第185話 元S級ハンター、魔族と戦う
☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★
コミックノヴァにて21話更新されました。
ピッコマの更新ですが、諸事情で来週更新予定とのことです。
ピッコマ派の方は少々お待ちください。
また2月24日には、コミックス第4巻が発売予定です。
ご予約よろしくお願いします。
ドゥッ!
俺は躊躇うことなく銃把を引いた。
【砲剣】が火を噴くと、至近で魔族の手首に着弾する。
捕まっていたエシャラスライムがポンと飛び、俺の近くに落ちてくる。
「やった?」
ヤムが上擦った声を上げた。
残念だがまだだ。
手首が吹っ飛んだだけではあいつらは死なない。
ボタボタと重い音を立てて、魔族の血が垂れる。しかし、魔族が悲鳴を上げることはなかった。それどころか、手首の先が急速に再生していく。3秒後には元通りに戻っていた。
「再生型か……。やはり上位魔族だな」
「上位魔族って……? それは一体……」
「ランクでいえば、SSランクだ」
「SS……!」
「たかがSランクの魔物以上の強さというだけだ。SSSランクじゃなくて良かったな」
「SSSならどうなるんですか?」
「……間違いなく全滅だろうな」
「ヒッ!」
ヤムの口から悲鳴が漏れる。
横で聞いていたムトーも息を飲んでいた。
「動くなよ、お前ら。奴を刺激するな」
「どういうことですか?」
「知性があるとはいえ、獣みたいな相手だ。逃げ出すヤツは弱いと考えて、追いかけて殺す。魔族とはそういうヤツらの集まりだ」
「随分と魔族について詳しいんですね」
「俺の経歴については、調べはついていたと思っていたが……」
「……本気で魔族を殺すつもりですか?」
「俺の狙いはこいつらだからな。だから忠告する。こいつに対抗できるのは、俺だけだ。だから全員、俺から離れるなよ」
心情的にはシエルや弟子たちには逃げてほしい。だが、逃げれば逆に被害が大きくなる。俺の目が届く範囲が現状においてセーフティーゾーンなのだ。
魔族がこちらを向く。
今まで無視していたくせに、ようやく俺の存在に気づいたようだ。
「オマエ……ダレ…………」
「喋るな、ケダモノ!!」
俺は再び【砲剣】を放つ。
エシャラスライムが手元からなくなった今、容赦するつもりはない。
1発目を放つ、続けざまにさらにもう1発撃ち込んだ。
今度は魔族の眉間と、脇に着弾する。
が、生きていた。先ほどと同じく再生し、元に戻る。表情は読めない。警戒しているのか、侮っているのかさえわからなかった。
そもそも魔族に心なんてものがあるのか、怪しいところだ。
「また再生した。あんな化け物、倒せるの?」
「倒せる!」
ヤムの声に、我ながら力強く反論した。
再生型の魔族といえど、核――人間で言う心臓を抜けば死んでしまう。
問題はあいつのどこにその核があるかだ。
「【砲剣】では埒が明かないか。やはり接近戦……」
俺の言葉は途中で止まる。
魔族が消えたと思ったら、すぐ目の前に現れた。
まるで瞬間移動したみたいにだ。
まずい……。
俺は身を引く、
だが、魔族の拳の方が速かった。
「師匠!!」
ダメージを覚悟した瞬間、横合いから声が聞こえた。
魔族の脇に現れると、思いっきりレバーブローを食らわせる。当たり所も見事だが、衝撃も凄まじい。あの魔族を吹き飛ばしてしまった。
「師匠はやらせないよ」
得意げに鼻を鳴らしたのは、プリムだ。
「お前……」
少々呆然とする。
出会った頃から出鱈目な奴だったが、まさか魔族を吹き飛ばすとはな。
「大丈夫。師匠?」
「あ、ああ。……助かった、プリム」
「おお。師匠に褒めてもらった。わーいわ――――」
次の瞬間、プリムが吹き飛ばされる。
先ほどの猩猩族と同じく、森の奥へと消えていった。
油断大敵。少しでも馬鹿弟子を見直したのが間違いだったらしい。
「この……!」
俺は黒コートから一振り【炮剣】を取り出す。
近くに現れた魔族を切り裂いた。
「【戦技】――――」
【陰鋭雷斬】!!
