第188話 元S級ハンター、因縁を断ち切る
☆★☆★ 単行本4巻 2月24日発売 ☆★☆★
本日、コミックノヴァにて単行本告知漫画が掲載されております。
奥村先生によるちょっとエッチな水着回ですので、是非見て下さい。
単行本の方もよろしくです。
「なんだ?」
ダールの拳が俺に命中する寸前に止まる。
その機を逃さず、俺は一旦距離を取った。
ゴゴゴゴゴゴゴッッッ!
地鳴りが聞こえる。
すると地面がシャッフルされるように揺れ始めた。
(来たか!)
顔を上げる。
見つめた先にあるのは、エシャラ火山の火口だ。
噴煙がたなびく中、徐々に煙の下の方が明るくなっていく。
煙が真っ赤に焼けた鉄のように赤くなると、その時は訪れた。
ドンッ! という轟音とともに、火口から火花が飛び散る。
火花と優しくいったが、その1つ1つが溶岩の塊だ。
エシャランド島を覆っていた雲を突き抜け、空を赤黒く染める。
時間を置いて、飛び散った噴石が徐々に森の方に落下してきた。
「クソッ!」
噴石は徐々に大きくなり、1つ大きな岩がダールの頭に落ちてくる。両腕でガードし、難を逃れていたが、さしもの純魔族も手を焼いている。
俺も例外ではない。次々と飛来する噴石を雷属性の『魔法』で叩き落としていく。
火口からマグマが垂れ、さらに猛烈な勢いで火砕流が下ってくる。
まごまごしていると、ここも安全ではないかもしれない。
(シエルは大丈夫だろうか)
戦闘中であっても、気になることではある。
頭の中に我が子が浮かんだ今なら尚更だ。
しかし、この状況ではプリムとリルに任せる以外に手立てはない。
それにようやく目の前の純魔族を討つピースは揃った。
この期を逃す手はない。
「もってくれよ!」
刃がボロボロになった【炮剣】を地面に突き刺す。
身体中にあるすべての魔力を、切っ先に注ぐと、青白い『魔法』が溢れ出した。空が赤黒くなる中、対する地面が雷属性の力によって青白く染まる。
結界のように広がり、近づいてきたダールを弾いた。
「お前、何をする気だ」
「うおおおおおおおおおおお!!」
次の瞬間、周囲の地面が捲り上がった。
エシャラ火山が見せつけた噴火ほどではないが、地面を抉り飛ばすには十分な威力だった。
土煙が舞い、大きなクレーターが一帯に現れる。
ただそれだけだった。
「何か狙いがあるかと思っていたが……。お前、何をしたかったんだ?」
ダールが近づいてくる。
俺の攻撃はヤツには届いていない。
そもそも当てにもいっていない。
再びダールは俺の胸ぐらを掴み、引き上げた。
「助かったよ、魔族。魔力も体力も尽きかけていてな。正直、1歩も動けなかったんだ」
「あ? お前、何を言っているんだ? いや、そもそも何をしようと」
「…………」
「人間というのは死が近づくと、時々理解できない行動をするというが、今のがそれなのか? 面白くねぇ。所詮、お前も人間だったというわけだな」
「その言葉、そっくりお前に返すぞ」
「あん?」
「お前は人間を舐めきっている。所詮はお前も魔族だったというわけだ」
「負け犬の遠吠えだな」
「そいつはどうかな……」
俺は口角を上げる。
瞬間、青白い光が俺と魔族の足元を照らす。
それはクレーターを斬るように横に走っていた。
光は強くなると同時に、地面に裂け目ができる。さらに広がると、竜の吐息のような炎が上がった。
ダールは慌てて俺を離す。
炎は最初だけだったが、裂け目の下で暴れ狂う赤い川を見て、さしもの純魔族も驚いていた。
「マグマ?」
「そうだ。この辺りのすぐ地下はエシャラ火山のマグマが通っている」
何故そんなことを知っているかというと、以前エシャランド島に来た時、調査したのだ。とある魔物の住み処を調べる時にな。
「なるほど。如何にオレでもマグマに落ちたら死ぬな」
「言質が取れたな」
「ま。その時は逃げるけど」
「最初に言ったろ? お前ら魔族は絶対駆逐すると……」
「ボロボロの身体のくせに何を――――お前! 何をやって!」
俺はダールを押すと、躊躇わず地面の裂け目にダイブする。
自殺? それは魔族も思ったことだろう。
だが、ダールの胸にはすでに俺の糸が付いていた。
そのままダールもまた俺と一緒にマグマに向かって落下していく。
「お前!!」
「ダール、お前の瞬間移動には弱点がある。だろ?」
「何?」
「自分1人分の重さしか移動させることはできない」
「ッッッ!?」
俺が森に誘い込んだ時、ダールは瞬間移動を使わず回避しなかった。それはつまり、繋がっている状態で、かつ自分の質量以上のものを移動させることができないということだ。
こうやって糸で繋がっている状態では、瞬間移動はできないと推測した。
「お前も死ぬぞ!!」
「いや……。俺は死なない」
俺はもう片方の腕を伸ばす。
コートの裏側から糸が射出され、裂け目の入口にくっついた。マグマが寸前に迫る中、ようやくダールが下となり、落下が止まる。
ダールは付いた糸を外そうとするが、糸は解けない。Aランクのモーラの吐く息は、特殊な薬でなければ、解くことは不可能に近い。
「こうなれば、お前の腕ごと!!」
「いや、詰みだ、魔族」
俺はコートの下から【砲剣】を取り出す。
その砲口をダールの眉間に置いた。
魔力はスッカラカンだが、【砲剣】を撃つぐらいは残っている。
「ゼレ、お前……」
「貴様ら魔族は俺の復讐対象だ。マグマに落として終わるなんて生やさしい死に方ができると思うな。言ったろ……」
必ず仕留めると……。
ドゥッ!!
【砲剣】が唸り上げる。
【炮剣】の刃と同じ素材でできた特別製の徹甲弾は、確実に魔族の眉間を貫いた。
瞬間、魔族の頭の中の核が爆ぜる。
魔族の核が頭にあることはわかっていた。
先ほどの噴石が落ちてきた時、ダールは頭だけを確実に守れるような態勢を取っていた。
それを見て、核があることに気づいたのだ。
俺は張り付いていた糸を薬品を使って切る。
すると、ゆっくりダールは落下を始めた。
頑丈な身体が燃え上がり、最後には流動するマグマの中に消えていった。







