ! 結局通らないではないか!! S級ハンターといっても所詮……』
「いや、通ってる」
ユーギーが息を飲んだ。
雪犬族の彼には見えたのだ。
天井から落ちず、めり込んだ1発の弾丸が……。
「今の楔だ。次は壊す」
『はっ! 同じ場所に2度当てることなど!』
「できるさ」
ユーギーが確信を持って呟いた。
「ゼレットは壁にめり込んだ弾に当てて砲弾を跳弾させ、その弾道だって計算して撃っていた。その人間がたった1発の弾を狙うなんて、造作も無い。ましてこの距離なら」
「いけ、師匠!!」
『わぁう!』
「こうなりゃヤケだ! 景気よくぶっ放せ!! ゼレット・ヴィンター!!」
プリム、リルを始め、冒険者が歓声を上げる。ピリピリとした空気の中で、俺は狙いを定めると、天井に刺さった弾丸に向けて、撃ち込んだ。
「終わりだ、ベンガレン!」
『やめろぉぉぉおおおおおおおおおお!!』
ドォン!!
【砲剣】は再び火を噴く。
真っ直ぐ天井に向かった1発は、すでに刺さっていた弾丸を力強く押し込む。そして、ついに貫通した。ドォオン! という凄まじい轟音と、黄色の炎が立ち上がる。避難所に大穴が開き、ベンガレンが落ちてきた。プリムに受け止められ、逃げようとしたところを冒険者たちに取り囲まれる。
絶体絶命のベンガレンはそのまま意識を失い、口から泡を吹くのだった。