雷属性の『魔法』を帯びた【炮剣】が魔族を切り裂く。
手応えはあった。だが――――。
もう一太刀というところで、魔族は再び消える。
【炮剣】が宙を掻いた直後、背後で魔族の気配があった。
目だけを動かす。すると魔族が歯を見せ、ニッと笑っていた。
大きな動作で拳を振り抜く。
俺は両手を重ねて、防御姿勢を取った。
直後、手が吹き飛びそうな衝撃が俺に襲いかかる。
「なっ!」
気が付けば、エシャランド島の密林の上空にいた。ひやりとした風が俺の黒髪を撫でる。さらにもっとも冷えていたのは、背筋だった。
魔族の身体能力が高いのは知っているがこの膂力はまずい。
いや、力以上に厄介なのは、あの消える動きだろう。
速さ、身体能力とかいう次元ではない。
明らかに消えて、そして移動している。
そんな能力の心当たりなど、1つしかない。
おそらくあれは魔族固有の『戦技』か『魔法』なのだろう。
密林の空に飛ばされた俺だが、魔族からの追撃はない。
奴の狙いはあくまでエシャラスライムだ。
今の攻撃も俺から遠ざけるためと考えていい。
力の片鱗を見せつけられたわけだが、何も悪いことばかりではない。
距離を置いてくれたのは、こっちとしても助かる。
俺は腕を大きく振る。
お洒落な黒コートの袖には細い糸がついていて、それが地面に刺した【砲剣】と繋がっていた。
俺は【砲剣】をたぐり寄せると、すかさず地上の魔族に撃ち込んだ。
ドゥッ!!
3発分の魔法弾が魔族を囲うように襲いかかると、見事命中した、
足先、肩、左手が吹き飛ぶ。ボンズの毒も抜け、さらに宿敵に出会ったことによって、俺の命中精度は普段以上に高まっている。
動こうとした魔族が崩れ落ちる。
しかし、また再生だ。
「クソ! 核はどこにある? ……いや、あるいは移動式か」
魔族の中には自分の弱点である核を、体内で自由に移動させることができる個体もいると聞く。
なら、やることは1つだ。
「こいつは高いぞ!!」
特別製の魔法弾を【砲剣】に押し込む。
すかさずスコープを覗き、魔族を狙い撃とうと試みた。
「なっ! いない!!」
魔族の姿がない。
気配に気が付いた時には、俺と同じく空中にいた。
「チッ!」
舌打ちする俺は【砲剣】を捨てて、防御姿勢を作る。
直後、魔族の蹴りが俺の鳩尾辺りを狙って、迫ってきた。
ゴッと鈍い音が防御姿勢が間に合ったことで、あまりダメージを負うことはなかった。加えて言えば、このおしゃれな黒コートのおかげだ。耐衝撃吸収能力は王室御用達の武器防具屋が作る防具の性能を大きく上回る。
おかげで骨が折れることはなかったが、やはりそのまま砲弾のように吹き飛ばされた。
みるみる戦地……シエルがいる場所から遠ざかっていく。だが、俺が見ていたのはシエルの安らかな寝顔ではない。それと正対するような醜悪な魔族の笑みだった。
「馬鹿が……。何を笑っている」
俺は再び腕を振った。
先ほど【砲剣】に繋げていた糸を引っ張る。
だが、次に引っ張り上げられたのは、さっき俺を蹴った魔族だった。
3発の魔法弾のうち、1発に糸を仕込んでおいたのだ。
「さあ、一緒に来てもらうぞ、魔族」
俺の策略にまんまと嵌まった魔族は悔しそうに歯を食いしばる。
お互い着地した時には、かなり北側の密林まで飛んでいた。
これでシエルたちから魔族を遠ざけることができた。
あとはやることは1つだ。
俺はついに二振りの【炮剣】を抜いた。
「ここからが本番だ」
師匠の仇、取らせてもらうぞ!







